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雑誌目次

雑誌文献

総合診療25巻7号

2015年07月発行

雑誌目次

特集 ここを知りたい!頭部外傷初期対応・慢性期ケア

今月のQuestion & Keyword Index

ページ範囲:P.613 - P.613

より早く,より的確に内容をとらえるために,QuestionとKeywordによるIndexをご利用ください.それぞれ各論文の要点を示す質問とキーワードで構成されています.
Question
Q1 近年の頭部外傷の受傷形態の変遷は? 614
Q2 内科医の私は,頭部外傷患者を診る機会がありません. 620
Q3 頭部外傷慢性期ケアの要点は何か? 626
Q4 身体所見がとりにくい小児の頭部打撲では,CT検査は必須か? 631
Q5 高齢者の軽症頭部外傷への対応を箇条書きで述べてください(言い換えると,後輩医師に「ベッドサイド5分間ティーチング」してください). 635
Q6 飲酒後に転倒し頭部から出血している場合,頭部CTを撮影するべきか? 641
Q7 抗凝固薬・抗血小板薬内服中患者における頭部外傷では,どのような受傷機転が多いか? 646
Q8 スポーツで強い頭部打撲の現場に遭遇したらどう対応するか? 649
Q9 画像所見もなく患者に「問題がない」と言っても納得してもらえません. 653
Q10 びまん性軸索損傷例に対し留意することは? 656
Q11 以前に,脳室腹腔シャント術を受けた患者さんの慢性期の管理を任されました.管理のポイントを教えてください. 656
Q12 頭部外傷(TBI)後,くも膜下出血(SAH)後の下垂体性機能低下症を疑うポイントは? 663
Q13 頭部外傷後の高次脳機能障害の診断とリハビリテーションのポイントは? 667

ONE MORE GM

ページ範囲:P.672 - P.675

Q1 頭部外傷での頭部CT撮影のポイントは?
A1 頭部CTは,国内の救急告示医療機関であればおおむね24時間撮影が可能である.自施設の撮影体制を確認しておく.撮影の際に骨条件も再構成し評価する必要があるが,水平方向の骨折は見落としやすいことに注意が必要である.読影に際しては,頭蓋内のみならず,顔面や頸椎,副鼻腔なども併せて,外傷性変化を伴っているか確認する.
 頭蓋内の出血病変や金属の異物は白く(high density),梗塞や浮腫病変は黒く(low density)描出される.木材も,low density lesionとして黒く描出される.持続する出血は,白と黒が混じって(high and low mixed density)描出される.出血後時間の経った古い血腫や貧血患者の出血は,灰色(iso density)に描出されることもある.
 病変の局在を読影するのはもちろんのこと,病変によって生じる正常脳の変化も併せて読影する.急性硬膜下血腫,急性硬膜外血腫など,骨と脳の間に生じた血腫は,脳を圧迫し,その結果として正中偏倚をきたす.水平方向への圧排の指標が,脳室の狭小化や正中偏倚であり,垂直方向への圧排の指標として脳溝や脳槽の狭小化が見られる.
 神経学的脳圧亢進症状と画像上の頭蓋内圧亢進が一致するようであれば,頭蓋内圧管理が必要になる.自施設で対応困難であれば,対応可能な専門施設への転送を行う.

【頭部外傷ベーシックス】

頭部外傷の基礎知識

著者: 奧野憲司

ページ範囲:P.614 - P.619

 頭部外傷は日常的に起きる事故の1つであり,軽症頭部外傷の初期診療を総合診療医がまず行ったり,中等〜重症頭部外傷の応急処置をしたりすることは稀ではない.
 本稿においては,総合診療医に必要な頭部外傷の知識について説明する.

頭部外傷の初期対応—病院前管理を中心に

著者: 森川健太郎

ページ範囲:P.620 - P.625

 心肺蘇生のガイドラインが2000年に発表されて以来,初期評価,治療においてA : airway,B : breathing,C : circulationに表される気道・呼吸・循環の管理,いわゆるABC管理が重要であることが,救急医だけではなく内科医にも広まっている.外傷においてもABC管理は重要である.心肺蘇生において“D”は,“defiblliration”であったり“drug”であったりするが,外傷においての“D”は,“dysfunction of central nervous system”,すなわち意識障害を表す.頭部外傷では,受傷そのものによる脳のダメージ(一次性脳損傷)は避けられない変化であるが,引き続き起こる変化(二次性脳損傷)は最小限に食い止める必要がある.
 本稿では,頭部外傷におけるpre-hospital careからin-hospital careまでを解説する.

