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雑誌目次

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BRAIN and NERVE-神経研究の進歩76巻8号

2024年08月発行

雑誌目次

特集 Common diseaseは神経学の主戦場である—revisited

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ページ範囲:P.893 - P.893

(脳)神経内科医は変性疾患や希少疾患だけでなく,common diseaseをもっと診るべきである。このスローガンが本当に実践されているのか,うまく機能していないとすればどこに問題があるのかを議論するべく,2013年9月号に「Common diseaseは神経学の主戦場である—現状と展望」という特集を組んだ。それから10年以上が経過し,この問題を再考するときが来た。この期間中に状況はどう変わったのか。「神経内科」から「脳神経内科」への名称変更は社会にどのような影響を与えているか。われわれは頭痛やしびれ,認知症のゲートキーパーになり得ているのか。冒頭の鼎談ではこれらのテーマについて議論を行い,続く各論では著者の主観を交えた見解を述べていただいた。脳神経内科医として「神経学の主戦場」でどう戦うか。自身の役割と歩むべき道について考えたい。

【鼎談】脳神経内科はcommon diseaseを診ているか?

著者: 下畑享良 ,   髙尾昌樹 ,   神田隆

ページ範囲:P.895 - P.901

脳神経内科への名称変更とその影響

神田 本誌では2013年9月号に「Common diseaseは神経内科の主戦場である」という特集を組み,読者の先生方から多数のご意見や建設的なコメントをいただきました。今回の特集では11年が経過した今,再度その問題について考察することを目指しています。この間,「神経内科」から「脳神経内科」への名称変更(2018年)という大きな変化がありました。この変更がどれほどのインパクトを与えたのか,また頭痛やめまい,しびれのゲートキーパーとしてわれわれがなり得ているのか,今日は議論したいと思います。

 日本の脳神経内科はいわば後発の領域です。変性疾患は当初から脳神経内科で扱われていたものと思いますが,common diseaseと呼ばれるてんかん,頭痛,脳卒中,めまいなどは脳神経内科プロパーの病気だったわけではありません。てんかんは精神科,しびれは整形外科で,頭痛は脳神経外科が主体となって診ていました。認知症も精神科の病気という認識が長らくありました。

認知症診療における脳神経内科医の役割

著者: 森悦朗

ページ範囲:P.903 - P.910

本誌2013年9月号の前回特集で,筆者は認知症診療において脳神経内科医が積極的なリーダーシップを発揮することを提唱した。その後,認知症基本法の施行やレカネマブなど新薬の登場により,脳神経内科医が認知症診療により一層関与することが期待されている。しかし,行動神経学を専門とする脳神経内科医の不足や,一般の脳神経内科医の行動神経学に関する知識やその教育体制が不十分であるなどの課題も依然として残っている。これらの課題を克服し,脳神経内科医が真の認知症診療の専門家へと進化することが求められる。

脳卒中の現場における脳神経内科医の存在意義

著者: 出口一郎 ,   髙尾昌樹

ページ範囲:P.911 - P.916

脳卒中診療において脳神経内科医は,急性期再灌流療法(rt-PA静注療法および血栓回収療法)の適応を判断し,stroke mimics,stroke chameleonsを見極め,かつその後に適切な薬剤選択,全身状態の管理を行うことを求められる。そのためには,脳神経内科医が持つ神経症候学に基づく確かな診断力と,内科医としての幅広い知識および洞察力が重要であり,患者の予後を改善することにつながる。

てんかん診療の進歩と課題

著者: 赤松直樹

ページ範囲:P.917 - P.921

脳神経内科が本邦で誕生後60年以上が経過し,成人てんかん診療に重要な役割を果たしている。てんかん学用語は,国際抗てんかん連盟の用語が本邦でも使われており,側頭葉てんかんなどでみられる発作は,精神運動発作から複雑部分発作,そして現在では焦点意識減損発作と変遷してきた。抗てんかん発作薬は,第2,3世代の薬剤が登場し,ファーストライン薬も変わってきている。妊娠中に比較的安全性の高い薬剤が登場している。高齢者のてんかんの治療・研究が進歩している。てんかん外科治療も進歩しているが,まだ十分に普及はしていないのが現状である。今後も脳神経内科医のてんかん診療への貢献が期待される。

頭痛診療の進歩と今後の展望

著者: 永田栄一郎

ページ範囲:P.923 - P.931

脳神経内科医が診療する中で,頭痛は最も多く遭遇する疾患の1つであるが,患者の苦痛にもかかわらず,一次性頭痛の片頭痛は生命に危険が及ぶわけでもなく,検査も異常がないので鎮痛薬などでやり過ごすことが多かった。しかし,CGRP関連抗体製剤の登場により,片頭痛治療も変化し始めている。いまだに多くの片頭痛患者が医療機関を受診せず,適切な治療を受けていない。今後,頭痛医療をさらに推進していく必要がある。

Common diseaseとしてのめまい—危険度で考える

著者: 福武敏夫

ページ範囲:P.933 - P.946

めまいは脳神経内科や救急外来でコモンな主訴の1つであるが,自己限定的で良性の病態が多い。しかし,重大で危険な原因がまだまだ見逃されている。本論では,末梢から中枢までの前庭系の解剖学とめまいの内容分析(回転性か浮動性か)よりも誘発因子と時間経過に重きを置いた分類を提示する。そのうえで,原因を危険性の高いもの,要注意のものそして自己限定的なものに分けて,単独めまいや単独前庭性症候群を中心に,解説する。

