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雑誌目次

雑誌文献

総合診療34巻7号

2024年07月発行

雑誌目次

特集 どうする!? 健診異常—これってホントに異常なの? どう説明する?

著者: 宮上泰樹 ,   内藤俊夫

ページ範囲:P.754 - P.755

本邦では、世界的に見ても健診/人間ドック受診率が高い。しかし、健診/人間ドック受診者はもちろん、医師でさえ、そのデータの取り扱いに迷うことも多い。
本特集では、われわれプライマリ・ケア医は、「どんな時に各専門医に紹介すべきなのか?」「患者にはどう説明すべきか?」「健診の意義を高めるためにどうアドバイスするか?」を、健診項目をいくつかのカテゴリーに分けて解説する。
患者・家族から厄介な健診結果で相談を受けても、「明日からはもう大丈夫!」と感じていただければ幸いである。

【総論】

❶ 健康診断とヘルスリテラシー

著者: 福田洋

ページ範囲:P.756 - P.760

Real case story 1
なかなか外来受診しない糖尿病ハイリスク者
 あなたは大学病院で外来を担当する4年目の総合診療専攻医である。大学からの派遣で企業の健康管理室で健康診断の事後措置をしていたある日…。
患者(社員):60歳、男性
主訴:定期健康診断での尿糖、高血糖の指摘
現病歴:3年前から健診で血糖、HbA1cの上昇が指摘されるも放置していた。今年は尿糖の指摘もあった。自覚症状は特になし。
既往歴・服薬歴:なし(受診歴はなし)
生活歴:勤続40年、今年から定年後の雇用延長、自宅で妻と2人暮らし。
飲酒歴:ほぼ毎日飲酒
喫煙歴:20本/日×40年間
検査(健診結果):HbA1c 8.2%、FBS 187 mg/dL、尿糖(+)

❷ 健診・検診の必要性とエビデンス

著者: 内藤俊夫

ページ範囲:P.762 - P.766

Q.健診・検診に対してどのようなイメージをもっていますか?
 検診にはポジティブな面がある半面、必ずしもそうとは言えない部分もあります。日本でPETが行われ始めた頃、ある病院で母がPET検診を受け、縦隔にて1cmもないような光る部分が発見されました。結局は全く問題なく、今も元気でいますが、検診後5年ほど、母はそのことが心配で仕方がなく、旅行へ行っても楽しめず、頻繁に通院することになり、いわば社会的な損失を被る結果になりました。このように、1回の検診がその人のQOLを数年にわたって落としてしまう可能性も十分にあるわけです。検診のネガティブな面ですね。
 韓国でも同様に、ある日突然、「甲状腺エコーを健診に組み込めばよい」と言い出した人がおり、甲状腺エコー検診が始まりました。結果的に、韓国の若年層に甲状腺癌が数多く見つかり、その多くが摘出術を希望する一方、甲状腺癌による死亡者数は変わりませんでした1)。それは決して国のためにはならず、最終的には検査が中止となりました。医学界では大きなニュースとなり、何かの検診を導入したことで、むしろ問題が増えるという事例として扱われています。

❸ 当科の人間ドックにおける女性医師の取り組み

著者: 齋田瑞恵

ページ範囲:P.767 - P.769

 2021年の世界ジェンダーギャップレポートによれば、日本のジェンダーギャップ指数は世界的に低い水準にあり、依然として改善の余地があります。2021年のレポートでは、日本は153カ国中111位でした。これは、前年の2020年に比べて5つ順位が上がった結果ではありますが、まだまだジェンダーギャップの解消に向けての取り組みが必要とされています。
 ジェンダーギャップを埋めるというのは、女性が男性と“同じ”になることではありません。女性と男性がそれぞれ携える“性差”を十分に生かし支え合うことにほかなりません。