頭部外傷後よくある後遺症とその対応方法

著者: 並木淳

ページ範囲:P.626 - P.630

症候性てんかん(外傷性てんかん)
抗てんかん薬の予防的投与と治療的投与
 頭部外傷を原因とする症候性てんかんを「外傷性てんかん(posttraumatic seizure : PTS)」と呼ぶ.抗てんかん薬の予防的投与と治療的投与の違いを理解するためには,まず発症時期による分類を知っておく必要がある(表1).受傷後7日以内の発症を「早期てんかん(early seizure)」,受傷後8日以後の発症を「晩期てんかん(late seizure)」と呼び1),急性期の病態が最も不安定な時期を経過した後に発作を認める晩期てんかんが,狭義の(後遺症としての)「外傷性てんかん」である.
 早期てんかんは頭蓋内圧(intracranial pressure:ICP) を亢進させる危険があるため,積極的に予防することが推奨されている.一方,晩期てんかんに対する抗てんかん薬の予防的投与は原則として行わない1)

【場面別頭部外傷初期アプローチ】

小児の軽症頭部外傷への対応

著者: 植松悟子

ページ範囲:P.631 - P.634

Case
患児:6カ月,男児.
既往歴:なし.
現病歴:自宅の両親のベッドに児を寝かせていた.母親は隣の台所で夕食の準備をしていたが,「ドン」と音がして泣き声が聞こえたため,すぐ隣室に行ったところ,児はフローリングの床で腹臥位の状態で啼泣していた.前額部に3cmの皮下腫脹を認め,泣きやまなかったので救急外来を受診した.診察時,意識清明,身体所見で前額部皮下腫脹を認める以外に特記すべき所見はなく,母に抱かれている状態では機嫌もよく,普段と変わらない様子であることを確認した.頭蓋内損傷(G1)のリスクは低いと判断して,母親に頭部打撲後の注意事項を説明し,同じ内容のリーフレットを渡して帰宅した.翌日の予定再診でも状態が変わりないことを確認し,自宅で児の変化に気をつけて過ごしていただくよう説明した.

高齢者の軽症頭部外傷への対応

著者: 北野夕佳

ページ範囲:P.635 - P.640

Case
患者:80歳,男性.自宅で転倒し頭部打撲.
現病歴:自宅で午前4時に転倒し頭部打撲.家族が心配し自家用車で救急外来へ連れてきた.昨日午前8時から本日の午前8時までがあなたの救急当直.
●シナリオ1:頭部CT撮影にまわしたところ,あなたの救急当直時間帯だけで頭部打撲でのCT撮影依頼7件目であった.「もうちょっと考えてからCT依頼したらどうなんだ?!」と放射線科指導医から怒りの電話あり.
●シナリオ2:頭部に挫創もはっきりしない程度の頭部打撲であり,頭部CTは必要ないと判断して帰宅させたところ,意識レベル低下で同日夕方,救急車で搬送された.その時に撮影された頭部CTではmidline shiftを伴う慢性硬膜下血腫を認め,同日穿頭血腫除去術となった.「朝,救急外来に連れてきた時にどうして頭部CTを撮ってくれなかったんですか?!」と家族は不満を表明している.
●シナリオ3:頭部に挫創もはっきりしない程度の頭部打撲であったが,家族が不安そうなので頭部CT撮影した.急性期頭蓋内病変は認めず帰宅とした.しかし翌々日,自宅内の階段で真後ろに転倒・転落して搬送された.頭部CTで外傷性くも膜下出血を認めた.この時の12誘導心電図でⅢ度房室ブロックを認め,それによる失神・転落外傷と判断された.あなたの救急外来受診時の記録を見返すと,看護師記録に「脈拍46」の記載あり.「一昨日に救急外来へ連れてきたのに,この不整脈は見つけてもらえなかったんでしょうか?!」と家族は不満を表明している.

アルコール摂取者における頭部外傷への対応

著者: 中山由紀子

ページ範囲:P.641 - P.645

Case
患者:70歳,男性.
既往歴:糖尿病,高血圧,狭心症.内服薬は不明.
現病歴:夕方から居酒屋にて泡盛3合を飲んでいた.トイレに立ったまま帰ってこないのを心配した友人が居酒屋の外に出ると,階段下で眠っている患者を発見し,病院へ連れてきた.本人は「寝ていただけ」と言う.
 GCS13(E3V4M6),血圧160/90mmHg,脈拍100回/分,呼吸数24回/分,SpO2 96%(室内気).友人に支えられて千鳥足だが,明らかな四肢麻痺はない.
 瞳孔両側3.0mm,対光反射あり.
 後頭部に長さ約3cm,皮下組織に達する裂創と静脈性出血を認める.
 軽度の意識障害が飲酒によるものかはっきりせず,高齢であり,また狭心症の既往があって抗血小板薬を服用している可能性もあり,頭蓋内出血の高リスク症例であったため頭部CTを施行.外傷性くも膜下出血を認め,経過観察のため入院となった.

