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文献詳細

雑誌文献

総合診療25巻1号

2015年01月発行

文献概要

特集 動悸・息切れ─ヤバい病気の見つけ方 そして見つからなかった時の対処法 【動悸・息切れ症状の標準的マネージメントとプラスワン】

動悸・息切れを治す漢方治療

著者: 小池宙1

所属機関: 1慶應義塾大学医学部漢方医学センター

ページ範囲:P.48 - P.50

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Case
患者:86歳,男性.
病歴:1年前に動悸を主訴に救急搬送され入院,精査を行うも器質的異常は認めなかったが,その後も頻回に動悸を訴えていた.1週間前から毎日動悸があり,救急車を呼んでほしいと家族に訴えるため受診した.
 既往歴は高血圧のみ.しかし最近の頻回な受診の結果,薬剤は降圧薬・脂質異常症薬・抗血小板薬・高尿酸血症薬・抗不安薬・過活動性膀胱治療薬・冠血管拡張薬・気管支拡張薬と,内服薬合計10種類,貼り薬2種類に増えていた.血液検査と心電図を行うも異常は認めず,漢方治療を行うことにした.脈はやや虚.舌は少し大きく,裂紋があり,舌下静脈が目立つ.歯痕はない.腹はとても力が弱いが腹部動悸は触れない.
 全体的に弱々しく気持ちが乱れている印象を受けたので,香蘇散で治療を開始した.高尿酸血症薬,冠血管拡張薬など不要と考えられる薬は中止した.しかし2カ月ほど経つも改善を認めなかった.香蘇散は無効と判断し,半夏厚朴湯に変更した.
 3カ月目,「おかげさまで元気でございます」と,とても穏やか.それまでは受診するたびに堰を切ったように長々と訴えがあったが,こちらから声を掛けなければ症状を話すことはなくなった.
 7カ月目,半夏厚朴湯を続けて焦燥感は消失したが,なんとなく根が弱い不安定な感じを受ける.もともとの症状ものぼせるような動悸であったことも考え,試しに桂枝加竜骨牡蛎湯に変更した.
 7カ月半目,「今までの薬の中で一番良かった!」.
 その後,桂枝加竜骨牡蛎湯を続行中.不安定さが落ち着いたら次の調整をしようと思いながら,治療を続けている.

参考文献

1)大塚敬節:症候による漢方治療の実際 第5版.南山堂,2000. <昭和の漢方復興を牽引した大塚敬節が,どのような症状にどのような漢方薬を使用するのかまとめたもの>
2)大塚敬節,他:漢方診療医典 第6版.南山堂,2001. <大塚敬節を中心に主な流派の昭和の中心人物が集まり,西洋病名と漢方薬を対応させたもの>
3)花輪寿彦:漢方診療のレッスン.金原出版,2003. <同様に西洋病名と漢方薬の関係をまとめたもの.半夏厚朴湯と香蘇散の使い分けの表など,非常に参考になる>
4)渡辺賢治:漢方薬使い分けの極意─マトリックスでわかる! 南江堂,2013. <症状に対応する漢方薬を,類似処方の関係性を図示しながら,ポケットサイズにまとめている.西洋医学的観点からの漢方の作用機序もコンパクトにまとまっていてわかりやすい>
5)小池宙:【日常診療能力を高めるための漢方活用術】 各主症状の漢方的診断を併用した分類と治療─動悸.治療 95(10) : 1767-1770, 2013. <本稿よりもやや漢方の視点での説明を加えながら,それぞれの方剤の副作用も含めて,動悸への漢方治療について記載している>

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:2188-806X

印刷版ISSN:2188-8051

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