icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

総合診療32巻7号

2022年07月発行

雑誌目次

特集 —どうせやせない!? やせなきゃいけない??苦手克服!—「肥満」との向き合い方講座

著者: 小澤労 ,   矢吹拓

ページ範囲:P.800 - P.801

 日本人の男性の3人に1人、女性の5人に1人が「肥満」とされています(2019年)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により“コロナ太り”“在宅勤務太り”といった新たな問題も登場し、その数はさらに増えているかもしれません。
 肥満は、さまざまな疾患のリスク因子です。COVID-19の重症化リスク因子にもなっています。ところが、「食べすぎないで」「運動してください」と減量指導をしても、なかなかやせない患者さんを前に「どうしたものか…?」と悩んだことはありませんか? 指導の効果がなかなか出ないと、医師自身に苦手意識やネガティブな感情が芽生えてしまうことも…。
 一方、容姿や体型に対する「ルッキズム」が社会問題になるなど、肥満に対する「スティグマ」の問題も見逃せません。肥満は、単に医学的な問題ではないのです。その原因には社会的・経済的格差や遺伝的要因などもあり、単に個人の努力の問題でもありません。
 肥満というプロブレムに向き合う時、「体重」や「BMI」という数字だけはなく、患者さんの思いや生活、さらにその背景にまで目を向ける必要があります。そこで本特集では、すぐに活かせるエビデンスに基づく肥満診療を具体的かつ実践的に紹介するに加えて、医療人類学や倫理的観点からも肥満を見つめ直しました。患者さんが抱える複雑な問題を多面的に理解し、みなさんが「肥満」と向き合う一助にしていただけたなら嬉しく思います。

今月の「めざせ! 総合診療専門医!」問題

ページ範囲:P.867 - P.868

本問題集は、今月の特集のご執筆者に、執筆テーマに関連して「総合診療専門医なら知っておいてほしい!」「自分ならこんな試験問題をつくりたい!」という内容を自由に作成していただいたものです。力試し問題に、チャレンジしてみてください。

【総論】「健康問題」としての肥満

❶なぜ「やせましょう」だけではうまくいかないのか?

著者: 小澤労

ページ範囲:P.802 - P.804

 厚生労働省の「2019年 国民健康・栄養調査結果」1)によれば、成人男性の33.0%、成人女性の22.3%が、「過体重/肥満(BMI≧25)」であった。男性の3人に1人、女性の5人に1人と言えば、私たちにとって「肥満」がいかに身近なプロブレムであるか、想像にかたくない。「肥満に起因ないし関連し、減量を要する健康障害」として、表12)の疾患群が列挙されている。また、新型コロナウイルス感染症の重症化リスク因子にもなっている(p.811)。これらの疾患を日頃から診療する医師にとって、「肥満診療」が切っても切れない問題であることは間違いなさそうだ。

❷肥満の疫学と社会的決定要因—“下流”における「公衆衛生」実践のススメ

著者: 本間陽一郎

ページ範囲:P.805 - P.808

世界で「肥満」が問題に
 現在、世界の人々は、どんな理由で苦しんでいるのだろうか? 疾病により失われた生命や生活の質を評価する指標として、「疾病負荷(global burden of disease:GBD)」がある。米・ワシントン大学医学部の保健指標評価研究所(Institute for Health Metrics and Evaluation:IHME)が主導する「GBD研究」は、障害や生活の質の度合いを考慮した健康指標を用いた世界的な観察疫学研究で、更新ごとに『Lancet』で特集されている。最新(2019年)のGBD研究では、204の国や地域からデータが集められ、369の疾病や外傷、それらの疾病に至った87のリスクが列挙されている1)
 最新のGBDレポートによると、世界の健康は確実に改善している。世界の平均余命は、2000年の67.2歳から、2019年には73.5歳へと増加していた。さらに健康寿命は、204の国・地域のうち、202で増加していた。世界における疾病構造の変化も読みとれる。1990年は「下気道感染症」や「下痢症」などが上位だが、2019年では「虚血性心疾患」「脳卒中」「COPD(慢性閉塞性肺疾患)」「糖尿病」などが取って代わった2)

❸肥満って、ホントに健康に悪いの?—疾患リスク因子としての肥満

著者: 柴﨑俊一

ページ範囲:P.809 - P.813

Case
知人からの健康相談
 42歳、男性。会社の健診で2年前から「耐糖能異常」(空腹時血糖132mg/dL、HbA1c 6.3%)と「高血圧症」(150/80mmHg程度)を指摘されている。20代後半から徐々に体重が増え、現在80kg(身長175cm、BMI 26)。
「健康のためにやせたほうがいいって妻から言われたんだけど、やせないとマズイかな?」
 あなたはどう答えますか?

