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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩76巻10号

2024年10月発行

雑誌目次

特集 どうして効くんだろう

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ページ範囲:P.1099 - P.1099

脳神経内科領域の新薬が相次いで登場しており,読者諸氏も日夜その知識の吸収に邁進されていることと思う。例えば,遺伝性ATTRアミロイドーシスに対するトランスサイレチンsiRNA製剤や視神経脊髄炎スペクトラム障害に対するC5阻害薬などは,疾患発症のメカニズムと薬剤の標的が明確で,患者への説明もそれほど難しくないであろう。しかし,われわれが使用する薬剤は必ずしも明快な作用メカニズムが解明されているものばかりではない。本特集では,効果は確かにあるものの“どうして効くのか”が必ずしも明らかでない疾患や,作用メカニズムが複雑で理解が難しい疾患を取り上げ,それぞれのエキスパートにわかりやすく解説いただいた。現時点で明らかになっている作用機序を理解しておくことは,患者への説明や予期せぬ副作用が起こったときにもきっと役立つに違いない。

B細胞療法—多発性硬化症

著者: 宮﨑雄生 ,   新野正明

ページ範囲:P.1101 - P.1108

抗CD20抗体を用いたB細胞療法は,多発性硬化症の再発を強力に抑制することから重要な治療選択肢の1つとなった。B細胞は炎症性サイトカイン産生,T細胞への抗原提示を介して多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)の再発を惹起すると考えられ,その抑制がB細胞療法の最も重要な作用機序である。一方で,B細胞療法には中枢神経内B細胞の活動抑制を介したMS慢性進行抑制効果も想定されており,新規治療法の開発によりさらなる効果改善が期待されている。

大量免疫グロブリン—慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー(CIDP)

著者: 清水文崇

ページ範囲:P.1109 - P.1118

慢性炎症性脱髄性多発根ニューロパチーでの免疫グロブリン大量静注療法(intravenous immunoglobulin:IVIg)の作用機序として,①抗イディオタイプ抗体による病的自己抗体の中和,②FcRn阻害作用による病的自己抗体の減少,③サイトカイン・補体の中和,④T細胞・B細胞・マクロファージの活性調整,⑤血液神経関門修復が挙げられる。自己免疫性ノドパチーでIVIgが効きづらい理由としてIgG4自己抗体は抗原特異性が強いため,抗イディオタイプ抗体が結合しづらく中和作用が効きづらいなどが考えられる。

抗アミロイド抗体—アルツハイマー病

著者: 篠原もえ子 ,   小野賢二郎

ページ範囲:P.1119 - P.1125

アルツハイマー病の免疫療法では,近年モノクローナル抗体を用いた受動免疫療法の臨床試験が数多く進められてきた。プロトフィブリルやプラークといった分子量の大きいアミロイドβ(amyloid β:Aβ)凝集体をターゲットとするレカネマブ,donanemabといった抗アミロイド抗体の認知機能および脳内アミロイド沈着減少に対する有効性が示された一方で,ほかの抗アミロイド抗体は十分な有効性を明らかにできなかった。

タウリン—ミトコンドリア病

著者: 砂田芳秀

ページ範囲:P.1127 - P.1135

ミトコンドリア病MELASではミトコンドリアDNA変異によりロイシンtRNAアンチコドンにおけるタウリン修飾が欠損し,UUGコドンの翻訳障害が惹起される。このため呼吸鎖複合体の合成が低下し,エネルギー不全を生じる。タウリン添加するとMELASモデル細胞でミトコンドリア機能が改善し,医師主導治験では高用量タウリン補充療法により脳卒中様発作が抑制され,白血球でタウリン修飾率が改善することが示された。

薬理学的シャペロン療法—ファブリー病

著者: 小林正久

ページ範囲:P.1137 - P.1143

薬理学的シャペロン療法(pharmacological chaperone therapy:PCT)は,変異した酵素蛋白を構造体に安定化させ,酵素活性を高める治療である。PCTは経口治療薬であり,中枢神経障害にも有効であるという利点があるが,その有効性は患者が持つ遺伝子変異に依存することが欠点である。ファブリー病に対するPCTは心・腎合併症の進行を抑制すると報告されている。将来的には中枢神経障害を合併するライソゾーム病に対してもPCTが開発されることが期待される。

総説

AMPA受容体と神経可塑性

著者: 宮﨑智之

ページ範囲:P.1145 - P.1152

神経細胞間の情報伝達はシナプスで行われ,AMPA受容体が中核的機能を担う。生理機能としては,記憶学習や経験によりシナプス移行するAMPA受容体が,それらを定着させる。疾患モデル動物や患者死後脳の解析によりAMPA受容体の量や機能異常はさまざまな精神神経疾患の誘因となると考えられ,現在は実際の患者脳内のAMPA受容体を定量することにより,そうした知見が治療薬開発などに還元されるようになってきた。

視神経脊髄炎スペクトラム障害治療におけるCD19モノクローナル抗体製剤イネビリズマブの有効性および安全性—N-MOmentum試験を中心に

著者: 藤原一男 ,   佐藤裕一

ページ範囲:P.1153 - P.1160

視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitis optica spectrum disorders:NMOSD)は視神経炎と横断性脊髄炎を特徴とする炎症性中枢神経疾患である。イネビリズマブはCD19に対するヒト化IgG1モノクローナル抗体であり,日本人も参加した国際共同二重盲検プラセボ対照第Ⅱ/Ⅲ相試験のN-MOmentum試験でNMOSD患者に対する有効性と安全性が検証され,わが国でも製造販売承認された。本論文では,N-MOmentum試験およびその追加解析で得られたイネビリズマブの有効性および安全性の知見を解説する。

