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文献詳細

雑誌文献

総合診療34巻6号

2024年06月発行

文献概要

特集 医師のウェルビーイング 【個人で取り組むウェルビーイング】

❺コラム「ワークライフバランスとウェルビーイング」—②ズレて生きる自分を受け入れる

著者: 神廣憲記1

所属機関: 1名古屋大学大学院医学系研究科 総合医学教育センター

ページ範囲:P.683 - P.683

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 今から9年ほど前、私は疲れきっていた。シングルファーザーとして100%の家事育児を担いながら、臨床現場でフルタイム勤務する生活はもう限界だった。8時30分に保育園に連れて行き、18時に迎えに行く。プロとして仕事ができるのはその間の時間だけだ。しかし、いくら頑張っても私は一人前ではないような気持ちだった。当直ができないので同僚に申し訳なかった。重要な会議や教育セッションは保育園の開いていない早朝か夜に設定されていて、私のような存在は参加者として想定されていなかった。Facebookを覗くと土日に学会へ行った人々のキラキラした投稿が目に留まり、劣等感と疎外感を覚えた。ある日、寝かしつけに2時間かかってようやく寝息を立て始めた子の顔を見つめていると、さらに絶望する事実に気がついた。子の年齢を考えれば、このような「逃げられない」生活はさらに10年は続く。その発見は既にさまざまなことを諦めていた当時30歳の私のみぞおちを抉るように重くのしかかってきた。と同時に、私が思い描いていたキャリアがいかに「男性的」(家庭内ケアの役割を担うことを想定していない)だったかに気づかされた1)
 状況を好転させようとして、ウェルビーイングのために推奨されていることはほぼすべて試した。友人と話す、ジムに通う、マインドフルネスを実践する…。しかし、私にとって最も必要だったのは「やめる」2)ことだった。マッチョな職場や土日の仕事をやめた。学会参加やキャリア早期の留学を諦めた。Facebookを見るのをやめた。他人のサクセスストーリーを追いかけて生きるのをやめた。

参考文献

1)Kamihiro N, et al : Deconstructing the masculinized assumption of the medical profession ; narratives of Japanese physician fathers. BMC Med Educ 23(1) : 857, 2023. PMID 37953240
2)Keller J, 2023/児島修(訳):QUITTING やめる力—最良の人生戦略.日本経済新聞出版,2023.
3)Duckworth A, 2016/神崎朗子(訳):やり抜く力—人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける.ダイヤモンド社,2016.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:2188-806X

印刷版ISSN:2188-8051

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