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総合診療30巻5号

2020年05月発行

雑誌目次

特集 誌上Journal Club—私を変えた激アツ論文

著者: 矢吹拓 ,   青島周一

ページ範囲:P.518 - P.519

医療者として学びを継続していくなかで、何かをきっかけに大きな変化が生まれることは決して少なくありません。
そのきっかけは、人との出会いだったり、勉強会や授業だったり、あるいは1冊の本や映画かもしれません。
その内容から新しい気づきを得て、物の見方や考え方が劇的に変わり、その後の視野が大きく開けるという経験が誰しもあることでしょう。
本特集では、自らに変化を迫るような感動や衝撃をもたらした論文を「私を変えた“激アツ論文”」と位置づけ、まず臨床家のみなさんに、その論文と出会った背景、論文の概要と画期性、そして論文との出会いによって何が変わったか、ビジュアルアブストラクトも用い【臨床編】として展開しました。
さらには【教養編】として、さまざまな領域の第一線で活躍されている諸先生方にも、自説を深める契機となった論文・書籍をご紹介いただき、臨床医学に限らず、より普遍的な学びを得ることも目的としました。
自身が変化を求めている時、1つの論文・1冊の本は、時に人生を変えるくらいの力をもちます。
本特集も、そんな変化もたらすきっかけの1つになれば嬉しく思います。

今月の「めざせ! 総合診療専門医!」問題

ページ範囲:P.585 - P.585

本問題集は、今月の特集のご執筆者に、執筆テーマに関連して「総合診療専門医なら知っておいてほしい!」「自分ならこんな試験問題をつくりたい!」という内容を自由に作成していただいたものです。力試し問題に、チャレンジしてみてください。

【臨床編】

総合診療|ウイルスが原因だからといって抗ウイルス薬は必要ない!?—「理論」ではなく実践を

著者: 清田雅智

ページ範囲:P.520 - P.523

❶激アツ論文との出会い
 2000年以前のマニュアル本や教科書には、Bell麻痺に有効な治療法は確立されていないものの、「ステロイド」を使うと書かれていた。救急外来で稀に遭遇した際に、「緊急でプレドニゾロンを使うのは、本当に大丈夫なのか?」という不安があり、研修医時代には一切処方しなかった。

総合診療|これが目標とするベッドサイド教育だ!!—指導医になるなら一度は読みたい

著者: 須藤博

ページ範囲:P.524 - P.526

❶激アツ論文との出会い
 私が紹介するのは、厳密には臨床医学論文ではなく、「医学教育」に関するエッセイである(激アツ論文ファイル❷)。これを読んだのは、卒後10数年が過ぎ、指導医としてある程度経験を積んでいた頃である。手に取った理由は、単に表題の「bedside teaching」という言葉に惹かれたからだったと思う。1997年に、『Annals of Internal Medicine』(米国内科学会)に掲載された。4頁の短い文章だったが、その後の私の「研修医教育」に対する基本的なスタンスは、これを読んで決まったと言えるほど衝撃は大きかった。

総合診療|「医学的判断を見誤らないことが常に一番えらい」ではなく、「やっぱし患者にいいことしようよ」—私の“医師アタマ”をやわらかくしてくれた1本

著者: 尾藤誠司

ページ範囲:P.528 - P.531

❶激アツ論文との出会い
 1990年に医師になった。それなりにやりがいがあった。診断に至る推論のアプローチを仲間たちと議論するのは楽しかった。臨床には「分からない」ことがたくさんあり、それを既存の知識のリソースで満たしていくことは、自分が日々成長していく過程を実感できる体験だった。

総合診療|重症疾患で入院した患者さんの最後の日々はどのようなものか?—臨床の太刀打ちできない問題に光がさした研究

著者: 松村真司

ページ範囲:P.532 - P.535

❶激アツ論文との出会い
 1990年代初頭、私は草創期の総合診療科のレジデントとして多忙な日々を送っていた。「総合診療」という言葉も定まっていなかった当時、最新の知識と技術を習得できれば何とかなる、という浅薄な考えで突っ走っているなかで出会ったのは、そんなものでは太刀打ちできない問題を抱えた患者さんたちだった。

総合診療|知ってるつもりが何も知らなかった!—Semmelweisの偉業と世界初の臨床試験

著者: 名郷直樹

ページ範囲:P.536 - P.539

❶激アツ論文との出会い
 Ignaz Semmelweis(ハンガリー、1818〜1865)との最初の出会いは、学生の時の外科学総論での授業のことだったと思う。いや、外科学総論の試験の過去問に出ていたのかもしれない。「手洗い」で産褥熱を減らした医者として、石炭酸の消毒で手術成績を劇的に改善したJoseph Lister(英、1827〜1912)とともに、記憶の片隅にあるという程度であった。

神経|固定観念を捨て、ありのままに疾患を見ることの大切さ—疾患概念のパラダイムシフトを目の当たりにした論文

著者: 下畑享良

ページ範囲:P.540 - P.542

❶激アツ論文との出会い
 進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy:PSP)は、1964年に報告された神経変性疾患である1)。病理学的には、視床下核・淡蒼球・中脳黒質・上丘などに、神経細胞脱落やグリオーシス(神経膠細胞増加)、タウ陽性神経原線維変化が生じる。タウ蛋白の蓄積により発症する、いわゆる「タウオパチー」の1つだ。

膠原病|「診たことのない疾患を診断する」ということの知的興奮を感じられる偉大な文献を訪ねる

著者: 國松淳和

ページ範囲:P.543 - P.545

❶激アツ論文との出会い
 2012年に、自分自身にとって初めての「家族性地中海熱(familial Mediterranean fever:FMF)」の症例を経験しました。「ちょっと変な病歴だな」と思った、熱を繰り返す20代の女性でした。

循環器|さらば“MONA”—酸素投与がむしろ害に

著者: 水野篤

ページ範囲:P.546 - P.548

❶激アツ論文との出会い
 私は循環器内科医ですが、当然ACLS(二次心肺蘇生法)はすべての医師が習いますし、急性冠症候群(ACS)に遭遇したことがないという臨床医もいないでしょう。そうしたなか、私のような“おっさん世代”は救急で、「MONA(モルヒネ、酸素、ニトロ、アスピリン)」という4種の神器を、ひたすら忘れないようにすることが最初の仕事のはずでした。しかし2017年、その臨床を大きく変える論文が発表されました。その名も「DETO2X-AMI(Determination of the Role of Oxygen in Suspected Acute Myocardial Infarction)」試験です(激アツ論文ファイル❽)。

呼吸器|—肺癌の分子標的薬の誕生—生存曲線が交差することでわかったサブグループ

著者: 倉原優

ページ範囲:P.549 - P.552

❶激アツ論文との出会い
 オンコロジーの領域では、毎日のように新しい論文が生まれ、ついこの前まで最新の知見だったものが過去のものになります。「肺癌」の世界では、ドライバー遺伝子変異に対する薬剤と免疫チェックポイント阻害薬の登場という2つの変革期がありました。今回私が取り上げたいのは、前者で最も有名な「EGFR遺伝子に対するチロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)」です。

臨床薬学|プラセボをしっかり飲むだけでリスクが減るとはどういうことか!?—薬剤効果の「多因子性」と「極小性」を垣間見た瞬間

著者: 青島周一

ページ範囲:P.553 - P.555

❶激アツ論文との出会い
 同じ薬を服用したとしても、ある人に対しては小さな効果しか実感できず、別の人に対しては大きな効果が実感されるということは稀ではありません。こうした効果のばらつきは、疾患の重症度やプラセボ効果によるものだろうと漠然と考えており、特に関心を向けたことはありませんでした。

【教養編】

科学哲学|額に汗して考え抜く—二元論的思考を根底から覆す「ことだま論」

著者: 野家啓一

ページ範囲:P.556 - P.559

❶「ことだま論」との出会い
 私は東北大学の理学部物理学科を卒業後、進路を「科学哲学」に変更し、東京大学大学院の大森荘蔵先生の門を叩いた。物理学から科学哲学へと転向(?)したのは、もともと物理学への興味が「空間に果てはあるのか?」や「時間に始まりはあるのか?」などの哲学的疑問から出発していたからである。研究目標としたのは、エルンスト・マッハ(オーストリアの物理学者、1838〜1916)の「感覚論(要素一元論)」とフッサール(オーストリアの哲学者、1859〜1938)の現象学を手がかりに、「科学的認識」の哲学的基礎づけを行うことであった。
 大学院の講義や演習を通じて大森先生から徹底して叩き込まれたのは、哲学とは「額に汗して自分の頭で考え抜く」営みに尽きること、そして得られた知見は「台所言葉で書く」こと、すなわち家庭内の茶の間で通用するような平易な言葉で表現すること、この2つである。

構造構成主義|—「信念対立」を根底から解く哲学!—構造構成主義の衝撃

著者: 京極真

ページ範囲:P.560 - P.562

❶激アツ論文との出会い
 私の作業療法士としての臨床は、精神病院から始まった。病院というのは、とても不思議なところだ。皆が対象者の利益を最大化するために貢献したいと願っているにもかかわらず、そこかしこで激しく意見が対立しているのである。当時、私は「善意が悪意を生む」ジレンマを嫌というほど味わっていた。
 そういう原体験を背景に、研究のためにネット検索をしていたら、偶然「構造構成主義」を知るところとなった(激アツ論文ファイル⓬)。

行動経済学|事前指示書の選択肢のデフォルト設定の効果を実証研究した!—意思決定支援とリバタリアン・パターナリズム

著者: 平井啓

ページ範囲:P.564 - P.566

❶激アツ論文との出会い
 筆者は、公認心理師として、主に急性期病院における「緩和ケア」や「認知症ケア」の心理コンサルテーションの業務に携わっている。
 コンサルテーションの依頼がある事例で最も多いのは、患者やその家族の怒りへの対応だが、その次に多いのが、「治療の意思決定」に関することである。たとえば、終末期のがん患者が「自宅に帰りたい」と望んでいるが、家族がそれを受け入れる意思決定ができないという事例や、自らの予後を理解し延命治療を望まないという意向はあるが、「決める力」が十分でないため、終末期を迎えるにあたり自らの生活に関する意思決定ができない事例などである。

薬剤経済学|「医療費を安くしろ!」ではなく「オカネは効き目に見合ってる?」を—医療とオカネの話

著者: 五十嵐中

ページ範囲:P.567 - P.571

❶激アツ論文との出会い
 筆者が「薬剤経済学(pharmacoeconomics)」に初めて触れたのは2001年、薬学部4年生の時であった。そこから数えれば、すでに19年経つが、そのうち少なくとも7割程度、2014〜2015年あたりまでは、薬剤経済学は名実ともに“日陰者”の領域だった。
 「1カ月でも1日でも長生きできるなら、それを目指すのが医療というもの」「医療でオカネの話をするのは非倫理的だ」「人は人、うちはうち。海外ではオカネの話ができても、情に厚い日本では馴染まない」「人命は地球より重い」…。

栄養疫学|全米規模の介入研究とそのインパクト—科学者としての素地を培った医学研究

著者: 今村文昭

ページ範囲:P.572 - P.576

❶激アツ論文との出会い
 私は現在「栄養疫学」を専門に、英・ケンブリッジ大学医学部で、主に糖尿病とその病態に注目した疫学研究に従事しています1)。私が選んだのは、米・コロンビア大学医学部栄養学科修士課程の時に出会った論文です。2002年に留学してまだ数カ月の、ある講義でのことでした。その講義は週2コマあり、1コマごとに10本前後の論文が選ばれ、それを読んで内容を発表できるよう用意するのが課題でした。多くの課題論文の1つが、JAMAに発表されて数カ月経ったばかりのこの論文だったのです(激アツ論文ファイル⓯)。

