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雑誌目次

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総合診療30巻10号

2020年10月発行

雑誌目次

特集 —ポリファーマシーを回避する—エビデンスに基づく非薬物療法のススメ

フリーアクセス

著者: 酒見英太

ページ範囲:P.1174 - P.1175

種々の薬物療法が人類の福祉に貢献していることは論をまたないが、一方で、ポリファーマシーの害が叫ばれるようになって久しい。そんななか、“処方権”という絶大な権力を独占している我々医師が、「その伝家の宝刀を乱用していないだろうか?」との反省の機運は、徐々に高まって来ていると信じたい。しかし、国民皆保険の幸運に恵まれた日本国民の大多数に、安易に薬物療法を求める習性を根付かせてしまったなかで、薬物療法の有効性への疑問(エビデンスの欠如)や、害の可能性を説明するだけで、処方を控えることに納得してくれる患者は、果たしてどれくらいいるのだろうか?
本特集では、何らかの苦痛や心配を訴えてやってきた患者に対し、薬物療法に走る前に、それらを軽減するための有効な、エビデンスのある非薬物療法を紹介し、その最大限の利用を患者に指導することで、処方の制限を現実味あるものとすることを目指したい。

【総論】

患者自身でできる非薬物療法—特に運動療法の強調

著者: 酒見英太

ページ範囲:P.1176 - P.1179

なぜ非薬物療法か?
 高齢者の増加とあいまってポリファーマシーの害が叫ばれるようになって久しく、本誌2019年2月号(29巻2号)の特集「意外な中毒、思わぬ依存、知っておきたい副作用」(p.1226)でも紹介された通り、現代は薬物起因性疾患が巷に溢れている。たとえば、抗菌薬が多くの感染症を克服して平均寿命を伸ばしてきたにもかかわらず、その過剰投与が耐性菌を生み、我々が現在の行動を変えない限り2050年には耐性菌による死亡者が世界で1,000万人に達して悪性腫瘍による死亡者数を上回るとの推計も2017年に公表されたところである3)。もはや発熱にとりあえず抗菌薬というプラクティスは減ってきていると信じたいが、日本は今や先進国では数少ない医師免許更新制のない国であり、開業時の診療科目自由標榜制も維持されているため、徹底されるのはまだ時間がかかるかもしれない。また、新薬の販路拡大にかける製薬会社の意気込みはすさまじく、学会発表におけるCOI(利益相反)の表示は義務付けられたとはいえ、医学界全体への薬剤使用への圧力は相当なものがあるとの認識は必要であると思われる。
 なお、薬物療法のはらむ危険と処方行為の裏にある臨床医の心理については、本特集の著者の1人である上田剛士先生の名著『クスリのリスク(医学書院、2017)』(p.1230)に詳しいので、是非ご一読をお勧めする。

【症状編】

発熱

著者: 米本仁史

ページ範囲:P.1180 - P.1183

はじめに
 ここでは視床下部の体温調節中枢におけるセットポイントの上昇を伴う体温上昇を発熱(fever、pyrexia)として扱い、セットポイントの上昇を伴わない高体温(hyperthermia)と区別する1)

慢性疼痛

著者: 上田剛士

ページ範囲:P.1184 - P.1190

はじめに
 ここでは特異的な根治療法のない慢性疼痛を対象とする。さまざまな慢性疼痛のなかでも最もよく研究されている慢性腰痛症や変形性膝関節症に対する非薬物療法の位置付けについて解説する。

咳・痰

著者: 倉原優

ページ範囲:P.1191 - P.1194

はじめに
 ここでは、咳嗽の対症療法としてプライマリ・ケアでよく用いられている薬剤と、それによる副作用で注意すべきVignette症例を提示する。また、咳嗽に対する食品や嚥下訓練といった非薬物療法を紹介する。さらに、項末のコラムで喀痰に対する非薬物療法について記載した。

悪心・嘔吐

著者: 片岡祐

ページ範囲:P.1195 - P.1197

はじめに
 悪心・嘔吐の訴えは消化器疾患のみならず、さまざまな感染症、中枢神経疾患、内耳疾患、心血管系疾患、代謝性疾患と鑑別が多岐にわたるため、的確な診断と原因治療が重要であることは言うまでもないが、症状としての不快は強く、容易に脱水や栄養障害を招くため、その対症療法は大切である。本特集の趣旨からは、診断にあたって薬剤誘発性の悪心・嘔吐に常に気を配り、原因の除去を怠り制吐薬を追加処方することでさらなる副作用を重ねることは避けたい。

