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雑誌目次

雑誌文献

総合診療25巻11号

2015年11月発行

雑誌目次

特集 レアだけど重要な「痛み」の原因─システム1診断学

今月のQuestion & Keyword Index

ページ範囲:P.997 - P.997

より早く,より的確に内容をとらえるために,QuestionとKeywordによるIndexをご利用ください.
それぞれ各論文の要点を示す質問とキーワードで構成されています.
Question
Q1 痛みの原因を迅速に診断するコツは? 998
Q2 痛みにはどのようなものがあるか? 1002
Q3 激しい頭痛を訴える患者や,「機能性頭痛」と言ってよいような患者に対しては,致死的疾患を除外するだけでよいか? 1008
Q4 細菌感染による「killer sore throat:致死的な咽頭痛」として,どんな疾患が挙げられるか? 1016
Q5 Boerhaave症候群の特徴は? 1019
Q6 Boerhaave症候群と縦隔気腫の鑑別が難しい時はどうすればよいか? 1019
Q7 SAPHO症候群の特徴は? 1019
Q8 突然発症の腹痛で意識すべきことは? 1024
Q9 慢性背部痛・頸部痛で留意することは? 1027
Q10 患者さんの訴えを「筋肉痛」と認識するためには? 1031
Q11 筋肉痛と医学用語変換後,確認必須事項は? 1031
Q12 頸動脈海綿静脈洞瘻の分類と治療適応について教えてください. 1038
Q13 強膜炎のタイプは? 1038
Q14 再発性多発軟骨炎の症状は? 1038
Q15 性器クラミジアの症状は? 1038

ONE MORE GM

ページ範囲:P.1045 - P.1047

Q1 重要な関連痛の例は?

【「痛み」の診断推論ベーシックス】

「痛み」のシステム1診断のパワーとピットフォール

著者: 笹木晋

ページ範囲:P.998 - P.1001

 救急外来であれ,内科初診外来であれ,患者さんは「痛み」を主訴にやってくる場合が多い.痛みの部位は頭のてっぺんからつま先までさまざまであり,原因となる臓器も骨や筋肉,心臓や腸など,あらゆる部位が対象となる.また「頭が痛い」とやってきても「心筋梗塞」であったり,「足が痛い」とやってきても「腹部大動脈瘤」であったりと,必ずしも患者さんが「痛い」と訴える部位と,痛みの原因となる臓器が,同じ場所にあるとは限らない.
 このように困難を伴うことの多い“痛みの診断”であるが,問診や身体所見など,臨床のわずかな手掛がりをもとに素早く的確な診断を探り当てるのは,内科医としての腕の見せどころである.
 「痛み」を攻略するにあたって,まず問診で原因を絞り込んでいくが,OPQRST(表1)に沿って聴取すると,漏れがなく「痛み」について聞くことができる.特に発症が突然であった場合,「破れる・詰まる・捻じれる・裂ける」疾患に絞ることができる(表2).また,身体所見では視診や丁寧な触診によって,迅速に部位を特定できることがある.
 本稿では,身体所見を中心に素早く診断ができる疾患と迅速診断のピットフォールについて,Caseを交えながら述べていく.

「痛み」のシステム2診断のパワーとピットフォール

著者: 岡田優基

ページ範囲:P.1002 - P.1007

概略
 まずは「痛み」の機序について,図1と共に「皮膚の痛み」の経路の流れを復習されたい.
 パチニ小体やマイスナー小体のような特殊構造を形成する神経終末とは異なり,神経線維(G2)が剝き出しの状態であるのが自由神経終末である.侵害刺激(機械的刺激・熱刺激・冷刺激・化学刺激,等)が脊髄神経節の神経細胞(1次ニューロン)の末梢の自由神経終末の侵害受容器で感知される.1次ニューロンの線維は後根を経て脊髄に入り,後角で2次ニューロンに交代する.2次ニューロンの線維は交叉後,対側の前索や側索を通り視床に入り,視床核で3次ニューロンと交代し,それより上位の大脳皮質の体性感覚野等の痛み中枢へと伝えられる.これが痛覚の主な経路として考えられてきた脊髄視床路で,他に脳幹で3次ニューロンと交代し,網様体に伝わる脊髄網様体路も存在する.
 と,ここまでは敢えて簡素に記したが,実際の「痛み」の機序は,複数の経路・機序が互いに絡み合った非常に複雑なものであり,未だ完全に解明されているとは言い難いのもまた事実である(例えば,厳密には感覚に関わる4つの上行路とも痛覚への関与が判明したり,近年さらに新たな経路も発見されたりしている).

【部位別システム1診断アプローチ】

頭痛でレア疾患のシステム1診断

著者: 鎌田一宏

ページ範囲:P.1008 - P.1015

Case 1
SLE,ループス腎炎の症状再燃時に可逆性後部白質脳症症候群(RPLS)をきたした1例1)
患者:20歳,女性.
背景:SLE(全身性エリテマトーデス),ループス腎炎に対し,ステロイドと免疫抑制剤を使用している.
現病歴:頭痛,多関節痛を主訴に救急外来を受診した.両側頬部に顔面紅潮を認め,救急医はSLEの再燃を疑い,採血を施行すると,急性腎障害,炎症反応高値を認めた.救急外来でステロイドを静注し,加療目的に入院とした.入院3日後には腎機能は改善したが,4.5kgの体重増加,血圧上昇を認め,入院4日目には一過性の痙攣,皮質盲(G1)を認めた.MRIでは,FLAIRで後頭部に両側性の高信号域を認めた.経静脈的に降圧を行い,48時間後には症状の改善を認めた.

咽頭痛でレア疾患のシステム1診断

著者: 鈴木智晴

ページ範囲:P.1016 - P.1018

 咽頭痛は日常診療でよく出会う症候である.
 本稿では,見逃すと致死的になる咽頭痛のレア疾患,また治療可能な咽頭痛のレア疾患を中心に,疾患の紹介と,そのシステム1診断のポイントについて解説を行う.

胸痛でレア疾患のシステム1診断

著者: 北和也

ページ範囲:P.1019 - P.1023

Case 1
患者:45歳,男性.高血圧症以外に特に基礎疾患はない.
現病歴:宴会で泥酔し嘔吐した.嘔吐と同時に胸部から心窩部にかけての強い痛みを自覚した.疼痛が治まらないため救急搬送となった.
来院時バイタルサイン:血圧142/85mmHg,心拍数98回/分,呼吸数28回/分,SpO2 98%(室内気),体温36.2℃,意識清明.左呼吸音は減弱している.心雑音は聴取しない.皮下気腫は触れない.腹部は平坦・軟で圧痛は認めない.
心電図:特記すべき変化はない.
胸部X線:左肺野の透過性が低下している(図1).
▶What's your diagnosis?→→→→→→→→→→→→Boerhaave症候群

腹痛でレア疾患のシステム1診断

著者: 高田史門

ページ範囲:P.1024 - P.1026

Case
突然発症の上腹部痛で「非閉塞性腸管虚血(NOMI)」をきたした症例
患者:97歳,女性.
主訴:上腹部痛,嘔吐.
現病歴:高齢ながら,畑仕事などもこなしていたADL自立の女性.既往歴は高血圧程度で,腹部手術歴はなかった.
 来院当日,夕食摂取した約1時間後に突然発症の上腹部痛があり,同時に少量の食物残渣様の嘔吐を認めた.腹痛は突然生じ,心窩部に限局的で移動性はなく,間欠的であった.
検査結果・経過:来院時バイタルサイン上特記事項はなく,重篤感は見られなかった.上腹部に圧痛を認めていたが,腹膜刺激徴候はなかった.血液検査ではWBC 8,980/μl,CRP 0.01mg/dlと炎症反応正常値内であり,肝胆道系酵素の上昇などの異常所見は認めなかった.原因として胃腸炎を疑われたが,疼痛が持続痛に変化し,増悪してきたため,腹部単純CTを撮像.肝内に門脈気腫の所見あり,上腸間膜静脈内にair(図1)が見られた.腸管壊死の可能性を考慮して腹部造影CTを撮像,単純CTと同様に上腸間膜静脈内にairが見られたが,上腸間膜動脈や腹腔動脈に造影欠損は認めなかった.全身状態は良好なことから,いったん保存的に経過観察入院となったが,入院翌朝,発熱や腹膜刺激徴候の出現,代謝性アシドーシスの悪化を認めたため,緊急手術となった.
術中所見:淡血性の腹水貯留と,回腸に腸管壊死を認め,約1m 30cmの腸管切除を行った.
 術後経過は良好であり,術後19日目に退院となった.

