icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩76巻3号

2024年03月発行

雑誌目次

特集 きちんと説明ができますか?

フリーアクセス

ページ範囲:P.211 - P.211

脳神経内科が扱う疾患は非常に多いが,長年臨床医として経験を積めば,中枢性疾患から末梢性疾患までおおむねを理解し,治療や患者さんへの説明をすることができるようになろう。しかし,インターネットをはじめとする情報があふれる今,さらにAIが回答をしてくれるかもしれない今,医療のプロフェッショナルでなくても,正確な(時に間違った)情報を簡単に手に入れることができるようになった。ただし,情報を手に入れても,きちんと理解できることは難しい。そのときこそ医師の役割は大きい。とはいえ,神経疾患のなかでもやや周辺とも言える疾患や病態に触れたとき,自信を持って治療し患者さんに説明できるだろうか。本特集では,脳神経内科の専門をやや外れるものの,患者さんからよく聞かれる疾患や合併症にテーマを絞り,その病態・治療の知識を確実なものとすることを目指したい。

ホルモン異常と神経疾患

著者: 木塚祐太 ,   伊澤良兼

ページ範囲:P.213 - P.220

内分泌機能異常は神経系に大きな影響を及ぼし,頭痛,筋力低下,不随意運動,意識障害など多様で非特異的な神経症状を合併し得る。その非特異性ゆえに神経症状の背景にある内分泌異常に気がつかず,診断に苦慮する可能性がある。ホルモン補充療法など適切な治療をすみやかに行うことにより,全身状態および神経症状の改善が期待されることから,神経症状から内分泌疾患を鑑別に挙げ,見逃さないようにすることが肝要である。

血液疾患と神経疾患

著者: 大森直樹 ,   長井篤

ページ範囲:P.221 - P.229

多くの血液疾患は経過中に神経症状を合併し得る。脳卒中やニューロパチーの背景に血液疾患が関与している例もあり,神経内科医は各種血液疾患に対する知識を携えておくことが望ましい。また近年では免疫チェックポイント阻害薬,キメラ抗原受容体-T細胞療法などの新規抗がん治療に伴う神経副作用の報告が増えており,今後も血液・神経領域の関わりがより密接になっていくと考えられる。

腎疾患に伴う神経合併症

著者: 秋山久尚

ページ範囲:P.231 - P.238

腎臓は,血液を濾過することで老廃物や余分な塩分を尿として体外へ排出する一方,体に必要なものを再吸収し,体内に留める働きをしている。このため腎臓の機能が悪化すると尿が出なくなり,電解質,酸塩基の恒常性も維持できなくなる。その結果,老廃物などが体に蓄積し尿毒症となり透析療法や腎移植などが必要となる。本論では腎疾患およびその治療に伴い出現する神経合併症について概説する。

神経筋疾患における呼吸不全の病態

著者: 井上貴美子

ページ範囲:P.239 - P.247

Krohnによる最新のレビューを基に,呼吸中枢とその調節機構を概説した。呼吸リズムの形成には延髄と橋の呼吸中枢が働くが,呼吸の維持と調節には末梢の化学受容器や迷走神経および中枢性化学受容器を介した複雑なネットワークが関わっている。呼吸ネットワークの解剖に基づき神経筋疾患の呼吸障害の病態を考察し,評価と対処法について述べる。

循環器疾患と神経疾患—心疾患・大動脈疾患に由来する脳梗塞

著者: 岩本創哉 ,   古賀政利

ページ範囲:P.249 - P.259

脳梗塞は神経疾患の中でも極めてcommonな国民病である。脳梗塞の原因となる病態は多岐にわたり,正しく鑑別することは容易ではない。特に循環器疾患と称される心疾患や大動脈疾患の一部は脳梗塞と密接な関連を持つが,疑って検査をしなければ気づけない病態も多く,見逃されやすいものと考える。本論では,脳梗塞を併発し得る循環器疾患を挙げ,病態,検査,治療に関してエビデンスを交えながら概説する。

排尿障害と神経疾患—神経因性膀胱の見方

著者: 榊原隆次 ,   内山智之 ,   山本達也 ,   神田武政 ,   服部孝道

ページ範囲:P.261 - P.271

排尿障害と神経疾患について述べた。脳病変は過活動膀胱を,末梢神経・腰部の病変は残尿を,脊髄の病変は過活動膀胱と残尿を同時にきたす。多系統萎縮症は,脊髄の病変とそっくりの病状を呈すると言える。逆に,原因不明の神経因性膀胱患者をみた場合,そのパターンから,脳,末梢神経,脊髄/多系統萎縮症を疑い,精査を進めるとよいと思われる。高齢者で重要なものとして,夜間多尿がある。患者の生活の質を向上させるために,脳神経内科医師と泌尿器科医師の,さらなるコラボレーションが望まれる。

総説

学習と神経活動—局在を超えて

著者: 櫻井芳雄

ページ範囲:P.273 - P.281

学習には2種類あるが,単純な反射を変える古典的条件づけの神経回路は,複雑な随意反応を変えるオペラント条件づけには適用できない。オペラント条件づけによる学習が進行する際,脳の広範な部位で,神経細胞の発火頻度や同期発火が多様に変化することがわかっている。また多くの部位の神経細胞の活動を,学習により自ら変化させることも可能である。複雑な随意反応を変える学習は,極めて広範な神経活動の動的変化かもしれない。

症例報告

著明な高クレアチンキナーゼ(CK)血症と無言症を呈した抗N-メチル-D-アスパラギン酸受容体抗体脳炎(抗NMDAR抗体脳炎)の1例

著者: 田島和江 ,   福武敏夫

ページ範囲:P.283 - P.287

抗N-メチル-D-アスパラギン酸受容体(抗NMDAR)抗体脳炎では痙攣や不随意運動が見られ,免疫療法以外に抗てんかん薬や抗精神病薬を要することがある。本症例は抗精神病薬の使用で,悪性症候群や横紋筋融解をきたし,ショック状態や著明な高クレアチンキナーゼ血症が生じた。リツキシマブ投与を含めた免疫療法を行い不随意運動期を脱したが,約7カ月後に独歩で退院した後も無言症は長期に後遺した。この脳炎に無言症が出現することはあるが,一時的である。本例で遷延したのは蘇生時に生じた小脳梗塞が関与しているかもしれないが,原因は明らかでない。

視覚性運動失調を呈し,微小な硬膜下膿瘍と軟膜炎の局在診断につながった細菌性髄膜炎の1例

著者: 邉見光 ,   森友紀子 ,   黒田岳志 ,   柿沼佑樹 ,   石代優美香 ,   加藤悠太 ,   久保田怜美 ,   河村満 ,   村上秀友

ページ範囲:P.289 - P.294

細菌性髄膜炎の経過中に左周辺視野で生じた両手の視覚性運動失調を認めたことから,神経症候学的な局在診断を行い,右頭頂葉の微小な硬膜下膿瘍と軟膜炎の病巣を早期に造影MRIで同定し,抗菌薬による保存的治療によって良好な転帰が得られた69歳の男性例を経験した。細菌性髄膜炎の経過中に原因不明の高次脳機能障害を認めた際にはその局在診断が微小な硬膜下膿瘍の同定に有用である。

Case Report

Adult-onset COVID-19-associated Fulminant Acute Encephalopathy with Elevated Cerebrospinal Fluid Interleukin-8: A Case Report

著者: ,   ,   ,  

ページ範囲:P.295 - P.300

Abstract: A 26-year-old woman receiving immunosuppressive therapy for polymyositis was infected with COVID-19 (an omicron mutant strain) and presented with fever. On the second day after the onset, she was admitted to our hospital and developed status epilepticus. Brain magnetic resonance imaging on admission revealed abnormal symmetric hyperintensities in the bilateral putamen and around the dorsal horns of the lateral ventricle. Three days after admission, brain computed tomography revealed marked cerebral edema and herniation. The cerebrospinal fluid (CSF) cell count was normal, and the reverse transcription polymerase chain reaction for severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 was negative. Interleukin (IL)-2, 6, and 10 levels were within the normal range in both serum and CSF, whereas IL-8 levels in the CSF were markedly higher compared to serum levels. She had fulminant acute encephalopathy, suspected to be in the early stages of acute necrotizing encephalopathy (ANE). Steroid pulse therapy and intravenous infusions of remdesivir were ineffective, and the patient died of sepsis on the 26th day after admission. We demonstrated that ANE may occur even in patients infected with Omicron strains and speculated that the pathogenesis in this case might be associated with intrathecal IL-8 production by microglial activation.