症例報告

高濃度抗IgE自己抗体と高IgE血症を認め,アトピー性疾患に併発した抗アクアポリン4抗体陰性視神経脊髄炎スペクトラム障害の1例

著者: 坂井利行 ,   丹羽悠介

ページ範囲:P.1161 - P.1169

70歳,男性。20歳時にアレルギー性鼻炎と診断され,61歳時に抗アクアポリン4抗体(anti-aquaporine-4 antibody:抗AQP4抗体)陰性視神経脊髄炎スペクトラム障害(neuromyelitis optica spectrum disorders:NMOSD)を発症した。高IgE(immunoglobulin E)血症,高濃度抗IgE自己抗体(anti-IgE autoantibody:抗IgE AAb),抗原特異的IgE陽性およびヘルパーT細胞I型優位性を示し,脊髄MRIで第1頸髄〜脊髄円錐に及ぶ長大横断性脊髄炎(longitudinally extensive transvers myelitis:LETM)を認めた。発症時にはステロイドパルス療法(intravenous methylprednisolone:IVMP)と単純血漿交換(plasma exchange:PE)により,4回の再発時にはIVMPにより,神経症状と脊髄MRI所見の部分改善および抗IgE AAb低下を認めた。抗IgE AAbはアトピー性疾患に併発する抗AQP4抗体陰性NMOSDにおいて,疾患活動性の指標になり得ると考えられる。

連載 スーパー臨床神経病理カンファレンス・9

高血圧症,脳梗塞,および認知症の既往歴を有し,脳出血による昏睡状態で発見されてから32時間後に死亡した79歳男性

著者: 宮田元 ,   師井淳太 ,   木下俊文

ページ範囲:P.1171 - P.1181

〔現病歴〕48歳時より高血圧症で内服加療していた。65歳時にアテローム血栓性脳梗塞(左中心前回を含む左前頭葉)を発症し,ワルファリン内服を開始。このとき,頸部MRAで左内頸動脈起始部に中等度狭窄(50%程度)と同部のプラーク内出血を示す信号上昇が認められ,頸動脈超音波検査で左総頸動脈に不安定プラークが描出されていた。また,頭部MRAで右内頸動脈-後交通動脈分岐部に未破裂囊状動脈瘤が発見された。

 75歳時(脳出血発症4年2カ月前)に未破裂脳動脈瘤の経過観察で撮像された頭部MRIでは明らかな脳萎縮はなく,微小出血も検出されなかった(Fig. 1)。78歳時に見当識障害と記銘力障害(改訂長谷川式簡易認知評価スケール7/30点,Mini Mental State Examination 10/30点,時計描画テスト1/5点など)が明らかとなった。79歳時(脳出血発症5カ月前)のMRIでは側頭葉萎縮が認められ,両側小脳半球と右後頭葉皮質に無症候性微小出血も認められた(Fig. 1)。以上の経過から,脳梗塞後遺症を背景にアルツハイマー病の症状が顕在化したものと考えられていた。MRAでは脳動脈瘤に拡大傾向は認められなかった。

原著・過去の論文から学ぶ・7

マチャド・ジョセフ病患者さんとの出会いと論文との関わり

著者: 瀧山嘉久

ページ範囲:P.1182 - P.1185

 連載「原著・過去の論文から学ぶ」の原稿依頼をいただいた。当初,私には論文内容を深掘りして熟考を要する原稿などとても書けないと思っていた。しかし,私が若い頃に経験した臨床や研究生活に大きな影響を与えた論文を紹介することで責任を果たせるのであれば,私にもできるだろうと考え直して依頼をお引き受けした。拙著が若い医師,研究者の先生に何らかの参考になれば幸いである。

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ページ範囲:P.1097 - P.1097

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ページ範囲:P.1098 - P.1098

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1191 - P.1191

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著者: 酒井邦嘉

ページ範囲:P.1192 - P.1192

 私は小学生低学年のときから,ドイツ式の音名でヴァイオリンを教わったが,cis(ツィス)やh(ハー)などの呼び名にはなかなか馴染めなかった。何より,運指の記憶が,楽譜やソルフェージュの記憶と結びつかないため,暗譜(楽譜を見ないで演奏すること)が苦手になってしまった。ところが最近になって,英語圏で広く使われている「移動ド・ソルフェージュ」を知って,これまでの疑問が氷解したのだ。

 ソルフェージュとは,楽譜を見て「ドレミファ……」で歌う練習のことである。Cの音を「ド」に固定して音名で読む「固定ド」が今なお一般的だが,♯(シャープ)や♭(フラット)などの臨時記号を含めると歌えなくなってしまう。ところが,相対音感に基づく移動ドではキー(調)が変わっても同じメロディーと捉えることができ,さらに英語圏のソルフェージュとなると,♯は母音を「i」に,♭は母音を「e」に変えることで,臨時記号つきで歌えるようになる。鼻歌やハミングで頼りなく覚えるのとは雲泥の差なのだ。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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