❹「内分泌器官」としての脂肪細胞—肥満に関する基礎研究最前線

著者: 山口哲志 ,   和田淳

ページ範囲:P.814 - P.819

 脂肪組織は、脂肪滴にエネルギーを貯蔵する「白色脂肪組織(white adipose tissue:WAT)」と、ミトコンドリアが豊富で熱産生能をもつ「褐色脂肪組織(brown adipose tissue:BAT)」に大別される。近年、白色脂肪組織内に寒冷刺激によりUCP1(uncoupling protein 1)を発現し熱産生能を有する「ベージュ脂肪細胞」が誘導されることが注目されている。ベージュ脂肪細胞の熱産生を制御することは「糖尿病」の病態を改善する可能性があり、治療ターゲットとして活発に研究されている。
 また、脂肪組織はさまざまな生理活性物質を産生し、オートクライン、パラクライン、さらに循環血流を介して、ホルモンとして他の組織の細胞へとシグナルを伝達する。このような生理活性物質は、「アディポカイン」と総称される。本稿では、代表的なアディポカインとして、「レプチン」「アディポネクチン」「バスピン」について概説する。加えて脂肪組織からは、細胞膜と同じ脂質二重膜で形成される大きさ40〜160nmの細胞外小胞である「エクソソーム」も分泌される。エクソソームには蛋白質・脂質・核酸が含まれており、細胞間コミュニケーションを介して「糖尿病」や「肥満」の病態形成に重要であると考えられている。このエクソソームについても、最近の知見を中心に概説する。

肥満は「病気」か?

❶—医療人類学の視点から—肥満は単に「生物医学的」な問題か?

著者: 美馬達哉

ページ範囲:P.820 - P.824

Case
肥満を仲間と一緒に肯定する
 小学校教員だったある女性は、太っているために結婚生活が破綻したと思い、体型に強い劣等感をもっていた。彼女は、甘いものを食べることに罪悪感があったが、「ファット・アクセプタンス運動」の総会のデザート・パーティーに勇気をもって参加して、仲間と楽しく過ごし、すべてのデザートを味わった。
 彼女は、その経験を「太ったと思って帰ってから測ったら、逆に体重が何kgも減っていた。きっと楽しくリラックスしていたから。本当なのよ」と嬉しそうに語ったという。肥満には、数字で表される過体重だけではなく、情動や自己肯定に関わる心理的・社会的次元の問題が含まれているとわかる。(碇1)の事例7から再構成)

❷—肥満をめぐる倫理的問題—医師は「スティグマ」にどう向き合うべきか?

著者: 玉手慎太郎

ページ範囲:P.825 - P.829

Case
相談者:45歳、女性。医師。
 病院での仕事を終えて家に帰ると、リビングで娘(高校1年生)が泣いていた。事情を聞くと、学校でクラスメイトに「ぼってりマリトッツォ」と呼ばれ、からかわれたのだという(娘の名前はマリという)。実のところ、たしかに娘は過体重であり、医師としては健康上の観点から、やせる必要があるとつねづね心配に思っていた。
 今回の出来事は、娘に日々の運動や食生活の改善を求めるよい機会かもしれないが、しかしそうすることは、彼女を容姿によって否定するクラスメイトたちに加担することになる。他方で、「それはからかうほうが悪いのだ。太っていることは、あなたの個性だ。マリトッツォのイメージは、むしろふんわりしていてかわいいと思う」と言うこともできるが、そうすると娘は太っていることを肯定的にとらえ、過体重は継続し、疾患のリスクは高いままとなるかもしれない。どうすればよいだろうか?

