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文献詳細

雑誌文献

総合診療31巻7号

2021年07月発行

文献概要

特集 新時代の「在宅医療」—先進的プラクティスと最新テクノロジー 【各論Ⅰ】東日本大震災から10年—「福島」における地域医療の今

「福島市」の在宅医療の現状と課題—仮設住宅での看取りに学んだ「住まい」の意味

著者: 橋本孝太郎1

所属機関: 1医療法人社団爽秋会 ふくしま在宅緩和ケアクリニック

ページ範囲:P.837 - P.840

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Case(仮想症例)
患者:80代、男性。直腸がん末期、転移性肝腫瘍。福島第一原発がある福島県双葉郡(p.832)からの避難者で、福島市内の「仮設住宅」に在住。同居家族は妻のみだが、同一敷地内の仮設住宅群の別棟に娘夫婦・孫がいた。もともと住んでいた地域の住民もこの仮設住宅群に多くいたが、県外に避難した者も多かった。もとのかかりつけ医も被災しており、主治医変更も余儀なくされた。
現病歴:東日本大震災後に化学療法が長期間中止され、その間に全身状態も悪化したため、「在宅緩和ケア」を目的に当院紹介となった。介入当初はPS(performance status)3程度で、なんとか室内歩行は可能であった。
 訪問看護・訪問介護・訪問薬剤管理サービスを利用し、娘家族・地域住民も積極的に介入してくれたおかげで、仮設住宅においても通常と同等の医療・ケアを提供でき、その場で最期を迎えることができた。しかし、本人・家族らのパーソナルスペースを確保しプライバシーを保つこと、双葉郡の自宅への想い、コミュニティを失った寂しさを埋めることは難しく、仮設住宅での療養環境は決して良いものではなかった。

参考文献

1)厚生労働省:在宅医療にかかる地域別データ集(2019年度).厚生労働省ホームページ,2021. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000061944.html
2)福島県:平成23年東北地方太平洋沖地震による被害状況即報(第1775報).ふくしま復興ステーション(復興情報ポータルサイト),2021. https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/shinsai-higaijokyo.html
3)Hikichi H, et al:Six-year follow-up study of residential displacement and health outcomes following the 2011 Japan Earthquake and Tsunami. Natl Acad Sci U S A. 118(2) : e2014226118, 2021. PMID 33397722
4)Kunii Y, et al : Severe psychological distress of evacuees in evacuation zone caused by the Fukushima daiichi nuclear power plant accident ; the Fukushima Health Management Survey. PLoS One 11(7) : e0158821, 2016. PMID 27391446
5)Calhoun LG, et al. 2006/宅香奈子,他(監訳):心的外傷後成長ハンドブック—耐え難い体験が人の心にもたらすもの.pp31-65,医学書院,2014.
6)World Health Organization:Integrating palliative care and symptom relief into primary health care : a WHO guide for planners, implementers and managers. WHO, 2018. https://apps.who.int/iris/handle/10665/274559

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:2188-806X

印刷版ISSN:2188-8051

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