❹ 健康診断/人間ドックと総合診療

著者: 宮上泰樹

ページ範囲:P.770 - P.771

 「健康診断や人間ドックには専門医がいるにもかかわらず、健診/人間ドックで総合診療医が関わることって意味があるのでしょうか?」という、この特集のそもそもの根幹を揺るがす疑問から始めたいと思います。
 その疑問を解消する入り口として、われわれ順天堂大学総合診療科の経験をご紹介します。当科の特徴の1つでもありますが、総合診療科の医師が人間ドックの結果説明を行っています。筆者自身も日常の臨床業務の合間や、大学院のベッドフリー期間では一定期間継続し、合計で3年半ほどの間、人間ドックの業務を行いました。最初は、「人間ドックの結果説明よりも、もっと救急外来や診断困難例の診療をしたいのに」と思いました。というのも、当時抱いていた人間ドックの結果説明というのが、健康なお金持ちを相手に生活習慣病に関する指導などをして、比較的ゆったり時が流れていくようなイメージで、「そんな地味なことをやるのかぁ」という気持ちも正直ありました。しかし、いざ人間ドックの結果説明を始めると悪性腫瘍が完全に否定できない時の説明の難しさや、異常所見のフォローをどの診療科に依頼するべきか、あるいは自分がどこまで精査/フォローするべきか、人間ドックの実施間隔・継続の必要性、生活習慣病を含めた患者教育をし、次の年に教育効果を確認する…などなど、語り出せばキリがないほど奥が深かったのです!

【各論】「健診で〇〇と言われたのですが…」にどう対応するか? 健診・ドックの有用性

Q1 そもそも何歳まで健診を受けたらよいのでしょうか?

著者: 前川耀一郎 ,   齋藤淑子

ページ範囲:P.773 - P.773

父は78歳で、高血圧症と2型糖尿病で通院中なのですが、父は何歳まで健診を受けたらよいのでしょうか? 3年前に胃癌が見つかり、手術をした病院にも通院しています。

Q2 人間ドックって必要ですか?

著者: 前川耀一郎 ,   齋藤淑子

ページ範囲:P.774 - P.775

既往症はありません。年1回受けている職場健診で貧血を指摘され筆者の外来にやってきました。鉄欠乏性貧血の診断で鉄剤処方後次回予約を取ろうとしている時に質問が。「会社の補助で人間ドックが受けられるのですが、人間ドックって必要ですか?」

心血管系

Q3 頸静脈エコー検査でIMT肥厚があると言われたのですが…

著者: 山藤光一郎 ,   小西博応

ページ範囲:P.776 - P.777

健康診断で頸動脈エコー検査をしたところ、「IMT肥厚がある」と言われました。調べたら、頸動脈の壁が厚くなっている、ということみたいですが、薬を飲まなくても大丈夫でしょうか?

Q4 ABI・CAVIで異常を指摘されたのですが…

著者: 山藤光一郎 ,   小西博応

ページ範囲:P.778 - P.779

人間ドックで、「ABI・CAVIで異常」と言われました。症状はないのですが、血管が詰まっているということですか? すぐに血圧をさらさらにする薬を飲まないといけませんか?

Q5 心電図検査で心室性期外収縮と言われたのですが…

著者: 山藤光一郎 ,   小西博応

ページ範囲:P.780 - P.781

健診で心電図検査をしたところ「心室期外収縮、要注意」と言われました。再検査を受けたほうがよいでしょうか?

Q6 「脳の加齢性変化あり」と言われたのですが…

著者: 飯田圭祐 ,   小川まゆ

ページ範囲:P.782 - P.783

知り合いが脳卒中で倒れたので自分も心配です。脳ドックで頭部MRIを撮像したところ、「脳の加齢性変化あり」と指摘されました。同時に実施した頸動脈エコーでは特記所見なしだったのですが、私には脳梗塞があるのでしょうか?

消化器系

Q7 肝臓に「できもの」があると言われたのですが…

著者: 小原俊介 ,   久代聖子

ページ範囲:P.784 - P.785

腹部超音波検査で肝臓に「できもの」があると言われました。心配なので、今すぐ癌の検査をお願いします!

Q8 胆囊がおかしいと言われたのですが…

著者: 小原俊介 ,   久代聖子

ページ範囲:P.786 - P.787

超音波検査で胆囊がおかしいと言われました。胆囊にも癌ができるって聞いたことがあるし、胆囊を取ったという友達もいます。私も手術をしたいです!

Q9 便に血が混じっていると言われたのですが…

著者: 小原俊介 ,   久代聖子

ページ範囲:P.788 - P.789

便に血が混じっていると言われました。今年は痔があったので引っかかってしまったのですが、それでも大腸カメラを受けなくてはいけないのでしょうか。

Q10 胃にポリープがあると言われたのですが…

著者: 小原俊介 ,   久代聖子

ページ範囲:P.790 - P.790

胃にポリープがあると言われました。胃のポリープは良性と聞いたことがあるので、気にしないでよいですよね?

生活習慣病1

Q11 「コレステロール値が高いと動脈硬化を起こす」と言われたのですが…

著者: 小泉文乃 ,   横川博英

ページ範囲:P.791 - P.791

「コレステロール値が高いと、動脈硬化を起こす」と言われました。友人も高いと言われて薬を飲んでいるのですが、私も薬を飲み始めたほうがいいですか?