【実践編】忙しい外来でもできる! エビデンスに基づく肥満診療

❶外来でできる多面的な「栄養指導」—“リバウンド症例”へのアプローチ

著者: 長井直子

ページ範囲:P.830 - P.834

Case
患者:30代、女性
現病歴:幼少期より肥満体型で、20歳の時にはすでに体重が100kg(BMI 37.2)あり、26歳で「糖尿病」と診断されて内服加療を開始した。挙児希望あり、27歳の時に他施設にて食事療法およびインスリン療法を導入したが、この時には体重101kg(BMI 37.6)、HbA1c 11.2%、随時血糖315mg/dLであった。10日間の短期入院で98kg(BMI 36.4)まで減量したが、半年後には112kg(BMI 41.6)にリバウンドした。また、HbA1cは7.1%まで改善したが、その後に増悪し不良な状態のまま経過した。33歳で最大体重117kg(BMI 43.5)となり、その後当院を受診した。
 何度も栄養指導を受けていたが、減量とリバウンドを繰り返し、食事療法を継続できなかった。エネルギー制限を中心とした栄養指導だけでは、継続的な減量は困難と考えられた。
併発症・既往歴:糖尿病、高LDLコレステロール血症、高トリグリセリド血症
家族歴:父;肥満症・糖尿病、母;肥満症・高血圧、姉;肥満症
生活背景:夫と2人暮らし。調理師(1日8,000歩)。運動習慣なし。
投薬内容:インスリンリスプロ(4-4-4-0)単位、インスリンデテミル(0-0-0-10)単位。メトホルミン1,500mg、イプラグリフロジン100mg、ピオグリタゾン30mg、リラグルチド0.9mg。
初回栄養指導時所見:身長164cm、体重112kg、BMI 41.6。腹囲119.1cm。血圧126/85mmHg、脈拍数84回/分・整。
空腹時血液検査:HbA1c 8.7%、Glu 150mg/dL、CPR 3.6ng/mL、LDL-Chol 155mg/dL、HDL-Chol 56mg/dL、TG 164mg/dL

❷外来でできる「運動療法」—肥満治療における運動の意義と勧め方

著者: 勝川史憲

ページ範囲:P.835 - P.839

Case
運動継続の効果を長期間観察しえた一例
患者:初診時34歳(現在59歳)、男性。会社員。身長180cm、体重104kg、BMI 32.1。
現病歴:食事療法とウォーキングにより、6カ月で10%の減量を達成し維持していた。しかし2年目以降、ウォーキングを続けるも、体重は再増加し110kg台となる。その後、仕事がストレスフルな状況となり、勤務時間外もすぐ対応できるよう携帯電話を持ってスポーツジムに長時間滞在するようになり、体重は90kg台となる。(営業職のため)飲酒機会は多く、受診前から会社診療所で処方されていた降圧薬は体重減少後も継続しているが、体重・血圧以外の健診項目は正常範囲。受診後25年が経過し、整形外科的問題のため運動継続に種々の障害が出始め、体重は漸増している。
 体重コントロールは、長期間にわたる課題であることが実感される。今後、定年退職による飲酒習慣の変化がどのように影響するか、興味がもたれる。

❸外来でできる「動機づけ面接」—“チェンジトーク”を引き出そう

著者: 大杉満

ページ範囲:P.840 - P.844

Case
患者:50歳男性、会社員(食品を扱う営業職)。
患者「体重が減らなくて、肥満外来があると聞いて紹介されてきました」
医師「問診票を見ると、今まで体重に苦しめられてきて、今がよい機会だと思ったのですね。紹介されたきっかけや、体重に向き合おうと思ったきっかけを教えてください」
患者「体重が増えたのは会社に入って、営業成績によって収入も上がるし、会社内外の付き合いが多かったせいだと思います。逆に営業成績が伸びなければ、そのストレス解消で食べてしまうことも多かったです」
医師「なるほど。付き合いや接待などが断りきれないこともあったのでしょうか?」
患者「それもあります。それに仕事柄、食べ物を扱うし、食べることも嫌いではないので…」
医師「なるほど。繰り返しですが、今回こちらを受診したきっかけは?」
患者「だんだん着る服も大きなサイズのものばかりになって選択肢がなくなってきているし、数年前から会社の健康診断で血圧が高くなっていると言われていて…。産業医には、体重を何とかしないと残業制限にすると言われたのですが、具体的に何をしたらよいかは教えてくれなくて。運動して食べるものを我慢すればいいって、忙しいし、そんなの無理だと思ったんです」
医師「それでも、今回は受診してみることにしたんですね。何か心配なことがあるのですか?」
患者「まだ子どもも小学生で、かかりつけの先生には高血圧の薬を飲むか聞かれたのですが、痛くもつらくもないので薬は飲みたくないし。薬に頼らない方法を聞いたら、体重を減らすのが一番と言われて、意を決してやってきました」
医師「それは、よい決断をしましたね。今日はまずは問診票に従って、日常生活のことを詳しく聞かせてください」

