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文献詳細

雑誌文献

総合診療25巻9号

2015年09月発行

文献概要

シネマ解題 映画は楽しい考える糧[99]

「エンジェルズ・イン・アメリカ」

著者: 浅井篤1

所属機関: 1東北大学大学院医学系研究科社会医学講座医療倫理学分野

ページ範囲:P.871 - P.871

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生と死,病と希望,民族と宗教を巡る物語
 主たる登場人物だけでも8名になる,ゴールデン・グローブ賞5部門受賞の米国テレビのミニ・シリーズ.厳密には劇場映画(シネマ)ではないですが,スタッフ,キャスト共に並みの映画を遥かに超えた布陣で,全6話6時間に及ぶ,生と死,病と希望,民族と宗教を巡る物語が語られ,観る者を圧倒するに間違いありません.エイズに薬物依存,ホモセクシュアリティ,看護に臨床試験と,医療に関連するエピソードも満載です.4つの人間関係が相互に絡み合いながら展開し,天使や亡霊まで登場します.見始めたらやめられなくなること請け合いですから,時間がゆっくり取れる休日に腰を据えてご覧ください.
 私が一番強い印象を受けたのは,HIV感染症の治療薬であるAZT入手に関する話でした.主人公のひとりでVIP弁護士がいます.彼はエイズを発症して入院しました.とても重症です.当時はまだ治療法が確立しておらず,AZTがプラシーボを用いたランダム化比較対象二重盲検臨床試験の最中でした.まだ正式な研究結果が出ていないにもかかわらず,患者の誰もがAZTを欲しがっていたのです.もし死にたくなければ,その臨床試験に参加してAZTを使うしかありません.しかしプラシーボに当たる可能性も50%あります.患者も担当医師も,どちらを飲んでいるのかわかりません.命がかかっている患者としては,どうしてもAZTを使用するグループに入りたいのです.普通に研究に参加していてはどうなるかわからない.したがって,VIP弁護士は有力者に電話して,不正な経路で大量にAZTを入手するのでした.臨床試験におけるエイズ患者の抗ウイルス薬に対するアクセス権と,信頼できる研究結果を出すという研究者の責務が衝突した事例は,現実に結構あったようです.ところでこの年老いた弁護士は,威張り散らしどなり散らす,典型的な困難な患者でもありました.そのエイズによる死も壮絶でした.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:2188-806X

印刷版ISSN:2188-8051

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