icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩76巻4号

2024年04月発行

雑誌目次

特集 神経病理最前線

フリーアクセス

ページ範囲:P.323 - P.323

昨今,神経病理剖検例が全国的に減少している。COVID-19パンデミックの影響もさることながら,何より神経病理を志向する若い研究者の減少が大きな原因の1つであろうと考えられる。しかし,確実な診断,病態の解明という面で神経病理の果たす役割は何ら変わっていないものと思われる。本特集は,神経病理の現在地を総括するとともに,未来への展望を俯瞰するという趣旨で企画した。鼎談では神経病理学を取り巻く現状と課題を踏まえ,今後のあるべき姿を議論した。各論文では神経病理領域におけるホットトピックスを多数の豊富なカラー写真とともに解説している。本特集を通じて,神経病理の世界をより身近に感じていただくことを願ってやまない。

【鼎談】神経病理学に未来はあるか

著者: 柿田明美 ,   髙尾昌樹 ,   神田隆

ページ範囲:P.325 - P.331

日本神経病理学会の現況

神田 私が駆出しの頃は,日本神経学会(以下,神経学会)と日本神経病理学会(以下,神経病理学会)の学術集会が2〜3週の間に続けて開催されていました。同じトピックスが2つの学会で扱われることもしょっちゅうありましたが,神経病理学会でなされる議論のほうがずっと熱かったように記憶しています。当時は神経学会の主だった先生方は当然のように神経病理学会にも出ておられて,現状を見ると隔世の感があります。

 今回,神経病理学会や学問としての神経病理学がどうあるべきなのか,臨床神経学の中で神経病理学は今,どういう位置づけにあるのか,さらに踏み込んで神経病理学にいったい未来はあるのか,ということをもう一度考えてみたいと思い,鼎談を企画しました。現状の課題を整理するにあたって,まず会員数や演題数の推移について,神経病理学会の理事長を務めておられる柿田先生にデータをご用意いただきましたので,ご紹介をお願いします。

認知症疾患の神経病理

著者: 坂井健二 ,   山田正仁

ページ範囲:P.333 - P.342

認知症とは一度正常に発達した認知機能が後天的な脳の障害によって進行性・不可逆性に低下し,日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態である。中枢神経系を障害するさまざまな疾患(神経変性疾患,血管障害,感染症や炎症性疾患,脱髄性疾患,中毒・代謝性疾患,腫瘍や外傷など)により生じる。多くの神経疾患は神経病理学的に確定診断されるため,症例の病態の理解や高い精度の臨床診断には神経病理学的な理解が必須である。

神経変性疾患の神経病理

著者: 岩崎靖

ページ範囲:P.343 - P.351

神経変性疾患の確定診断には病理学的検索が必須である。疾患ごとに障害される部位や系統は異なり,神経細胞脱落やグリオーシスなどの退行性変化,異常蛋白の蓄積,特徴的な凝集体の形成を認める。蓄積蛋白による分類では,タウ蛋白,α-シヌクレイン,TDP-43(TAR DNA-binding protein of 43kDa)が蓄積する疾患を,それぞれタウオパチー,α-シヌクレイノパチー,TDP-43プロテイノパチーと呼ぶ。

炎症性・自己免疫性中枢神経疾患の神経病理

著者: 髙尾昌樹

ページ範囲:P.353 - P.360

炎症性・自己免疫性中枢神経疾患の神経病理について,その基本的な所見をまとめた。特に感染症,脱髄疾患,自己免疫性疾患を記載した。感染症として髄膜炎,脳炎,膿瘍,脱髄疾患では多発性硬化症,視神経脊髄炎,自己免疫性疾患として血管炎,傍腫瘍性神経症候群,膠原病の基本的理解が必要である。

末梢神経疾患の神経病理

著者: 小池春樹

ページ範囲:P.361 - P.374

近年,ニューロパチー研究の分野では,電気生理や自己抗体探索などの非侵襲的な手法が多く用いられるようになり,さまざまなニューロパチーの病態が明らかになっている。これに対して,末梢神経の標本を用いた病理学的検討が行われる機会は少なくなっているが,現代の視点から末梢神経病理所見を検討すると,以前には同じものを見ていてもわからなかったことが理解できるようになることも多い。本論ではこのような観点から,末梢神経の病理所見に関する最新の知見について概説する。