文化人類学|あなたはなぜ、その存在を「信じ」られるのか?—自明な“大きなもの”を問え

著者: 磯野真穂

ページ範囲:P.577 - P.580

❶激アツ論文との出会い
 幼い頃から、訳知り顔の人が苦手だった。訳知り顔の人は、政治のことから、近所のいざこざ、時には動物の考えていることや、宇宙の仕組みまで、何でも知っているふうに話す。そういう“ふう人”は、いつも説明ばかりしていて、なぜかたいてい声が大きい。

看護学|「患者中心の基本的な看護とは何か?」を考え続けること—医師と看護師の“哲学の違い”の必要性

著者: 酒井郁子

ページ範囲:P.581 - P.584

❶激アツ論文との出会い
 もう30年以上も看護学に関わっているので、影響を受けた論文はたくさんあり、本稿の執筆依頼を受けてとても悩みました。本誌の読者層も鑑み、あまりマニアックにならないものがいいかもしれないと、最初に思い浮かべたのは米国の看護学者(看護管理、医療政策)Linda Aiken先生(ペンシルベニア大学教授)の超有名な2002年の論文1)です。

Editorial

人生を変えるほどの「出会い」を味わう

著者: 矢吹拓 ,   青島周一

ページ範囲:P.509 - P.509

人生は、出会いの連続だ。出会いによって、人生は変わる。
 本稿を書きながら、この言葉を噛みしめている。「出会う」というのは面白い言葉だ。「会う」とは違って、そこには“偶然性”が内包されている。意図的に「会う」のではなく、偶然に「出会う」のだ。

What's your diagnosis?[209]

機関車トーマス ダンカンに会いに行く

著者: 杉本雪乃 ,   重原良平 ,   藤本卓司

ページ範囲:P.512 - P.515

病歴
患者:74歳、男性
主訴:咳嗽
 6年前に直腸がんと肝転移に対して外科的切除、ラジオ波焼灼術、抗がん薬治療を施行。4年前にS状結腸がんに対して外科的切除。その後、肝臓への局所再発を繰り返し、ラジオ波焼灼術を計5回施行。5カ月前から咳嗽と黄色の喀痰が出現し、肺炎の診断で2カ月間他院に入院。その間、炎症反応の上昇を繰り返し、計5回、5〜17日間の抗菌薬治療が行われた。退院後も、当院外科で肺炎に対して断続的に抗菌薬投与を行っていたが、咳嗽・黄色の喀痰が持続した。経過中に肝転移再発を認め、2カ月前より抗がん薬投与。外科の定期受診時に肺炎像の悪化があり、当科に紹介、入院となった。
ROS陰性:発熱、寝汗、食欲低下、疲労感、体重減少/増加、呼吸困難
既往歴:COPD、高血圧症、虚血性心疾患、直腸がん、S状結腸がん、多発肝転移
常用薬:アムロジピンベシル酸塩錠5mg、ニルパジピン2mg、ツロブテロール貼付剤2mg、ジヒドロコデインリン酸3g
生活歴:喫煙は20本/日×40年、63歳で禁煙。飲酒は日本酒1合/日。海外渡航歴なし。

【エッセイ】アスクレピオスの杖—想い出の診療録・2

病魔は突然、人生を一変させる

著者: 瀬戸雅美

ページ範囲:P.516 - P.517

本連載は、毎月替わる著者が、これまでの診療で心に残る患者さんとの出会いや、人生を変えた出来事を、エッセイにまとめてお届けします。

Dr.上田剛士のエビデンス実践レクチャー!医学と日常の狭間で|患者さんからの素朴な質問にどう答える?・2

指を鳴らすと指が太くなる?

著者: 上田剛士

ページ範囲:P.587 - P.589

患者さんからのふとした質問に答えられないことはないでしょうか? 素朴な疑問ほど回答が難しいものはないですが、新たな気づきをもたらす良問も多いのではないでしょうか? 本連載では素朴な疑問に、文献的根拠を提示しながらお答えします!

オール沖縄!カンファレンス|レジデントの対応と指導医の考えVer.2.0・41

患者は外国人!!