末梢神経障害(しびれ)—神経・筋疾患の「総合診療科」としての役割

著者: 古賀道明

ページ範囲:P.947 - P.951

末梢神経疾患の有病率は年々上昇しており,この10年で複数の末梢神経疾患に対して新しい治療法が出現した。末梢神経障害に関する「医中誌」掲載文献を報告した最多の診療科は整形外科で,二番手が脳神経内科であった。特に脳神経内科からはこの10年で増加していた。一方,依然としてcommonな末梢神経疾患の患者が脳神経内科を受診しておらず,神経・筋疾患の「総合診療科」としての立場をより前面に出していくべきである。

総説

Tumefactive demyelinating lesions

著者: 水本悠希 ,   安部鉄也

ページ範囲:P.953 - P.960

TDL(Tumefactive demyelinating lesions)は2cm以上の炎症性脱髄性疾患と定義され,多発性硬化症などの経過中に出現し得るが,初発病変としてみられた場合には,鑑別が特に困難となる。腫瘍性,あるいは感染性疾患との鑑別のために,各種画像検査に加えて病理学的検討を要することも多い。本論では,TDLの概念,疫学,診断,治療について概論する。

スティッフパーソン症候群—初の全国疫学調査結果を踏まえた現状と課題

著者: 松井尚子 ,   田中惠子 ,   和泉唯信

ページ範囲:P.961 - P.967

スティッフパーソン症候群は体幹を主部位として,間欠的に筋硬直や筋攣縮が発生し,さらには全身へと症状が進行する稀な自己免疫疾患である。2018年に実施された全国調査において,罹患率は人口10万人あたり0.2人と推定された。病因としてグルタミン酸脱炭酸酵素(glutamate decarboxylase:GAD)抗体が最も多く,グリシン受容体(glycine receptor:GlyR)抗体がそれに次いだ。治療への反応は欧米の報告と比べると比較的良好であったが,治療への反応の乏しい症例も存在することから,早期診断と治療アルゴリズムの確立に向けた整備が重要である。

連載 スーパー臨床神経病理カンファレンス・7

小児期に発症し,著しい脳萎縮を呈した42歳男性

著者: 水谷真志 ,   佐々木征行 ,   佐藤典子 ,   髙尾昌樹

ページ範囲:P.969 - P.975

〔現病歴〕1歳6カ月時麻疹に罹患したが重症化せず自然治癒した。7歳頃まで正常に発達したが,8歳頃より語尾の不明瞭化,食事をこぼす,わずかな段差で転ぶといった退行が出現し,脈絡のないことを話し表情が乏しくなったため小児科を受診。脳波および髄液所見から亜急性硬化性全脳炎と診断された。イソプリノシンを内服開始し,プロチレリン(TRH)の静注,インターロイキン-2,ピシバニールによる治療が行われたが排泄介助,経口摂取困難,会話不能,寝たきりとなりミオクローヌスも出現した。

 8歳7カ月,当院に転院した。インターフェロンおよび細胞性免疫賦活薬を投与しいったん改善がみられたが徐々に増悪し,9歳頃より全身性痙攣が出現した。13歳時,頭部MRIで大脳/脳幹の全体的な萎縮を認めた(Fig. 1A)。

原著・過去の論文から学ぶ・5

マリー失調症を巡るmissing links—つながったlinkとまだつながらないlink

著者: 内原俊記

ページ範囲:P.976 - P.979

 臨床像と病理像を基盤に疾患単位が確立されてくるのが基本だが,脊髄小脳変性症の場合,複数の病変が複数の臨床症状を呈するので,個々の症状から病変部位を想定していくという対応がしばしば困難である。さらに,マリー失調症の場合は同一家系内でも臨床像の多様性があり,病理像も均質ではないので,疾患単位として確立しにくい。

 本論ではマリー失調症の疾患概念の成立と変遷を原著にさかのぼって問い直し,いったん散逸したかにみえたマリー失調症の概念が,マシャド・ジョセフ病(Machado-Joseph disease:MJD)として再認識されるようになっていく過程をふりかえり,今後に残された問題を考えてみたい。

お知らせ

第54回 新潟神経学 脳研セミナーのご案内 フリーアクセス

ページ範囲:P.979 - P.979

日時 2024年8月29日(木)〜30日(金)

場所 新潟大学脳研究所(新潟市中央区旭町通一番町757)

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.891 - P.891

欧文目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.892 - P.892

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.985 - P.985

あとがき フリーアクセス

著者: 髙尾昌樹

ページ範囲:P.986 - P.986

 皆さま,お元気でお過ごしのことと思います。8月号が出版される頃は,日本中が暑くて熱くて,そろそろバテ気味のころかもしれません。そんな時期に,とても熱い特集「Common diseaseは神経学の主戦場である—revisited」をお届けします。いいタイトルですね。学会の書籍コーナーに出せば,売れそうな感じがします。あとがきだけ読まずに,本文をお読みください。

 神経学が関わる疾患の種類はたくさんあります。中枢神経,末梢神経,筋とカバーする範囲が広いのですから,当たり前のことです。神経疾患には極めて稀なものもあります。医師生活で見ることがないものもあるでしょう。一方,この特集で取り上げた疾患,病態は極めてcommonなものばかりです。外来,病棟で毎日のように出会っているはずです。でも,個々の症例を初心に返ってきちんと診療しているのでしょうか。最新の情報にキャッチアップしているのでしょうか。私自身は,気が抜けているかなあと思うことがあり,あとで心配になってカルテを見たり,あわてて文献を調べたり,反省の毎日です。稀すぎる疾患は,極めて優秀で博学な医師の一言,あるいは,たくさん行った検査で診断がつくような気がしますし,いや,これからはAIで一発診断なども可能になるでしょう。そのほうが患者さんのためですね。

基本情報

BRAIN and NERVE-神経研究の進歩

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1344-8129

印刷版ISSN 1881-6096

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