❹「小児」の肥満問題と具体的なアプローチ

著者: 德永修

ページ範囲:P.845 - P.849

Case
肥満外来通院後、順調な改善を認めた軽度知的障害・自閉傾向を伴う小児肥満症例
患者:10歳、女児
家族歴:父;若年時より肥満、睡眠時無呼吸症候群にてCPAP治療中
現病歴:軽度知的障害・自閉傾向にて、小学1年生時より特別支援学級に在籍。その後、2年生の頃から肥満傾向が増悪し、5年生時に当院小児肥満外来を受診した。
 初診時肥満度は41.6%。これまでも食事療法などを試していたが効果を認めず、母からは「発達特性もあるため、いろいろ言っても効果がないんです」との発言がみられた。シンプルな課題を提示することで本人の意欲を引き出すことを試み、順調に体重は減少。初診から1年後には肥満度6.6%へと改善した。現在(中学2年生)も継続して通院中。陸上競技部に在籍し、肥満度12%を維持している。(図1)

❺—内科医が押さえておきたい—「減量・代謝改善手術」の適応と種類、特有の合併症

著者: 春田英律 ,   齋藤心 ,   細谷好則

ページ範囲:P.850 - P.853

Case
2型糖尿病を合併する高度肥満症患者に減量・代謝改善手術を行った一例
患者:38歳、女性。身長158cm、体重103kg、BMI 41.3
基礎疾患:2型糖尿病(インスリン使用中)
現病歴:幼少時より肥満傾向。20歳時には体重60kg台で推移していたが、出産後より体重増加が顕著となった。35歳で「2型糖尿病」と診断され、内服・インスリン治療を受けていた。
 主治医より肥満・代謝改善手術を勧められ当院を紹介受診。術前検査で重症の「閉塞型睡眠時無呼吸症候群」を認め、CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)を導入した。「肥満関連疾患を有する高度肥満症」の診断で、腹腔鏡下スリーブ状胃切除術を行った(保険診療)。術直後より血糖値は安定。治療薬を使用せずにHbA1c 5.4%となり、糖尿病は完全寛解した。術後1年で体重69kgになり、-34kgの減量に成功し、CPAPも離脱できた。

【コラム】「減量・代謝改善手術」体験記

著者: 花岡亮輔

ページ範囲:P.854 - P.854

 20歳時の私の身長は163cm、体重は52kg、BMIは19.5だった。医学部の臨床実習が始まった24歳の時から太り出し、2年後の医学部卒業時には70kg前後まで体重が増えていた。

トピックス

❶「抗肥満薬」の位置づけと治療戦略

著者: 司馬熙 ,   玉井道裕

ページ範囲:P.855 - P.860

Case
肥満により「乾癬性関節炎」の治療に難渋している一例
患者:50歳、男性。30代からBMI 38。
現病歴:10年前に尋常性乾癬を発症。2年前から末梢関節炎・付着部炎が出現し、脊椎関節炎と診断。生物学的製剤が導入され、症状は改善傾向となった。しかし、足底腱膜炎のみ改善せず、立つのがつらくて仕事を辞めてしまった。肥満が免疫学的にも物理的にも足底腱膜炎の悪化要因であることは明らかだが、やせたい気持ちはあっても足底腱膜炎のため運動もできない。HbA1cは7.0%。通常の食事療法では減量できず、患者から「やせる薬はないか。断食してもよいか」と質問された。

❷肥満に対する“民間アプローチ”のエビデンス

著者: 藤川裕恭

ページ範囲:P.861 - P.863

Case
患者:25歳、女性
主訴:発熱、悪寒
現病歴:両側大腿部の「脂肪吸引術」を受けた。手術翌日、急な発熱・悪寒・節々の痛み・下痢を呈し、救急要請した。
 病院到着時、低血圧・頻脈・40℃超の発熱・意識障害を呈していた。全身性の発赤、急性腎障害・肝障害もあった。特徴的な病歴および徴候から、手術後の「黄色ブドウ球菌性毒素性ショック症候群」を疑い、入院で治療を行うことにした。

❸肥満対策における「ナッジ」の可能性

著者: 竹林正樹

ページ範囲:P.864 - P.866

Case
 19時に健康教室を開始し、10人が参加した。最初に医師が開催趣旨を説明し、その後、栄養士が流れを説明し、「食生活の10のポイント」を読み上げた。1時間の座学のあと、栄養士が「常に食生活に気をつけてください」と念を押し、今後の手続きなどを事務連絡して終えた。次回の申込みは3人だった。

Editorial

肥満とは何か?