著者: 宮城加奈 ,   那覇唯 ,   新城治 ,   佐々木秀章 ,   徳田安春

ページ範囲:P.590 - P.594

CASE
患者:22歳、女性。
主訴:両下肢脱力・疼痛、血尿、めまい、下痢。
現病歴:韓国の方。12月開催のマラソン大会に招待選手として参加した。
 大会当日の天気は晴れ、最高気温は27.1℃。競技中から両下肢に脱力と疼痛を感じたが、4時間程で完走した。その直後から両下腿の疼痛増悪を認めた。同日23時より血尿と水様性下痢が出現し、翌日に友人と空港へ行く途中にめまいと両下腿痛から歩行困難となり、16時頃に当院へ救急搬送された。
既往歴:なし。
内服歴:鎮痛薬(マラソン後の夜)。

素人漢方のススメ|感染症編・5

—第3章│急性発熱性疾患❷—急性上気道炎

著者: 鍋島茂樹

ページ範囲:P.613 - P.615

 先月号では、漢方薬が劇的な効果を示すインフルエンザ(様疾患)を取り上げました。今月は、急性の上気道炎に関してお話しします。

総合診療専門医セルフトレーニング問題・26

発熱のため救急外来を受診した80代女性

著者: 喜瀬守人

ページ範囲:P.616 - P.619

セッティング
都市部基幹病院(350床)の総合診療科。外来では、成人の急性・慢性疾患を幅広く診療している他、時間外のウォークイン救急対応も行っている。病棟でも、専門医の治療を必要としない内科疾患の入院を引き受けている。

55歳からの家庭医療 Season 2|明日から地域で働く技術とエビデンス・32

—診療所家庭医が「病院」で教育活動を行うこと—Staff Development in Hospital Settings

著者: 藤沼康樹

ページ範囲:P.620 - P.625

 この数年、大学病院や大規模公的教育病院などのカンファレンスにアドバイザーとして呼ばれたり、主として総合診療科あるいは内科レジデントが家庭医としての私に症例相談をする会などを企画していただく機会が増えました。

“JOY”of the World!|ロールモデル百花繚乱・5

出会いに導かれた“パラレルキャリア”

著者: 蓮沼直子

ページ範囲:P.627 - P.631

 医師としては非典型的なキャリアを歩んできたと自覚している。初めての出産・子育てを留学先の米国で行い、帰国後は出産・子育てによる数年間の離職後にフルタイム復帰、そして仕事の主軸を「皮膚科医」から「医学教育」へとキャリアシフトした(表1)。現在は、医学教育を中心に、縮小はしているが皮膚科医としての臨床も継続しており、いわゆる“パラレルキャリア”なのかなと思う。医師のキャリアとしてはあまり参考にならないかもしれないが、私自身がターニングポイントにどのように向き合ってきたのか、振り返ってみたい。少しでも読者の先生方の参考になれば幸いです。

【臨床小説】後悔しない医者|あの日できなかった決断・第2話

急変させる医者

著者: 國松淳和

ページ範囲:P.632 - P.637

前回までのあらすじ 今月のナゾ
 泌尿器科で膀胱癌の治療中だった患者が、肺炎で入院していた。黒野は、いつもの体調不良で医局の奥で寝ていたが、急に起きてきて、その患者が心配だと言い出す。筧が確認すると、本当に想定外の発熱を起こしていた。しかも黒野は、ステロイドをすぐ投与しろと言う。筧以外の医師は、黒野の判断に疑問をもつが…。一方、筧は別のことを考えていた。5年前の奇妙な出来事のことで、黒野にどうしても訊きたいことがあったのだ。筧は、その真相を黒野に尋ねてみようと決心する。
 医師なら誰もが、突然の「急変」を経験する。なかには、そのために患者を亡くした医師もいるだろう。なぜ私たちは、それを見抜けないのか? なぜ私たちは判断を誤るのか?

投稿 GM Clinical Pictures

中年男性が自覚していた、慢性的な喉のつかえ感の原因は?

