文献詳細
文献概要
特集 神経難病ケアのコペルニクス的転回 【症状コントロールの進歩】
神経難病在宅ケアの実践と心構え—問題解決への道
著者: 川島孝一郎1
所属機関: 1仙台往診クリニック
ページ範囲:P.246 - P.249
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日本では,全身麻痺・人工呼吸器・胃瘻のALS(筋萎縮性側策硬化症)生活者が独居可能
生活者:60歳,女性.
55歳時にALSと診断.症状が進行し胃瘻と人工呼吸器が必要となった.
ある医師は「胃瘻や人工呼吸は無理な延命」と言う.別の医師は「着けなければ餓死,窒息」と言う.医師によって言葉の意味や解釈が違う.両者の共通点は身体の説明だけ.
私(ご本人.以下同様)は思った.「着けないと決めても,着けると決めても1),今,私は生きている.いずれ死ぬ日が来る時まで,どのようにより良く生きてゆけばいいのかを医師は示してくれない」.私は途方にくれた.意思決定が可能なためには,歩む道筋と具体的な支援を示して欲しいのに.
「孫が生まれるまで生きて!」と言う娘の一言が後押しになった.娘は私の心に寄り添ってくれた.胃瘻と人工呼吸器を着けながら,「私には住む家がある.早く帰りたい」と思った.医師や看護師,ソーシャルワーカーに説明を求めたが,「帰宅はできないから転院」だと言う.帰宅しても家族から,疲弊,多額の費用で生活破綻等々の答えが返ってくるだけだった.
ところが,私と同じ状況の方が一人暮らしをしているという情報が,患者会から入ったのだ.「まさか?」と思ったが,実際の生活を見学に行き,「これなら私も生きていける」と思えた.同時に私は確信した.「医師は信用ならない!」と.お金持ちでもない私にも,十分に具体的な生活設計が行われ,半年後には自宅での独居生活が始まった.
私は呪縛から解放された.
日本では,全身麻痺・人工呼吸器・胃瘻のALS(筋萎縮性側策硬化症)生活者が独居可能
生活者:60歳,女性.
55歳時にALSと診断.症状が進行し胃瘻と人工呼吸器が必要となった.
ある医師は「胃瘻や人工呼吸は無理な延命」と言う.別の医師は「着けなければ餓死,窒息」と言う.医師によって言葉の意味や解釈が違う.両者の共通点は身体の説明だけ.
私(ご本人.以下同様)は思った.「着けないと決めても,着けると決めても1),今,私は生きている.いずれ死ぬ日が来る時まで,どのようにより良く生きてゆけばいいのかを医師は示してくれない」.私は途方にくれた.意思決定が可能なためには,歩む道筋と具体的な支援を示して欲しいのに.
「孫が生まれるまで生きて!」と言う娘の一言が後押しになった.娘は私の心に寄り添ってくれた.胃瘻と人工呼吸器を着けながら,「私には住む家がある.早く帰りたい」と思った.医師や看護師,ソーシャルワーカーに説明を求めたが,「帰宅はできないから転院」だと言う.帰宅しても家族から,疲弊,多額の費用で生活破綻等々の答えが返ってくるだけだった.
ところが,私と同じ状況の方が一人暮らしをしているという情報が,患者会から入ったのだ.「まさか?」と思ったが,実際の生活を見学に行き,「これなら私も生きていける」と思えた.同時に私は確信した.「医師は信用ならない!」と.お金持ちでもない私にも,十分に具体的な生活設計が行われ,半年後には自宅での独居生活が始まった.
私は呪縛から解放された.
参考文献
1)川島孝一郎:身体の存在形式または,意思と状況との関係性の違いに基づく生命維持治療における差し控えと中止の解釈.生命倫理 17(1):198-206, 2007. <人工呼吸や胃瘻の差し控えは許されても中止はできない.差し控えと中止は異なるという論文(結果として「あらたな介入」という,全体に対する能動的所作を伴う語句が必要となる)>
2)清水哲郎:医療現場における意思決定のプロセス─生死に関わる方針選択をめぐって.思想 976 : 20-21, 2005. <統合された身体に関する論文(肺を移植することによって生き延びた人が,その肺を除去することに近い…身体+呼吸器が一つの全体的な統合を形成しているということになるのではないだろうか)>
3)メルロ・ポンティ:行動の構造(滝浦静雄・木田元訳).みすず書房,p82,1989. <それらが全体的に集まり,相互に関係し合うことによって,持続的全体を生み出すのでなくてはならない.各場所の状態と出来事は原則上,系のあらゆる他の領域の諸条件に依存する>
4)川島孝一郎:平成21年度厚生労働科学特別研究事業「終末期の生活者を支える相談・支援マニュアル策定に関する研究」(H20-特別-指定-004)総括研究報告書,pp11-36, 2010.
5)川島孝一郎:「生きることの全体」を捉える「統合モデル」とは何か,ICFを誤用しないために.訪問看護と介護 19(2) : 140-145, 2014.
6)川島孝一郎:統合された全体としての在宅医療.現代思想 42(13) : 146-156, 2014.
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