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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩76巻11号

2024年11月発行

雑誌目次

特集 ALS 2024

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ページ範囲:P.1195 - P.1195

本誌では2019年に「ALS 2019」と銘打った特集を組み,ALSに関するその時点での知見を網羅的に取り上げ,好評を持って迎えられた。それから5年が経過し,ALSの新薬開発状況は大きく変化したが,日常診療での問題点はまだまだ私たちの前に大きく立ちふさがっている。今回の「ALS 2024」では鼎談も交えつつ,今なお解決されていないALS診療上の問題点と,最新の治療薬開発状況に主眼を置いてお届けする。

【鼎談】ALSの今日と明日

著者: 福武敏夫 ,   荻野美恵子 ,   神田隆

ページ範囲:P.1197 - P.1204

告知方法をめぐる変遷

神田 ALSは私たち脳神経内科医の永遠の課題です。本日は臨床経験豊かな2人の先生を招き,ALSの臨床がどのように変わってきたのか,現在の状況,将来の展望について語っていただきます。まずは,ALS患者への告知の方法から始めます。私と福武先生は同じ卒業年次ですね。

福武 はい。1981年の卒業です。

ALSの診断と告知,そして治療—臨床神経内科医としての40年の経験からの個人的な展望

著者: 福武敏夫

ページ範囲:P.1205 - P.1216

筆者の神経内科医としての40年に及ぶALS患者の診療の経験を叙述的にまとめた。前半の20年の大学とその関連病院の患者から5人を選び,後半20年の現在の病院での経験から,赴任以前から31年間闘病を続けた患者と私自身が初診した24例における問題点をまとめた。診断では四肢発症例における下垂足についてと球麻痺発症例における嗄声について述べ,さらに家族,告知,療養生活について問題点を検討した。

ALSの疾患修飾薬時代の新しい診断基準—Gold Coast診断基準の有用性と留意点

著者: 山川勇 ,   漆谷真

ページ範囲:P.1217 - P.1223

筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)における疾患修飾薬の開発状況は目覚ましく,家族性ALSに対する核酸医薬tofersenの登場によりALS治療は転機を迎えた。早期診断・早期治療介入を効果的に進めるためには,診断基準の感度がより改善することが求められる。2020年に作られたGold Coast診断基準は上位運動ニューロン障害を欠く症例のALS診断を可能とした診断基準として活用が期待されているが,診断特異度を担保するために必要な運用上の留意点を概説する。

ALSの緩和ケア

著者: 荻野美恵子

ページ範囲:P.1225 - P.1232

日本において緩和ケアはがんを中心に発展してきており,ALSの緩和ケアについては必ずしも緩和ケアの専門家が十分な経験があるわけではない。ALSの症状そのものに対する治療がすなわち緩和ケアになる側面もあり,神経内科医や在宅医が対処に慣れていく必要があるのが現状である。特に終末期のオピオイドの使用方法はがんの疼痛緩和とは異なるので,注意が必要である。またオピオイドが万能ではないことも自覚すべきである。

トフェルセン—SOD1_ALSと闘う新しい核酸医薬

著者: 石黒太郎 ,   永田哲也 ,   横田隆徳

ページ範囲:P.1233 - P.1239

SOD1変異に伴う家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)は1993年に原因遺伝子が同定されて以来,30余年に渡り病態研究や治療法の開発が進められてきた。トフェルセンは病態に即した待望の遺伝子特異的治療薬で米国FDA,欧州EMAにおいて製造販売承認されたが,安全性と有効性に関する継続的なデータ蓄積を求められており道半ばである。わが国での今後の承認への期待と共にトフェルセンを取り巻く現況について紹介する。

ALS治療薬開発の現状

著者: 井口洋平 ,   勝野雅央

ページ範囲:P.1241 - P.1249

筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は進行性,難治性の運動ニューロン疾患である。ALSの治療薬としてはリルゾールとエダラボンが承認されているが,ALSは依然として急速に運動障害を引き起こす致死性の疾患であり,より効果的な治療法の開発が急務である。ALSの病態メカニズムの解明,効率的な臨床試験デザイン,研究支援プログラムの進歩などにより,多くのALSに対する臨床試験が国内外で進行中である。

総説

軽症頭部外傷のサイエンス

著者: 戸村哲

ページ範囲:P.1250 - P.1255

軽症頭部外傷は日常的に遭遇する機会の多い傷病である。軽症頭部外傷の約半数は脳振盪後症候群をきたし,昨今注目される外傷後の高次脳機能障害など,多くの社会問題の要因にもなっている。本論では,軽症頭部外傷の定義・診断,病態,症状,後遺症などについて科学的側面から解説し,さらに近年,戦傷医療の分野で非常に大きな問題となっている「軽症頭部爆傷」についてもあわせて紹介する。

心の中に思い浮かべたイメージを脳信号から可視化する

著者: 小出(間島)真子 ,   西本伸志 ,   間島慶

ページ範囲:P.1256 - P.1261

計測された脳の信号から被験者の知覚・運動意図などを読み出す技術は脳情報解読技術(脳情報デコーディング技術)と呼ばれ,近年発展の目覚ましい機械学習・AIを使うことで進歩を遂げてきた。その例として近年では,ヒトが心の中に思い描いた画像(メンタルイメージ)を脳の信号から可視化することも可能になりつつある。本論ではそのメンタルイメージの可視化技術と,それを支える要素技術について解説を行う。