著者: 梶原祐策

ページ範囲:P.595 - P.596

CASE
患者:42歳、男性。
現病歴:当科で健診として上部消化管内視鏡検査を行ったところ、食道胃接合部から下部食道にかけて特異的な粘膜変化(図1)を認めた。検査後に追加で問診すると、数年前から喉のつかえ感があり、時に水や食べ物の通りにくさを自覚していたという。
既往歴:小児喘息。
社会生活歴・家族歴:特記すべきことなし。
身体所見:身長 177.3cm、体重76.4kg、バイタルサインに異常なし。腹部は平坦・軟で圧痛なし。
検査所見:白血球数は5,500/μLと正常範囲内で、好酸球数も396/μLと正常上限の500/μLを下回っていた。なお、炎症マーカーや栄養状態、肝・腎機能、耐糖能はすべて正常であった他、Helicobacter pylori感染を調べる迅速ウレアーゼ試験は陰性であった。
病理所見:食道の病変部から生検で得られた組織(図2)。

慢性の下痢・腹痛を呈する患者で見られた、疾患特異性が高い上部消化管病変

著者: 梶原祐策

ページ範囲:P.597 - P.599

CASE
患者:18歳、男性。
現病歴:高校卒業後、ホテルで働くようになってから下痢が見られ始め、仕事のことを考えると腹痛も生じるようになった。近医を受診したところ、「過敏性腸症候群」としてラモセトロンおよびチキジウムを処方されている。今回は入職半年経過後の健康診断で、白血球数・血小板数の上昇、および貧血を指摘され、精査加療目的で当科を受診された。
既往歴:17歳;痔瘻(外科クリニックで診断)。
社会生活歴・家族歴:特記すべきことなし。
身体所見:身長166cm・体重47kg(半年前は56kg)、体温37.6℃、血圧112/62mmHg、脈拍数92回/分、腹部は平坦・軟で圧痛なし。
検査所見:WBC 8,900/μL、CRP 7.27mg/dL、ESR 41mm/hrと炎症マーカーが上昇・亢進していた他、Pltは53.8×104/μLと上昇していた。低アルブミン血症(Alb 2.6g/dL)および貧血(Hb 9.5g/dL)も認められたが、肝・腎機能はいずれも正常であった。
画像所見:スクリーニングの上部消化管内視鏡検査(図1)。

#総合診療

#今月の特集関連本❶

ページ範囲:P.523 - P.523

#今月の特集関連本❷

ページ範囲:P.527 - P.527

#今月の特集関連本❸

ページ範囲:P.535 - P.535

#今月の特集関連本❹

ページ範囲:P.539 - P.539

#今月の特集関連本❺

ページ範囲:P.552 - P.552

#今月の特集関連本❻

ページ範囲:P.559 - P.559

#今月の特集関連本❼

ページ範囲:P.563 - P.563

#今月の特集関連本❽

ページ範囲:P.576 - P.576

#今月の特集関連本❾

ページ範囲:P.580 - P.580

#今月の特集関連本

ページ範囲:P.601 - P.604

#医学書院の新刊

ページ範囲:P.605 - P.607

#参加者募集

ページ範囲:P.607 - P.607

#書評:サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 第2版

著者: 倉原優

ページ範囲:P.609 - P.609

 名著『サパイラ』の原書第5版・翻訳第2版である。「身体診察」について1,000ページも書かれた本など、寡聞にして知らない。
 私は身体診察の教育に力を入れた病院で研修を受けたため、どちらかと言えば“アナログ”な医師である。6年前の前版で初めて『サパイラ』に触れたが、本書はこれまで学んだ身体診察技法を昇華させてくれる師となった。今でも時々読み返すくらいである。

