文献詳細
特集 “ナゾ”の痛み診療ストラテジー|OPQRSTで読み解く
【総論】
文献概要
はじめに
本誌に慢性痛の特集が企画され、総論「慢性痛のサイエンス」を執筆することになった。慢性痛は急性痛が長引いたものではなく、脳回路網の変容に伴って生じる痛みが主体である。急性痛に用いられる治療薬や治療法は効を奏しないことが多く、うつ状態、全身の疲労感、睡眠障害、孤立感などを伴う。国際疼痛学会(Intemational Association for the Study of Pain、以下IASP)は、「治療に要すると期待される時間の枠組みを超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疾患に関する痛み」と定義している。
慢性痛の患者数は、世界各国とも共通して人口の2割以上に達し1)注1)、痛みに要する医療費は、心臓病やがんなど重篤な疾患の医療費を遥かに上回っている2)注2)。“痛みで死ぬ訳ではないから”と後回しにされている間に、痛みは世界のEpidemicになってしまった。超高齢社会を迎えた日本では、寿命の伸びが苦痛時間の延長となっており、慢性痛の軽減・治療は焦眉の問題である。このような社会的背景のもとで企画された本特集が、総合診療における痛み治療の嚆矢となり、多面的な取り組みに結びつくことを心から願うものである。
本誌に慢性痛の特集が企画され、総論「慢性痛のサイエンス」を執筆することになった。慢性痛は急性痛が長引いたものではなく、脳回路網の変容に伴って生じる痛みが主体である。急性痛に用いられる治療薬や治療法は効を奏しないことが多く、うつ状態、全身の疲労感、睡眠障害、孤立感などを伴う。国際疼痛学会(Intemational Association for the Study of Pain、以下IASP)は、「治療に要すると期待される時間の枠組みを超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疾患に関する痛み」と定義している。
慢性痛の患者数は、世界各国とも共通して人口の2割以上に達し1)注1)、痛みに要する医療費は、心臓病やがんなど重篤な疾患の医療費を遥かに上回っている2)注2)。“痛みで死ぬ訳ではないから”と後回しにされている間に、痛みは世界のEpidemicになってしまった。超高齢社会を迎えた日本では、寿命の伸びが苦痛時間の延長となっており、慢性痛の軽減・治療は焦眉の問題である。このような社会的背景のもとで企画された本特集が、総合診療における痛み治療の嚆矢となり、多面的な取り組みに結びつくことを心から願うものである。
参考文献
1)矢吹省司,他:日本における慢性疼痛保有者の実態調査.臨床整形外科47(2) : 127-134, 2012.
2)Gaskin DJ, et al : The economic costs of pain in the United States. J Pain 13(8) : 715-724, 2012. PMID 22607834
3)Melzack R, Wall PD : Challenge of Pain. 1983/邦題『痛みへの挑戦』.誠信書房,1986.
4)半場道子:慢性痛のサイエンス—脳からみた痛みの機序と治療戦略.医学書院,2018.
5)Vandanmagsar B, et al : The NLRP3 inflammasome instigates obesity-induced inflammation and insulin resistance. Nat Med 17(2) : 179-188, 2011. PMID 21217695
6)Walters A, et al : Evidence for neuroinflammation in Alzheimer's disease. Prog Neurol Psychiatry 20(5) : 25-31, 2016.
7)Handschin C, et al : The role of exercise and PG C1alpha in inflammation and chronic disease. Nature 454(7203) : 463-469, 2008. PMID 18650917
掲載誌情報