抗凝固療法患者における頭部外傷への対応

著者: 稲桝丈司

ページ範囲:P.646 - P.648

Case
抗凝固薬内服に関連した遅発性頭蓋内血腫の1例
患者:82歳,男性.
 持続性心房細動がある.5年前に左房内血栓によるTIA(一過性脳虚血発作)を発症後,ワーファリンを投与されているが,心房細動は難治性であり,2年前にペースメーカー挿入術を受けた.
 土曜日の夜に飲酒後滑って転倒,後頭部を強打した.打撲後30秒程意識消失があったが,速やかに回復した.転ぶ前の状況はよく覚えており,必ずしも意識を失ったために転んだわけではなさそうだった.家人は医療機関受診を勧めるも,本人が拒否し受診しなかった.
 日曜日は普通に過ごしていたが,夕方に頭痛・嘔気の訴えがあった.
 月曜日の朝,なかなか起きてこないため家族が見に行ったところ,昏睡状態であったため救急車を要請した.救急外来にて頭部CTを撮影すると,正中偏移を伴う急性硬膜下血腫(図1)が認められた.

スポーツに関連する頭部外傷(脳震盪)への対応

著者: 大橋洋輝

ページ範囲:P.649 - P.652

Case
サッカー中の頭部打撲で脳震盪および外傷性くも膜下出血をきたした1例
患者:16歳,男性.
既往歴:特になし.
現病歴:サッカーの試合中に相手選手と接触して転倒後,頭部打撲した.受傷直後より意識消失を認めたため,同日救急搬送となった.頭部CTで外傷性くも膜下出血を認め(図1),入院加療となった.血管障害を否定するためMRI/MRAなどの精査も行ったが,他の異常は認めなかった.明らかな脳震盪後の後遺症などは認めず,約2週間の保存的加療ののち退院された.サッカーを続けたい希望はあったが,頭蓋内出血を認めていたため,繰り返しの頭部打撲による致死的脳損傷を起こす可能性は否定できず,今後のコンタクトスポーツ(G1)についてはやめるよう指示した.

【頭部外傷の慢性期ケアに必要な知識】

軽度外傷性脳損傷

著者: 吉本智信

ページ範囲:P.653 - P.655

Case
軽度外傷性脳損傷(mild traumatic brain injury, mild TBI : MTBI)後に発生した精神症状
患者:47歳,女性.
現病歴:歩行中に乗用車と接触転倒.救急車で脳神経外科に搬送される.受診時意識清明.事故のことは覚えていない.頭部CTに異常なく帰宅した.
 事故の2日後から仕事に復帰するが,頸部痛と嘔気のため,仕事を中断し帰宅.整形外科も受診したが特に異常なく,外来でのリハビリが行われた.仕事に復帰できないまま,数カ月で家事等も難しくなった.事故の半年後に精神科に紹介し,うつ状態と診断されたが,納得していない.

びまん性軸索損傷

著者: 渡邉修

ページ範囲:P.656 - P.659

Case
びまん性軸索損傷により高次脳機能障害が残存した1例
患者:30歳,男性,会社員.家族は妻と2人の子ども.既往歴なし.
現病歴:出勤途中,自動車運転中にトラックと衝突.車外に5m飛ばされ昏睡状態となり,近医に搬送.搬送時の意識は,JCS(Japan Coma Scale)で300であった.頭部CTで,頭蓋内に病変は確認されず,びまん性軸索損傷と診断され,1週間の低体温療法を受けた.受傷後2週間で覚醒しリハビリテーションを受けた.2カ月が経過し,日常生活動作(ADL)が自立して自宅退院.
 受傷後6カ月が経過し,本人は復職を希望しているが,ややふらつきが残り,昨日のことを覚えていない,1日の計画が立てられない,家族に怒鳴るなど感情面のコントロールができない,などの症状がある.

髄液シャントとその慢性期の管理法

著者: 臺野巧

ページ範囲:P.660 - P.662

Case
患者:80歳,女性.
既往歴:75歳時にくも膜下出血,破裂脳動脈瘤クリッピング術を施行したが,その後水頭症(hydrocephalus)をきたしたため,脳室腹腔シャント(ventriculo-peritoneal shunt : VPシャント)術を受けた.その後リハビリテーションを受けて日常生活に支障のない程度に回復した.
現病歴:1カ月前に自宅で尻もちをつくように転倒し,第12胸椎の圧迫骨折をきたした.自宅で安静臥床がちになっていたが,徐々に痛みは改善し,動けるようになってきた.しかしその頃から,歩幅が広くゆっくりとした歩行になっていた.数日前から物忘れの症状も出現したため,家族が認知症を心配して,病院の総合診療科初診外来を受診させた.頭部CTで脳室拡大を認め,シャントのunderdrainageが疑われ,脳外科に治療を依頼した.

頭部外傷後およびくも膜下出血後における下垂体機能低下症・尿崩症

著者: 西美和

ページ範囲:P.663 - P.666

Case
頭部外傷による下垂体機能低下症(G1,成長ホルモン分泌不全性低身長症)
患児:10歳5カ月,男児.
 満期安産出生.3年くらい前に交通事故に遭ったが,意識障害や嘔吐などはなかった.その時の脳外科での頭部CTでは異常なし.
 1年後くらいから身長の伸びが少しずつ低下してきた.7歳時の身長は-1.4SDで,10歳5カ月時は-2.5SD.下垂体機能検査により,成長ホルモン分泌不全性低身長症と診断.他の下垂体機能は異常なし.MRI検査で下垂体萎縮を認めた.成長ホルモン治療により身長は伸びている.

高次脳機能障害に対するリハビリテーション

著者: 原寛美

ページ範囲:P.667 - P.669

Case
患者:40歳台,女性.
 X年Y月,普通車後部座席に座っていて大型バスと衝突し,左側頭部から後部ガラスを突き破りトランクの上に放り出された.意識障害をきたし,脳外科病院へ搬送され,左側頭部外傷性くも膜下出血と診断,2週間入院して退院.
 1カ月後より復職したが,文字を思い出せない,社員の名前が出てこない,などの記憶の障害を自覚.上司に相談したが,「40歳台では自分も同じ」と言われた.初療の脳外科病院を再診し,施行された長谷川式知能検査は正常範囲であったために「神経症かもしれない」と言われた.2カ月後に自賠責保険では「治癒」との診断書記載がなされた.
 しかし自覚症状と就労上の支障は持続,ストレスは昂じてきて,高次脳機能障害ではないかと,1年経過してから当院を受診.神経心理検査では人名など固有名詞の記銘想起が困難(固有名詞失名辞),リバーミード行動記憶検査(RBMT,G1)では標準プロフィール点は18点(24点中)であり,左側頭葉損傷による高次脳機能障害と診断.
 通院での認知リハビリテーションを開始し,精神障害者保健福祉手帳の診断書を記載,さらに自賠責保険による後遺障害の再認定交渉を開始し,4年後に障害等級7級(労働喪失率56%)と認定された.障害者職業センターでの職業リハビリテーションを経て,障害者雇用枠での再就労が可能となった.

Editorial

鳳仙花

著者: 松村真司

ページ範囲:P.605 - P.605

 当院に来た医学生が実習後よく挙げる感想に「本当に幅広い問題に対応しているのですね.」がある.地域の総合診療医として求められるままに診療を続ける間に,本当にさまざまな問題に対応してきた.それらの中には,地域で診療を始めてからのほうがよく出会うようになったものもある.
 その一つが,本特集の頭部外傷である.もちろん重症の頭部外傷を直接担当する機会はほとんどなく,たいていは一見ごく軽症に見える患者たちである.ただ,一次救急を担当する総合診療医にとって,「もし判断を誤ったら…」と考えると,こちらの頭が相当痛くなる問題でもある.また,私は在宅診療も行っているので,脳外科手術後,比較的症状が安定した慢性期の患者を長期に担当することも多い.これらの患者は比較的若年者が多く,専門医をはじめ多くの人たちと協力して取り組んではいるものの,「もう少し自信をもって対応できるようになりたい」と,常々感じている分野の一つでもある.

What's your diagnosis?[151]

“みため”だけではダメかしら?!

著者: 橘高昭子 ,   井上賀元

ページ範囲:P.609 - P.612

病歴
患者:66歳,女性.
主訴:亜急性に進行する認知機能の低下.
現病歴:入院1カ月前までは普通に就労できていた.入院15日前,友人より地域包括支援センターに「認知機能が落ちているようだ」と相談あり.MSWが訪問したところ,自宅内は荷物・衣類が散乱していた.意思の疎通は図れないが,食事と排泄はできているようだった.入院7日前,介護サービスが導入されたものの,入院3日前よりマンション内徘徊が始まった.日に日にADL低下が著明になり,入院前日には自力では食事・排泄も困難で,会話も成立しない状態であった.入院日に精神科病院を受診.症状の出現・経過が急速であることから,現症のより詳細な精査加療を目的に,同日当院を紹介受診した.来院時のADLは,歩行は可,食事は一部介助,他は全介助.
既往歴:なし.内服歴:なし.
アレルギー歴:なし.嗜好歴:飲酒・喫煙なし.
生活歴:独居.結婚歴なし.東京生まれ.30代半ばまで都内で銀行勤務.その後京都で染物業.60歳過ぎより入院1カ月前までは清掃業のパートに従事.同胞4人いるが(兄,姉2人,弟),うち3人は死亡,1人は音信不通.死亡した長姉の甥,姪が神奈川県に在住.海外渡航歴なし.

New Books

『「型」が身につくカルテの書き方』—佐藤 健太(著)

著者: 藤沼康樹

ページ範囲:P.625 - P.625

 これまで寡聞にして,カルテ記載に関してフォーマルな医学教育カリキュラムはあまり目にしたことがない.むろんいわゆるPOSシステムにおけるSOAP(主観的情報,客観的情報,評価,診療計画)に分けて記載することはよく普及しているが,その意味はあまり知られていない.
 本書の特徴は,医学教育における医師の成長段階としてのRIMEモデル(Reporter⇒Interpreter⇒M-anager⇒Educator)と,SOAP(Subjective,Objective,Assessment,Plan)を対応させて,診療記録を教育や診療の質改善と結び付けているところにある.そして,これまでは単に“患者の訴えを書く領域”とされていたSOAPにおける「S」を「間接的に得られた情報」,“診察や検査結果を記載する領域”とされていた「O」を「直接観察による所見」と明快に定義し直している(これらの情報をどう集めるかは,診療の場によって違うことも強調されている).アセスメントの「A」はしばしば問題リストや異常値の羅列になるが,これを「意見」と定義し,省察のもとに自身の考えを記載する場としている.このアセスメント「A」に意見を論理的に記載すること自体が,臨床推論能力の訓練そのものになるであろう.それに基づき診療計画「P」を記載するが,ここに含まれる内容として予防や退院調整,介護福祉サービスを重視しているところが,著者の総合診療医らしさを感じる.

『みるトレ リウマチ・膠原病』—松村 正巳(著)

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.666 - P.666

●これだけの美しい爪と指の病変写真集はかつてない
 好評の『みるトレ』シリーズの1つ,リウマチ・膠原病編.しかし,この領域のアトラス集によくある“SLE(全身性エリテマトーデス)の蝶形紅斑などの写真集がまた出た”,ということではない.この本は『リウマチ・膠原病の指と爪』というタイトルにしてもよいくらい,“これでもか,これでもか!”というほど,爪と指の所見が出てくる.しかも,超高画質で高倍率.これだけの美しい爪と指の病変写真集は,かつてなかった.微細な点状の病変や隆起が,まるで,3Dのように見える.
 コモンな爪や指の所見でも,これまで教科書であまり取り上げられてこなかったものも多く含まれている.試しにクイズを.下記の所見について述べよ.
 ①半々爪(Half-and-half nail〈Lindsay' nail〉)
 ②ボー線(溝)(Beau's lines)
 ③ミーズ線(Mees' lines)
 ④ミュルケ線(Muehrcke's lines)
 ⑤爪甲色素線条(Longitudinal melanonychia)
 ⑥爪甲鉤彎症(Onychogryphosis)
 ⑦赤い爪半月
 ⑧爪消失
 ⑨溝渠状中央爪異栄養症(Dystrophia unguium mediana canaliformis)
 ⑩Reil線

GM Library 私の読んだ本

徳田安春(原作)梅屋敷ミタ(漫画)『こんなとき、フィジカル─超実践的! 身体診察のアプローチ』

著者: 岩田健太郎

ページ範囲:P.670 - P.670

 漫画は世界に誇る日本独特の表現媒介である.それはアメコミやフランスのバンド・デシネとも異なる,実にオリジナルなもので,ここ数十年その独自性はさらに先鋭化,多様化を見せている.
 多様化の一例が「学習漫画」である.これも昔は通俗的な子供向けのものだったのだが,石ノ森章太郎の「マンガ日本経済入門」あたりからその質が飛躍的に向上し,学習媒体としても作品としても楽しめるものが増えてきた.我々は漫画で食べ物を学び,スポーツを学び,歴史を学び,どこぞの政治家のように国際情勢も学び,(なんと)音楽まで学ぶ.だから,医学を漫画で学んでいけない理由もないだろう.

憧れのジェネラリストが語る「努力はこうして実を結ぶ!」・7

「総合診療科外来」の愉しみ

著者: 笹木晋

ページ範囲:P.677 - P.677

●総合診療科外来
 総合診療科外来にはいろいろな悩みを抱えた患者さんがやって来る.
 「食べると胃もたれがする」,「朝起きたらめまいがする」というよくある訴えから,「舌の先が痛い」,「半年前から他人の顔に丸いものが見えるようになった」というような稀な訴えなど,多種多様である.しかし,どんな悩みであろうと,患者さんが日常生活で困って外来に来られている点は共通している.さまざまな悩みに寄り添い,何とか解決できることがないか日々頭を悩ませているが,それが外来の苦しみでもあり,やりがいでもある.

Dr.徳田と学ぶ 病歴と診察によるエビデンス内科診断・11

腹部膨満─腹水はあるか?

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.678 - P.681

徳田:みなさん,こんにちは.この連載では「臨床疫学」を用いた診断ロジックを学びます.症例に基づきながら,レジデントのみなさんとの対話形式で進めていきます.
 今回は,「腹部膨満」を主訴とする患者さんです.腹部膨満には,「6F」という原因リストがありましたね(表1).次のケースについて,「腹水があるかどうか」に焦点を当てて診ていきましょう.

Dr.山中のダイナマイト・レクチャー・9

問題14

著者: 山中克郎 ,   寺西智史

ページ範囲:P.682 - P.684

問題14 「突然の動悸」を来した次の患者への初期対応として適切なのは,❶〜❹のどれか?
 65歳,男性.突然の動悸があり救急要請.就寝時に突然,胸が飛び出るような感じに襲われ,発症から30分以上経過,現在も持続している.意識清明,体温36.2℃,心拍数180回/分,血圧74/31mmHg,SpO2 92%(室内気),呼吸数16回/分.全身びっしょりと汗をかいている.顔面はやや蒼白.心電図(図1).
 すでに静脈路は確保し,生理食塩水の点滴も行っている.では,次に何をすればよいか?
 ❶アドレナリン注0.1%を1mg静注.
 ❷ATPを10mg急速静注.
 ❸同期電気ショックを100J(ジュール)で行う.
 ❹以前の心電図を取り寄せ,専門医を待つ.

みるトレ

Case 90

著者: 忽那賢志

ページ範囲:P.687 - P.688

Case 90
患者:9カ月,男児.
主訴:発熱,発疹.
現病歴:これまでの発達歴で特に異常を指摘されたことはない8カ月の男児.3日前より39℃を超える発熱が出現した.やや夜間の寝つきが悪くなったが,鼻汁,咳,痰や下痢などの症状はなく,日中は元気に過ごしていたため,母親が自宅で様子を見ていたという.本日になって解熱したが,突然全身に紅斑が出現したため,児の父親である感染症医にコンサルテーションとなった.
ワクチン接種歴:麻疹・風疹・水痘・ムンプスは未接種.DPTワクチン,Hibワクチン,7価肺炎球菌ワクチンはそれぞれ3回接種済み.
身体所見:体温37.2℃.咽頭発赤なし.扁桃腫大なし.
顔面・頸部・体幹・四肢に紅斑性の斑および丘疹を認める(図1).

臨床の勘と画像診断力を鍛える コレクション呼吸器疾患[42]

下痢・嘔吐を主訴に入院後,急性呼吸不全をきたした62歳女性

著者: 藤田次郎 ,   宮城征四郎

ページ範囲:P.690 - P.699

本連載では,沖縄県臨床呼吸器同好会の症例検討会をもとに,実況中継形式で読者のみなさんに呼吸器内科疾患を診る際のポイントとアプローチ方法を伝授したいと思います.宮城征四郎先生の豊富な臨床経験に基づいたコメントに注目しながら読み進めてください.画像診断のポイントと文献学的考察も押さえています.それでは早速始めましょう.今月のテーマは,下痢・嘔吐を主訴に入院後,急性呼吸不全をきたした62歳女性に対するアプローチです.本日は,虎の門病院の宮本篤先生がゲストとして参加されています.