連載 スーパー臨床神経病理カンファレンス・2

転倒ののち,歩行困難となり意識障害が出現した85歳女性例

著者: 足立正 ,   鈴木有紀 ,   田尻佑喜

ページ範囲:P.301 - P.308

〔現病歴〕既往歴に特記事項なし。もともとADL自立し,認知機能も問題なく過ごしていた。X年Y月Z日自宅で転倒しコルセットを付けて過ごしていた。当初は歩行可能であったが,徐々に起立困難となった。Z+12日整形外科病院を受診し,Th11圧迫骨折の診断のもと入院となった。Z+16日手術目的に当院へ転院。転院後,意識障害が出現したため当科へコンサルトされた。

 体温35.9℃,血圧111/39mmHg,脈拍127回/分,整,SpO2 95%(室内気),胸部にラ音を聴取せず。神経学的にはJapan Coma Scale 10の意識障害,腱反射は両下肢で消失し,両下肢は近位から弛緩性麻痺と感覚鈍麻を認め,両側バビンスキー徴候を認めた。頭部単純MRIでは,拡散強調画像にて右前頭葉,左小脳に急性期脳梗塞を認めた(Fig. 1)。胸部単純CTにて,両側肺野全体に多発する粒状陰影を認めた(Fig. 2)。全脊椎単純MRIでは,Th11圧迫骨折以外,下肢麻痺をきたす髄内病変は認めなかった。

原著・過去の論文から学ぶ・1【新連載】

進行性核上性麻痺に関する2つの論文とJohn Steele先生の思い出

著者: 下畑享良

ページ範囲:P.309 - P.312

原著との出会い

Steele JC, Richardon JC, Olszewski J: Progressive supranuclear palsy: a heterogenous degeneration involving the brain stem, basal ganglia and cerebellum with vertical gaze and pseudobulbar palsy, nuchal dystonia and dementia. Arch Neurol 10: 333-359, 1964

 研修医であったころ,とても印象に残った疾患があった。少し重心が後方にずれると,無抵抗に倒れる進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)である。指導医より「原著をぜひ読むように」との助言をいただいた。図書室に赴き,製本された雑誌の原著1)のページを捲ると,手垢のせいかその論文の部分が変色し,剝がれかけた箇所をテープで丁寧に留めてあることに気がついた(Fig. 1)。その論文が,多くの先輩方によって繰り返し読まれてきたことがすぐにわかった。この論文を読み,先輩方から引き継ぐべき神経学の歴史を実感するとともに,重厚な内容に圧倒され,「原著」に立ち戻ることの大切さを初めて理解した。

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.209 - P.209

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.210 - P.210

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.319 - P.319

あとがき フリーアクセス

著者: 髙尾昌樹

ページ範囲:P.320 - P.320

 今月も『BRAIN and NERVE』をお読みいただいている皆様へ,編集委員の一人として御礼申し上げます。お若い先生の中は,本誌が長い歴史のあった医学雑誌『脳と神経』と『神経研究の進歩』が2007年に統合され,改題されたことをご存知ない方もいらっしゃるかもしれません。『脳と神経』は比較的臨床重視の内容で私もよく読んでいました。一方,『神経研究の進歩』は基礎的な内容も多く,自分では読んで理解できるものではありませんでした。医学雑誌を取り巻く環境はきっといろいろ厳しいものもあると思いますが,基礎から臨床までを広くカバーできる本誌の価値がいつまでも続くことを願っています。

 本号はそういった意味では臨床神経学寄りの内容になりました。少し変わったタイトルの特集になりましたが,私自身にはまさに目が覚めるような内容です。言うまでもなく神経組織は全身に広がっています。中枢から指先の末梢に至るまでさまざまな変化が起こり,多くの症状に関わるはずです。そして,神経系以外の臓器と神経疾患が合併する疾患や病態も少なくありません。自分の目の前にいる患者さんの神経疾患と一般臓器の問題との重大な関連に気付いていないこともあるかもしれません。私自身は診療をしているときに,いつもそういったことが気になり,勉強不足を再認識させられる毎日です。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら