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文献詳細

雑誌文献

総合診療29巻4号

2019年04月発行

文献概要

特集 “ナゾ”の痛み診療ストラテジー|OPQRSTで読み解く 【診断と治療のストラテジー「頭の先から足の先まで」痛みのcase file 14】

痛みと疲労で動けない

著者: 倉恒弘彦12

所属機関: 1関西福祉科学大学健康福祉学部 2大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学

ページ範囲:P.440 - P.444

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Case
患者:28歳、女性、会社員。
主訴:倦怠感、脱力、全身の痛み、思考力低下。
現病歴:これまで健康に生活していたが、ある日から発熱、咽頭痛、頸部リンパ節の腫脹がみられるようになり、医療機関を受診。「EBウイルスの感染に伴う急性伝染性単核球症」と診断され入院となった。約1カ月間の治療にて、発熱、咽頭痛、リンパ節腫脹、肝障害などは改善し、急性伝染性単核球症からは回復したと診断され退院となったが、微熱が続いており、次第に倦怠感、脱力、思考力の低下、筋肉痛、関節痛なども強くなり、昼間も横になって生活をせざるをえない状況になってきた。再度、内科で血液検査などを受けたが全く異常はみられず、「身体的な疾患は否定的」との説明を受けた。3カ月以上自宅で安静にしていても回復しないため、いくつかの医療機関を受診して検査を受けたが、異常はみられなかった。その後、不安や抑うつもみられるようになったこともあり、心療内科での診察も受けたが、現在の病態を説明できるような精神疾患はみられないとのことであった。発病後1年が経過し、安静にしていると疲労症状は軽くなり、身の周りのことはある程度できるようになっていたが、外出して少し散歩をするだけで疲労、脱力、思考力の低下が悪化するため、職場への復帰は難しい状況であった。その後、内科にて定期的な検査は受けていたが、異常はみられず困っていたところ、友人の医師が「慢性疲労症候群(CFS : chronic fatigue syndrome)」という病態の可能性に気づき、専門の医療機関に紹介され、臨床診断によりCFSと診断された。
解説:CFS患者では、何らかの感染症がきっかけとなり、発病していることが多い。また、種々の生活環境ストレス[❶身体的ストレス(過労など)、❷精神的ストレス(人間関係の問題など)、❸化学的ストレス(シックハウス症候群など)、❹物理的ストレス(紫外線、騒音、熱中症など)]がきっかけとなっていることもある。このような場合、NK活性などの免疫力が低下していることが多く、体内では潜伏感染していたヘルペスウイルスなどの再活性化がみられている。
 われわれは、このような感染症やウイルスの再活性化がきっかけとなり、脳内のグリア細胞でインターフェロン、TGF-β、IL-1などの免疫物質が産生されることが、脳内における神経伝達物質代謝に悪影響を与え、多彩なCFS病態を引き起こしているという仮説を提唱している。

参考文献

1)Holmes GP, et al : Chronic fatigue syndrome ; a working case definition. Ann Intern Med 108(3) : 387-389, 1988. PMID 2829679
2)Munemoto T, et al : Increase in the regional cerebral blood flow following waon therapy in patients with chronic fatigue syndrome ; a pilot study. Intern Med 56(14) : 1817-1824, 2017. PMID 28717076
3)倉恒弘彦:日本医療研究開発機構 長寿・障害総合研究事業「慢性疲労症候群に対する治療法の開発と治療ガイドラインの作成」研究班 平成28年度総括報告書,2017.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:2188-806X

印刷版ISSN:2188-8051

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