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雑誌目次

雑誌文献

総合診療25巻2号

2015年02月発行

雑誌目次

特集 総合医のためのスポーツ医学ベーシックス

今月のQuestion & Keyword Index

ページ範囲:P.105 - P.105

より早く,より的確に内容をとらえるために,QuestionとKeywordによるIndexをご利用ください.それぞれ各論文の要点を示す質問とキーワードで構成されています.
Question
Q1 プライマリ・ケアに必要なスポーツ医学とは? 106
Q2 成長期のスポーツ傷害を診察する際に留意することは? 110
Q3 長期的問題を残す肘スポーツ傷害は? 114
Q4 外傷性に膝関節液貯留が認められた場合には? 118
Q5 骨端線閉鎖前に生じた関節周囲外傷の単純X線所見で注意すべきことは? 118
Q6 10代の運動選手の背屈時の腰痛に対する検査は? 124
Q7 肉離れを訴えた選手を診察する際のポイントは? 128
Q8 スポーツ選手は,サプリメントを摂取しなければならないでしょうか? 132
Q9 運動参加前のメディカルチェックのポイントは? 136
Q10 スポーツ復帰に向けて注意する点は? 139
Q11 脳振盪の症状,診断,スポーツ復帰は? 142
Q12 女性アスリートの三主徴とは何か,またそれを予防するのに大事なことは何か? 145
Q13 小児のスポーツ指導,スポーツ障害で留意することは? 148

ONE MORE GM

ページ範囲:P.158 - P.159

Q1 けがからスポーツ復帰させるポイントを教えてください.
A1 下肢のスポーツ傷害の場合を例にとると,まず歩行などで痛みがあり,荷重できない場合は,OKC(Open Kinetic Chain:オープンキネティックチェーン,開放運動連鎖)という非荷重系のリハビリテーションを行う.下肢挙上などを組み合わせたマット運動や上肢のトレーニング,坐位でできる筋力トレーニングなどである.軽快すればエアロバイクなどを開始する.日常の歩行や動作が痛みなく行える状況まで回復すればCKC(Closed Kinetic Chain:クローズドキネティックチェーン,閉鎖運動連鎖)という荷重系のリハビリテーションを開始する.ステップ,ランジ,片脚立位,バランストレーニングなどである.これはジョギング開始の前段階として重要な要素であり,ラダーなどのコーディネーショントレーニングも混ぜて行い,神経系の回復を図る.ジョギング開始の目安は,階段の下りを痛みなくリズミカルに降りられることである.ジョギングが可能となれば,筋力トレーニングは継続しながら,ランニングの距離とスピードを上げていくことである.ダッシュが可能となればジャンプやアジリティドリルを開始し,専門のスポーツ競技動作へと近づけていく.

【総論】

プライマリ・ケアの現場で必要なスポーツ医学とは

著者: 小林裕幸

ページ範囲:P.106 - P.109

Case
通院中の中年男性,運動許可は?
患者:43歳男性.
現病歴:高血圧,脂質異常症,肥満あり,内服治療中.
相談内容:同僚の友達にフットサルに誘われた.学生時代,サッカー部で,やせていて持久力はあったが,仕事をしてから運動せずBMI 30.診療所に定期受診で相談された.
対処法:まずは,心血管系のリスクを評価,運動前のメディカルチェックを行う.Paffenbargerのハーバード大学同窓生の研究2)によると,学生時代に激しい運動を行っていた人が長期間にわたりやめてしまうと,運動をずっとしていなかった対照に比べ,心血管系のリスクが高いという疫学的報告がある.原因は明らかではないが,学生時代の食事を含めた生活習慣が,運動を中止した後も続いた可能性がある.高強度の身体活動ができること自体は,独立した心血管系リスクの低下となるが,本症例では心血管系リスクが高く,運動負荷心電図などの運動前のスクリーニングが望ましい.

プライマリ・ケアで見逃しやすいスポーツ傷害,専門家への紹介のタイミング

著者: 平野篤

ページ範囲:P.110 - P.112

Case
患者:10代男性.
スポーツ歴:少年団に入ってサッカーを週2回行っている.
現病歴:1カ月前から右膝痛があり,親が,足を引きずってサッカーをしているので気になり,近医整形外科を受診した.そこで右膝のX線撮影を行ったが,特に異常なく成長痛だと診断された.その後,痛みは増悪しないため経過をみていたが,昨日,サッカーの試合後に痛みが増悪し,歩行困難となり救急外来を受診した.
身体所見:右膝近位外側に腫脹圧痛があり,膝関節屈曲が困難.
X線所見:右大腿骨遠位に病的骨折を認め,同部位外側に骨膜反応を認める.
診断:右大腿骨遠位骨幹端に発生した骨肉腫,肺転移を認めた.

【プライマリ・ケアで遭遇するcommonなスポーツ傷害】

上肢

著者: 馬見塚尚孝

ページ範囲:P.114 - P.117

Case
患者:15歳男性,高校1年生.硬式野球部投手.
現症と検査所見:肘痛のため塁間以上の投球が困難になり来院.肘痛初発は小学校5年生の時で,近医で上腕骨内側上顆に骨折があるといわれた.2週間の休息で肘痛は消失したため,自己判断で通院を中止した.その後も肘痛が時々あったが,自分が休むとチームが負けるため休むことができなかった.当院初診時,圧痛は肘内側側副靱帯部にあり,外反ストレステスト,moving valgus stress testが陽性であった.単純X線写真では上腕骨内側上顆下部に遊離骨片を認めた.MRIでは図1のように靱帯の肥厚や靱帯付着部の骨片を認めた.図2のように長掌筋腱をドナーとする再建が必要となる例があるため,ジュニア期の障害予防対策が重要である.

下肢

著者: 万本健生

ページ範囲:P.118 - P.122

骨盤・股関節周囲のスポーツ外傷
Case 1
体育のリレー中に生じた左股関節痛
患者:15歳男性.
現症歴:体育の授業中に,リレーで全速力で走った時に左股関節痛が出現,近医を受診し単純X線上骨折はなく,肉離れと診断されたが,痛みが改善しないため受診.左上前腸骨棘に圧痛を認め,股関節伸展で同部の痛みが増強した.単純X線で骨盤正面および斜位像を撮影し,左上前腸骨棘の裂離骨折と診断した.
留意点:骨端線閉鎖前の成長期にはスポーツ外傷として裂離骨折が発生する頻度は高く,特に骨片が小さな場合には見逃されることが多いので注意が必要である.

脊椎

著者: 辰村正紀 ,   金岡恒治

ページ範囲:P.124 - P.127

腰椎分離症(腰椎椎弓峡部疲労骨折)
Case 1
患者:14歳男性.競技種目:飛込.競技歴:3年.
主訴:右腰痛.
現病歴:2週間前からの腰痛が持続するため来院.単純X線写真では骨折線は認めないが,MRIにて第5腰椎の右関節突起間部に高輝度変化を認め(図1a, b),腰椎分離症と診断した.CTでは右椎弓基部の尾側〜頭側にかけて骨折線を認めた(図1c).病期分類は初期と判断し,硬性コルセット着用を中心とした保存療法を行い,骨癒合を得た.

筋肉痛・肉離れ

著者: 奥脇透

ページ範囲:P.128 - P.131

Case
サッカーの試合中に肉離れを起こした1例
患者:22歳男性,サッカー選手.
現病歴:試合中,ボールをドリブルしながら切り返した際に,左大腿後面に“ブチッ”とした強い痛みを感じ,プレー継続困難で退場した.翌日受診した際には,左坐骨部よりやや遠位部を中心に自発痛があり,圧痛が強く,ストレッチ不能であった.当日撮像したMRIにて左の大腿二頭筋長頭の近位部に,典型的なⅡ型の腱膜損傷を認めた(図1).その後,段階的なリハビリテーションを経て,2週後から軽度のストレッチが可能となり,4週でランニングメニューを再開し,6週後には試合復帰をはたした.

【総合医が知っておきたいスポーツ医学の知識】

スポーツ栄養・サプリメント

著者: 塚本咲翔 ,   齋藤あき ,   飯田薫子

ページ範囲:P.132 - P.135

 国際オリンピック委員会(International Olympic Committee : IOC)のステートメント(IOC Consensus Statement on Sports Nutrition 2010)でも,「食事がスポーツ選手のパフォーマンスにもたらす影響は大きい」と冒頭に述べられており,いまやスポーツに栄養は必須である.その目的は,体格の維持・調整,コンディショニングの維持にあり,だからといって,特別難しい食事が必要ということではない.どのような競技,レベルのスポーツだとしても,エネルギーの充足と栄養素の過不足がないよう,さまざまな食品を組み合わせて摂ることが基本であり,大原則となる.

運動開始前のメディカルチェック

著者: 池尻好聰

ページ範囲:P.136 - P.138

若年者のメディカルチェック
Case 1
 高校2年生,16歳の女子陸上選手が国体参加前のメディカルチェック目的で来院した.

アスレティックリハビリテーション

著者: 芋生祥之

ページ範囲:P.139 - P.141

 傷害のある競技者やスポーツ愛好家に対し,元のスポーツ復帰を目指したアスレティックリハビリテーション(以下,アスリハ)を行う場合,一般社会への復帰とは異なり,スポーツに関連した幅広い内容の介入が必要となる.今回は当科で実施している足関節捻挫に対するアスリハを例に紹介する.

スポーツと脳震盪

著者: 小林裕幸

ページ範囲:P.142 - P.144

 近年,スポーツ医学の発達とともに脳震盪の重要性が指摘されるようになった.過去には,スポーツの試合で「魔法の水」といって,やかんに入れた水を脳震盪で倒れている選手の頭にかけ,意識を取り戻させて競技に復帰させる光景があった.しかし,second impact syndromeをはじめ,短期間に繰り返す頭部打撲により,不可逆的な神経機能障害を起こすことが明らかになってきた.すなわち,受傷により神経・グリア細胞が修復しないうちにもう一度受傷すると,細胞死に陥ることが報告されている.現在,日本ラグビーフットボール協会では,脳震盪の診断や疑いがあった場合には,医師の非管理下では原則3週間は競技に復帰できない厳格な規則を設けている1)

女性とスポーツ

著者: 土肥美智子

ページ範囲:P.145 - P.147

性差
 スポーツによる身体への影響,障害,外傷や疾患は,女性と男性では異なる.それは当然,男女では身体的・生理学的な差があるからである.
 男女の生理学的な差のなかで,体脂肪率が女性で優位であるのは,女性ホルモンが皮下脂肪の蓄積に働くためで,この体脂肪率の差は乳房,臀部,大腿部につく必須脂肪による.これが第二次性徴の証であり,かつ女性らしさを形づくる.この脂肪は男性では体重の約3%,女性は約9〜12%といわれており,女性アスリートは一般女性よりは低い傾向にある.この時期(つまり思春期)になると性差が顕著になるが,それまでのパフォーマンスはほぼ男女同じである.その他,有・無酸素能力,スピード,一回心拍出量など,スポーツに関わる生理学的項目は男性が優位である.

小児とスポーツ

著者: 松田諭

ページ範囲:P.148 - P.151

Case
運動によりOsgood-Schlatter(オスグッド・シュラッター)病を起こした一例
患者:13歳男児.
現病歴:中学に入学後,サッカー部に入部.入部後は人一倍ランニングを行い,自主練習を行っていたが,2カ月ほど前から運動時に限定し右膝が痛くなってきたとのことで外来受診.受診時,脛骨粗面に限局する圧痛と膨隆を認め,単純X線写真にて骨化核の分離がみられたためOsgood-Schlatter病と診断.まだ中学1年生ということもあり,大会は近かったが,相談のうえスポーツ活動の制限と局所の冷却を行ったところ3週間経過した頃から痛みは改善.その後,ストレッチ指導を行いながら徐々に活動範囲を拡大した.

【トピックス】

メンタルトレーニングとアスリートの睡眠

著者: 金井貴夫

ページ範囲:P.153 - P.155

 日本のスポーツ界では,本番で実力を十分に発揮できない選手は,「メンタルが弱い」というレッテルを張られ,また,日々の練習のモチベーションが上がらない選手は,「やる気がない」,「根性がない」などと選手の責任に帰され,それぞれ低い評価を受ける傾向にある.これら“メンタルの弱点”にこそ大きな“伸びしろ”があるはずであるが,「それも実力のうち」と切り捨てられているのが実情である.
 一方,アスリートにとって睡眠は重要であり,睡眠の質と量の充実が,パフォーマンスのみならず,やる気,集中力,状況判断能力をも向上させ,緊張や疲労の低減に寄与することが明らかになっている.
 本稿では,アスリートに対するメンタルや睡眠への介入の基本的な部分について述べる.これらの介入手法は,スポーツのみならず,ビジネス,試験・受験,演奏やプレゼンテーションなど自分の実力を発現する場面や,その準備段階に幅広く応用可能であり,患者教育にも有用となろう.

ドーピングとトップアスリートへの対応

著者: 河野衛

ページ範囲:P.156 - P.157

 競技スポーツにおけるアンチ・ドーピング活動を受けて,1999年に世界アンチ・ドーピング機構(WADA),日本でも2001年に日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が設立され,オリンピックやサッカーW杯などの国際レベルの競技大会だけではなく,国民体育大会(国体)でも2003年の静岡国体よりドーピング検査を実施しています.ドーピング検査対象は,もはやトップアスリートのみならず,一般の競技者レベルにまで広がりつつあります.
 日本におけるドーピング違反例は,選手自身がドーピング対象者であることを医療者側に説明しなかったために起こった“うっかりドーピング”がほとんどです.違反であることに変わりはないため,違反が判明すれば出場停止,記録の剝奪などの厳しい処分が行われます.今回は2例のケースレポートを参考にしつつ,“うっかりドーピング”を防ぐために,われわれドクターが気をつけるべき点を説明します.

Editorial

総合医のためのスポーツ医学

著者: 小林裕幸

ページ範囲:P.97 - P.97

 国際的な医学誌The Lancetの2012年7月号1)では,身体活動の特集号が組まれ,身体活動不足が原因での死亡が,全体の9.4%と報告された.その影響の大きさは喫煙や肥満などのリスクに匹敵すると発表され,身体活動の低下が世界中に大流行していると警笛をならしている.日本でも,食事の欧米化に加え,車などの交通手段,産業構造の変化,スマホ・ゲーム機器などの普及により,日常での身体活動は小児から大人まで低下の影響を認めている.
 そんななか,2020年東京オリンピック開催のニュースは,地震や原発問題を抱える日本に,明るい希望をもたらしてくれた.団塊の世代がすべて75歳以上という2025年問題を後に控える超高齢化社会の日本は,これを機会に,身体活動を高め,ロコモを防いで健康寿命をのばす社会の動きを加速させる必要があると思われる.

What's your diagnosis?[146]

こりん星人にはしか大流行!?

著者: 長野広之 ,   東光久 ,   石丸裕康 ,   八田和大 ,   藤井弘子

ページ範囲:P.100 - P.104

病歴
患者:64歳,女性.
主訴:発作性の全身疼痛と皮疹.
現病歴:X-3日までは特に異常なし.X-2日20時頃に台所からダイニングに移動した際に,左前胸部から始まり両上肢,大腿に広がる痛みが出現し,20〜30分ほどで軽快した.20時半頃,応急診療所受診し,カロナールR,マーズレン処方にて帰宅.夜中2時半に尿意でトイレに行った際に再度全身の痛みと動悸が出現し,2時間ほど継続した.X-1日,6時頃起床した際に両上下肢,前胸部/下腹部に赤い発疹が出ていた.10時半当院総合内科受診.発疹なく,採血,胸部X線,心電図で異常なく帰宅となった.17時頃,再度全身の疼痛出現(発疹の確認不明).当院救急外来受診も,疼痛/発疹消失しており,帰宅となっている.X日,当院総合内科を再度受診した.9時半頃,診察中に全身の疼痛と動悸,皮疹が出現し,精査目的で即日入院となった.
痛みの性状:
O(onset):突然起こる.熱さに関係(暖かいダイニング,暖炉など).
P(place):全身.左前胸部は持続的.
Q(quality):針でチクチクと刺されるような感覚.
R(region/radiation):特になし.
S(severity):左前胸部は常にNRS(Numeric Rating Scale) 2程度.痛みが出た時は痛みで寝れない.NRS 10.
T(time course):2分〜数時間で良くなる.
Review of Systems:
(+)発作性の全身の痛み,皮疹.
(-)熱感,悪寒,戦慄,下痢,喉のかゆみ,体重減少,食思不振,寝汗,関節痛,朝のこわばり.
患者背景:ADL完全自立.夫と2人暮らし.幼稚園の園長を4年前までしていた.Never smoker,Never drinker.
既往歴:7年前に腸閉塞(手術なしで軽快),1年前に甲状腺腫を指摘.無治療.1年前に帯状疱疹.現在は改善.
服薬歴:ガスターDR,マグラックスR,ガスモチンR,セルベックスR

みるトレ

Case 83

著者: 岩崎靖

ページ範囲:P.161 - P.162

Case 83
患者:68歳,女性.
既往歴:特記すべき既往症や治療中の疾患はない.
現病歴:5日前より左耳介周囲から後頭部に痛みを伴うしびれ感を自覚し,昨日から左外耳孔付近に水疱が出現した(図1).今朝より左眼が閉じづらく,左口角から唾液や水がこぼれるため受診した.
神経学的所見:意識は清明で,構音障害はなかった.眼球運動に異常はないが,左は閉眼が困難で,左口角が下垂していた(図2).

Case 84

著者: 岩崎靖

ページ範囲:P.163 - P.164

Case 84
患者:52歳,男性.
既往歴:特記すべき既往症や治療中の疾患はない.
現病歴:10日前に下痢と微熱,感冒症状を自覚したが,数日で自然軽快していた.昨日の午後から両手のしびれ感,今朝から四肢の脱力感が出現したため神経内科を受診し入院となった.
神経学的所見:意識は清明であった.四肢の腱反射は消失していたが,病的反射は認めなかった.入院後,呼吸筋麻痺が出現したため挿管,人工呼吸器管理となった.四肢の筋力低下も急速に進行し,弛緩性四肢麻痺を呈した(図1).

Case 85

著者: 岩崎靖

ページ範囲:P.165 - P.167

Case 85
患者:66歳,女性.右手利き.
家族歴・既往歴:特記すべき家族歴,既往歴や治療中の疾患はない.
現病歴:2年ほど前からボタンの留めはずし,箸の使用,書字など右手の巧緻運動が困難となり,歩行時に右下肢が前に出にくくなってきた.1年ほど前から言葉も話しにくくなってきたため,神経内科を受診した.
神経学的所見:意識は清明,言語理解は良好であるが,質問に対しては,話しにくそうに詰まりながら返答した.筋力低下や感覚障害は認めなかったが,Vサインやじゃんけんのチョキの手指位,はさみの使用を指示しても,右手ではうまくできなかった.歩行時に右下肢のすくみがあり,小刻みな歩行を呈した.右上下肢に軽度の筋強剛を認めたが,腱反射は正常で,Babinski徴候はなかった.
一般内科所見,血液生化学検査では特記すべき異常は認められなかった.頭部MRI像(図1a, b),脳血流シンチグラフィ像(図2)を示す.

高齢者エマージェンシー-プライマリ・ケア医のためのスキルアップ大作戦・2

知っておきたい「高齢者エマージェンシー表技・裏技」その2

著者: 今明秀

ページ範囲:P.168 - P.171

 前回に続いて症例を呈示しながら,高齢者エマージェンシーにおいてプライマリ・ケア医が知っておきたいポイントについてお話ししていきます.

Dr.徳田と学ぶ 病歴と診察によるエビデンス内科診断・6

呼吸困難の診断 その3─肺塞栓?

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.172 - P.176

徳田:皆さん,こんにちは.この連載では臨床疫学的アプローチを用いた診断プロセスを学んでいきます.症例に基づきながら,レジデントの皆さんとの対話形式で進めていきます.前回に引き続き,今回も呼吸困難の患者の症例から,近年,頻度が増えている肺塞栓症(pulmonary embolism:PE) の診断について考えていきます.この疾患の重症型は,重篤度と緊急度の高い疾患ですね.
 では,症例の病歴と身体所見をもう一度みてみましょう.病歴と診察を中心に,呼吸困難が診断できるようになることが学習目標です.

憧れのジェネラリストが語る「努力はこうして実を結ぶ!」・2

System 1と気ままひとり食事のすすめ

著者: 志水太郎

ページ範囲:P.177 - P.177

 本連載は医師として活躍する上で持続的にどのようなことを努力・続けているかということを紹介する企画とのことでした.もともと何かを続ける習性の薄い自分が,そもそもこの企画を頂いてよかったのかと二晩悩みましたが,何か一つくらいはあるのではと頭を絞りました.
 医師の仕事は自分にとって天職なので,キャリアの袋小路や困難にあっても,自分の夢という旗を掲げ進み続ける,折られても立ち上がるという気持ちはブレませんでした.キャリア上で私が持続してきたことは,敢えて言えばそれくらいかもしれません.もう一つあるとすれば,何かを選択する時は常に直観を重視して行動してきた,ということかもしれません.

血液内科学が得意科目になるシリーズ・11

“しこり”が気になって……リンパ節腫脹

著者: 萩原將太郎

ページ範囲:P.178 - P.184

 これまで,血球の増減について学んできました.今回は,表在リンパ節の腫脹について,そのメカニズムと鑑別診断を考えたいと思います.
 リンパ節は,免疫をつかさどる重要な器官です.その腫脹は,感染症,腫瘍,その他炎症性疾患などさまざまな病気で起きるため,幅広い鑑別診断が必要であり,そのためには,詳細な病歴聴取と慎重な身体診察が重要です.
 では,症例を通して学んでいきましょう.

メンタルクリニック便り・32

いまどきの「うつ」の背景

著者: 市村公一

ページ範囲:P.185 - P.185

 この3回は広汎性発達障害(主にアスペルガー症候群)のために本人やそのパートナーが「うつ」になったケースをご紹介してきました.広汎性発達障害に関しては書籍も数多く出版され,一般にも知られるようになってきていますが,実際にどんな感じなのかは何人か診療してみないとピンとこないかもしれません.私自身は「ちょっと常識から外れたこだわりの強さ」を感じた際に疑います.たとえば連載第30回でご紹介した症例5の男性の「社内で不正があることがわかって退職した」という話.正義感が強いといえばそれまでかもしれませんが,「でも普通は,だからといって辞めることまではしないはず」と違和感をもつことが手がかりになります(この例では,本人から申告されるまで私は気づかなかったのですが).ほかに「マンションを売却したけれど,仲介した不動産屋のつくった書類に瑕疵がたくさんあるので,もし問題になったら訴えてやる」と話した男性も,それまでパーソナリティ障害なのか何なのかよくわからなかったのですが,この話から発達障害を疑ってAQ(自閉症スペクトラム指数)をとってみたところ,30点とカットオフ値には届かないものの,その可能性がある程度確かめられたというケースもありました.

Dr.山中のダイナマイト・レクチャー・4

問題6・問題7

著者: 山中克郎 ,   寺西智史

ページ範囲:P.186 - P.187

問題6 56歳女性.便潜血反応が陽性であった.さあ,どうする?
❶もう一度,便潜血反応をオーダーする.
❷痔の治療を行う.
❸大腸内視鏡検査を予約する.

シネマ解題 映画は楽しい考える糧[92]

「崖の上のポニョ」

著者: 浅井篤

ページ範囲:P.188 - P.188

生命倫理の問題がいっぱい?!
 みなさんご存知,世界の宮崎駿の大ヒットアニメです.宣伝では幼い少女が歌う「ポニョ」がいつも流れていました.私はてっきり小さな子ども向け,または家族向けの5歳の男の子と魚の女の子の単純な恋の物語と思い込み,公開当時は劇場に足を運びませんでした.しかしある時,恩師の哲学者から「生命倫理の問題がいっぱい」と勧められDVDを購入,観賞した次第です.理屈抜きで非常に面白く,美しい作品でした.小難しい問題はさておき,何度でも見たくなる圧倒的な映像と楽しい物語ですね.なんといってもポニョが可愛い.特に走り方と居眠りの様.
 ある日,父親のフジモト(元人間)に連れられて海の農場見学に来た時,魚の子であるポニョは自分の家を逃げ出します.そして海辺の崖の上に住む5歳の少年,宋介と出会いました.二人──まだこの時点ではポニョは小さな魚なので一人と一匹でしょうか──は一瞬にして相思相愛になりますが,彼女はすぐに父親に引き戻されてしまいます.彼女の存在は人間には秘密でした.宋介に会いたい一心のポニョは妹たちの協力を得て,偶然にも強大な魔法の力を身に付け,巨大な津波と嵐に乗って,宋介の家を一心に目指すのでした.そして予想を遥かに上回る探検と愛と決断のストーリーが展開します.

誰も教えてくれなかった不定愁訴の診かた・16

精神科・心療内科との連携

著者: 太田大介

ページ範囲:P.189 - P.191

 今回は,来日後,さまざまな不定愁訴で頻回に一般内科を訪れるようになった,20代のインド人女性の例をご紹介します.

レジデントCase Conference

多様な疾患を繰り返している50代男性

著者: 杉山愛依 ,   永田恵蔵 ,   仲里信彦

ページ範囲:P.192 - P.195

◆多様な疾患を繰り返していても,その原因が一つであることがある.その解決にはしっかりとした既往歴を含めた病歴聴取が大切である.

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バックナンバー

ページ範囲:P.152 - P.152

次号予告

ページ範囲:P.196 - P.196

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総合診療

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2188-806X

印刷版ISSN 2188-8051

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特集 メンタルヘルス時代の総合診療外来—精神科医にぶっちゃけ相談してみました。

31巻7号(2021年7月発行)

特集 新時代の「在宅医療」—先進的プラクティスと最新テクノロジー

31巻6号(2021年6月発行)

特集 この診断で決まり!High Yieldな症候たち—見逃すな!キラリと光るその病歴&所見

31巻5号(2021年5月発行)

特集 臨床医のための 進化するアウトプット—学術論文からオンライン勉強会、SNSまで

31巻4号(2021年4月発行)

特集 消化器診療“虎の巻”—あなたの切実なギモンにズバリ答えます!

31巻3号(2021年3月発行)

特集 ライフステージでみる女性診療at a glance!—よくあるプロブレムを網羅しピンポイントで答えます。

31巻2号(2021年2月発行)

特集 肺炎診療のピットフォール—COVID-19から肺炎ミミックまで

31巻1号(2021年1月発行)

特別増大特集 新型コロナウイルス・パンデミック—今こそ知っておきたいこと、そして考えるべき未来

30巻12号(2020年12月発行)

特集 “ヤブ化”を防ぐ!—外来診療 基本の(き) Part 2

30巻11号(2020年11月発行)

特集 診断に役立つ! 教育で使える! フィジカル・エポニム!—身体所見に名を残すレジェンドたちの技と思考

30巻10号(2020年10月発行)

特集 —ポリファーマシーを回避する—エビデンスに基づく非薬物療法のススメ

30巻9号(2020年9月発行)

特集 いつ手術・インターベンションに送るの?|今でしょ! 今じゃないでしょ! 今のジョーシキ!【感染症・内分泌・整形外科 編】

30巻8号(2020年8月発行)

特集 マイナーエマージェンシー門外放出—知っておくと役立つ! テクニック集

30巻7号(2020年7月発行)

特集 その倦怠感、単なる「疲れ」じゃないですよ!—筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群とミミック

30巻6号(2020年6月発行)

特集 下降期慢性疾患患者の“具合”をよくする—ジェネラリストだからできること!

30巻5号(2020年5月発行)

特集 誌上Journal Club—私を変えた激アツ論文

30巻4号(2020年4月発行)

特集 大便強ドリル—便秘・下痢・腹痛・消化器疾患に強くなる41問!

30巻3号(2020年3月発行)

特集 これではアカンで!こどもの診療—ハマりがちな11のピットフォール

30巻2号(2020年2月発行)

特集 いつ手術・インターベンションに送るの?|今でしょ! 今じゃないでしょ! 今のジョーシキ!【循環器・消化器・神経疾患編】

30巻1号(2020年1月発行)

特集 総合診療医の“若手ロールモデル”を紹介します!—私たちはどう生きるか

27巻12号(2017年12月発行)

特集 小児診療“苦手”克服!!—劇的Before & After

27巻11号(2017年11月発行)

特集 今そこにある、ファミリー・バイオレンス|Violence and Health

27巻10号(2017年10月発行)

特集 めまいがするんです!─特別付録Web動画付

27巻9号(2017年9月発行)

特集 うつより多い「不安」の診かた—患者も医師も安らぎたい

27巻8号(2017年8月発行)

特集 見逃しやすい内分泌疾患─このキーワード、この所見で診断する!

27巻7号(2017年7月発行)

特集 感染症を病歴と診察だけで診断する!Part 3 カリスマ編

27巻6号(2017年6月発行)

特集 「地域を診る医者」最強の養成法!

27巻5号(2017年5月発行)

特集 コミュニケーションを処方する—ユマニチュードもオープンダイアローグも入ってます!

27巻4号(2017年4月発行)

特集 病歴と診察で診断できない発熱!—その謎の賢い解き方を伝授します。

27巻3号(2017年3月発行)

特集 これがホントに必要な薬40—総合診療医の外来自家薬籠

27巻2号(2017年2月発行)

特集 The総合診療ベーシックス—白熱!「総合診療フェスin OKINAWA」ライブ・レクチャー! 一挙公開 フィジカル動画付!

27巻1号(2017年1月発行)

特集 総合診療の“夜明け”—キーマンが語り尽くした「来し方、行く末」

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