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雑誌目次

雑誌文献

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩76巻6号

2024年06月発行

雑誌目次

特集 注意と注意障害

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ページ範囲:P.699 - P.699

「注意」は言語,行為,知覚,記憶,遂行機能などと並んで,ヒトの重要な高次脳機能領域である。また,他の認知機能領域の背景にあるとも言え,「意識」とも密接に関係している。本特集では,注意の神経機構やワーキングメモリとの関連など基礎分野の話題から,各種検査法,半側空間無視や注意欠如多動症の病態,そしてリハビリテーションの進め方など臨床的なトピックまで包括的に取り上げた。注意障害の背景にあるメカニズムを探り,患者の病態の的確な把握,そして効果的な治療につなげてほしい。

注意の神経機構

著者: 木田哲夫

ページ範囲:P.701 - P.707

注意の神経機構について古くは感覚入力に対するニューロン応答や脳反応が注意により増大することが示され,情報処理モデルや計算モデルが提唱された。その後,注意障害研究と脳画像研究の発展により注意の神経機構は脳機能局在および大規模な脳ネットワークの観点からも理解されるようになった。本総説では,注意の神経機構について古典から最近の進歩まで概説する。

視覚探索における注意と記憶

著者: 澤頭亮 ,   田中真樹

ページ範囲:P.709 - P.714

視覚探索の効率を上げるためには,一度見たものを記憶し,再び注意が向かないようにする必要がある。多数の物体の中から標的を探し出す採餌課題中の二度見行動に着目し,短期記憶の容量,忘却率,利用率を定量化する方法を考案した。サルの採餌行動の成績はケタミン投与で低下し,ニコチン投与で向上したが,いずれも短期記憶の利用率の変化を伴っていた。複雑な教示を必要としない本課題を用いれば,さまざまな被験者で作業記憶を定量化できる。

前頭葉と注意のトップダウン制御

著者: 小林俊輔

ページ範囲:P.715 - P.720

注意には,感覚刺激の顕著性に基づくbottom-upの注意と,強さ,割当て,選択性,持続時間などが随意的に制御されるtop-downの注意の二方向性がある。Top-downの注意は主として前頭葉がon-goingの情報処理をモニターすることにより介入が必要な状況を検出し,遂行機能の一部として下位システムの情報処理を操作することで実現されると考えられる。

注意の分類と検査法

著者: 船山道隆

ページ範囲:P.721 - P.725

注意機能の下位分類にはさまざまな分類方法がある。本論では神経心理に適応しやすい下位分類,すなわち,選択性注意,持続性注意,空間性注意,抑制性注意,配分性注意,転換性注意を挙げた。ただ,この分類同士にもオーバーラップが認められる。さらにはワーキングメモリや遂行機能などと重複する機能も多い。われわれの認知活動は注意機能と絡んで行われるため,純粋に特定の注意機能を抽出するのは困難である。

ワーキングメモリ—注意がコントロールする記憶

著者: 坪見博之

ページ範囲:P.727 - P.731

高次認知機能の基盤を担う短期記憶は,容量が厳しく制約されている。そのため,注意をコントロールし,現在の目標に必要な情報のみを選択的に記憶することが必要である。注意のコントロールを内包した短期記憶は,ワーキングメモリと呼ばれている。本論では,ワーキングメモリの心理学的モデルと測定課題を概観し,「適切に」「安定的に」記憶するために,注意のコントロールがいかに重要であるかを論じた。

注意障害に対するリハビリテーション

著者: 豊倉穣

ページ範囲:P.733 - P.741

脳損傷後の注意障害に対する認知リハビリテーションにはエビデンスに基づくガイドラインがいくつか提唱されている。本稿では『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2023〕』と “INCOG 2.0 Guideline for Cognitive Rehabilitation Following Traumatic Brain Injury, PartII: Attention and Information Processing Speed” を紹介した。疾患により見解の相違はあるが,Attention Process Trainingシリーズ,メタ認知訓練,タイムプレッシャーマネジメント,二重課題訓練などの効果が報告されている。種々の環境調整によっても注意障害の影響を軽減させることができる。