#書評:—内科医に役立つ!—誰も教えてくれなかった尿検査のアドバンス活用術

著者: 清田雅智

ページ範囲:P.610 - P.610

 今日、ほとんどの大病院では中央検査室が標準的に整備され、医師自ら検体検査を行うことはほぼ皆無になっている。検体検査のなかでは「採血」を行うことが主流で、多くの疾患は血液検査から分析され診断されていくことが多い。「検尿」という地味な検査は、腎臓内科医や泌尿器科医を除くとこだわりをもってオーダーすることは少ないのではないか。しかし採血と異なり、尿検査の侵襲は少ないメリットがあり、深く診ていくと意外な気づきもあり、今日でも有用な武器であることには違いない。
 内科医として日常臨床でよく使用するのは、「第9章 尿路感染の起因菌は何か?」における尿中白血球と亜硝酸塩、pHの判断であろう。腎臓の大家Burton D. Roseも他書にて尿のpHの尿路感染での重要性を指摘しているが、きちんとした解釈がここに書かれている。また、「第17章 低ナトリウム血症をみたら尿をみろ」というのは確かにそのとおりで、ナトリウムに加えて尿酸を解釈することが重要であり、これを血液検査だけで診断するというのはありえない話だろう。低ナトリウムの解釈は、学生時代にはあまり教わらず研修医になり臨床現場で学ぶものの1つであり、ここに書かれている内容を読めば、マニュアルの背景がわかることだろう。同様に「第18章 低カリウム血症をみたら尿をみろ」も重要で、低カリウム血症の解釈では尿中Kの排泄を評価するために、K/Cr、TTKG、FEKなどの難解な解釈をHalperinの文献も用いて明確に論じている。

#書評:スパルタ病理塾—あなたの臨床を変える!病理標本の読み方

著者: 市原真

ページ範囲:P.611 - P.611

 冒頭3頁目で、私は早くも心をツカまれた。
 「内科では『初めに疾患ありき』の内科学の他に『初めに症候ありき』の内科診断学を勉強する時間が学生時代に十分あったのに、病理については『初めに疾患ありき』の病理学の授業はあっても『初めに所見ありき』の病理診断学をしっかり勉強する時間は設けられていなかったのです」

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目次

ページ範囲:P.510 - P.511

読者アンケート

ページ範囲:P.612 - P.612

『総合診療』編集方針

ページ範囲:P.639 - P.639

 1991年に創刊した弊誌は、2015年に『JIM』より『総合診療』に誌名を変更いたしました。その後も高齢化はさらに進み、社会構造や価値観、さらなる科学技術の進歩など、日本の医療を取り巻く状況は刻々と変化し続けています。地域医療の真価が問われ、ジェネラルに診ることがいっそう求められる時代となり、ますます「総合診療」への期待が高まってきました。これまで以上に多岐にわたる知識・技術、そして思想・価値観の共有が必要とされています。そこで弊誌は、さらなる誌面の充実を図るべく、2017年にリニューアルをいたしました。本誌は、今後も下記の「編集方針」のもと、既存の価値にとらわれることなく、また診療現場からの要請に応え、読者ならびに執筆者のみなさまとともに、日本の総合診療の新たな未来を切り拓いていく所存です。
2018年1月  『総合診療』編集委員会

『総合診療』バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.640 - P.641

お得な年間購読のご案内

ページ範囲:P.641 - P.642

次号予告

ページ範囲:P.643 - P.644

基本情報

総合診療

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2188-806X

印刷版ISSN 2188-8051

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バックナンバー

33巻12号(2023年12月発行)

特集 海の外へ渡る航行者を診る—アウトバウンドにまつわるetc.

33巻11号(2023年11月発行)

特集 —続・総合診療外来に“実装”したい—最新エビデンスMy Best 3

33巻10号(2023年10月発行)

特集 ○×クイズ110問!日常診療アップグレード—Choosing WiselyとHigh Value Careを学ぼう

33巻9号(2023年9月発行)

特集 ジェネラリストのための「発達障害(神経発達症)」入門

33巻8号(2023年8月発行)

特集 都市のプライマリ・ケア—「見えにくい」を「見えやすく」

33巻7号(2023年7月発行)

特集 “消去法”で考え直す「抗菌薬選択」のセオリー—広域に考え、狭域に始める

33巻6号(2023年6月発行)

特集 知っておくべき!モノクロな薬たち(注:モノクローナル抗体の話ですよ〜)

33巻5号(2023年5月発行)

特集 —疾患別“イルネススクリプト”で学ぶ—「腹痛診療」を磨き上げる22症例

33巻4号(2023年4月発行)

特集 救急対応ドリル—外来から在宅までの60問!