著者: 小澤労 ,   矢吹拓

ページ範囲:P.791 - P.791

白状するが、この特集を組むまでは本当に肥満診療が苦手であった。
 外来でどんどん血糖降下薬を追加しても血糖が下がらず、体重さえ減ればきっと薬も減らせるのに…と思い、患者と一生懸命取り組んではみるものの、なかなか減量にはつながらず、つい陰性感情をもってしまうことがあった。そんな感情があっても診療には何もいいことがないと押し殺して、「患者さん自身の身体のことだから、仕方がないよね」と減量指導を避けてしまうこともあった。レジデントから肥満症患者について相談されても、あまりプラクティカルなことは言えず、もやもやした気持ちをずっともっていた。

What's your diagnosis?[235]

大成功! 感動大作戦

著者: 伊藤裕司

ページ範囲:P.794 - P.797

病歴
患者:66歳、男性
主訴:発熱、頭痛、皮疹
現病歴:入院10カ月前、数cm大の瘙痒感を伴う皮疹、38℃台の発熱、顔の腫れ、頭痛を訴えて当科紹介受診。炎症反応上昇・大球性貧血を認め、胸腹部CTで腫瘍性病変なし。結節性紅斑としてプレドニゾロン(PSL)20mg/日で治療。速やかに症状は改善したが、PSL減量と共に何度か再燃を繰り返した。骨髄検査で染色体異常はなかったが、骨髄異形成症候群(MDS)と診断された。
 入院4カ月前、PSL 5mg+コルヒチン1mg/日を内服中に、38℃台の発熱、有痛性紅斑(図1)、眼球結膜の充血、口腔内潰瘍を認めた。皮膚科で皮膚生検を施行され、Sweet症候群と診断。眼科ではぶどう膜炎・前房内炎症所見なし。MDSに伴う自己炎症性疾患として、ジアフェニルスルホン、シクロスポリンA、アザシチジンなどを順次併用したが、ステロイド減量に伴って再度39℃台の発熱を認めたため入院での精査とした。
生活歴:機会飲酒、喫煙なし、アレルギーなし
既往歴:Basedow病
薬剤歴:PSL 5mg 1日1回、コルヒチン0.5mg 1日2回、アザシチジン130mg×5日間

【エッセイ】アスクレピオスの杖—想い出の診療録・27

主治医交代

著者: 玉井道裕

ページ範囲:P.799 - P.799

本連載は、毎月替わる著者が、これまでの診療で心に残る患者さんとの出会いや、人生を変えた出来事を、エッセイにまとめてお届けします。

フィジカル・ラウンド・オンライン・4

下肢の浮腫は何のせい?

著者: 松山拓 ,   矢吹拓 ,   平島修

ページ範囲:P.870 - P.875

矢吹:今月もやってきましたPROの時間です! 今回は松山先生がプレゼンターです。
平島:お! きたきた! 松山先生はねぇ、ホントに良いキャラなんですよ。

オール沖縄!カンファレンス|レジデントの対応と指導医の考えVer.2.0・66

3年前から歩行困難を訴える58歳女性

著者: 徳田暁拓 ,   本村和久 ,   徳田安春

ページ範囲:P.876 - P.880

CASE
患者:58歳、女性。
主訴:来院3年前からの歩行困難。
現病歴:来院3年前から歩行時に時々左足で躓いてしまうようになった。自分では力が入りにくいと感じており、平地でも躓いてしまう。歩き始めから躓きやすく、長く歩いて悪化することはない。徐々に躓く回数が増加し、歩行する度に気になるようになったため近医を受診したところ、歩行障害精査のため当院総合内科外来を紹介された。頭痛はない。近年の体重減少も認めない。
既往歴:健診で糖尿病を指摘される。高度難聴(30年前から出現し、15年前からほとんど聞こえず、以降、呂律も徐々に増悪。耳鼻咽喉科受診歴なし)。
生活歴:飲酒歴なし、喫煙歴なし。夫・長男と3人暮らしで、他に娘が2人いる。高校を中退して2年前まで清掃業の仕事をしていた。現在は無職。
内服歴:常用薬なし。サプリメント・漢方薬内服なし。
家族歴:血縁者に糖尿病、低身長、難聴の既往なし。
アレルギー歴:なし。

高齢者診療スピードアップ塾|効率も質も高める超・時短術・7

「転院」は15分で終わらせろ!