筋病理の現状と今後—今後の筋病理診断の立ち位置

著者: 斎藤良彦 ,   西野一三

ページ範囲:P.375 - P.386

筋疾患名の多くは多少なりとも筋病理所見に基づく。したがって,筋疾患の診断には筋病理診断が重要である。近年では広範な遺伝学的解析や筋炎自己抗体検索が臨床応用され,筋生検が限定的に実施される傾向にある。しかし,1つの遺伝子が複数の表現型を呈する場合や,病的意義不明のバリアントが検出された場合,筋ジストロフィーと誤診される可能性のある自己免疫性筋炎の場合には,筋病理診断を積極的に実施すべきである。

総説

過飽和に基づくアミロイドーシス研究の新展開—アミロイド線維形成を促進・抑制する生体因子

著者: 山口圭一 ,   中島吉太郎 ,   後藤祐児

ページ範囲:P.391 - P.397

アミロイド線維形成は,溶解度を超えたアミロイド前駆蛋白質が,過飽和状態が解消されることで析出する,結晶化に似た物理化学的な現象である。筆者らは超音波を用いたアミロイド凝集誘導検出装置HANABIを用いることで,血清アルブミンが透析アミロイドーシスの阻害因子の1つであることを明らかにした。HANABIを用いてアミロイド線維形成の促進・抑制因子を探索することで,アミロイドーシスの早期診断や予防法の開発につながると期待される。

アルツハイマー病におけるアミロイドβの役割—最新の知見を踏まえて

著者: 小野賢二郎 ,   椎名浩子 ,   松本麻莉子 ,   中村陽介

ページ範囲:P.399 - P.408

アミロイド前駆体蛋白からアミロイドβ(amyloid β:Aβ)が切り出され,Aβの異常凝集・沈着により神経変性を引き起こす「アミロイドカスケード仮説」は1992年に提唱された。近年では,Aβの凝集過程において,中間凝集体であるオリゴマーやプロトフィブリルの有する神経毒性(オリゴマー仮説)が注目を集めている。この中間凝集体を主なターゲットとする抗Aβプロトフィブリル抗体薬も開発され,新たなアルツハイマー病治療が期待される。
*本論文中に掲載されている二次元コード部分をクリックすると,関連する動画を視聴することができます(公開期間:2027年4月30日まで公開)。

連載 スーパー臨床神経病理カンファレンス・3

歩行障害・易転倒性で発症し,小脳症状とパーキンソニズムのある60歳男性例

著者: 齋藤理恵 ,   近藤浩 ,   下畑享良 ,   岡本浩一郎 ,   小野寺理 ,   柿田明美

ページ範囲:P.409 - P.420

〔現病歴〕中学生頃より右手に力が入りにくかった。41歳から歩行時のふらつきが出現。母,同胞に類症あり。以後,緩徐に進行し,46歳頃から易転倒性が出現。47歳時,精査目的に大学病院神経内科へ入院した。

 神経学的所見:体幹・四肢の運動失調,断綴性言語,眼球運動制限,緩徐眼球運動,認知機能低下(HDS-R 21/30),四肢筋強剛,眼輪筋の筋力低下,四肢Gegenhalten,チャドック反射陽性。自律神経障害,感覚障害はなし。頭部MRI(Fig. 1A)では小脳・脳幹に著明な萎縮を認めた。大脳には明らかな萎縮を認めなかった。本人・家族の同意を得て施行した遺伝子検査では,ataxin 2遺伝子におけるCAGリピートの伸長(42/22リピート)を認め,遺伝性脊髄小脳失調症2型(spinocerebellar ataxia type 2:SCA2)と診断された。

原著・過去の論文から学ぶ・2

Jerk-locked back averaging, Non-invasive brain stimulation—チャールズ・デビッド・マースデン教授・柴﨑浩教授の後を追って

著者: 宇川義一

ページ範囲:P.421 - P.424

 自分に影響を与えた論文の紹介との原稿依頼をいただいた当初は,その論文の内容を深く掘り下げた原稿の依頼と思い,荷が重く断ろうとしたが,自分に影響が大きかった論文が,その後の自分の進路にどういう影響を与えて,現在までの自分の研究がどのように進んできたかというような内容でもよいということで,なんとか私にも執筆可能と考え直し原稿を書いている。なお,本稿の内容の一部は,『柴﨑浩先生の思い出』という内容で書いたもの1)と重複する部分があるが,お許しいただきたい。私が専門とする中枢神経の電気生理学の分野における2人の巨人の多くの論文の中から各々1つを紹介し,それらがどのようにその後の自身の進路選択に影響を与えたかを述べる。