下肢浮腫

著者: 矢吹拓

ページ範囲:P.1198 - P.1201

はじめに
 下肢浮腫は一般外来を受診する患者において頻度の多い症状の1つである。下肢浮腫の原因を丁寧に検索し適切な対応を行うことは、臨床医にとって基本的なスキルである。「浮腫➡利尿薬」といった安易な対応にならないように、利尿薬の適応となる病態を見極め、浮腫軽減に患者が自らできることを指導したうえで、必要最小限の処方を心掛ける。なお、本特集の趣旨から、まずカルシウム拮抗薬やNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)、チアゾリジン薬、ステロイド薬、甘草含有製剤などの浮腫をきたしやすい薬剤の使用状況について吟味し、可能な限りそれらの中止・減量を考慮することが大切である。

不眠症

著者: 重島祐介

ページ範囲:P.1202 - P.1205

はじめに
 睡眠薬に頼っているのは実は医者側ではないか? 本稿を始めるにあたり、自戒も込めてそう記しておきたい。患者の訴える不眠に対して医師こそが睡眠薬に頼ってはならない。患者は睡眠薬の効果が実は限定的であることや睡眠薬のリスクを知らない。それを丁寧に伝え、非薬物療法による介入がなされれば、安易な睡眠薬処方はもっと減らせるはずである。

抑うつ・不安

著者: 井本博之

ページ範囲:P.1206 - P.1209

はじめに
 「うつ病」や「不安障害」の疾患概念は思いのほか不確かなもので、DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)においても診断基準は変遷し続けている。医療者としては病名によるラベリングを急がず、いったん不確実性を許容してみることで、過剰な投薬を防ぐことができる可能性がある。特に高齢化社会においてはベンゾジアゼピン(BZD)を含む向精神薬の使用がもたらすリスクは大きく、うつや不安に対して薬物療法が必要な病態を踏まえ、薬物療法の適応にかかわらず重要な非薬物療法の存在を認識しておきたい。

高齢者の認知障害

著者: 酒見英太

ページ範囲:P.1210 - P.1213

はじめに
 ここでは、治療により回復可能が望める認知機能低下(potentially reversible dementias : PRDs)の除外が行われたあとの、進行性かつ不可逆とみなされる認知障害を対象とする。なおPRDsの除外では、本特集の趣旨から、認知機能低下をきたしうる鎮痛薬、鎮静薬・催眠薬、向精神薬、抗コリン薬、抗ヒスタミン薬の減量・除去は真っ先に行われるべきである1a, b)

めまい・立ちくらみ

著者: 西村康裕

ページ範囲:P.1214 - P.1218

はじめに
 一般外来・救急外来においてめまい・立ちくらみはコモンな受診理由であるが、鑑別疾患が多岐に渡るうえに特異的な治療法が少ない領域でもある。ここではBPPV(良性発作性頭位めまい症)や前庭機能障害と起立性調節障害を中心に、めまいや立ちくらみに対する非薬物療法について概説する。なお、薬剤の副作用によるめまいは特に高齢者においてADL低下や転倒・骨折を招く恐れがあり、第一に除外されるべきである。

【疾患編】

急性上気道炎

著者: 長野広之

ページ範囲:P.1219 - P.1222

はじめに
 急性上気道炎は場所を問わず外来診療で最もよく出会う疾患の1つではないだろうか。急性上気道炎は自然に治癒することがほとんどであり、薬物治療は有効なものが少ない。本稿では“Do No Harm”の観点から非薬物療法についてどんなものがあるか説明したいと思う。

急性胃腸炎

著者: 高宮陽介 ,   佐藤健太

ページ範囲:P.1223 - P.1226

はじめに
 急性胃腸炎は急性発症の下痢疾患(1日3回以上または1日当たり少なくとも200gの便)で、しばしば嘔気・嘔吐・腹痛または発熱を伴うと定義されている。大多数はself-limitedであり、ほとんどの症例は2週間以内に自然寛解する1)。脱水補正が治療の中心であるが、その指導をどれくらい熱心にやっているだろうか? 抗菌薬や下痢止めを出さないにしても、制吐薬や鎮痙薬は気軽に出していないだろうか?

高血圧症

著者: 丸山尊

ページ範囲:P.1227 - P.1230

はじめに
 ここでは本態性高血圧に対する非薬物療法について解説する。なおポリファーマシー時代の真っただ中にいる我々は高血圧症診療において、特にNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)、甘草含有漢方薬、ステロイド、Na含有薬剤1)の使用についても注意を払い、可能であれば減量・除去を考慮したい。

脂質異常症

著者: 来住知美

ページ範囲:P.1231 - P.1233

はじめに
 脂質異常症の治療目標は、心血管疾患の予防である。“the lower, the better”がことさらに強調され、薬物療法のTipsに重きが置かれるばかりに、時間と手間のかかる非薬物療法は軽視されがちである。
 ここでは2017年動脈硬化性疾患予防ガイドライン1)、2018年ACC(米国心臓病学会)/AHA(米国心臓病協会)ガイドライン2)を元に、脂質異常症、主に高LDL血症の非薬物療法を紹介し、過剰な薬物治療を防ぐことを目標とする。

高尿酸血症

著者: 三野大地

ページ範囲:P.1234 - P.1237

はじめに
 ここでは再発性の痛風・尿酸結石、痛風結節以外の無症候性高尿酸血症を対象とする。わが国では2010年発行の高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版まで、薬物療法の導入は血清尿酸値8.0mg/dL以上を一応の目安とすると記載されていたため、欧米諸国と比較し無症候性高尿酸血症に対して薬物療法が導入されている例が非常に多い。2018年の第3版では多少の非推奨も示し始めているが、いずれの症例においても最初から薬物療法を行うのではなく、まずは正しい生活指導を行うべきである。

COPD

著者: 阿部昌文

ページ範囲:P.1238 - P.1241

はじめに
 ここでは状態の安定しているCOPD(慢性閉塞性肺疾患)患者の慢性管理における非薬物療法について述べる。特に呼吸リハビリテーションの有用性に関するエビデンスは豊富であり、具体的な実践方法も紹介した。なお、在宅酸素療法や手術療法も非薬物療法ではあるが、これらについては本特集の趣旨とは異なるため取り上げていない。

胃食道逆流症(GERD)

著者: 溝畑宏一

ページ範囲:P.1242 - P.1246

はじめに
 胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)は、胃食道逆流により症状や粘膜障害を引き起こす疾患で、食道粘膜傷害を有する「びらん性GERD」と、症状のみを認める「非びらん性GERD(non-erosive reflux disease:NERD)」に分類される1)。本特集の趣旨から、GERD様症状を示す他の疾患(表1)、なかでも薬剤誘発性食道炎は除外しておくべきである。

骨粗鬆症

著者: 坂正明

ページ範囲:P.1247 - P.1250

はじめに
 未曽有の高齢化社会を迎え、骨折による寝たきりの予防は急務であるため、積極的な骨粗鬆症診療の重要性は強調されてしかるべきである。薬物治療は確かに有効ではあるが、必ず何かしらの副作用を伴うため、特に骨折1次予防例では慎重な薬物治療の判断が求められる。薬物療法の前に、患者への骨粗鬆症の非薬物療法の説明・指導にも力を入れたい。

月経前症候群、更年期障害

著者: 中山明子

ページ範囲:P.1251 - P.1254

はじめに
 月経前症候群(premenstrual syndrome:以下PMS)は患者自身が症状と月経周期の関連を理解しておらず、医師も丁寧な問診をしないまま抗うつ薬、ベンゾジアゼピン、鎮痛薬を処方している場合がある。一方、更年期の女性は何でも更年期障害にしたがる傾向があり、本当に更年期障害なのか、治療が必要なのかについて、丁寧な診療が必要である。

【column】

コロナ太り/喀痰に対する非薬物療法・指導/コンタクトスポーツと認知症リスク

著者: 酒見英太 ,   倉原優

ページ範囲:P.1179 - P.1213

 外出制限による運動不足から「コロナ太り」という新しい病態が出現したが、これはある意味で医療界にも責任のある、予防法の伝え方の誤りであった可能性が高い。コロナウイルスの伝搬様式は飛沫・接触感染であり、まさに「3密の回避」と手洗い——結膜に付着したウイルスは涙管を経て鼻腔・咽頭に達するはずなので、私はこれに鼻かみ・うがいを加えるべきと考えている——こそが予防に大切であったはずなのに、不用意に「外出を控えましょう」(英語ではstay home)と唱えてしまったがために、外出そのもの、すなわち「外に出て日光を浴びつつ(自然に触れつつ)流れている外気のなかを歩く」という、本来肉体と精神の健康を保つために不可欠な活動さえ制限してしまったきらいがあるからである。現代では一昔前とは比較にならないほどITやゲーム機が発達し、成長発達過程にあって好奇心旺盛なはずの子どもさえも退屈せずにstay homeができてしまう環境も輪をかけたであろう。
 そもそも運動不足と睡眠不足が「風邪の引きやすさ」に影響するとの調査結果もあり1)、新型コロナウイルスの感染の実態がようやく掴めてきた現在、家に籠るのではなく、混雑のない自然環境、公園、近所への外出や散歩は、COVID-19対策としてもむしろ積極的に推奨されるべきではないかと考える。

Editorial

非薬物療法のススメ フリーアクセス

著者: 酒見英太

ページ範囲:P.1165 - P.1165

 この原稿は、後世に至っては近代史の一部として語り継がれるであろう新型コロナウイルス禍のお陰で、人々が自由行動を制限され、各種イベントが次々中止され、株価が暴落している最中にしたためている。ある評論家がTV番組でポロリと漏らした発言に「国民が消費や遊興を制限された今回の状況でも案外快適に暮らせることを覚えてしまうことが、禍が去った後の経済回復にマイナスに働く」といった内容があった。もちろん、これまでが過剰であったのではないかと国民が気づくことはマズイといったニュアンスである。
 便利さ・快適さの追及は留まるところを知らず、自ら立ち止まって考え欲求にブレーキを掛けることは今回のような「天災」が発生しない限りできないのが人間の悲しい性であるが、今回のウイルス禍を、経済活動をはじめ現代人の生活態度を反省する良い機会とすることが、せめてものプラスではないかと私は思う。

What's your diagnosis?[214]

Listen to the patient

著者: 小山弘

ページ範囲:P.1168 - P.1171

病歴
患者:20代、女性
主訴:労作時呼吸困難
現病歴:4日前、仕事中に動悸が出現、自然に軽快したが、その後労作時に息苦しさがあり、受診。平地を歩いていても息が苦しくなる。歩いた後は、しゃべるのも少し息が続かない感じがする
既往歴・家族歴:特記すべきものなし
職業歴:保育士。化学物質、微生物、重金属などへの曝露なし
生活歴:喫煙なし、飲酒なし。漢方薬、健康食品を含め常用するものなし
その他の病歴情報:胸痛なし。症状に日内変動なし。経口避妊薬の使用なし。食欲あり、体重減少なし。入眠まで1時間以上かかることが週に3回くらい。23時就寝、入眠障害あり、中途覚醒なし、覚醒時の気分は爽やかではない。抑うつ気分なし、楽しみの喪失なし、強い不安感の随伴なし。眼瞼下垂なし、複視なし、髪をとく時や歯磨き中の腕のだるさなし、ペットボトルの蓋の開けにくさなし

【エッセイ】アスクレピオスの杖—想い出の診療録・7

核心に触れるということ—臨床像と内なる「共鳴」

著者: 成田雅

ページ範囲:P.1262 - P.1263

本連載は、毎月替わる著者が、これまでの診療で心に残る患者さんとの出会いや、人生を変えた出来事を、エッセイにまとめてお届けします。

Dr.上田剛士のエビデンス実践レクチャー!医学と日常の狭間で|患者さんからの素朴な質問にどう答える?・7

医師が用いる血液型占いとは

著者: 上田剛士

ページ範囲:P.1264 - P.1267

患者さんからのふとした質問に答えられないことはないでしょうか? 素朴な疑問ほど回答が難しいものはないですが、新たな気づきをもたらす良問も多いのではないでしょうか? 本連載では素朴な疑問に、文献的根拠を提示しながらお答えします!

“コミュ力”増強!「医療文書」書きカタログ・5

専門外来予約時の院内コンサル文書 スマートに引き継ぐには?