背部痛・頸部痛でレア疾患のシステム1診断

著者: 中西研輔 ,   金城光代

ページ範囲:P.1027 - P.1030

Case
慢性腰痛で発症した脊椎関節炎
患者:30歳,男性.
現病歴:2年前から腰痛があり,整形外科に通院していた.3カ月前から手・膝・足関節の疼痛が出現し,関節リウマチを疑われ紹介となった.来院時じっと座っていることができず,立位で足踏みをしながら診察を待っていた.腰痛と踵の痛みは安静時や夜間増悪し,動いているとやや軽快する.
 身体診察では,PIP関節(proximal interpharangeal joint:近位指節間関節)および両足関節腫脹と両踵と左仙腸関節の圧痛を認めた.血液検査では炎症反応の上昇はなく,骨盤X線で明らかな異常を認めなかったが,MRIで左仙腸関節に炎症所見を認め,脊椎関節炎(spondyloarthritis : SpA)と診断した.NSAIDs・サラゾスルファピリジン内服にて末梢の関節炎は軽快した.腰痛が持続したため,抗TNF製剤を導入し軽快した.

筋肉痛でレア疾患のシステム1診断

著者: 中村孝人

ページ範囲:P.1031 - P.1037

Case 1
肩関節周囲炎として外用剤で加療を受けていた「リウマチ性多発性筋痛症」の1例
患者:70歳,女性.
現病歴:来院2日前,朝,寝返りがうてないことで目覚めた.痛みは首筋から肩にかけて強く,体動によって悪化する.1時間程度してやっと動けるようになってきた.近医を受診し,「肩関節周囲炎」として処方を受けたが改善せず,当院受診.身体所見では髄膜刺激症状は認めず.側頭動脈の左右差は認めず.両上肢挙上は両肩疼痛のため不可能であった.また臥位から立位へ体位変換時に,体幹部の疼痛が強い.血液検査では赤沈1時間値98mmと上昇を認めた.赤沈値の顕著な上昇を認めた高齢の女性が,体幹を中心とする筋骨格系の突発性の激しい疼痛を呈したことから,「リウマチ性多発性筋痛症(PMR)」を疑った.敗血症の除外のため血液培養2セットを施行し,PSL 10mg内服治療を開始した.翌日には体幹を中心とした朝のこわばり・疼痛は激減した.

眼・耳・肛門・会陰部痛でレア疾患のシステム1診断

著者: 白石吉彦

ページ範囲:P.1038 - P.1044

Case 1
交通事故後に「頸動脈海綿静脈洞瘻(CCF)」をきたした1例
患者:82歳,女性. 家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:交通外傷.頭蓋底骨折を認め保存的に入院加療中,入院後30日目に眼痛あり.眼球突出を認めると共に「眼の奥でシューシュー音がする」という訴えがあり.造影CTにて,動脈相にて海綿静脈洞の造影効果が認められた.血管造影にてCCFを認め,バルーンによる瘻孔塞栓術が施行された.

Editorial

レア疾患のシステム1診断

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.989 - P.989

 臨床推論の最新知見は,2重プロセス理論(dual processing theory)を支持している.この理論は,医師は「システム1(直観的推論)」と「システム2(分析的推論)」を文脈に応じて使い分けているとする.それぞれの長所としては,直観的推論は迅速で省力的で,分析的推論は網羅的でバイアスに陥りにくい.一方で,それぞれの短所としては,直観的推論はバイアスによるエラーに陥るリスクが高く,分析的推論は時間が余計にかかり認知的負荷も大きい.
 診療場面別でみると,救急診療などの場面では迅速な判断が必要とされるので,直観的推論の正確度を上達させる必要がある.エキスパートによる迅速な判断の実際を研究しているGary Kleinによると1),熟練者はまず直観的推論を行い,その仮説(診断)に基づく脳内シミュレーションによる迅速な検証で「この患者に適合する」ことがわかれば,その仮説を選択しているという.

