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雑誌目次

雑誌文献

総合診療30巻6号

2020年06月発行

雑誌目次

特集 下降期慢性疾患患者の“具合”をよくする—ジェネラリストだからできること!

著者: 藤沼康樹

ページ範囲:P.654 - P.655

高齢社会日本におけるプライマリ・ケアの現場は、医療の入り口であると同時に、最期のよりどころにもなりつつあります。特に在宅医療においては,医療受容度の高い在宅患者が増加傾向にあります。つまり、一般外来や在宅医療に携わっている総合診療医にとって、慢性疾患の下降期から終末期を診るための知識と技術が、高いレベルで求められるようになっています。下降期慢性疾患は、適切な治療により進行を遅らせたり、病態を改善させることが可能な場合も多々あります。症状緩和にとどまらない医療が求められる領域でもあり、本特集では、そうしたニーズに資する内容を目指しました。

今月の「めざせ! 総合診療専門医!」問題

ページ範囲:P.738 - P.741

本問題集は、今月の特集のご執筆者に、執筆テーマに関連して「総合診療専門医なら知っておいてほしい!」「自分ならこんな試験問題をつくりたい!」という内容を自由に作成していただいたものです。力試し問題に、チャレンジしてみてください。

【総論】

❶今なぜ、下降期慢性疾患なのか?

著者: 藤沼康樹

ページ範囲:P.656 - P.658

「下降期慢性疾患」とは?
 下降期慢性疾患とは、現時点ではその明確な定義があるわけではないが、COPDをはじめとした慢性呼吸器疾患、慢性心不全、慢性腎臓病などの慢性疾患が徐々に進行し、患者の症状コントロールが難しくなり、外来通院あるいは在宅ケアと入院治療を行ったり来たりするようになる状態のことをいう。下降期慢性疾患をもつ患者は、徐々にそれまで通っていた大病院専門診療科への2〜3カ月に一度の通院が難しくなり、また状態が不安定になってくるため、頻回の受診が必要になる。ちなみに、専門診療科に2〜3カ月に一度の通院で特に問題のない状態は、“安定期慢性疾患”と言ってよいだろう。
 大病院の専門診療科は、不安定な下降期慢性疾患患者の頻回受診に適した外来診療システムをもっていない。したがって、そうした患者は、地域の診療所や在宅に「日常的な管理をお願いします」と紹介されることが多くなる。時に「BSC(best supportive care)の方針となっております」と紹介状に記載されていることもある。BSCとなったなら、もはや専門診療科の仕事の領域から外れるので、「地域に戻す」ということは、現代の病診連携のトレンドとなっていると思うし、筆者自身、下降期慢性疾患患者のケアを、診療所外来で行う頻度が増えているという実感をもっている。

❷下降期慢性疾患患者のセルフケアと支援

著者: 谷本真理子

ページ範囲:P.660 - P.665

なぜ、下降期慢性疾患患者に注目したか?
 20年以上も前の話である。長く慢性疾患を病んで亡くなる患者に、最後まで侵襲の強い治療がなされたり、「自己管理不良」といわれたり、医師・看護師が患者の医療ケアにやりがいをもてず、患者の不満そうな表情や諦め感が漂う雰囲気に、筆者は疑問を感じていた。当時、「終末期ケア」といえば、がん患者の終末期ケアのことであり、教科書にも参考書にも、慢性疾患患者の終末期ケアについての記載は見当たらなかった。
 今後、増加が見込まれるがん以外の慢性疾患患者のケアについて明らかにする必要があると感じ、この時期の患者を「下降期慢性疾患患者」と称して、ケアの研究をすることにした(“下降期”という言葉は、CorbinとStraussによる病みの軌跡理論1,2)を多いに参考にしている)。

【外来と在宅で診ている下降期慢性疾患】 1.進行した慢性呼吸不全

❶進行した慢性呼吸不全の病態生理の特徴

著者: 本橋健史 ,   角野太朗

ページ範囲:P.666 - P.669

 慢性呼吸不全とは呼吸不全、すなわち「室内気吸入時の動脈酸素分圧が60Torr以下となる呼吸障害、又はそれに相当する呼吸障害を呈する異常状態」が1カ月以上続く状態と定義されています1)。具体的には、COPD・喘息・間質性肺炎・肺結核後遺症などが挙げられますが、本稿では、日常臨床で最もよく遭遇するCOPDにおける病態生理の特徴を概説します。

❷病歴と身体所見で迫るCOPDの予後予測

著者: 立石翔 ,   梶有貴

ページ範囲:P.670 - P.672

 日々の臨床現場において、慢性呼吸器疾患を有する患者に関わることは多いと思われる。患者の身体状態を正確に把握すると同時に、それが不可逆に進行した状態(=下降期)にあたるのか否かを把握するためには、病歴や身体所見、簡単な検査から、予後を予測することが重要となる。
 本稿では、進行した慢性呼吸不全を呈する疾患の代表であるCOPDに焦点を当て、簡便に予後予測を行うために有用な病歴と身体所見についてまとめていこう。

❸症状別 薬物療法のコツとピットフォール—COPDを例として

著者: 松本祐昂 ,   湊真弥

ページ範囲:P.673 - P.676

COPD患者の苦痛とは?
 慢性呼吸不全のなかでも最も頻度が高いのは、COPD(慢性閉塞性肺疾患)である。
 本稿ではCOPDを中心に、症状緩和に有用な薬物療法をみていく。なお、間質性肺炎の苦痛症状とそのマネジメントについては、文献を参照いただきたい1〜3)

❹在宅酸素療法を使いこなす

著者: 嘉手納壮志 ,   伊藤涼

ページ範囲:P.677 - P.679

在宅酸素療法の効果
 在宅酸素療法(home oxygen therapy:以下HOT)を導入することで、下記の効果が期待される。

❺NPPVや在宅呼吸療法とは何か?—適応とフォローアップ

著者: 村田夕紀 ,   安本有佑

ページ範囲:P.680 - P.682

 NPPV(noninvasive positive pressure ventilation:非侵襲的陽圧換気療法)、TPPV(tracheostomy positive pressure ventilation:気管切開下陽圧換気療法)は、急性呼吸不全のみでなく、慢性呼吸不全の在宅呼吸療法として認知されてきた1)
 本稿では、下降期慢性呼吸不全へのNPPV、TPPVの使用について解説する。

2.進行した慢性心不全

❶進行した慢性心不全の病態生理の特徴

著者: 近藤真未 ,   岡田悟

ページ範囲:P.683 - P.686

 社会の高齢化に伴って、今日の外来や在宅診療の場で、進行期の慢性心不全の患者さんに触れる機会が増えている。本稿では、進行期慢性心不全の特徴について、心理・社会的な面も含めた総合的な病態について述べる。

❷慢性心不全の予後予測—身体診察と検査のフォローアップ

著者: 齋藤惣太 ,   岡田悟

ページ範囲:P.687 - P.689

 心不全診療において、身体所見や検査所見は、病状の増悪がないかをチェックするためのパラメータである。本稿では、急性心不全における身体所見・検査所見は他書に譲り、慢性心不全の予後予測に焦点を当てて述べていきたい。主に外来・在宅医療のセッティングを念頭に置いて、下降期慢性心不全に対する予後予測のために必要なフォロー項目を学んでいく。

❸症状別 薬物療法のコツ

著者: 畠中俊 ,   岡田悟

ページ範囲:P.690 - P.692

 悪性腫瘍の終末期と比べ、下降期心不全に対する薬物療法のエビデンスは少ない。慢性心不全に対して基本となる薬剤を可能な限り継続しつつ、終末期に向けて出現してくる呼吸困難、倦怠感、疼痛など各症状への緩和的対症療法が必要となる。本稿では、外来あるいは在宅で可能な治療として、主に内服薬を取り上げ、点滴投与する薬剤についても一部紹介する。
 なお、心不全は主にHFrEFやHFpEF(HFmrEFは省略)に分類されるが、根本的にHFpEFに対する効果的な治療は確立されておらず、薬剤のエビデンスも少ないため、リスク因子への介入が重要とされていることを先に述べておく。

❹在宅酸素療法を使いこなす

著者: 立石哲則 ,   岡田悟

ページ範囲:P.693 - P.695

 慢性心不全(chronic heart failure:以下CHF)は、適切な薬物治療を行ったとしても、急性増悪を繰り返しながら経過とともに緩徐に進行する、慢性進行性疾患である。終末期心不全患者の88%に最終的に呼吸困難があるとされ1)、CHFの診療で最も聞かれる症状の1つだろう。CHFに伴う呼吸困難に対しての薬物療法は他稿に譲り、本稿では、プライマリ・ケアの場で導入する機会も多い在宅酸素療法(home oxygen therapy:以下HOT)の適応、および効果について概説する。

❺入院の適切なタイミングはどこにあるか?

著者: 氷渡柊 ,   岡田悟

ページ範囲:P.696 - P.698

 慢性心不全は、入院と退院を繰り返すケースが多いが、どのような時に入院を考慮するべきなのか、判断が難しいと感じることはないだろうか?
 本稿では、入院の適応について、実践に即した形でまとめた。

3.進行した慢性腎臓病

❶進行した慢性腎臓病の病態生理の特徴

著者: 志水英明

ページ範囲:P.699 - P.701

 CKD(慢性腎臓病)は、推算GFR(糸球体濾過量、以下eGFR)により6段階に分類され1)、腎機能と尿蛋白の程度と末期腎不全・心血管死リスクを踏まえたCKDステージで分類されている。eGFRは腎臓の排泄機能を示し、蛋白尿は腎臓での糸球体障害の程度を表している。そのため同じeGFRであっても、腎不全のリスクは蛋白尿の程度によって異なる(表1)。
 腎障害が進む機序は、腎炎、加齢などで障害が起こり、ネフロン数(糸球体・Bowman囊・尿細管)の喪失となり、残存する糸球体に濾過圧上昇と糸球体高血圧をきたしてさらにネフロンが喪失し、腎機能が悪化していく。eGFRによるステージ分類の数値を覚えやすくするツールとして、GFR時計が提唱されている(図1)2〜4)

❷血液透析療法の適応の考え方

著者: 三浦靖彦

ページ範囲:P.702 - P.705

透析療法は臨床倫理の原型である
 侵襲性のある医療行為を実施するうえでの、患者の同意(インフォームド・コンセント)の取得の必要性については、誰もが納得するであろう。では、「患者が拒否している医療行為を、患者の意に反して強引に行うことは可能か?」と問われれば、これは、虐待行為にも該当するであろうことから、いかに高名な医師でも、強引に、これを行うことはできないであろう。その観点から考えれば、血液透析のように侵襲を伴う医療行為には、患者の同意が必須であることは論を待たない。では、患者が透析医療を拒否している場合に、どうしたらよいであろうか?

❸CKDの診察のポイント—身体診察と検査のフォローアップ

著者: 志水英明

ページ範囲:P.706 - P.709

診察のポイント
◦病歴・既往歴・家族歴
 CKD(慢性腎臓病)の原因疾患を推測するのに、病歴・既往歴・家族歴が有用である。高齢患者で長年の高血圧治療歴がある場合は腎硬化症が、また糖尿病があり網膜症の治療歴がある場合には糖尿病性腎症が、家族歴に透析や多発性囊胞腎の病歴がある場合は多発性囊胞腎などの遺伝性疾患が疑われる。日本の透析導入原因は、糖尿病性腎症(約40%)、慢性糸球体腎炎、腎硬化症の順である。

❹薬物療法のコツ—降圧薬と利尿薬、高カリウム血症改善薬の使い方

著者: 辻憲二 ,   喜多村真治 ,   和田淳

ページ範囲:P.710 - P.713

 慢性腎臓病(chronic kidney disease:以下、CKD)の進行に伴って、腎予備能が低下するとともに、高血圧、浮腫、高カリウム血症、貧血など、さまざまな異常所見が顕在化しやすく、それぞれが腎障害の加速因子となりうる。腎予後の改善や心血管合併症予防の観点から、臨床所見や検査データを基に、それぞれの病態に対して食事療法や薬剤療法を行い、厳格に管理する。

❺透析療法をしない場合の症状への対応—浮腫、食思不振等

著者: 辻憲二 ,   喜多村真治 ,   和田淳

ページ範囲:P.714 - P.716

透析非導入について
 末期腎不全に至った場合に、透析治療を選択するか、あるいは透析非導入を選択して人生の最終段階を迎えるかの決定は、患者のみならず、家族の人生をも左右する重要なものである。日本透析医学会は、2007年に厚生労働省より公表された「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を基に、2014年に「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」を公表している1)
 さらに2018年に厚生労働省より「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が公表され、協働意思決定(shared decision making:以下SDM)および人生会議やACP(advanced care planning)の重要性が指摘されたことを受け、日本透析医学会は提言作成委員会を立ち上げ、新たな提言を令和2年3月に作成予定としている。SDMは医療者と患者が協働して、患者にとって最善の医療上の決定をするに至るコミュニケーションのプロセスである。ACPは今後の治療およびケアについて患者・家族と医療従事者が繰り返し話し合いを行い、患者の意思決定を支援するプロセスである(本特集内p.731の川口論文参照)。

4.その他の疾患

❶進行したParkinson病に対する薬物療法の留意点

著者: 関守信

ページ範囲:P.717 - P.720

 Parkinson病は、中脳の黒質-線条体系ドパミン神経細胞の変性・脱落により生じる進行性の神経変性疾患である。日本では人口10万人あたり100〜150人と推定されているが、人口の高齢化に伴い、患者数の大幅な増加が見込まれており、Parkinson pandemicという用語も提唱されている1)。従来は運動緩慢・無動、静止時振戦、筋強剛、姿勢保持障害に代表される運動障害を呈する疾患と考えられていたが、近年、さまざまな非運動症状(精神症状、自律神経障害、感覚障害、睡眠障害、認知症など)を呈することが明らかになっている2)
 進行したParkinson病がどのような状態を指すかは定まった定義はないが、「パーキンソン病診療ガイドライン2018」3)には「パーキンソン病の進行期は、薬効が不安定になり運動合併症が生じた時期、あるいは姿勢反射障害が出現し、仕事や日常生活に支障を生じるようになった時期である」と記載されている。さらに、高度進行期は「薬物療法に反応しない運動症状(すくみ足、転倒、姿勢反射障害、嚥下障害、構音障害など)が出現し、認知機能障害、幻覚・妄想、起立性低血圧、排尿障害、便秘などの非運動症状も重篤化した段階と定義する」との記載がある。

❷進行した認知症の周辺症状(BPSD)への対応—薬物療法と非薬物療法

著者: 髙瀬義昌

ページ範囲:P.721 - P.724

 2025年には認知症者は730万人になるとの推計がある1)。認知症のうち、最も数の多いAlzheimer型認知症の最大リスクは加齢であり、超高齢社会を迎えた日本にとっては、必然の状況といえる。
 ここで改めて認知症の定義について確認したい。「認知症とは一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態を言い、それが意識障害のないときにみられる」(日本神経学会)とされる。認知機能低下の原因疾患は70以上あるともいわれており、そのなかには慢性硬膜下血腫や脳腫瘍、うつや薬剤によるものなども含まれる。私たちは、認知機能の低下があるとの訴えの際には、改善可能なものがあることを念頭に置き、それらを見逃さないことが重要である。そのうえで、日常生活・社会生活に大きな影響を及ぼすBPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia)、すなわち、認知症の行動・心理症状に対処しなければならない。

【トピックス】

❶在宅透析治療の現状

著者: 篠田俊雄

ページ範囲:P.725 - P.727

 在宅透析治療には、在宅血液透析(home hemodialysis : 以下HHD)と、在宅腹膜透析(home peritoneal dialysis : 以下HPD*)があるが、どちらも従来の通院での血液透析(hemodialysis : 以下HD)と比べて、通院回数と通院の拘束時間が大きく軽減でき、ライフスタイルに合った治療方法を患者自身が選択できるため、患者の社会復帰を容易にするだけでなく、患者にとって満足度が高い治療を行うことが可能である。一方、医療知識が乏しい患者自らが行うためのリスクを伴うので、治療を安全に行うためには、医療者による十分な教育指導と、患者自身の高い自己管理意識が不可欠となる。
 本稿では、HHDとHPDの歴史と特徴を概説する。

❷末期慢性心不全患者の外来点滴療法

著者: 佐藤幸人

ページ範囲:P.728 - P.730

 超高齢化社会を迎えた今、心不全患者は増加しているが、心不全は入退院を繰り返し死に至る疾患である。その平均年齢は80歳を超え、がん、認知症、腎不全などの併存症も多く、社会的・家庭的にも多くの問題点を抱えるようになってきている。「心不全は根治が望めない、進行性かつ致死性の疾患である」とし、ACP(advance care planning)と緩和ケアについての提唱も行われるようになってきた。また、2018年12月には「脳卒中・循環器病対策基本法案」が国会を通過して成立し、今後はまさに国策として、心不全の診療大系が地域包括ケア構想に沿って構築されることになる。
 地域での話として、具体的には入院回避と在宅看取りも重要課題であるが、当院では1995年から入院回避、または在宅看取りの1つの方法として、「3, 4時間の外来点滴」という方法を取り入れており、本稿ではその概要を述べる。在宅管理を望まれる方の入退院回避や、認知症があり入院での管理が困難な方に有用であると考えている1〜4)

❸下降期慢性疾患とACP(advance care planning)

著者: 川口篤也

ページ範囲:P.731 - P.734

ACPの基本的な姿勢
 本稿ではACP(advance care planning)の定義として、「年齢や病期を問わず、患者が自身の価値観、人生の目標、今後の医療に対する希望を理解・共有することを支援するプロセスである。ACPの目標は、重篤な疾患や慢性の疾患を抱える患者が、自身の価値観、目標、希望に沿った医療を確かに受けられるよう支援することである。また、多くの患者にとって、このプロセスは、患者自身で意思決定ができなくなった時に備えて、医療の意思決定を行う他に信頼できる人(々)を選び、準備しておくことが含まれる」というSudoreらの定義1)を採用する。
 厚生労働省の定義には“人生の最終段階”という文言が入るが、本来のACPとは人生の最終段階に限ったことではなく、まだ死が差し迫っていない元気なうちから、価値観や選好などを話し合って共有しておくことも大事である。自分が慢性疾患を抱えた患者の主治医であると自覚している場合には、上記のような話し合いをタイミングを見計らって、意識的に始めることが必要かもしれない。

Editorial

SARS-CoV-2パンデミックと家庭医

著者: 藤沼康樹

ページ範囲:P.645 - P.645

 文芸評論家である福嶋亮大氏のエッセイ1)によれば、SARS-CoV-2(2019新型コロナウイルス)の特異な性質の1つは、それによる感染の症状が、無症状〜感冒様症状〜急性肺炎〜多臓器不全までスペクトラムがあるものの、総じて嗅覚低下症状も含めて、呼吸器系の症状が中心であり、麻疹、エボラ出血熱、ペストなどに見られるような、急速に死に至るような劇的な経過や派手な皮疹や出血といった症状に乏しい、自己表現の「凡庸」さにあるという。さらに、無症状者が多いゆえに「どこに=誰に感染しているのか」がわからないようになっており、いわば自身の身を静かに隠す性質をもっていて、これを福嶋氏は「自己隠匿性」と呼んでいる。この凡庸かつ自己隠匿的である特徴が、東日本大震災後に懸念され続けてきた放射性物質の特徴との相同性があり、災害と復興の観点から今回のパンデミックに関する考察を加えているが、深いところで励ましを感じるエッセイである。
 また、パンデミックの影響下、最も甚大な被害を受けた国の1つであるイタリアの若い小説家が緊急出版したエッセイ集2)には、物理学・数学を学んだ文学者ならではの、パンデミックに関する科学コミュニケーション力に優れた解説と、気候変動や環境問題との関連、個々人の生活と倫理をめぐる問題が、密度高く記述されている。そして、今この時期に、今後忘れてはいけないと思ったことを、個々人が書き留めておこうというメッセージが説得力に満ちている。

“コミュ力”増強!「医療文書」書きカタログ・1【新連載】

5分で書けて、1分で読める!病院ERへの緊急紹介状

著者: 天野雅之

ページ範囲:P.744 - P.749

今月の文書
診療情報提供書
セッティング:診療所→病院への救急搬送
患者:53歳、男性。急性冠症候群(ACS)疑い。
【登場人物】
桜井:臨床研修医2年目。部長の診療応援に同行し、診療所研修へ。
飛鳥:総合診療科医師。桜井の指導医。
葛城:総合診療科部長。
棟野:紹介先の病院の循環器内科医。

What's your diagnosis?[210]

金がないジンジャエール

著者: 久田敦史 ,   竹内元規 ,   佐藤哲彦 ,   横江正道 ,   宮川慶 ,   田口雄一郎 ,   吉見祐輔 ,   野口善令

ページ範囲:P.648 - P.652

病歴
患者:21歳、女性、大学生
主訴:両下肢痛、足の趾が勝手に動く
現病歴:初診2週間前より、両下肢にチリチリした痛みを自覚(図1)。初診4日前、左足趾が勝手に、規則的に動くようになった。初診2日前、両下肢の痛みが強く、眠れなかった。症状が増悪傾向にあり、当科受診。原因特定は難しく、再診予定を立てて帰宅としたが、初診翌日、左足趾が激しく動くようになり、初診2日後、再診となった。現在就職活動中で、面接時などに足趾の動きが大きくなるという。
既往歴:18歳、尿路結石で手術
嗜好品:喫煙なし、アルコールは機会飲酒
内服薬:エピナスチン20mg、補中益気湯2.5g頓用
アレルギー:なし

【エッセイ】アスクレピオスの杖—想い出の診療録・3

訴えられなかった主訴

著者: 須藤博

ページ範囲:P.743 - P.743

本連載は、毎月替わる著者が、これまでの診療で心に残る患者さんとの出会いや、人生を変えた出来事を、エッセイにまとめてお届けします。

Dr.上田剛士のエビデンス実践レクチャー!医学と日常の狭間で|患者さんからの素朴な質問にどう答える?・3

食後に走るとなぜお腹は痛くなる?

著者: 上田剛士

ページ範囲:P.750 - P.752

患者さんからのふとした質問に答えられないことはないでしょうか? 素朴な疑問ほど回答が難しいものはないですが、新たな気づきをもたらす良問も多いのではないでしょうか? 本連載では素朴な疑問に、文献的根拠を提示しながらお答えします!

オール沖縄!カンファレンス|レジデントの対応と指導医の考えVer.2.0・42

関節痛と浮腫は一元的に説明できるか?

著者: 萩原啓太 ,   小山淳 ,   徳田安春

ページ範囲:P.753 - P.756

CASE
患者:78歳、男性。
主訴:発熱、右肩関節痛。
現病歴:結石性胆管炎にて消化器内科入院中。内視鏡的逆行性胆管ドレナージ・結石除去・抗菌薬加療を行い、入院時の心窩部痛と血液検査の肝胆道系上昇は改善がみられるものの、発熱・CRP上昇継続、1カ月前からの右肩関節痛も続いており、消化器内科研修中の初期研修医を通じて内科コンサルト。
併存症:結石性胆管炎(入院13日目)、低アルブミン血症。
既往歴:高血圧、高尿酸血症。
薬剤歴:点滴静注;セフメタゾール1g/12時間、内服;ロサルタン50mg 1錠、1日1回、ドキサゾシン1mg 1錠、1日2回。
喫煙・飲酒歴:なし。
職業:無職。
アレルギー歴:なし。

素人漢方のススメ|感染症編・6

—第3章│急性発熱性疾患❸—新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)と漢方治療

著者: 鍋島茂樹

ページ範囲:P.757 - P.759

 今号は、依然感染が止まらない(注:本稿執筆時2020年4月現在)新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)と漢方治療に関して考えてみましょう。
 現時点でCOVID-19に有効な治療は確立されていませんが、未知の感染症であっても、漢方はそこに治療の可能性を開くことができます。歴史的には、漢方は多くの新興感染症(つまり傷寒)に対抗するために発展した医学です。

“JOY”of the World!|ロールモデル百花繚乱・6

生まれ変わっても脳神経外科医に

著者: 加藤庸子

ページ範囲:P.760 - P.764

 私が医師となり、諸先輩方や後輩、患者様らと接していくなかで学ばせていただいたこと、それは「どの人もrespect(尊敬・尊重)しながら、どの人からも学ぶものを得て、自身の成長につなげる」ことでした。毎日、小さな目標を持ち、それを目指して日々頑張る。このことが、結果的には大きな夢の実現につながると信じています。
 私のキャリアの概略を、表1に示した。

【臨床小説】後悔しない医者|あの日できなかった決断・第3話

急変させない医者

著者: 國松淳和

ページ範囲:P.767 - P.773

前回までのあらすじ 今月のナゾ
 筧は、黒野の奇妙な能力に気づいていた。時間を戻すことができる。こんな映画や小説のような非科学的なことができるわけないと思いつつも、黒野は否定しなかった。筧は昔、自分のミスで患者を失ったことがある。その記憶と実感はあるのに、その事実がないことにずっと違和感を持っていた。そして前回、黒野が勧めるステロイド投与をためらった筧は、再び自身の患者を失ったはずだったが…。なぜ黒野は、肺炎と思しき患者へのステロイド投与を示唆したのか?
 私たちは、研修医の頃から「鑑別疾患」を羅列することに腐心してきた。実際に患者を目の前にした状況で、それをすることは実は難しい。知識さえあれば想起できるわけではないからだ。「鑑別診断」とは何か? その時、医師に必要とされる能力とは?

#総合診療

#今月の特集関連本❶

ページ範囲:P.658 - P.659

#今月の特集関連本❷

ページ範囲:P.669 - P.669

#今月の特集関連本❸

ページ範囲:P.672 - P.672

#今月の特集関連本❹

ページ範囲:P.682 - P.682

#今月の特集関連本❺

ページ範囲:P.686 - P.686

#今月の特集関連本❻

ページ範囲:P.698 - P.698

#今月の特集関連本❼

ページ範囲:P.713 - P.713

#医学書院の新刊

ページ範囲:P.736 - P.737

#編集室に届いた執筆者関連本

ページ範囲:P.737 - P.737

#今月の連載関連本❶

ページ範囲:P.749 - P.749

#今月の連載関連本❷

ページ範囲:P.752 - P.752

#今月の連載関連本❸

ページ範囲:P.766 - P.766

#書評:レジデントのための呼吸器診療最適解—ケースで読み解く考えかた・進めかた

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.735 - P.735

 最適化理論による数量モデルを利用すると、アウトカムを最大化させるような変数の解を求めることができる。これが最適解だ。数学では、微分積分法などを用いて推定する。医療分野への応用では、感染症疫学での流行カーブを遅らせて小さくするためのパブリック・ヘルス的介入を求める方法がある。今、世界的に流行している新型コロナウイルス感染拡大に対する介入においても、その最適解を求めて研究者が数量モデルをつくり政策立案者に提言している。
 しかし、日常診療において患者さんにとっての最適解を求めるには、変数とその組み合わせが無数にあるため、数量モデル化は困難だ。医学部受験のために勉強した微積分を使うことはできない。“患者さんのための最適解”を求めるには、どうすればよいのか?

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目次

ページ範囲:P.646 - P.647

『総合診療』編集方針

ページ範囲:P.653 - P.653

 1991年に創刊した弊誌は、2015年に『JIM』より『総合診療』に誌名を変更いたしました。その後も高齢化はさらに進み、社会構造や価値観、さらなる科学技術の進歩など、日本の医療を取り巻く状況は刻々と変化し続けています。地域医療の真価が問われ、ジェネラルに診ることがいっそう求められる時代となり、ますます「総合診療」への期待が高まってきました。これまで以上に多岐にわたる知識・技術、そして思想・価値観の共有が必要とされています。そこで弊誌は、さらなる誌面の充実を図るべく、2017年にリニューアルをいたしました。本誌は、今後も下記の「編集方針」のもと、既存の価値にとらわれることなく、また診療現場からの要請に応え、読者ならびに執筆者のみなさまとともに、日本の総合診療の新たな未来を切り拓いていく所存です。
2018年1月  『総合診療』編集委員会

読者アンケート

ページ範囲:P.775 - P.775

『総合診療』バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.776 - P.777

お得な年間購読のご案内

ページ範囲:P.777 - P.778

次号予告

ページ範囲:P.779 - P.780

基本情報

総合診療

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2188-806X

印刷版ISSN 2188-8051

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33巻12号(2023年12月発行)

特集 海の外へ渡る航行者を診る—アウトバウンドにまつわるetc.

33巻11号(2023年11月発行)

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33巻9号(2023年9月発行)

特集 ジェネラリストのための「発達障害(神経発達症)」入門

33巻8号(2023年8月発行)

特集 都市のプライマリ・ケア—「見えにくい」を「見えやすく」

33巻7号(2023年7月発行)

特集 “消去法”で考え直す「抗菌薬選択」のセオリー—広域に考え、狭域に始める

33巻6号(2023年6月発行)

特集 知っておくべき!モノクロな薬たち(注:モノクローナル抗体の話ですよ〜)

33巻5号(2023年5月発行)

特集 —疾患別“イルネススクリプト”で学ぶ—「腹痛診療」を磨き上げる22症例

33巻4号(2023年4月発行)

特集 救急対応ドリル—外来から在宅までの60問!

33巻3号(2023年3月発行)

特集 —自信がもてるようになる!—エビデンスに基づく「糖尿病診療」大全—新薬からトピックスまで

33巻2号(2023年2月発行)

特集 しびれQ&A—ビビッとシビれるクリニカルパール付き!

33巻1号(2023年1月発行)

特集 COVID-19パンデミック 振り返りと将来への備え

32巻12号(2022年12月発行)

特集 レクチャーの達人—とっておきの生ライブ付き!

32巻11号(2022年11月発行)

特集 不定愁訴にしない“MUS”診療—病態からマネジメントまで

32巻10号(2022年10月発行)

特集 日常診療に潜む「処方カスケード」—その症状、薬のせいではないですか?

32巻9号(2022年9月発行)

特集 総合診療・地域医療スキルアップドリル—こっそり学べる“特講ビデオ”つき!

32巻8号(2022年8月発行)

特集 こんなところも!“ちょいあて”エコー—POCUSお役立ちTips!

32巻7号(2022年7月発行)

特集 —どうせやせない!? やせなきゃいけない??苦手克服!—「肥満」との向き合い方講座

32巻6号(2022年6月発行)

特集 総合診療外来に“実装”したい最新エビデンス—My Best 3

32巻5号(2022年5月発行)

特集 「診断エラー」を科学する!—セッティング別 陥りやすい疾患・状況

32巻4号(2022年4月発行)

特集 えっ、これも!? 知っておきたい! 意外なアレルギー疾患

32巻3号(2022年3月発行)

特集 AI時代の医師のクリニカル・スキル—君は生き延びることができるか?

32巻2号(2022年2月発行)

特集 —withコロナ—かぜ診療の心得アップデート

32巻1号(2022年1月発行)

特集 実地医家が楽しく学ぶ 「熱」「炎症」、そして「免疫」—街場の免疫学・炎症学

31巻12号(2021年12月発行)

特集 “血が出た!”ときのリアル・アプローチ—そんな判断しちゃダメよ!

31巻11号(2021年11月発行)

特集 Q&Aで深める「むくみ診断」—正攻法も!一発診断も!外来も!病棟も!

31巻10号(2021年10月発行)

特集 医師の働き方改革—システムとマインドセットを変えよう!

31巻9号(2021年9月発行)

特集 「検査」のニューノーマル2021—この検査はもう古い? あの新検査はやるべき?

31巻8号(2021年8月発行)

特集 メンタルヘルス時代の総合診療外来—精神科医にぶっちゃけ相談してみました。

31巻7号(2021年7月発行)

特集 新時代の「在宅医療」—先進的プラクティスと最新テクノロジー

31巻6号(2021年6月発行)

特集 この診断で決まり!High Yieldな症候たち—見逃すな!キラリと光るその病歴&所見

31巻5号(2021年5月発行)

特集 臨床医のための 進化するアウトプット—学術論文からオンライン勉強会、SNSまで

31巻4号(2021年4月発行)

特集 消化器診療“虎の巻”—あなたの切実なギモンにズバリ答えます!

31巻3号(2021年3月発行)

特集 ライフステージでみる女性診療at a glance!—よくあるプロブレムを網羅しピンポイントで答えます。

31巻2号(2021年2月発行)

特集 肺炎診療のピットフォール—COVID-19から肺炎ミミックまで

31巻1号(2021年1月発行)

特別増大特集 新型コロナウイルス・パンデミック—今こそ知っておきたいこと、そして考えるべき未来

30巻12号(2020年12月発行)

特集 “ヤブ化”を防ぐ!—外来診療 基本の(き) Part 2

30巻11号(2020年11月発行)

特集 診断に役立つ! 教育で使える! フィジカル・エポニム!—身体所見に名を残すレジェンドたちの技と思考

30巻10号(2020年10月発行)

特集 —ポリファーマシーを回避する—エビデンスに基づく非薬物療法のススメ

30巻9号(2020年9月発行)

特集 いつ手術・インターベンションに送るの?|今でしょ! 今じゃないでしょ! 今のジョーシキ!【感染症・内分泌・整形外科 編】

30巻8号(2020年8月発行)

特集 マイナーエマージェンシー門外放出—知っておくと役立つ! テクニック集

30巻7号(2020年7月発行)

特集 その倦怠感、単なる「疲れ」じゃないですよ!—筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群とミミック

30巻6号(2020年6月発行)

特集 下降期慢性疾患患者の“具合”をよくする—ジェネラリストだからできること!

30巻5号(2020年5月発行)

特集 誌上Journal Club—私を変えた激アツ論文

30巻4号(2020年4月発行)

特集 大便強ドリル—便秘・下痢・腹痛・消化器疾患に強くなる41問!

30巻3号(2020年3月発行)

特集 これではアカンで!こどもの診療—ハマりがちな11のピットフォール

30巻2号(2020年2月発行)

特集 いつ手術・インターベンションに送るの?|今でしょ! 今じゃないでしょ! 今のジョーシキ!【循環器・消化器・神経疾患編】

30巻1号(2020年1月発行)

特集 総合診療医の“若手ロールモデル”を紹介します!—私たちはどう生きるか

27巻12号(2017年12月発行)

特集 小児診療“苦手”克服!!—劇的Before & After

27巻11号(2017年11月発行)

特集 今そこにある、ファミリー・バイオレンス|Violence and Health

27巻10号(2017年10月発行)

特集 めまいがするんです!─特別付録Web動画付

27巻9号(2017年9月発行)

特集 うつより多い「不安」の診かた—患者も医師も安らぎたい

27巻8号(2017年8月発行)

特集 見逃しやすい内分泌疾患─このキーワード、この所見で診断する!

27巻7号(2017年7月発行)

特集 感染症を病歴と診察だけで診断する!Part 3 カリスマ編

27巻6号(2017年6月発行)

特集 「地域を診る医者」最強の養成法!

27巻5号(2017年5月発行)

特集 コミュニケーションを処方する—ユマニチュードもオープンダイアローグも入ってます!

27巻4号(2017年4月発行)

特集 病歴と診察で診断できない発熱!—その謎の賢い解き方を伝授します。

27巻3号(2017年3月発行)

特集 これがホントに必要な薬40—総合診療医の外来自家薬籠

27巻2号(2017年2月発行)

特集 The総合診療ベーシックス—白熱!「総合診療フェスin OKINAWA」ライブ・レクチャー! 一挙公開 フィジカル動画付!

27巻1号(2017年1月発行)

特集 総合診療の“夜明け”—キーマンが語り尽くした「来し方、行く末」

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