シネマ解題 映画は楽しい考える糧[97]

「7つの贈り物」

著者: 浅井篤

ページ範囲:P.701 - P.701

臓器移植を巡る物語
 臓器移植を扱った映画は,今までたくさんつくられてきました.主たるテーマやカテゴリーはさまざまですが,いずれも強烈な印象を残します.本作を紹介する前に,私が知る範囲の作品をざっと解説します.マイケル・クライトン監督『コーマ』(1977年,米国)では,傲慢な有名医師が組織した殺人と臓器売買が描かれ,真実を追求する女性レジデントの命が狙われました.日本が最初の臓器移植法を成立させる30年も前の作品であることに注目しましょう.ペドロ・アルモドバル監督『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年,スペイン)では,息子が脳死ドナーとなった移植コーディネーターが主人公でした.息子を失った母の大きな悲しみが,ひしひしと伝わってきます.彼女はプロとして決して行ってはいけないことをします.
 ボニー・ハント監督『この胸のときめき』(2000年,米国)では,妻を事故で失った男性と,妻の心臓を移植された女性との恋愛物語で,お互いの複雑な心境が細やかに描かれました.娘にドナーが見つかった時の家族や友人の喜びも印象に残ります.自分の家族の臓器がまったくの他人の中で息づいているのを見るのはどんな気分なのでしょうか? ニック・カサベティス監督『ジョンQ』(2002年,米国)では,臓器配分と医療制度の在り方,父の息子への愛が語られました.ジョンの最後の行動は見ものです.今回紹介の作品にも通じるものがありますね.

血液内科学が得意科目になるシリーズ・16

微熱だから大丈夫?—好中球減少性発熱の診断・治療

著者: 萩原將太郎

ページ範囲:P.702 - P.705

 日本人の2人に1人は,悪性腫瘍に罹患するといわれています.そのなかで,悪性リンパ腫や白血病など「血液悪性腫瘍」の罹患率は30〜40名/10万人/年で増加の傾向です.日常診療で遭遇することも少なくありません.血液悪性腫瘍の予後は化学療法や分子標的療法の進歩により改善されつつありますが,その裏で治療関連合併症は未だに重大な課題となっています.
 今回は,原疾患と治療により引き起こされる免疫不全状態での感染症にフォーカスを当てて考えてみましょう.

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総合診療

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2188-806X

印刷版ISSN 2188-8051

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特集 海の外へ渡る航行者を診る—アウトバウンドにまつわるetc.

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特集 ○×クイズ110問!日常診療アップグレード—Choosing WiselyとHigh Value Careを学ぼう

33巻9号(2023年9月発行)

特集 ジェネラリストのための「発達障害(神経発達症)」入門

33巻8号(2023年8月発行)

特集 都市のプライマリ・ケア—「見えにくい」を「見えやすく」

33巻7号(2023年7月発行)

特集 “消去法”で考え直す「抗菌薬選択」のセオリー—広域に考え、狭域に始める

33巻6号(2023年6月発行)

特集 知っておくべき!モノクロな薬たち(注:モノクローナル抗体の話ですよ〜)

33巻5号(2023年5月発行)

特集 —疾患別“イルネススクリプト”で学ぶ—「腹痛診療」を磨き上げる22症例

33巻4号(2023年4月発行)

特集 救急対応ドリル—外来から在宅までの60問!

33巻3号(2023年3月発行)

特集 —自信がもてるようになる!—エビデンスに基づく「糖尿病診療」大全—新薬からトピックスまで

33巻2号(2023年2月発行)

特集 しびれQ&A—ビビッとシビれるクリニカルパール付き!

33巻1号(2023年1月発行)

特集 COVID-19パンデミック 振り返りと将来への備え

32巻12号(2022年12月発行)

特集 レクチャーの達人—とっておきの生ライブ付き!

32巻11号(2022年11月発行)

特集 不定愁訴にしない“MUS”診療—病態からマネジメントまで

32巻10号(2022年10月発行)

特集 日常診療に潜む「処方カスケード」—その症状、薬のせいではないですか?

32巻9号(2022年9月発行)

特集 総合診療・地域医療スキルアップドリル—こっそり学べる“特講ビデオ”つき!

32巻8号(2022年8月発行)

特集 こんなところも!“ちょいあて”エコー—POCUSお役立ちTips!

32巻7号(2022年7月発行)

特集 —どうせやせない!? やせなきゃいけない??苦手克服!—「肥満」との向き合い方講座

32巻6号(2022年6月発行)

特集 総合診療外来に“実装”したい最新エビデンス—My Best 3

32巻5号(2022年5月発行)

特集 「診断エラー」を科学する!—セッティング別 陥りやすい疾患・状況

32巻4号(2022年4月発行)

特集 えっ、これも!? 知っておきたい! 意外なアレルギー疾患

32巻3号(2022年3月発行)

特集 AI時代の医師のクリニカル・スキル—君は生き延びることができるか?

32巻2号(2022年2月発行)

特集 —withコロナ—かぜ診療の心得アップデート

32巻1号(2022年1月発行)

特集 実地医家が楽しく学ぶ 「熱」「炎症」、そして「免疫」—街場の免疫学・炎症学

31巻12号(2021年12月発行)

特集 “血が出た!”ときのリアル・アプローチ—そんな判断しちゃダメよ!