著者: 増井伸高

ページ範囲:P.892 - P.894

 「高齢者の転院が必要だ!」。そう判断してから患者さんが病院を出発するまで、何分かかりますか? 救急医目線で言えば、目標は「15分」です。「高齢者だと短すぎる」「他の患者もいて無理」という意見もあると思います。しかし今回の解説を通読していただければ、実施可能とわかってもらえるハズ。そのノウハウを早速確認してみましょう。

Dr.上田剛士のエビデンス実践レクチャー!医学と日常の狭間で|患者さんからの素朴な質問にどう答える?・28

爪の成長速度から学ぶこと

著者: 上田剛士

ページ範囲:P.895 - P.898

患者さんからのふとした質問に答えられないことはないでしょうか? 素朴な疑問ほど回答が難しいものはありませんが、新たな気づきをもたらす良問も多いのではないでしょうか? 本連載では素朴な疑問に、文献的根拠を提示しながらお答えします!

【臨床小説—第二部】後悔しない医者|今と未来をつなぐもの・第27話

“なんとなく”を解する医者

著者: 國松淳和

ページ範囲:P.899 - P.904

前回までのあらすじ 今月のナゾ
 「この患者さん、今日の夕方、足が動かなくなる」という向後の“予言”どおりに、その患者(83歳・男性)は左足が利かなくなった。「血管炎」だった。右井は、直前の診察で下垂足になっていないこと、前脛骨筋に脱力がないことを確認していた。検査所見にも、軽微な炎症反応以外に所見はなかった。しかし向後は、異常を認めないはずのCT画像を一瞥し、「左の鼠径リンパが腫れていた」と言った。向後はいったい何を見ているのか? 右井は、わずかな異常所見も即座に指摘する熟練の画像診断医に「なぜわかるのか」と尋ね、「なんとなく」とはぐらかされたことを思い出していた。
 一方、西畑が頭ケ島白浜病院に到着し、向後チームが明るく出迎えた。ついに西畑は向後との邂逅を果たした。
 今回、順調に後期研修を進める西畑が、向後の外来の陪席で“気になる患者さん”に出会う。新型コロナウイルスのワクチン接種後の患者さんである。「なんとなく変」。変と変じゃないの境界に一線を引くことはできないが、そのあわいのグラデーションが西畑にも「なんとなく」見え始めている。

投稿 総合診療病棟

外科的肺生検により特発性多中心性Castleman病と診断した1例

著者: 西山和宏 ,   松野真佑美 ,   河合将尉 ,   平松佑斗 ,   岡田暁人 ,   村田直彦 ,   竹中大喜 ,   山川英夫 ,   鈴木博貴 ,   若山尚士

ページ範囲:P.881 - P.884

Castleman病は、病理学的にリンパ濾胞の過形成や濾胞間の形質細胞の増殖を特徴とする、多クローン性のリンパ増殖性疾患である。今回われわれは、健診を契機に発見され、肺病変に対して外科的生検を施行することで診断した特発性多中心性Castleman病の1例を経験したので報告する。

#総合診療

#今月の特集関連本❶

ページ範囲:P.808 - P.808

#今月の特集関連本❷

ページ範囲:P.819 - P.819

#今月の特集関連本❸

ページ範囲:P.824 - P.824

#今月の特集関連本❹

ページ範囲:P.829 - P.829

#今月の特集関連本❺

ページ範囲:P.839 - P.839

#今月の特集関連本❻

ページ範囲:P.849 - P.849

#今月の特集関連本

ページ範囲:P.886 - P.887

#今月の連載関連本

ページ範囲:P.894 - P.894

#医学書院の新刊

ページ範囲:P.888 - P.889

#書評:—外来でよく診る—病気スレスレな症例への生活処方箋—エビデンスとバリューに基づく対応策

著者: 大谷泰夫

ページ範囲:P.887 - P.887

 これまでは、人間の健康状態を「健康か病気か」という二分法で区分して対処してきた。しかし、その両者は連続した変化のなかに存在している。特に「生活習慣病」の分野では、人はある日突然病気に陥るのではなく、予兆段階を経て発症し、重篤化していく。こうした流れを念頭に置いて、従来型の健康観とは異なった、個人の自律的意思や予防・回復努力を重視した新しい健康観「未病」が提唱されている。

#書評:—かゆいところに手が届く!—まるわかり糖尿病塾

著者: 片岡仁美

ページ範囲:P.890 - P.890

 素晴らしい本である。
 これほどまでに糖尿病診療で「大事なこと」のすべてを余すことなく網羅した本が、今まであっただろうか? 「かゆいところに手が届く」とは、まさにこのことである。私がまず感動したのは「イントロダクション」である。「診療の心構え—治療法を考える、その前に」の一節は本書の姿勢を表していると同時に、糖尿病診療の真髄だと思う。「糖尿病患者を診る際に大切な3つのこと」は、「最新の正しい医学的知識を持っていること」「患者やスタッフと協働して問題に向き合えること」「コミュニケーションをとる力」という簡潔な表現であるが、まさにそのとおりである。

#書評:—レジデントのための—小児感染症診療マニュアル

著者: 森内浩幸

ページ範囲:P.891 - P.891

 齋藤昭彦氏は、わが国の小児感染症診療を牽引する存在である。米国で本格的に小児感染症の診療と研究のトレーニングを受け、帰国後は国立成育医療研究センターを経て、新潟大学に移ったあとも、国内の多くの小児科医に感染症教育を実践し育ててきた。その多くの仲間たち・弟子たちの協力のもとで、本書は編纂されている。
 本書は、齋藤氏が薫陶を受けた青木眞氏の『レジデントのための感染症診療マニュアル』(2000、医学書院)の小児版というコンセプトで書かれたというが、単なるオマージュではなく「感染症学」と「小児科学」が有機的に結びついた傑作であり、今後わが国における小児感染症診療のバイブルとなるだろう。

--------------------

目次

ページ範囲:P.792 - P.793

読者アンケート

ページ範囲:P.905 - P.905

『総合診療』バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.906 - P.907

お得な年間購読のご案内

ページ範囲:P.907 - P.908

次号予告

ページ範囲:P.909 - P.910

基本情報

総合診療

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2188-806X

印刷版ISSN 2188-8051

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

33巻12号(2023年12月発行)

特集 海の外へ渡る航行者を診る—アウトバウンドにまつわるetc.

33巻11号(2023年11月発行)

特集 —続・総合診療外来に“実装”したい—最新エビデンスMy Best 3

33巻10号(2023年10月発行)

特集 ○×クイズ110問!日常診療アップグレード—Choosing WiselyとHigh Value Careを学ぼう

33巻9号(2023年9月発行)

特集 ジェネラリストのための「発達障害(神経発達症)」入門

33巻8号(2023年8月発行)

特集 都市のプライマリ・ケア—「見えにくい」を「見えやすく」

33巻7号(2023年7月発行)

特集 “消去法”で考え直す「抗菌薬選択」のセオリー—広域に考え、狭域に始める

33巻6号(2023年6月発行)

特集 知っておくべき!モノクロな薬たち(注:モノクローナル抗体の話ですよ〜)

33巻5号(2023年5月発行)

特集 —疾患別“イルネススクリプト”で学ぶ—「腹痛診療」を磨き上げる22症例

33巻4号(2023年4月発行)

特集 救急対応ドリル—外来から在宅までの60問!

33巻3号(2023年3月発行)

特集 —自信がもてるようになる!—エビデンスに基づく「糖尿病診療」大全—新薬からトピックスまで

33巻2号(2023年2月発行)

特集 しびれQ&A—ビビッとシビれるクリニカルパール付き!

33巻1号(2023年1月発行)

特集 COVID-19パンデミック 振り返りと将来への備え

32巻12号(2022年12月発行)

特集 レクチャーの達人—とっておきの生ライブ付き!

32巻11号(2022年11月発行)

特集 不定愁訴にしない“MUS”診療—病態からマネジメントまで

32巻10号(2022年10月発行)

特集 日常診療に潜む「処方カスケード」—その症状、薬のせいではないですか?

32巻9号(2022年9月発行)

特集 総合診療・地域医療スキルアップドリル—こっそり学べる“特講ビデオ”つき!

32巻8号(2022年8月発行)

特集 こんなところも!“ちょいあて”エコー—POCUSお役立ちTips!

32巻7号(2022年7月発行)

特集 —どうせやせない!? やせなきゃいけない??苦手克服!—「肥満」との向き合い方講座

32巻6号(2022年6月発行)

特集 総合診療外来に“実装”したい最新エビデンス—My Best 3

32巻5号(2022年5月発行)

特集 「診断エラー」を科学する!—セッティング別 陥りやすい疾患・状況

32巻4号(2022年4月発行)

特集 えっ、これも!? 知っておきたい! 意外なアレルギー疾患

32巻3号(2022年3月発行)

特集 AI時代の医師のクリニカル・スキル—君は生き延びることができるか?

32巻2号(2022年2月発行)

特集 —withコロナ—かぜ診療の心得アップデート

32巻1号(2022年1月発行)

特集 実地医家が楽しく学ぶ 「熱」「炎症」、そして「免疫」—街場の免疫学・炎症学

31巻12号(2021年12月発行)

特集 “血が出た!”ときのリアル・アプローチ—そんな判断しちゃダメよ!

31巻11号(2021年11月発行)

特集 Q&Aで深める「むくみ診断」—正攻法も!一発診断も!外来も!病棟も!

