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雑誌目次

雑誌文献

総合診療26巻8号

2016年08月発行

雑誌目次

特集 The 初診外来

今月のQuestion & Keyword Index

ページ範囲:P.637 - P.637

より早く,より的確に内容をとらえるために,QuestionとKeywordによるIndexをご利用ください.
それぞれ各論文の要点を示す質問とキーワードで構成されています.
Question
Q1 初診外来を初めて担当する時に,留意すべき点は? 638
Q2 初診外来で最も大切なことは何ですか? 641
Q3 初診外来で信頼されるための医師の行為とは? 646
Q4 「かぜ」って何ですか? 651
Q5 全身倦怠感の鑑別・マネジメントのポイントは? 656
Q6 腹痛患者の初診外来で,留意すべきことは? 661
Q7 急性の発熱で,特に留意すべきことは? 665
Q8 腹部疝痛を繰り返す時に,鑑別すべき疾患は? 670
Q9 患者の言葉を判断する時の落とし穴は? 673
Q10 初診の極意は? 677
Q11 急性の吐下血時に,どのような原因を考えるか? 681
Q12 思春期患者が原因の特定できない心身の不調を訴えた場合に行うべき評価は? 683

ONE MORE GM

ページ範囲:P.687 - P.687

Q1 「慢性疲労症候群」のマネジメントについて教えてください.
A1 最も大事なことは,患者に「重篤な身体疾患ではない」と保証して,特効薬はなく改善には時間がかかる可能性があるが,共に治療を行っていく姿勢を示すことである.生物心理社会(BPS)モデル(p.657)を意識しながら,長期的な視点をもち治療に関わっていく.

●非薬物療法:症状を悪化させる活動や行為をどのように調整するのかを学び,対処方法を身につける認知行動療法が中心となる.症状に対するセルフケアとして,ストレッチやヨガ,太極拳などを指導することも効果がある.厚生労働省の『慢性疼痛患者のためのセルフケアガイドブック』も参考になる.

●薬物療法:特効薬はなく,漢方薬(補中益気湯,十全大補湯など),NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬),抗不安薬・抗うつ薬などを,対症療法的に使用する.薬は少量から始めて徐々に調整したほうがよい.患者によって効果は異なることや,副作用があることを十分に説明する.

【初診の心得】

わが国における初診外来の全体像

著者: 竹島太郎

ページ範囲:P.638 - P.640

 わが国では,国民皆保険制度により,誰もが医療機関を自由に選択しフリーアクセスで受診できる.200床以上の病院の初診では紹介状がない場合に特定療養費(非紹介加算)を徴収するものの,診療所,小規模病院から大規模病院に至るまで,医療機関の規模に関係なく,ほとんどの医療機関で初診患者の診療を行っている.
 福井ら1)の報告では,わが国の一般住民において,1カ月に87%が体調異常を訴え,31%が診療所を,9%が病院を,0.6%が大学病院を受診する(図1).初診患者の主訴・診断名に関する報告は数例あり,医療機関の規模によって,患者の種類や頻度が異なるようである.本稿では,5つのへき地診療所を受診した4,495例2),小規模病院総合診療科を受診した1,515例3),東京都内の臨床研修病院総合診療科を受診した1,950例4),大学附属病院総合診療部を受診した4,558例5)のデータを参考に,わが国における初診外来の全体像を鳥瞰し紹介する.

—15分で行う!—初診外来で聞くべきこと・なすべきこと

著者: 鈴木富雄

ページ範囲:P.641 - P.645

Case
患者:78歳,女性.
現病歴:かかりつけ医からの紹介状を持って外来を受診.紹介状には「半年前から全身倦怠感が出現,ここ2カ月間で3kgの体重減少があり,悪性腫瘍の除外のために上部消化管内視鏡やCTなどの画像検査を含む精査をお願いします」と記載があった.
 診察室では,最初は本人もあまり話してくれず,ただ「検査を希望する」としか言わなかったが,解釈モデル(後述)を具体的に聞いたことが契機となり,認知症の夫と2人暮らしで,夫の介護のために疲労がかなり蓄積していることが判明した.さらに,軽度の抑うつ気分と興味の減退もあることがわかり,うつ状態への医学的対応や,近くに住んでいる娘の力を借りるなどの介護負担を軽減する方法も含め,心理社会的側面からのアプローチも頭に置いて診療を進めることとした.