31巻11号(2021年11月発行)

特集 Q&Aで深める「むくみ診断」—正攻法も!一発診断も!外来も!病棟も!

31巻10号(2021年10月発行)

特集 医師の働き方改革—システムとマインドセットを変えよう!

31巻9号(2021年9月発行)

特集 「検査」のニューノーマル2021—この検査はもう古い? あの新検査はやるべき?

31巻8号(2021年8月発行)

特集 メンタルヘルス時代の総合診療外来—精神科医にぶっちゃけ相談してみました。

31巻7号(2021年7月発行)

特集 新時代の「在宅医療」—先進的プラクティスと最新テクノロジー

31巻6号(2021年6月発行)

特集 この診断で決まり!High Yieldな症候たち—見逃すな!キラリと光るその病歴&所見

31巻5号(2021年5月発行)

特集 臨床医のための 進化するアウトプット—学術論文からオンライン勉強会、SNSまで

31巻4号(2021年4月発行)

特集 消化器診療“虎の巻”—あなたの切実なギモンにズバリ答えます!

31巻3号(2021年3月発行)

特集 ライフステージでみる女性診療at a glance!—よくあるプロブレムを網羅しピンポイントで答えます。

31巻2号(2021年2月発行)

特集 肺炎診療のピットフォール—COVID-19から肺炎ミミックまで

31巻1号(2021年1月発行)

特別増大特集 新型コロナウイルス・パンデミック—今こそ知っておきたいこと、そして考えるべき未来

30巻12号(2020年12月発行)

特集 “ヤブ化”を防ぐ!—外来診療 基本の(き) Part 2

30巻11号(2020年11月発行)

特集 診断に役立つ! 教育で使える! フィジカル・エポニム!—身体所見に名を残すレジェンドたちの技と思考

30巻10号(2020年10月発行)

特集 —ポリファーマシーを回避する—エビデンスに基づく非薬物療法のススメ

30巻9号(2020年9月発行)

特集 いつ手術・インターベンションに送るの?|今でしょ! 今じゃないでしょ! 今のジョーシキ!【感染症・内分泌・整形外科 編】

30巻8号(2020年8月発行)

特集 マイナーエマージェンシー門外放出—知っておくと役立つ! テクニック集

30巻7号(2020年7月発行)

特集 その倦怠感、単なる「疲れ」じゃないですよ!—筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群とミミック

30巻6号(2020年6月発行)

特集 下降期慢性疾患患者の“具合”をよくする—ジェネラリストだからできること!

30巻5号(2020年5月発行)

特集 誌上Journal Club—私を変えた激アツ論文

30巻4号(2020年4月発行)

特集 大便強ドリル—便秘・下痢・腹痛・消化器疾患に強くなる41問!

30巻3号(2020年3月発行)

特集 これではアカンで!こどもの診療—ハマりがちな11のピットフォール

30巻2号(2020年2月発行)

特集 いつ手術・インターベンションに送るの?|今でしょ! 今じゃないでしょ! 今のジョーシキ!【循環器・消化器・神経疾患編】

30巻1号(2020年1月発行)

特集 総合診療医の“若手ロールモデル”を紹介します!—私たちはどう生きるか

27巻12号(2017年12月発行)

特集 小児診療“苦手”克服!!—劇的Before & After

27巻11号(2017年11月発行)

特集 今そこにある、ファミリー・バイオレンス|Violence and Health

27巻10号(2017年10月発行)

特集 めまいがするんです!─特別付録Web動画付

27巻9号(2017年9月発行)

特集 うつより多い「不安」の診かた—患者も医師も安らぎたい

27巻8号(2017年8月発行)

特集 見逃しやすい内分泌疾患─このキーワード、この所見で診断する!

27巻7号(2017年7月発行)

特集 感染症を病歴と診察だけで診断する!Part 3 カリスマ編

27巻6号(2017年6月発行)

特集 「地域を診る医者」最強の養成法!

27巻5号(2017年5月発行)

特集 コミュニケーションを処方する—ユマニチュードもオープンダイアローグも入ってます!

27巻4号(2017年4月発行)

特集 病歴と診察で診断できない発熱!—その謎の賢い解き方を伝授します。

27巻3号(2017年3月発行)

特集 これがホントに必要な薬40—総合診療医の外来自家薬籠

27巻2号(2017年2月発行)

特集 The総合診療ベーシックス—白熱!「総合診療フェスin OKINAWA」ライブ・レクチャー! 一挙公開 フィジカル動画付!

27巻1号(2017年1月発行)

特集 総合診療の“夜明け”—キーマンが語り尽くした「来し方、行く末」

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