What's your diagnosis?[155]

罪を憎んで○を憎まず

著者: 島惇 ,   井上聡 ,   上田佳孝 ,   西口潤 ,   米本仁史 ,   上田剛士

ページ範囲:P.993 - P.996

症例
患者:23歳,女性.
主訴:左上肢腫脹.
現病歴:生来健康な女性.3日前の朝に服を着ようとした際に左上肢の袖のとおりづらさを感じた.2日前の朝,左上肢が“曲げづらい”と感じて鏡を見ると,左上肢が太くなっていた.様子を見ていたが改善しないため,当院救急外来を受診.仕事はデスクワークで,スポーツ,ヨガなどの運動習慣はない.外傷歴なし.
既往歴:なし.妊娠・出産・流産歴なし.飲酒;機会飲酒.喫煙歴;なし.
内服薬:サプリメントやピルを含め内服薬なし.
家族歴:血栓症なし.

Dr.徳田と学ぶ 病歴と診察によるエビデンス内科診断・15

手のしびれ─手根管症候群か?

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.1048 - P.1052

徳田:みなさん,こんにちは.この連載では「臨床疫学」を用いた診断ロジックを学びます.症例に基づきながら,レジデントのみなさんとの対話形式で進めていきます.
 今回のケースは,「手のしびれ」感を主訴とする患者さんです.手のしびれの原因疾患には,さまざまな鑑別があります.「脳血管障害」などの頭蓋内疾患,「頸椎症性神経根炎」「手根管症候群」などがありますね.
 では,今回の症例をみてみましょう.

Dr.加藤の これで解決!眼科Q&A相談室・2

飛蚊症の患者さんに対してどう説明する?

著者: 加藤浩晃

ページ範囲:P.1054 - P.1055

今月のQuestion
60代くらいの女性で,「数日前から目の前に黒いものが飛ぶようになった」という主訴の方がいました.「飛蚊症」かと思い,「ひどくなったら眼科にかかってくださいね」と伝えたのですが,この答え方で適切ですか?「飛蚊症」は必ずすぐ眼科にかかってもらったほうがよいのかどうかがわかりません.

Dr.山中のダイナマイト・レクチャー・13

問題18

著者: 山中克郎 ,   寺西智史

ページ範囲:P.1056 - P.1058

問題18 「肺炎」が疑われる次の患者に,抗菌薬による治療を開始するタイミングは?
52歳,女性.3日前から咳嗽,喀痰あり.昨日から息苦しさ,発熱,悪寒戦慄が出現し,食欲もなくなったので受診.意識清明,体温37.8℃,心拍数82回/分,血圧132/76mmHg,SpO2 92%(室内気),呼吸数16回/分.胸部単純X線で左下葉に浸潤影あり,抗菌薬での治療を決定した.さて,いつ投与するか?
❶受診から1時間以内.
❷各種培養の検体を採取してすぐ.
❸受診から2時間以内.
❹受診から4時間以内.

みるトレ

Case 94

著者: 忽那賢志

ページ範囲:P.1059 - P.1060

Case 94
患者:60代,男性.
主訴:発熱,顔面の腫脹.
生活歴:生活保護受給中であり,グループホームで生活している.アルコール性肝障害を基礎疾患にもつ.
現病歴:来院1週間ほど前に右耳介に水疱ができて,掻きむしって破れていたが放置していた.2日前から右顔面が腫れてきたのを自覚していた.1日前から悪寒戦慄を伴う発熱を認めるようになり,顔の左側も腫れてきた.来院当日となり,両眼が開かないほど顔が腫れてきたため救急車を要請し,当院に搬送された.
既往歴:アルコール性肝障害.アレルギーなし.
身体所見:血圧152/101mmHg,脈拍数122回/分,体温39.4℃,呼吸数19回/分.
顔面は両眼瞼を中心に前額部〜頰部〜鼻唇溝まで発赤・腫脹しており,熱感と圧痛を伴う(図1).周囲のリンパ節腫脹なし.

憧れのジェネラリストが語る「努力はこうして実を結ぶ!」・11

「いばらの道」を「バラ色の道」へ

著者: 上田剛士

ページ範囲:P.1061 - P.1061

医学の道は「いばらの道」か?
 私が憧れたジェネラリストの話です.まだ研修医だった私は,自分の理解を超える患者さんが来院すると,「よくわからないし,嫌だなぁ」と思ったものでした.診断はおろか,検査もどうすれば良いのかも全くわからないため,その先生に相談すると,「面白い病歴ですね」と言われ,立て続けに追加で確認すべき病歴や身体所見についてアドバイスされました.
 その臨床能力の高さよりも,「よくわからない=面白い」と言われたことに驚きました.当時の救急外来は,研修医だけで回していると言っても過言ではない病院も多数あり,“泣きそうになりながら必死に患者を診る”,というのが主流だったかもしれません.そのような状況で,好きで歩み始めた医学の道を,「いばらの道」といつの間にか勘違いしていた自分に気づきました.

血液内科学が得意科目になるシリーズ・20

もともと血が凝りやすい人なんて,稀ですよね?

著者: 萩原將太郎

ページ範囲:P.1062 - P.1065

 日本人に血栓症は少ないのでしょうか? たしかに,白人に比較すると,深部静脈血栓症の頻度は低いことが知られています.しかし,鑑別診断から勝手に除外してはいけません.今回は,見逃してはならない「先天性凝固異常」について考えてみましょう.

臨床の勘と画像診断力を鍛える コレクション呼吸器疾患[44]

シュノーケリング後に呼吸困難と血痰を呈した1症例

著者: 藤田次郎 ,   宮城征四郎

ページ範囲:P.1066 - P.1074

本連載では,沖縄県臨床呼吸器同好会の症例検討会をもとに,実況中継形式で読者のみなさんに呼吸器内科疾患を診る際のポイントとアプローチ方法を伝授したいと思います.宮城征四郎先生の豊富な臨床経験に基づいたコメントに注目しながら読み進めてください.画像診断のポイントと文献学的考察も押さえています.それでは早速始めましょう.今月のテーマは,シュノーケリング後に呼吸困難と血痰を呈した63歳男性に対するアプローチです.

シネマ解題 映画は楽しい考える糧[101]

「愛を読むひと」

著者: 浅井篤

ページ範囲:P.1075 - P.1075

観る者の鑑賞時の問題意識で姿を変える傑作
 この映画をどう紹介したらよいでしょうか.15歳の少年マイケルと30代女性ハンナのロマンス.二人の関係はハンナが68歳で亡くなるまで続きます.情熱と葛藤に満ち,大部分の時期は塀によって隔てられた関係でした.「ナチスの戦争犯罪を後の世代のドイツ人が裁く物語」とも言えるでしょう.ハンナはかつて女性収容所の看守のひとりをしていました.終戦間近,彼らは囚人らと共に敗走し,囚人たちが休んでいた教会が爆撃を受け炎上しました.ハンナたちは教会の扉の鍵を開けず,数百人の女性が焼死しました.
 また「自分の能力欠如を隠して必死に生きる女性の人生の物語」と表現することもできるかもしれません.ハンナは魅力的で誇り高い独立した女性でした.自分のある問題を隠すために,裁判の証言で,自分に不利になる嘘をついてしまいます.生育環境と教育の在り方のインパクトの大きさを考えさせてくれました.最後に,もちろんここで言及した観点だけではありませんが,過去の犯罪が明らかになり,重罪人となったハンナに対するマイケルの複雑な思いと,彼なりの愛情表現の物語かもしれません.犯罪者への理解,改悛,そして贖罪の物語と見ることもできるでしょう.観る者の観賞時の問題意識で姿を変え,観る度に理解が深まりますが,できればそのまま丸ごと受け入れたい傑作です.

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掲示板 「ERアップデートin東京ベイ2016」開催 参加者募集!

ページ範囲:P.1058 - P.1058

バックナンバー

ページ範囲:P.1076 - P.1076

次号予告

ページ範囲:P.1078 - P.1078

基本情報

総合診療

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2188-806X

印刷版ISSN 2188-8051

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33巻12号(2023年12月発行)

特集 海の外へ渡る航行者を診る—アウトバウンドにまつわるetc.

33巻11号(2023年11月発行)

特集 —続・総合診療外来に“実装”したい—最新エビデンスMy Best 3

33巻10号(2023年10月発行)

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33巻9号(2023年9月発行)

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33巻8号(2023年8月発行)

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27巻10号(2017年10月発行)

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特集 病歴と診察で診断できない発熱!—その謎の賢い解き方を伝授します。

27巻3号(2017年3月発行)

特集 これがホントに必要な薬40—総合診療医の外来自家薬籠

27巻2号(2017年2月発行)

特集 The総合診療ベーシックス—白熱!「総合診療フェスin OKINAWA」ライブ・レクチャー! 一挙公開 フィジカル動画付!

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特集 総合診療の“夜明け”—キーマンが語り尽くした「来し方、行く末」

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