「初対面の患者さん」と信頼関係を築く第一歩

著者: 荒隆紀 ,   松井善典

ページ範囲:P.646 - P.650

Case
信頼関係の構築に失敗した事例
患者:12歳,男児.リトルリーグのピッチャー.
現病歴:地区予選を勝ち進み県大会出場を決めていたが,1カ月前からの肘の痛みで当院初診.診察で「野球肘」の診断となり,1カ月間の安静を依頼するとともに,できるだけ励まして,またスポーツに戻れるように応援した.
 しかし,2週間後の再診予約をとったが姿を見せず…….気になって看護師から母親に電話したところ,どうしても投げたいので,「しばらくしたら投げてもいいよ」と言ってくれた医療機関で通院中とのこと.ただ,現在も投球そのものは制限され,安静指示が続いているという.

【初診のみかた】

上気道症状

著者: 岸田直樹

ページ範囲:P.651 - P.655

Case
「かぜ」と言われて薬をもらったがよくならないため受診した一例
患者:42歳,女性.特に基礎疾患なし.
現病歴:2日前からかぜ症状があり,近医を受診したところ「かぜ」と言われ,PL配合顆粒(総合感冒薬)とブルフェン(NSAIDs:非ステロイド性抗炎薬)などを処方されるも改善しないため受診した.「かぜはウイルス性上気道感染症で,そのウイルスを死滅させる薬は現代医療をもってしてもありません.つまり,かぜに効く薬はなく,薬はあくまで症状緩和目的で,内服してもはやくよくなるとか,こじらせなくなるとかいうことはありません」と,いつもの説明をするつもりで診察した.
 「かぜって,具体的にどんな症状ですか?」と聞いたところ,3日前から悪心・嘔吐・腹痛があり,下痢と倦怠感がよくならないと言う.いわゆる「かぜ(ウイルス性上気道感染症)」と言える症状は全くなく,強いて言えば「お腹のかぜ(ウイルス性胃腸炎)?」と前医に言われたのを患者さんが「かぜ」と勘違いしたのかと考えたが,総合感冒薬が処方されている.「何でもかぜと診断し,しかも総合感冒薬を処方する」という“かぜ診療”の現状を肌で感じ,患者説明に苦慮した貴重な症例であったが,決して稀ではない.

全身倦怠感

著者: 任瑞 ,   小曽根早知子

ページ範囲:P.656 - P.660

Case
慢性疲労症候群に対してBPSモデルで介入した一例
患者:39歳,女性.
現病歴:半年前から,休息しても改善に乏しい全身倦怠感,全身の筋肉の張り感,多関節痛,頭痛,集中力低下,不眠が出現し,家事を行うことが困難となった.複数の医療機関を受診するも原因不明であり,診断がつかないことに不安を感じ,当院を受診した.家庭環境としては子どもが2人いて,また復職予定であったが,夫は仕事が忙しくほとんど家事を手伝えない状況であった.
 多彩な随伴症状があるも,各種検査では異常所見がなく,診断基準を満たしたため「慢性疲労症候群」と診断した.本人に病名を伝えて不安解消に努め,BPSモデルを考慮して評価を行い,社会面の問題に関して夫との共通理解を深めるように促した.薬物療法は行わず,認知行動療法やストレッチを指導した.その後,症状は徐々に改善傾向となった.

腹痛

著者: 北啓一朗

ページ範囲:P.661 - P.664

Case
急性の右下腹部痛を訴える高齢男性
患者:原井泰司(仮名)さん,65歳,男性.
現病歴:3日前から,右下腹部痛を自覚.2日前に主治医に相談したが,様子をみるよう言われた.その後も痛みが続くため,当科を受診した.

発熱

著者: 中村権一

ページ範囲:P.665 - P.669

Case
伝染性単核症様症状を呈しEBV感染症と急性HIV感染症と診断した一例
患者:35歳,男性.
既往歴:特記事項なし.
現病歴:咽頭痛・発熱・倦怠感のため近医を受診し,伝染性単核症を疑われ当科紹介.頸部から胸部にかけて小紅斑を認め,血液検査では異型リンパ球増多および肝機能障害を認めた.
 伝染性単核症を疑い,EBV(Epstein-Barrウイルス)血清検査を提出.EBV VCA(外殻抗体)IgG(免疫グロブリンG)陽性,EBNA(核内抗体)陰性により急性EBV感染症と診断(3カ月後のEBNAは陽性)したが,同時に検査したHIV(ヒト免疫不全ウイルス)抗原/抗体検査陽性より急性HIV感染症を合併していた.HIV-1RNA RT-PCR陽性,HIV-1抗体(Western blot)陰性より,「急性HIV感染症」と確定した.伝染性単核症様の症状では,急性HIV感染症を必ず鑑別にあげるべきである.

【忘れられない初診】

「わたし,生理前は調子が悪いの!」

著者: 溝岡雅文

ページ範囲:P.670 - P.672

Case
急性腹症と低ナトリウム血症の精査のために紹介された若い女性
患者:30歳台前半,女性.既婚.
主訴:低ナトリウム血症の精査依頼.
現病歴:X-2年に,人工妊娠中絶を2回実施した.この頃「甲状腺機能低下症」を指摘され,レボチロキシンの内服を開始した.
 X-1年前に,自然流産した.この頃から月経前に強い下腹部痛を繰り返すようになっていた.
 X年4月初旬に,「月経前症候群」の診断で精神安定薬などが開始されていた.
 X年4月中旬に,左下腹部痛で産婦人科を受診し,CT検査で右卵巣腫瘍(dermoid cyst)を指摘された.「卵巣腫瘍茎捻転」の診断で腹腔鏡下摘出術を受け,術後のトラブルなく軽快退院した(手術では,捻転の所見なし).
 X年5月下旬,心療内科で「うつ状態」に対してフルボキサミン25mg(SSRI:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が開始された.
 X年6月初旬,下腹部痛および食欲不振が出現.その翌日の夜には痛みが増悪し,悪心・嘔吐を伴うようになったため,産婦人科に緊急入院となった.
入院後の経過:意識清明,血圧116/94mmHg,脈拍数72回/分・整,体温36.8℃.腹部全体に軽度の圧痛はあるが,反跳痛や筋性防御は認めなかった.白血球数4,500/μl,CRP(C反応性蛋白)≦0.3mg/dl,腹部単純X線検査(図1)は腸管ガス像が多いのみでニボー形成はなく「腸閉塞疑い」と診断され,補液のみで腹部症状は軽快した.
 入院第3日目に,血清Na 118mEq/lと著明な「低ナトリウム血症」を認め,精査のため内科に転科となった.内科受診時には腹部症状はほぼなく,点滴による補液が行われていた.
初期診断:SSRIによるADH(抗利尿ホルモン)過剰分泌症(syndrome of inappropriate antidiuretic hormone : SIADH),月経前症候群,腸閉塞疑い.

ではなくて……

著者: 須藤博

ページ範囲:P.673 - P.676

Case
原因不明の低カリウム血症の一例
患者:47歳,女性.
現病歴:「腎機能障害と低カリウム血症の精査のお願い」という紹介状を持参して外来を受診.一見して重症感のないやせ型女性.5年前から血清クレアチニン(Cr)値上昇を指摘されており,原因不明の腎機能障害Cr 1.29mg/dl,低カリウム血症,鉄欠乏性貧血の精査依頼にて紹介されてきた.自覚症状なし.
既往歴:5年前に,某総合病院にて胃癌手術.この頃から,血清Crの軽度上昇と低カリウム血症を指摘されている.4年前に,脱力のため入院.精査のため大学病院に転院となったが,結局原因不明.一時通院していたが,その後中断.
社会歴:夫(外科開業医)の医院で経理を担当.
身体所見:血圧110/70mmHg,脈拍数・体温・呼吸数は正常.身長152cm,体重40kg.全身状態は良好.
●眼瞼結膜:貧血・黄疸なし.
●頸部:甲状腺腫なし,血管雑音なし.
●心音・呼吸音:正常.
●腹部:平坦・軟,正中に手術痕.肝脾腫なし.
●直腸診:外痔核(+),便潜血(-).
●四肢:浮腫なし,筋力低下なし.関節圧痛・腫脹,リンパ節腫脹認めず.
検査所見❶:WBC 14,050/μl,Hb 8.7g/dl,Ht 27.7%,MCV 72fl,Plt 70.5×104/μl.
ferritin 2ng/ml,BUN 24mg/dl,Cr 1.53mg/ml,Na 138mEq/l,K 2.2mEq/l,Cl 110mEq/l,Ca 8.0mg/dl,P 3.8mg/dl.
●尿所見:比重 1.010,pH 6.0. 蛋白(1+),糖(-).
●尿沈渣:RBC 1〜4/hpf, WBC 10〜19/hpf.
 細菌(+).
●静脈血ガス:pH 7.30, PCO2 35mmHg, HCO3- 16.7mEq/l.anion gap(AG)11.3mEq/l.
●抗核抗体:陰性,抗SS-A/SS-B抗体:陰性.
●尿電解質:U-Na 35mEq/l,U-K 15mEq/l,U-Cl 86mEq/l.
 尿AG(G1)35+15-86=-36mEq/l.
●上部消化管内視鏡:胃亜全摘術後,再発や出血源となる潰瘍なし.
初期診断:原因を特定できない低カリウム血症,腎機能障害,AG正常代謝性アシドーシス.

切れ味の悪い剃刀

著者: 亀井三博

ページ範囲:P.677 - P.680

Case
10年!以上続く咳のため来院された高齢女性
患者:80歳,女性.包装関係の自営業を時々手伝っている.
主訴:咳.
現病歴❶:きっかけは覚えていないが,10年以上前から現在の咳が続いている.軽い咳だが,1年中かつ1日中出ている.咳止めは効かない.月に2回ぐらい咳で目が覚めることがあるが,すぐ眠れる.稀に息を吸う時にキューという音がする.ごくたまに白い痰が出る.咳と同時に鼻水が出ることもある.いつも咳をしているので,心配した家族から勧められ来院.
既往歴:脂質異常症,膝関節痛のため投薬を受けている以外,著患なし.
家族歴:幼い頃,姉が結核で亡くなっている.
生活歴:酒は飲まず,煙草も吸わない.ペットも飼っていない.
身体所見❶:お元気そうだが,何となく覇気がない感じ.穏やかだが,少し不安そうな表情である.
●バイタルサイン:体温36.7℃,血圧130/80
mmHg,脈拍数75回/分,呼吸数14回/分,SpO2 97%.
●口腔:正常.頸部リンパ節正常,貧血・黄疸なし.
●心:Ⅰ音・Ⅱ音正常,Ⅲ音・Ⅳ音なし.心雑音なし.
●肺:正常肺胞呼吸音.背面下部にて,ごく軽度の吸気終末crackleあり.
●腹部:軟,平坦,圧痛なし.

