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特集 メンタルヘルス時代の総合診療外来—精神科医にぶっちゃけ相談してみました。 【総論2】
精神科の診断を再考する—精神疾患の「力動的モデル」とは?
著者: 西依康1
所属機関: 1自治医科大学 精神医学講座
ページ範囲:P.958 - P.963
文献購入ページに移動“素人診断(lay diagnosis)”の問題
我々は日常生活のなかで、“素人診断”することがある。それは隣人や同僚、あるいは新聞に載るような社会的人物に対してであったりする。専門家としてであっても、談話室や議事録が残らない検討会のような場所で、——人格障碍注1)、発達障碍などといった——ある種の素人診断をしていないだろうか? 診断名の体裁をとってはいても、直接の診察や厳密な臨床推論を経ていないという意味では、精神科医による素人診断もありうる注2)。
こうした素人診断はほとんどの場合、診断される当人に伝えられることはない。おそらくそれは、診断される当人よりも、診断する我々のための診断なのだ。診断するということは、それがなければ露わになるであろう不安を覆い隠し、それに対処する勇気を我々に引き起こす。そしてこの不安を覆い隠すという点にこそ、診断の最初の役目は求められるに違いない。だから現代精神医学体系の祖であるクレペリン(1856-1926)もまた、現代のような診断がなかった時代に、精神病院で最初に感じた不安を書き残している。体系づけられた学問と、それに裏打ちされた診断がなければ、混沌とした病理現象を前にして、医師は途方に暮れるだろう。
我々は日常生活のなかで、“素人診断”することがある。それは隣人や同僚、あるいは新聞に載るような社会的人物に対してであったりする。専門家としてであっても、談話室や議事録が残らない検討会のような場所で、——人格障碍注1)、発達障碍などといった——ある種の素人診断をしていないだろうか? 診断名の体裁をとってはいても、直接の診察や厳密な臨床推論を経ていないという意味では、精神科医による素人診断もありうる注2)。
こうした素人診断はほとんどの場合、診断される当人に伝えられることはない。おそらくそれは、診断される当人よりも、診断する我々のための診断なのだ。診断するということは、それがなければ露わになるであろう不安を覆い隠し、それに対処する勇気を我々に引き起こす。そしてこの不安を覆い隠すという点にこそ、診断の最初の役目は求められるに違いない。だから現代精神医学体系の祖であるクレペリン(1856-1926)もまた、現代のような診断がなかった時代に、精神病院で最初に感じた不安を書き残している。体系づけられた学問と、それに裏打ちされた診断がなければ、混沌とした病理現象を前にして、医師は途方に暮れるだろう。
参考文献
1)Szasz T : The myth of mental illness. American Psychologist 15 : 113-118, 1960/河合洋,他(訳):精神医学の神話.岩崎学術出版社,1975. 〈反精神医学の古典〉
2)Boorse C : Health as a theoretical concept. Philosophy of Science 44(4) : 542-573, 1977. 〈ブールスの最も引用される論文の1つ〉
3)Wakefield JC : The concept of mental disorder ; on the boundary between biological facts and social values. American Psychologist 47 : 373-388, 1992. PMID 1562108 〈ウェイクフィールドの最も引用される論文の1つ〉
4)Canguilhem G : Essai sur quelques problèmes concernant le normal et le pathologique(1943). Le normal et le pathologique, augmenté de Nouvelles réflexions concernant et le pathologique(1966.1943年の改題新版)/滝沢武久(訳):正常と病理.法政大学出版局,1987. 〈医学哲学の議論では必ずといっていいほど参照される名著〉
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