書評

「老いをみつめる脳科学」—森 望【著】 フリーアクセス

著者: 大隅典子

ページ範囲:P.389 - P.389

 書店に行けば「脳」のコーナーには多数の本が並んでいる。だが,『BRAIN and NERVE』の読者諸氏にとって興味深く読むことができる書籍は決して多くはない。長崎大学名誉教授である森望先生の最新作,『老いをみつめる脳科学』は,ご自身のご研究の足跡をたどりつつ,脳の老化に関する研究の歴史と進展について,主に分子生物学的研究の知見ベースに解説されている。本書の帯に添えられた「脳と老化のサイエンスストーリー」という言葉は,まさにぴったりな副題であり,推理小説を読むような気持ちにさせられる。たくさんの分子の名前が出てくるのはちょっと……という方にとっても,具体的に描き出される研究者の人生模様に共感しながら読み進められるだろう。

 筆者が森先生を存じ上げるようになったのは,先生ご自身が研究されてきたNRSF(neuron-restrictive silencer factor,別名REST, the repressor element-1 silencing transcription factor)という分子に,先生とはまったく異なる方向からたどり着いたためであった。われわれは,父親の加齢が子どもの神経発達症のリスクとなる疫学研究をもとに,加齢マウスの精子DNAにおけるエピジェネティックな変化を追求していたのだが,加齢によって増加するDNAの低メチル化領域に共通していたのが,NRSF/REST結合配列だったのだ。

「作業療法の曖昧さを引き受けるということ」—齋藤佑樹,上江洲聖【著】 フリーアクセス

著者: 酒向正春

ページ範囲:P.398 - P.398

 表紙を見て,すぐ読みたくなった。「作業療法の曖昧さを引き受けるということ」を漫画で理解させるのか,凄く楽しみである。しかし,タイトルからして,何となく複雑そうな予感もした。

 作業療法とは,人々の健康と幸福を促進するために,作業に焦点を当てた治療,指導,援助と定義されるが,作業がなんであるかがわかりにくい。私達の臨床現場で作業療法といえば,上肢戦略,生活戦略,精神・高次脳機能・復職戦略の3本柱の実践である。その実践には,患者との信頼関係の構築が前提となる。本書は,まさに患者との信頼関係の構築方法を丁寧に漫画と解説文で説明していた。まるで,ソーシャルワーカーの教育書ではないかと感じるほどに,患者の心と気持ちを大切にしていた。

お知らせ

第39回 日本生体磁気学会大会 フリーアクセス

ページ範囲:P.397 - P.397

日時:2024年6月13日(木)・14日(金)

会場:幕張メッセ国際会議場(千葉県千葉市美浜区中瀬2-1)

第70回・71回 筋病理セミナー—国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター主催 フリーアクセス

ページ範囲:P.417 - P.417

2024年度の筋病理セミナーを下記の要領で開催します。本セミナーでは,講義と実習を通して筋病理学の基本と代表的な筋疾患の概要を学ぶことができます。

--------------------

目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.321 - P.321

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.322 - P.322

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.431 - P.431

あとがき フリーアクセス

著者: 神田隆

ページ範囲:P.432 - P.432

 4月になりました。昨今は盆暮を含めて年中休みなく学会・研究会が開催されていますので,「学会シーズン」という言葉も死語になりつつある感がありますが,新年度の主要学会に向けて準備万端整えておられる先生方も多数おられることと思います。COVID-19パンデミックは学会の態様を大きく変えてしまいました。人が“集まる”ことが否定的に捉えられて,すべての学術集会が中止ないしオンラインでの開催に移行し,この時期に医師人生をスタートした若い先生方の中には,学会はwebがスタンダード,と信じておられる方が多数おられるようです。煩わしい他人との交流を避けることができて,自分を前に出すことなく“効率よく”勉強できるWeb学会は,若い世代のニーズに合っているのかもしれませんね。

 しかし,この数年間,Web開催を余儀なくされた学会・研究会も,かなりの部分は対面での従来の形に復帰しました。ハイブリッド配信もやめて現地のみという会も増えています。Web開催には,何かにつけて内向きな若手の嗜好に合うという以外にも大きなメリットはあり,子育てや介護,超多忙な日常業務ゆえに学会場に足を運ぶことのできない先生方のために大きな貢献をしているのは紛れもない事実です。日本神経学会のような大きな学会は,こういった会員のための学習・研修機会の確保という考えのもと,本幹はリアルの開催に置くとしてもハイブリッドの形は今後もずっと続けるであろうと思います。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら