総合診療32巻5号

2022年05月発行

特集 「診断エラー」を科学する！—セッティング別 陥りやすい疾患・状況 【セッティングⅣ】在宅診療

—オーバービュー—「在宅診療」における診断エラー

著者： 木島庸貴¹²

所属機関： ¹島根大学医学部 総合医療学講座 ²大田総合医育成センター 大田市立病院

ページ範囲：P.611 - P.615

Case
患者：62歳、男性。2年前に脳梗塞を発症し、右片麻痺、失語症あり。1年前から自宅療養中で、当院より訪問診療を行っている。主介護者の妻と2人暮らし。
現病歴：「朝から調子が悪そう」と妻から連絡があり、正午頃に臨時往診となった。妻より「横になると苦しそう」とのこと、ベッドのリクライニングを起こして様子をみていた。失語のため、本人からの情報収集は困難。臥位にて、体温37.2℃、血圧130/80mmHg、脈拍数95回/分、SpO₂ 93％（室内気）、呼吸数24回/分、表情は苦悶様。身体診察では、頸静脈怒張は認めず、胸部聴診に異常なし、腹部圧痛は認めない。臥位で苦悶症状あるが、起きると少し軽減する。心電図に異常所見なし。なお、診療所は30分ほど離れた場所にあり、検査はCBC（血算）・CRP（C反応性蛋白）・血糖・尿検査は可能、その他は外部に委託、ポータブルエコーはなし。
　以上より起坐呼吸と考え、「心不全」疑いにて救急外来に紹介したところ、血液検査・胸腹部CT検査の結果、「急性上気道炎」疑いにて抗菌薬を処方されて帰宅となった。しかし3日後、全身状態が悪化し再度臨時往診。救急外来で実施された腹部CTで胆のう腫大の指摘もあり、「急性胆のう炎」疑いにて外科紹介とし、同診断にて同日緊急手術が行われた。

参考文献

1）Crombie DL : Diagnostic process. J Coll Gen Pract 6（4） : 579-589, 1963. PMID 14073679 〈英国のGP（general practitioner）による診断プロセスに関する古典的な研究〉

2）Hampton JR, et al : Relative contributions of history-taking, physical examination, and laboratory investigation to diagnosis and management of medical outpatients. Br Med J 31（2） : 486-489, 1975. PMID 1148666 〈診断における問診・身体診察・検査の関与についての古典的な研究〉

3）Peterson MC, et al : Contributions of the history, physical examination, and laboratory investigation in making medical diagnoses. West J Med 156（2）, 163-165, 1992. PMID 1536065 〈米国で行われた診断における問診と身体診察と検査の関与についての研究〉

4）Alessi CA, et al : A prospective study of acute illness in the nursing home. Aging （Milano）10（6） : 479-489, 1998. PMID 10078318 〈米国のnursing homeで行われた急性疾患に関する1年間の前向き研究〉

5）Yokobayashi K, et al : Prospective cohort study of fever incidence and risk in elderly persons living at home. BMJ open 4（7） : e004998, 2014. PMID 25009132 〈日本の在宅高齢者の発熱リスクに関する前向き研究〉

6）Skinner TR, et al : Diagnostic errors in older patients ; a systematic review of incidence and potential causes in seven prevalent diseases. Int J Gen Med 9 : 137-146, 2016. PMID 27284262 〈併存疾患をもつ高齢者の診断エラーに関するシステマティックレビュー〉

7）Singh H, et al : The frequency of diagnostic errors in outpatient care ; estimations from three large observational studies involving US adult populations. BMJ Qual Saf 23（9） : 727-731, 2014. PMID 24742777 〈米国のプライマリ・ケア外来における診断エラーの頻度に関する研究〉

8）Kijima T, et al : Diagnostic difficulties and factors affecting diagnosis in acutely ill elderly Japanese patients living at home. Int J Gerontol 12（4） : 326-330, 2018. 〈日本の在宅高齢者で緊急入院となった症例の診断精度と、診断精度に関係する要因を検討した研究〉

9）de Dombal FT : Acute abdominal pain in the elderly. J Clin Gastroenterol 19（4） : 331-335, 1994. PMID 7876517 〈年齢による急性腹痛の診断精度と死亡率の違いについて記述されている〉

10）World Health Organization : Diagnostic Errors ; Technical Series on Safer Primary Care. 2016. https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/252410/9789241511636-jpn.pdf（2022年4月4日現在） 〈プライマリ・ケアにおける診断エラーとその対応について記述されており、日本語翻訳版も公開されている〉

11）Graber ML, et al： The new diagnostic team. Diagnosis（Berl）4（4） : 225-238, 2017. PMID 29536943 〈診断は特定の医師だけが責任を負うものではなく、「診断チーム」として機能することとメンバーの役割が記載されている〉