33巻3号(2023年3月発行)

特集 —自信がもてるようになる!—エビデンスに基づく「糖尿病診療」大全—新薬からトピックスまで

33巻2号(2023年2月発行)

特集 しびれQ&A—ビビッとシビれるクリニカルパール付き!

33巻1号(2023年1月発行)

特集 COVID-19パンデミック 振り返りと将来への備え

32巻12号(2022年12月発行)

特集 レクチャーの達人—とっておきの生ライブ付き!

32巻11号(2022年11月発行)

特集 不定愁訴にしない“MUS”診療—病態からマネジメントまで

32巻10号(2022年10月発行)

特集 日常診療に潜む「処方カスケード」—その症状、薬のせいではないですか?

32巻9号(2022年9月発行)

特集 総合診療・地域医療スキルアップドリル—こっそり学べる“特講ビデオ”つき!

32巻8号(2022年8月発行)

特集 こんなところも!“ちょいあて”エコー—POCUSお役立ちTips!

32巻7号(2022年7月発行)

特集 —どうせやせない!? やせなきゃいけない??苦手克服!—「肥満」との向き合い方講座

32巻6号(2022年6月発行)

特集 総合診療外来に“実装”したい最新エビデンス—My Best 3

32巻5号(2022年5月発行)

特集 「診断エラー」を科学する!—セッティング別 陥りやすい疾患・状況

32巻4号(2022年4月発行)

特集 えっ、これも!? 知っておきたい! 意外なアレルギー疾患

32巻3号(2022年3月発行)

特集 AI時代の医師のクリニカル・スキル—君は生き延びることができるか?

32巻2号(2022年2月発行)

特集 —withコロナ—かぜ診療の心得アップデート

32巻1号(2022年1月発行)

特集 実地医家が楽しく学ぶ 「熱」「炎症」、そして「免疫」—街場の免疫学・炎症学

31巻12号(2021年12月発行)

特集 “血が出た!”ときのリアル・アプローチ—そんな判断しちゃダメよ!

31巻11号(2021年11月発行)

特集 Q&Aで深める「むくみ診断」—正攻法も!一発診断も!外来も!病棟も!

31巻10号(2021年10月発行)

特集 医師の働き方改革—システムとマインドセットを変えよう!

31巻9号(2021年9月発行)

特集 「検査」のニューノーマル2021—この検査はもう古い? あの新検査はやるべき?

31巻8号(2021年8月発行)

特集 メンタルヘルス時代の総合診療外来—精神科医にぶっちゃけ相談してみました。

31巻7号(2021年7月発行)

特集 新時代の「在宅医療」—先進的プラクティスと最新テクノロジー

31巻6号(2021年6月発行)

特集 この診断で決まり!High Yieldな症候たち—見逃すな!キラリと光るその病歴&所見

31巻5号(2021年5月発行)

特集 臨床医のための 進化するアウトプット—学術論文からオンライン勉強会、SNSまで

31巻4号(2021年4月発行)

特集 消化器診療“虎の巻”—あなたの切実なギモンにズバリ答えます!

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31巻2号(2021年2月発行)

特集 肺炎診療のピットフォール—COVID-19から肺炎ミミックまで

31巻1号(2021年1月発行)

特別増大特集 新型コロナウイルス・パンデミック—今こそ知っておきたいこと、そして考えるべき未来

30巻12号(2020年12月発行)

特集 “ヤブ化”を防ぐ!—外来診療 基本の(き) Part 2

30巻11号(2020年11月発行)

特集 診断に役立つ! 教育で使える! フィジカル・エポニム!—身体所見に名を残すレジェンドたちの技と思考

30巻10号(2020年10月発行)

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30巻9号(2020年9月発行)

特集 いつ手術・インターベンションに送るの?|今でしょ! 今じゃないでしょ! 今のジョーシキ!【感染症・内分泌・整形外科 編】

30巻8号(2020年8月発行)

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