脳神経外科領域における神経内視鏡・外視鏡を用いた最新のヘッドアップサージェリー

著者: 荻原利浩 ,   佐藤篤 ,   中村康太郎 ,   若林茉那 ,   本郷一博

ページ範囲:P.1262 - P.1270

脳神経外科手術において,術野を拡大視する手術機器として,従来の手術顕微鏡のほか,近年普及した神経内視鏡,そして新たに開発された外視鏡システムがある。神経内視鏡と外視鏡を用いたヘッドアップサージェリーの導入は,従来の顕微鏡手術に比べて多くの利点を提供しており,脳神経外科手術における重要なブレークスルーになり得るものである。本論では,神経内視鏡と外視鏡を活用した最新のヘッドアップサージェリーの実際について概説する。

連載 スーパー臨床神経病理カンファレンス・10

右手の筋力低下で発症し,構音障害,嚥下困難を呈した死亡時75歳女性例

著者: 岩崎靖

ページ範囲:P.1271 - P.1278

〔現病歴〕70歳時,右手の脱力を自覚した。近医整形外科を受診し,頸椎X線検査(Fig. 1)で変形性頸椎症と診断された。リハビリテーションなどで保存的治療を受けたが,症状は次第に悪化した。71歳時,呂律が回りにくいことを自覚した。近医耳鼻科を受診したが,咽頭や喉頭の所見に特に異常はないと言われ,経過観察となった。72歳頃から食事を飲み込みにくくなったため,脳神経内科を受診した。神経学的所見では舌の萎縮(Fig. 2)と線維束性収縮,右優位の両上肢の筋力低下と筋萎縮,四肢の腱反射亢進を認め,両側のBabinski徴候が陽性であった。球麻痺症状(舌の萎縮と線維束性収縮),上位運動ニューロン徴候(四肢の腱反射亢進と両側のBabinski徴候陽性),下位運動ニューロン徴候(両上肢の筋萎縮)から,筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)と臨床診断された1)

 73歳時には両上肢の筋力低下と筋萎縮が進行し(Fig. 3),両下肢の筋力低下も出現した。74歳時から歩行が困難となり,車椅子生活となった。75歳時(発症5年目)に誤嚥性肺炎で死亡した。遺族同意のもと,剖検が行われた(Fig. 4,5)。経過中に経管栄養や人工呼吸器管理は行われていない。

原著・過去の論文から学ぶ・8

大脳皮質基底核変性症をめぐる疾患概念の変遷

著者: 若林孝一

ページ範囲:P.1279 - P.1281

大脳皮質基底核変性症との出会い

 筆者は1985年に医学部を卒業後,すぐに新潟大学脳研究所の故・生田房弘教授(当時)の門をたたき,神経病理学の研鑽を開始した。それから6年たって,認知症とパーキンソニズムを呈した70代,女性の1剖検例を経験した。この症例では基底核や脳幹の病変(神経細胞脱落の分布と神経原線維変化の出現)は進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)と区別できない。しかし,前頭葉と側頭葉には高度の萎縮を認め,多数の風船様細胞(ballooned neuronまたはneuronal achromasia)が出現していた。後述するように当時はまだタウオパチーの概念はなく,前頭側頭葉の葉性萎縮はPick病として分類されていた。

 神経病理学教室では毎週木曜日の午前9時から組織検討会が始まる。私はPSPとPick病の合併例として発表した。この検討会のメンバーからその後6名の神経病理の教授が誕生することになるのだが,私の説明がほぼ認められようとしたとき,高橋均助教授(当時)が発言された。「このような稀な疾患が合併するとは考えられない。これは全体が1つの疾患に違いない。文献を探せ」と。そこから文献検索が始まった。

お知らせ

時実利彦記念賞 2025年度募集要領 フリーアクセス

ページ範囲:P.1281 - P.1281

趣旨 脳研究に従事している優れた研究者を助成し,これを通じて医科学の振興発展と日本国民の健康の増進に寄与することを目的とする。

研究テーマ 脳神経系の機能およびこれに関連した生体機能の解明に意義ある研究とする。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1193 - P.1193

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1194 - P.1194

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1287 - P.1287

あとがき フリーアクセス

著者: 下畑享良

ページ範囲:P.1288 - P.1288

 特集「ALS2024」をお届けします。5年前の特集「ALS2019」と比較しながら拝読しましたが,個人的に印象深く感じた点が2点ありました。1つめはやはり病態修飾薬が着実に臨床応用に近づいていることを実感した点です。ALSの臨床試験は近年,非常に多く行われ,ClinicalTrials.govを検索すると,参加者募集中のものだけでも146試験も登録されていました(2024年9月9日現在)。ALSへの治療研究が急速に進められていることが伺えます。私も研修医時代にALS患者さんを担当したことで脳神経内科医への道を選びましたが,多くの医師,研究者にとって,ALSは何としてでも克服したい特別な疾患なのだと改めて思いました。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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