31巻10号(2021年10月発行)

特集 医師の働き方改革—システムとマインドセットを変えよう!

31巻9号(2021年9月発行)

特集 「検査」のニューノーマル2021—この検査はもう古い? あの新検査はやるべき?

31巻8号(2021年8月発行)

特集 メンタルヘルス時代の総合診療外来—精神科医にぶっちゃけ相談してみました。

31巻7号(2021年7月発行)

特集 新時代の「在宅医療」—先進的プラクティスと最新テクノロジー

31巻6号(2021年6月発行)

特集 この診断で決まり!High Yieldな症候たち—見逃すな!キラリと光るその病歴&所見

31巻5号(2021年5月発行)

特集 臨床医のための 進化するアウトプット—学術論文からオンライン勉強会、SNSまで

31巻4号(2021年4月発行)

特集 消化器診療“虎の巻”—あなたの切実なギモンにズバリ答えます!

31巻3号(2021年3月発行)

特集 ライフステージでみる女性診療at a glance!—よくあるプロブレムを網羅しピンポイントで答えます。

31巻2号(2021年2月発行)

特集 肺炎診療のピットフォール—COVID-19から肺炎ミミックまで

31巻1号(2021年1月発行)

特別増大特集 新型コロナウイルス・パンデミック—今こそ知っておきたいこと、そして考えるべき未来

30巻12号(2020年12月発行)

特集 “ヤブ化”を防ぐ!—外来診療 基本の(き) Part 2

30巻11号(2020年11月発行)

特集 診断に役立つ! 教育で使える! フィジカル・エポニム!—身体所見に名を残すレジェンドたちの技と思考

30巻10号(2020年10月発行)

特集 —ポリファーマシーを回避する—エビデンスに基づく非薬物療法のススメ

30巻9号(2020年9月発行)

特集 いつ手術・インターベンションに送るの?|今でしょ! 今じゃないでしょ! 今のジョーシキ!【感染症・内分泌・整形外科 編】

30巻8号(2020年8月発行)

特集 マイナーエマージェンシー門外放出—知っておくと役立つ! テクニック集

30巻7号(2020年7月発行)

特集 その倦怠感、単なる「疲れ」じゃないですよ!—筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群とミミック

30巻6号(2020年6月発行)

特集 下降期慢性疾患患者の“具合”をよくする—ジェネラリストだからできること!

30巻5号(2020年5月発行)

特集 誌上Journal Club—私を変えた激アツ論文

30巻4号(2020年4月発行)

特集 大便強ドリル—便秘・下痢・腹痛・消化器疾患に強くなる41問!

30巻3号(2020年3月発行)

特集 これではアカンで!こどもの診療—ハマりがちな11のピットフォール

30巻2号(2020年2月発行)

特集 いつ手術・インターベンションに送るの?|今でしょ! 今じゃないでしょ! 今のジョーシキ!【循環器・消化器・神経疾患編】

30巻1号(2020年1月発行)

特集 総合診療医の“若手ロールモデル”を紹介します!—私たちはどう生きるか

27巻12号(2017年12月発行)

特集 小児診療“苦手”克服!!—劇的Before & After

27巻11号(2017年11月発行)

特集 今そこにある、ファミリー・バイオレンス|Violence and Health

27巻10号(2017年10月発行)

特集 めまいがするんです!─特別付録Web動画付

27巻9号(2017年9月発行)

特集 うつより多い「不安」の診かた—患者も医師も安らぎたい

27巻8号(2017年8月発行)

特集 見逃しやすい内分泌疾患─このキーワード、この所見で診断する!

27巻7号(2017年7月発行)

特集 感染症を病歴と診察だけで診断する!Part 3 カリスマ編

27巻6号(2017年6月発行)

特集 「地域を診る医者」最強の養成法!

27巻5号(2017年5月発行)

特集 コミュニケーションを処方する—ユマニチュードもオープンダイアローグも入ってます!

27巻4号(2017年4月発行)

特集 病歴と診察で診断できない発熱!—その謎の賢い解き方を伝授します。

27巻3号(2017年3月発行)

特集 これがホントに必要な薬40—総合診療医の外来自家薬籠

27巻2号(2017年2月発行)

特集 The総合診療ベーシックス—白熱!「総合診療フェスin OKINAWA」ライブ・レクチャー! 一挙公開 フィジカル動画付!

27巻1号(2017年1月発行)

特集 総合診療の“夜明け”—キーマンが語り尽くした「来し方、行く末」

icon up
あなたは医療従事者ですか?