icon fsr

文献詳細

雑誌文献

総合診療30巻11号

2020年11月発行

文献概要

特集 診断に役立つ! 教育で使える! フィジカル・エポニム!—身体所見に名を残すレジェンドたちの技と思考

—Trousseau徴候—指導者を盲目的に信じてはならない—自身も悩んだTrousseau徴候と悪性腫瘍

著者: 平島修1

所属機関: 1徳洲会奄美ブロック 総合診療研修センター 名瀬徳洲会病院

ページ範囲:P.1370 - P.1374

文献購入ページに移動
Case
高度貧血患者の呼吸困難の原因が高拍出性心不全ではなく肺塞栓症であった一例
患者:通院歴のない63歳・女性
現病歴:受診1カ月前頃から、階段昇降で動悸・息切れを感じていた。2週間前から、息切れの悪化と食欲不振があり、当院を受診した。安静時心拍数102回/分、SpO2 95%(室内気)、頸静脈圧の上昇、胸部右背面に水泡音、両下腿浮腫を認めた。血液検査でHb 7.7g/dL、MCV 51fLの鉄欠乏性貧血、胸部X線で心拡大を伴う両下肺のすりガラス陰影を認め、貧血に伴う「高拍出性心不全」を疑い、貧血精査および輸血を含めた心不全治療を開始した。
 翌日、上部消化管内視鏡で、胃角部に2型(潰瘍限局型)進行胃癌を認めた。入院5日後(輸血5日後)になっても呼吸困難の改善は乏しく、患者は左大腿から下腿裏面にかけて発赤に沿った圧痛を伴う疼痛を訴えた(図11,2))。下肢静脈エコーを行ったところ、大腿静脈全体に血栓を認め、追加精査で呼吸困難の原因は「肺塞栓症」であることが判明した。
 Trousseau徴候には2つある3)。Trousseau徴候というと低カルシウム血症に関連した潜在性テタニー徴候を思い起こす方も多いかもしれないが、本稿では「悪性腫瘍」に伴う血栓症による表在性静脈炎「Trousseau's sign of malignancy」について述べる(その理由は最後に明らかにする)。
 その名に冠されるフランスの内科医Armand Trousseau(1801〜1867)は、この2つのTrousseau徴候以外にも、多岐にわたる分野で医学の発展に貢献した(表1)4)。解明されていない多くの病気を診て、その原因から治療法までを患者とともに発見した、現代医学をつくった先駆者である(表2)4)

参考文献

1)Falanga A, et al : Coagulation and cancer ; biological and clinical aspects. J Thromb Haemost 11(2) : 223-233, 2013. PMID 23279708 https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jth.12075
2)Timp JF, et al : Epidemiology of cancer-associated venous thrombosis. Blood 122(10) : 1712-1723, 2013. PMID 23908465 https://ashpublications.org/blood/article/122/10/1712/31702/Epidemiology-of-cancer-associated-venous
3)Mangione S. 2007/金城紀与史,他(訳):身体診察シークレット.p66,メディカル・サイエンス・インターナショナル,2009.
4)Young P, et al : Armand Trousseau(1801-1867), his history and the signs of hypocalcemia. Rev méd Chile 142(10) : 1341-1347, 2014. PMID 25601121 https://scielo.conicyt.cl/scielo.php?script=sci_arttext&pid=S0034-98872014001000017&lng=en&nrm=iso&tlng=en
5)Trousseau A:Clinique Médicale de l'Hôtel-Dieu de Paris, tome1. JB Baillière et fils, París, 1861. https://gallica.bnf.fr/ark:/12148/bpt6k6213398n
6)Trosseau A : Lectures on clinical medicine, The New Sydenham Society, 1869 Submitted by AL Wyman ; Filler. Medicine ; art or science. 2(320) : 1322, 1869.
7)Lakshmipati G:Care of the medical outpatient, 1st ed. ppvii. Nama publication, Coimbatore, 2003.
8)Panda SC : Medicine ; science or art? Mens Sana Monogr 4(1) : 127-138, 2006. PMID 22013337
9)Trosseau A : Lectures on Clinical Medicine, delivered at the Hôtel-Dieu, Vol.1, p40, Lindsay & Blakiston, Philadelphia, 1873. https://books.google.co.jp/books?id=8uw0AQAAMAAJ&printsec=frontcover&hl=ja&source=gbs_ge_summary_r&cad=0#v=onepage&q&f=false
10)McGee S,2017/徳田安春(総監訳),平島修,他(監訳):マクギーのフィジカル診断学 原著第4版.診断と治療社,2019.
11)平島修,他:「第7感診察」とは?—総合診療の“文化”を育む身体診察.総合診療 26(2) : 93-98, 2016.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:2188-806X

印刷版ISSN:2188-8051

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?