注意障害からみた認知症

著者: 山口晴保 ,   山口智晴

ページ範囲:P.743 - P.748

注意はすべての認知機能の基盤となる。特に同時並行処理のような複雑な課題処理に必要な複雑性注意は,認知症の早期から障害され,アルツハイマー型・レヴィ小体型・血管性認知症の諸症状や生活障害,コミュニケーション障害に密接に結びついている。にもかかわらず,「認知症と注意障害」の研究は乏しく,今後は注意障害に着目した研究を進める必要がある。本論では,注意障害に伴う生活障害へのケアについても解説した。

半側空間無視の臨床と神経基盤

著者: 石合純夫

ページ範囲:P.749 - P.754

半側空間無視とは,大脳半球病巣と反対側の刺激に対して,発見して,報告したり,反応したり,その方向を向いたりすることが障害される病態であり,右半球の脳血管疾患後に生じる「左」無視がほとんどである。同名性半盲とは異なり,視線を固定せずに起こる症状であり,多くの日常生活活動で困難を生じる。半側空間無視は,空間性注意の方向性の偏りと,その臨床的表現を顕在化するいくつかの要因が加わって起こると考えられる。

半側空間無視のリハビリテーション

著者: 水野勝広

ページ範囲:P.755 - P.759

脳卒中などでみられる視覚注意障害である半側空間無視は,近年では広範な視覚注意ネットワークの障害と考えられており,その発症には視覚注意ネットワークの半球間バランスの破綻が関わっていると考えられている。一方,その回復には非損傷半球を含めたネットワークによる代償作用が重要であることも明らかになりつつある。このような仮説に基づき,無視の病態理解とリハビリテーション治療の最新の知見について概説した。

注意欠如多動症(ADHD)の症候と病態

著者: 太田晴久

ページ範囲:P.761 - P.765

本邦では成人期になり注意欠如多動症(attention deficit hyperactivity disorder:ADHD)と診断される方が急増している。ADHDの特性は健常発達者との連続性があり,そのときの環境や成長過程によって変動しやすい。特に成人例においては,精神疾患を併存しやすいため,ADHD特性に影響を与えている。ADHDは多様な臨床症状,ヘテロな生物学的な背景を持つ。病態,病因の解明に向けて,RDoC(Research Domain Criteria)的なアプローチに加えて,生物学的に比較的均一なサブカテゴリーに分類する試みが期待される。

総説

α-シヌクレイノパチー患者血液由来α-シヌクレインシードの伝播凝集メカニズム

著者: 奥住文美 ,   波田野琢 ,   服部信孝

ページ範囲:P.767 - P.772

パーキンソン病(PD)の原因蛋白質であるα-シヌクレイン(α-syn)凝集体は,末梢自律神経から大脳皮質まで広範囲に認められる。α-synは神経回路に沿って伝播すると考えられているが,近年神経回路以外の伝播経路の存在が示唆されている。本論では,神経経路だけでなく,血液などの体液を介した多焦点的なα-synシードの伝播の可能性について概説する。

連載 スーパー臨床神経病理カンファレンス・5

5カ月前から発熱や腎機能の悪化を認め,脳出血をきたした70代女性

著者: 種井善一 ,   小野寺康博 ,   田中伸哉

ページ範囲:P.773 - P.783

〔主訴〕発熱,腎機能の悪化

〔現病歴〕高血圧症や気管支喘息,糖尿病で内科に通院していた。死亡5カ月前に外科で盲腸癌の手術を受けた。退院2週後より38℃台の発熱を認め,外科を受診した際にCRP 20mg/dLと上昇を指摘された。両耳の疼痛や鼻閉を訴え,同日に耳鼻咽喉科を受診。両側外耳道炎と診断され,ステロイド軟膏を処方されて帰宅した。数日後に,甲状腺乳頭癌術後で定期受診したA病院でもCRP高値を指摘され,精査加療目的に当院内科に入院となった。

原著・過去の論文から学ぶ・3

すぐれたコホート研究のアルゴリズムにふれる

著者: 森啓

ページ範囲:P.785 - P.787

原著との出会い

Bateman RJ, Xiong C, Benzinger TL, Fagan AM, Goate A, et al; Dominantly Inherited Alzheimer Network: clinical and biomarker changes in dominantly inherited Alzheimer's disease. N Engl J Med 367: 795-804, 2012

 午前診療を終えた嶋田裕之大阪市立大学老年科・神経内科准教授(当時)がご自身の学舎研究室に戻ることなく,私の研究室に直接立ち寄られた。外来で得られた血液サンプルの分析依頼だと思いお迎えしたが,その日は,New England Journal of Medicine論文1)のコピーを手に熱く語られたことを覚えている。当該のNEJM論文で私にどうこうしろという話ではなかったが,研究情報を先に把握された悔しさもあったのか,即座に理解できなかったためか,「読んでおきますね」との言葉で,お別れした。その夜に,私も嶋田先生と同じ興奮に出会えたのは言うまでもない。

書評

「感染対策60のQ&A」—坂本史衣【著】 フリーアクセス

著者: 山田和範

ページ範囲:P.784 - P.784

 コロナ禍を経て,全ての医療従事者は以前にも増して,正しい知識に基づいた感染対策を実践することを求められるようになった。得てして,施設の感染対策では現場と管理側スタッフの行動が乖離していることがある。真面目な管理スタッフほど,無意識に正論を振りかざし,現場スタッフは「感染は現場で起きているんだ!」と言いたい気持ちをこらえ,独自のルールを運用してささやかな抵抗をしていたりする。両者がめざすゴールは同じで「感染から患者さんと医療スタッフを守りたい」はずなのだが……。そしてこの小さな綻びを突いて,感染症やアウトブイレクが発生したりする。このような「現場と管理側スタッフとの行動の乖離」は,突き詰めれば両者の視点がズレていることが原因である。このズレを解消する糸口の1つとなるのが本書である。

 一般的にHow to本の記載は,最新で充実した施設が前提となっていることが多く,そうではない(経年が目立ち設備面でも恵まれていない)施設では,「そこまでできないなぁ」と諦めがちである。しかし,本書は,充実した環境での対応のみならず,現在のセッティングでできることにも言及しており,どんな施設・環境であっても感染対策に取り組む上での羅針盤になる。そして,押さえるべきポイントはしっかりと押さえられており,妥協がない部分は小気味よい。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.697 - P.697

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.698 - P.698

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.793 - P.793

あとがき フリーアクセス

著者: 虫明元

ページ範囲:P.794 - P.794

 注意に関する特集号で,さまざまな注意の神経機構や病態が議論されています。しかし,私は逆に,注意の反対,つまりぼんやりした状態について書いてみたいと思います。本特集の中でも少し触れられていますが,脳は休んでいるように見えるときでも,実際には活発に働いていることがわかっています。このような安静時にも活発に活動している領域は,デフォルト・モード・ネットワークと呼ばれ,計算などの認知作業時には休んでいる一方,休憩しているときに活発になることが特徴です。例えば,試験中など外部の刺激に注意を向けているときには,このネットワークの活動が低下します。しかし,外部の課題から解放されると,このネットワークは再び活発になります。つまり,このネットワークは,活動する領域と休む領域が交互に切り替わるような働きをします。

 しかし,このぼんやりとした状態でも,その内容は重要です。ぼんやりとした状態は英語で“マインドワンダリング”と呼ばれ,心がさまざまな方向に飛び回る状態を指します。しかし,心の中のさまざまな考えや感情はコントロールが難しいことがあります。実際,マインドワンダリングの発生頻度や持続時間をモニタリングし,そのときの気持ちも調査した研究があります。その結果,マインドワンダリングが多い人ほど,不安や不満などのネガティブな感情と関連していることが示されました。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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