上から下から

著者: 中西重清

ページ範囲:P.681 - P.682

Case
電話対応で診断した吐下血の一例
患者:81歳,男性.普段は元気.
初診時の主訴:妻から突然電話があり,「上から下から血が出て止まらない.何度も出血する」とのこと.
既往歴:65歳時に,総合病院心臓血管外科で腹部大動脈瘤(abdominal aortic areurysm : AAA)手術(最大径6cm).瘤部に人工血管置換術.腹痛でCT検査時に偶然発見.67歳時に,総合病院循環器内科で狭心症と診断,当院に逆紹介され通院開始.74歳時に,胃潰瘍でランソプラゾール15mg投与開始.現在81歳,元気に通院中.
処方薬:ランソプラゾール15mg,チクロピジン100mg,トリメブチン300mg,ブロチゾラム0.25mg.
現病歴:学会参加のため移動中に,妻から突然の電話で「上から下から真っ赤な血が出ています」と連絡あり.電話対応なので診察なし.
初期診断:消化管疾患による出血(吐下血)と推論し,総合病院救急を受診するよう指示し,電話紹介した.

その後の経過:救急受診した総合病院にて即日入院となり,緊急内視鏡を行うも上部消化管に出血部位はなし.その後も3日間,3度の上部消化管内視鏡検査を行ったが,出血源は不明.
 入院3日後に出血性ショック(意識障害と血圧低下)をきたし,気管内挿管と輸血を行いながらCT検査を行う.AAA術後仮性動脈瘤の腸管穿破(十二指腸穿破)と診断.心臓血管外科で緊急手術(人工血管置換術),AAA術後の中枢側に仮性瘤を認め,十二指腸水平脚と接した部位に穿破.術後5日目に死亡.
最終診断:大動脈腸管瘻(AAA術後仮性瘤の十二指腸穿破).

かったるい青年の背後に隠れていた精神病症状

著者: 宮崎仁

ページ範囲:P.683 - P.686

Case
「かぜ」だと思って内科を受診した青年が実は……
患者:21歳,男性.大学生.
現病歴:1週間前から37℃台の微熱,倦怠感,四肢の軽い痛みが続くために受診した.初診の問診票には「かぜだと思う」という記載あり.体温は37.2℃であったが,身体所見は異常がないため,アセトアミノフェンの頓用のみで経過観察とした.
 5日後に再診となり,「だるくて,体が押しつぶされそうな感じがしてつらい.就職活動に集中することができない」と訴えた.精神医学的評価を行ったところ,入眠障害,食欲低下,興味関心の低下,集中力低下,自責感が認められた.
初期診断:「大うつ病性エピソード」と診断し,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitors : SSRI)による治療を開始した.

その後の経過:治療後は,精神症状・身体症状ともにいったん改善したが,初診から4カ月後に再び入眠障害・起床困難となり,大学のゼミにも行けなくなった.そこで,再度精神医学的評価を行ったところ,「今まで気づかなかったことがわかるようになってきた.自分の考えていることが,頭の中で声のように聞こえてくる.真っ暗な中にいると落ち着く」という訴えがあった.
最終診断:考想化声および妄想知覚を疑い,精神科医へ紹介したところ,「統合失調症(または統合失調感情障害)」と診断された.

Editorial

初診忘るべからず

著者: 松村真司

ページ範囲:P.629 - P.629

 当院の電子カルテの登録患者数が,まもなく1万になる.この数が,一般的な医師と比べて多いのか少ないのかはわからない.しかし,この15年間,それなりに流行っていると目されている診療所で,来る日も来る日も頑張った結果である.1万という数は,日本武道館のような大きめのキャパシティのところでも一杯になるが,東京ドームならガラガラ,という数字である.今まで診察した人たち全員を観客席に入れてステージから眺めた風景を想像してみると,まあ,そんなものなのかな,というのが正直なところである.
 確かなのは,これらすべての人と私の間には“初めて会った瞬間”がある,ということである.ある時は診断にたどり着き,またある時はたどり着かないまま関係は終わり,時にこの関係は苦い思い出へと変わっていった.まさに一期一会.世界はすべからくそのような出会いで構成されているのだろうが,病や死といった人生において重要な出来事と私たちの仕事が関連していることもあって,やはり私たちの世界は特別な出会いで成り立っている,という気もするのである.

What's your diagnosis?[164]

待ってる場合じゃない!GO!GO!

著者: 四茂野恵奈 ,   田中孝正 ,   藤本卓司

ページ範囲:P.632 - P.635

病歴
患者:79歳,女性.
主訴:坐位が保持できない.
現病歴:入院3日前夕方に寒気とふらつきを自覚した.体温は37.0℃だった.1日前近医を受診し,血液検査で肝臓の数値が高いと指摘されて,抗菌薬を処方され1錠内服した.来院当日朝,脱力感が強く,起き上がろうとすると後ろに倒れてしまい,坐位が保持できず,救急搬送となった.
陰性症状:戦慄,咳嗽,喀痰,咽頭痛,鼻汁,頭痛,腹痛,嘔気・嘔吐,下痢,関節痛,排尿時痛,残尿感,頻尿,寝汗,食欲低下,体重減少.
既往歴:35年前に子宮外妊娠(開腹手術),11年前に白内障(両側手術),6年前に小脳梗塞(後遺症なし),4年前と1年前に腰部脊柱管狭窄症椎弓切除術,腰椎椎体間固定術.
家族歴:なし.
内服歴:クロピドグレル75mg,L-アスパラギン酸カルシウム200mg,αカルシドール0.5μg,リセドロン酸ナトリウム17.5mg,ロキソプロフェンナトリウム60mg,ブロチゾラム0.25mg,メコバラミン1,500μg,プラバスタチン10mg.1日前より開始:セフカペンピボキシル100mg.
アレルギー:なし.
喫煙歴:なし.
飲酒歴:なし.

GM Library 私の読んだ本

松村真司,矢吹 拓(編)『外来診療ドリル 診断&マネジメント力を鍛える200問』

著者: 北和也

ページ範囲:P.689 - P.689

 桜が咲き始めた春の頃,本書はついに僕の手元に届いた.手に取ると同時に目に飛び込んできた「目指せ! 外来偏差値65!!」のキャッチコピーに,なぜだか少し胸が躍る.「100症例200問か.ならば毎日3症例6問ずつ解いて,1カ月と少しで終わらせることができる」.あの日,確かに僕はそう思ったんだ.
 鉛筆で解いて右上のチェックボックスに○×をつけて,あとで集計する.滑り出しはすこぶる好調で,○が並んだ.「も,もしかして,高偏差値を叩き出せるのでは!?」.……傲慢な思いが脳裏をかすめる.しかし,考えが甘かったことに,すぐに気づく.片頭痛によるアロディニア,低髄液圧症候群の治療法,月経前症候群(PMS),PPI(プロトンポンプ阻害薬)以外のmicroscopic colitis…….どうやら,知識の整理ができていないようだ.これまでにも見逃しがあったに違いない.生命には直結しないもののQOLを下げ続けうるような疾患については,ぜひともしっかり整理しておきたいのだ.だって,よくわからずにずっと対症療法をし続けるなんて,とても悲しい.今日ここでしっかり勉強して,明日はきっと見逃さない.そう僕は誓った.

加藤士郎(著)『高齢者プライマリケア漢方薬ガイド—チーム医療で必ず役立つ56処方』

著者: 前野哲博

ページ範囲:P.713 - P.713

 このたび,『高齢者プライマリケア漢方薬ガイド』が上梓された.著者の加藤士郎先生は,大変お忙しい診療の傍ら,毎週,当大学の医学生に懇切丁寧にご指導いただいている.また,頻繁に漢方セミナーを開かれ,漢方に興味をもつ医療者への指導にも熱心に取り組まれている.本書は,先生の温かいお人柄そのままに,初学者でも抵抗なく漢方薬を使える配慮が随所に散りばめられている.
 漢方にあまり詳しくない医師でも,能書や解説本を読めば,候補となる薬剤をリストアップするのは,ある程度可能である.問題は,実際に処方する薬を1つに絞り込むところであり,どうしてAやBではなくCを選択するのか,という理由づけが難しい.もちろん,それぞれの使用目標となる証は書いてあるのだが,いわゆる「病名漢方」のレベルにとどまっている初学者には理解が難しい.また,薬理学的機序で分類できる西洋薬と異なり,漢方薬は1つひとつの薬剤のイメージを把握するのが難しいことも大きなハードルになっている.

Dr.上田剛士のエビデンス実践レクチャー! クスリとリスク・5

気管支喘息患者に安全な薬剤

著者: 上田剛士

ページ範囲:P.691 - P.695

症例
 患者:42歳,女性.
 現病歴:旅行中に自転車と衝突し,右下腿を挫傷した.外傷は軽傷であるが,旅行中のため除痛を図りたい.
 既往歴:気管支喘息.過去に市販感冒薬を飲み,喘息発作を誘発したことがある.
 Q:気管支喘息患者において,気をつけるべき薬剤には何があるでしょうか?

Dr.加藤の これで解決!眼科Q&A相談室・11

高齢者の白内障手術のタイミングは,いつがいいか?

著者: 加藤浩晃

ページ範囲:P.696 - P.697

今月のQuestion
 眼科で白内障の診断を受けているご高齢の患者さんの「手術のタイミング」は,いつがよいでしょうか? 定期的に眼科を受診されているのですが,眼科ではあまり話ができないようで,私に手術のタイミングを相談されました.

レジデントCase Conference

糖尿病合併症治療および血糖コントロール後も口渇・多尿が持続した50代男性

著者: 加藤愛香里 ,   宮里篤之 ,   伊藤純二 ,   永田恵蔵 ,   仲里信彦

ページ範囲:P.699 - P.702

◆疾患の治療を終えた後にも,残存する症状は必ず再評価をしよう.

臨床の勘と画像診断力を鍛える コレクション呼吸器疾患[52]

進行性の呼吸困難のため紹介された66歳男性

著者: 藤田次郎 ,   宮城征四郎

ページ範囲:P.704 - P.710

本連載では,沖縄県臨床呼吸器同好会の症例検討会をもとに,実況中継形式で読者のみなさんに呼吸器内科疾患を診る際のポイントとアプローチ方法を伝授したいと思います.宮城征四郎先生の豊富な臨床経験に基づいたコメントに注目しながら読み進めてください.画像診断のポイントと文献学的考察も押さえています.それでは早速始めましょう.今月のテーマは,進行性の呼吸困難のため紹介された66歳男性に対するアプローチです.

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バックナンバー

ページ範囲:P.715 - P.715

次号予告

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基本情報

総合診療

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2188-806X

印刷版ISSN 2188-8051

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32巻3号(2022年3月発行)

特集 AI時代の医師のクリニカル・スキル—君は生き延びることができるか?

32巻2号(2022年2月発行)

特集 —withコロナ—かぜ診療の心得アップデート

32巻1号(2022年1月発行)

特集 実地医家が楽しく学ぶ 「熱」「炎症」、そして「免疫」—街場の免疫学・炎症学

31巻12号(2021年12月発行)

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31巻11号(2021年11月発行)

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31巻10号(2021年10月発行)

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31巻5号(2021年5月発行)

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31巻2号(2021年2月発行)

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31巻1号(2021年1月発行)

特別増大特集 新型コロナウイルス・パンデミック—今こそ知っておきたいこと、そして考えるべき未来

30巻12号(2020年12月発行)

特集 “ヤブ化”を防ぐ!—外来診療 基本の(き) Part 2

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30巻9号(2020年9月発行)

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30巻8号(2020年8月発行)

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