著者: 天野雅之

ページ範囲:P.1268 - P.1272

今月の文書
院内紹介状(電子カルテ)
セッティング:総合診療科の定期外来→消化器外科の専門外来への院内コンサルテーション。
患者:検診異常のため受診した55歳・男性。生駒と桜井が診察を担当し、「大腸癌」と診断。病名告知と外科紹介を含む病状説明を行った。
【登場人物】
桜井:臨床研修医2年目。外来研修中。
生駒:総合診療2年目専攻医。定期外来日。
飛鳥:総合診療科医師。桜井・生駒の指導医。
尾中:消化器外科医。専門は肝胆膵の手術。

素人漢方のススメ|感染症編・10

—第4章│慢性炎症性疾患❷—感染症以外の慢性炎症性疾患と漢方治療

著者: 鍋島茂樹

ページ範囲:P.1273 - P.1275

 先月から慢性感染症を含む慢性炎症性疾患について解説しています。慢性炎症性疾患は、個々のバリエーションが大きく、年齢や罹病期間で病態も大きく変わりますので、方剤の選択が難しくなってきます。今月号では、感染症以外の慢性炎症性疾患について解説します。

オール沖縄!カンファレンス|レジデントの対応と指導医の考えVer.2.0・46

妊婦が外来に来た時

著者: 村上脩斗 ,   福地真寿美 ,   嘉陽真美 ,   徳田安春

ページ範囲:P.1276 - P.1279

CASE
患者:36歳、女性。
主訴:息苦しさ、動悸。
現病歴:今回初めての妊娠。妊娠17週時に、近医より当院での分娩希望で紹介初診。以降、定期妊婦健診を受診しており、胎児発育も順調で、母体の体調も問題なかった。
妊娠35週3日:妊婦健診で羊水過多を指摘された。胎児奇形などは認めず。
妊娠35週4日:21時頃「息苦しくて横になれない」「動悸と冷汗もある」と本人から病院へ電話連絡あり。タクシーでの受診を促したが結局自家用車を運転し、1人で救急室を受診。
既往歴:特記すべき既往歴なし。
嗜好歴:喫煙、飲酒なし。
内服歴:なし。
家族歴:高血圧の父が脳出血で12年前に死去。
生活歴:会社員(事務職)。既婚。夫も会社員で夜勤が多く、帰宅は深夜1時。2世帯住宅で、1階に本人の母親、2階に患者夫妻が居住。

“JOY”of the World!|ロールモデル百花繚乱・10

2つの道があったら予測のつかないほうへ

著者: 大野毎子

ページ範囲:P.1280 - P.1284

 私が院長を務める唐津市民病院きたはたは、佐賀県の中山間地域にある医療療養型56床の公立病院である。2005年4月から勤務しているので今年で15年が経ち、人生で最長の勤務先となった。佐賀県唐津市に生まれたが、大学進学に伴い関東に出て、結婚も関東でした(表1)。それが地元に帰って現在のような仕事をすることになるとは、大学卒業時点では想像すらしていなかった。

55歳からの家庭医療 Season 2|明日から地域で働く技術とエビデンス・35

—家庭医療における「回復」の構造❷—FOUR FACES of PATIENTS

著者: 藤沼康樹

ページ範囲:P.1285 - P.1287

 前回紹介したMillerら1)の論文では、患者の「回復」はどのように生じているのか、注目すべき要点がいくつかあげられていました。それは、必ずしも治療や看護によってもたらされるのではなく、医療現場で起こるのでもない。「さまざまな場と関係性の中で生じる」とMillerらは示し、回復が起こりやすい環境を「healing landscapes」と呼んでいます。
 では、どうすれば、そのような環境を創出できるのでしょうか? 今回は、Millerらの示唆のなかで、実地臨床上、私自身が頭に置いておきたいことを、以下にあげてみます。

【臨床小説】後悔しない医者|あの日できなかった決断・第7話

真剣な医者

著者: 國松淳和

ページ範囲:P.1288 - P.1293

前回までのあらすじ 今月のナゾ
 第1(4〜6月号)・第2(7〜9月号)エピソードで黒野は、患者が急性増悪する寸前に介入し、“新たな未来”をつくった。筧が「時を戻せる」と形容するその能力は、“治療機会の窓”を察知し逃さない臨床力を象徴するものだった。今回からの新エピソードでは、それとはまた別の黒野の異能が垣間見られる。その能力はどのような形で描かれていくのだろうか?
 第七話。黒野は精神科医の仁科に、ある慢性疼痛の症例を相談される。いわゆる不定愁訴も伴っている。不定愁訴は、「心の問題」と片付けられがちではないだろうか。しかし、そうとは限らない。原因不明の「痛み」を患者が訴える時、内科医はどうすればよいのだろう?

投稿 GM Clinical Pictures

びまん性の色素沈着を呈した59歳女性

著者: 若林崇雄 ,   田口遼 ,   石立尚路 ,   須藤大智 ,   渡邉智之

ページ範囲:P.1259 - P.1260

CASE
患者:甲状腺機能低下の既往のある、59歳女性。
主訴:5カ月持続する下肢の痺れと2週間で増悪した呼吸困難感。
バイタルサイン:意識清明で血圧110/60mmHg、心拍数76回/分、呼吸数24回/分、体温37.3℃。
身体所見:吸気時に両側下肺野で微細なcrackleを聴取し、全身にびまん性の色素沈着(図1)と、四肢の温痛覚・深部感覚低下を認めた。胸腹部CTでは心肥大、肝腫大、脾腫大と胸腹水を認めた(図2)。
血液検査:赤沈の亢進(55mm/hour)、血小板増多(49.5×104/μL)、M蛋白の検出(IgAλ)、vascular endothelial growth factor(VEGF)の高値(344pg/mL、基準0〜38pg/mL)を認めた。

#総合診療

#医学書院の新刊 フリーアクセス

ページ範囲:P.1256 - P.1256

#書評:—《ジェネラリストBOOKS》—薬の上手な出し方&やめ方 フリーアクセス

著者: 平井みどり

ページ範囲:P.1258 - P.1258

 この時期(2020年5月)だから新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の話から入ろう。レムデシビルが認可された、ファビピラビル(アビガン®)も、ノーベル賞受賞のイベルメクチンもと、さながら治療(の可能性がある)薬祭りの様相だ。「薬さえ決まれば大丈夫」と政治家の方々は思っておられるようだが、感染症の専門家の話を聞いているのかしらと疑問に思ってしまう。頭痛にバファリンじゃないけれど、コロナにアビガン®ですっきり〜というわけには参りません。さほどに、一般の方々の「薬」に対するイリュージョンは大きいわけである。
 薬の「上手な出し方」は誰しも知りたいところであろうが、「上手なやめ方」について、興味をもち始められたのはごく最近である。処方を見直して、不要な薬を減らそうと提案したところ、「必要だから処方してるんだ! やめろとは何事だ!」と激怒されたことがある。それもつい最近のこと。前医の処方には手をつけない、という不文律(?)も、そういうところから発しているのだろう。

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目次 フリーアクセス

ページ範囲:P.1166 - P.1167

『総合診療』編集方針 フリーアクセス

ページ範囲:P.1172 - P.1172

 1991年に創刊した弊誌は、2015年に『JIM』より『総合診療』に誌名を変更いたしました。その後も高齢化はさらに進み、社会構造や価値観、さらなる科学技術の進歩など、日本の医療を取り巻く状況は刻々と変化し続けています。地域医療の真価が問われ、ジェネラルに診ることがいっそう求められる時代となり、ますます「総合診療」への期待が高まってきました。これまで以上に多岐にわたる知識・技術、そして思想・価値観の共有が必要とされています。そこで弊誌は、さらなる誌面の充実を図るべく、2017年にリニューアルをいたしました。本誌は、今後も下記の「編集方針」のもと、既存の価値にとらわれることなく、また診療現場からの要請に応え、読者ならびに執筆者のみなさまとともに、日本の総合診療の新たな未来を切り拓いていく所存です。
2018年1月  『総合診療』編集委員会

読者アンケート

ページ範囲:P.1295 - P.1295

次号予告 フリーアクセス

ページ範囲:P.1299 - P.1300

基本情報

総合診療

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2188-806X

印刷版ISSN 2188-8051

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特集 —どうせやせない!? やせなきゃいけない??苦手克服!—「肥満」との向き合い方講座

32巻6号(2022年6月発行)

特集 総合診療外来に“実装”したい最新エビデンス—My Best 3

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32巻3号(2022年3月発行)

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32巻2号(2022年2月発行)

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32巻1号(2022年1月発行)

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31巻12号(2021年12月発行)

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31巻11号(2021年11月発行)

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31巻10号(2021年10月発行)

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31巻8号(2021年8月発行)

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31巻7号(2021年7月発行)

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31巻6号(2021年6月発行)

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31巻4号(2021年4月発行)

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31巻2号(2021年2月発行)

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30巻12号(2020年12月発行)

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30巻11号(2020年11月発行)

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30巻10号(2020年10月発行)

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30巻9号(2020年9月発行)

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30巻4号(2020年4月発行)

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