Q12 血圧が高いと言われたのですが…

著者: 小泉文乃 ,   横川博英

ページ範囲:P.792 - P.792

血圧が高いと言われました。歳をとると血圧が高くなると聞いたことがあります。父親も血圧が高くて薬を飲んでいます。私も血圧を下げる薬を飲まないといけないのでしょうか?

Q13 痛風になるかもと言われたのですが…

著者: 小泉文乃 ,   横川博英

ページ範囲:P.793 - P.793

ビールをたくさん飲むと尿酸値が高くなると聞いたことがあります。そんなにビールは飲まないのですが…。痛風になるかもと言われたのですが、どうしたらいいですか?

Q14 「HbA1cが高いから糖尿病」と言われたのですが…

著者: 小泉文乃 ,   横川博英

ページ範囲:P.794 - P.795

「HbA1cが高いから糖尿病」と言われました。以前にもHbA1cが高いと指摘されましたが、受診していませんでした。今回の健診で数値が悪くなっていたので受診しました。

生活習慣病2

Q15 脂肪肝と言われたのですが…

著者: 木附大晴 ,   青木のぞみ

ページ範囲:P.796 - P.796

会社の健康診断で「脂肪肝」と言われました。もう治らないんでしょうか?

Q16 内臓脂肪が多いと言われたのですが…

著者: 木附大晴 ,   青木のぞみ

ページ範囲:P.797 - P.797

会社の健診で内臓脂肪が多いと言われました。改善する方法はありますか?

Q17 BMIが高いと言われたのですが…

著者: 木附大晴 ,   青木のぞみ

ページ範囲:P.798 - P.798

「BMIが高い」と言われました。それって、肥満ということですか?

呼吸器系

Q18 肺のCTを撮影したところ、「異常陰影あり」と言われたのですが…

著者: 飯田圭祐 ,   小川まゆ

ページ範囲:P.800 - P.801

若い頃にタバコを吸っていたので肺癌がないか心配です。人間ドックのオプション検査で肺のCTを撮影したところ、「異常陰影あり」と指摘されました。私には肺癌があるのでしょうか。

腎・泌尿器系

Q19 腎臓に石があると言われたのですが…

著者: 三澤麦 リチャード ,   濱田千江子

ページ範囲:P.802 - P.802

健診で「腎臓に石がある」と言われました。「腎臓に石」とインターネットで検索したら、「尿路結石で手術が必要な場合がある」と出てきました。私にも必要なのでしょうか?

Q20 尿は赤くないのに、「血が混じっている」と言われたのですが…

著者: 宮上泰樹

ページ範囲:P.803 - P.803

尿は赤くないのに、「血が混じっている」と言われました。「生理でもないのに尿に血が混じる」とネットで検索したら、「膀胱癌」が出てきました。心配なので、「癌」の検査をしてください!

Q21 尿に蛋白が混じっていると言われたのですが…

著者: 三澤麦 リチャード ,   濱田千江子

ページ範囲:P.804 - P.804

健診で「尿に蛋白が混じっている」と言われました。インターネットで検索したら、「透析が必要になる病気がある」と出てきました。心配なので、詳しい検査をしてください。

Q22 尿にばい菌が混じっていると言われたのですが…

著者: 三澤麦 リチャード ,   濱田千江子

ページ範囲:P.805 - P.805

健診で「尿にばい菌が混じっている」と言われました。「尿の中にばい菌」とインターネットで検索したら、「感染症」が出てきました。感染症ってことは今すぐに抗菌薬をください。

血液

Q23 貧血だと言われたのですが…

著者: 東中園真也 ,   森博威

ページ範囲:P.806 - P.807

健康診断で「貧血」だと言われたのですが、特に何ともありません。どうしたらいいですか?

Q24 血が多すぎると言われたのですが…

著者: 東中園真也 ,   森博威

ページ範囲:P.808 - P.809

健診で初めて「血が多すぎる」と言われて来ました。特に症状はなくて、何か問題になるのでしょうか…。

ウイメンズヘルス

Q25 乳癌検診はもう受けたほうがいいですか?

著者: 坂入みずき ,   有川茉莉

ページ範囲:P.810 - P.811

乳癌検診はもう受けたほうがいいですか? まだ早いでしょうか。受けるとしたら乳腺超音波検査とマンモグラフィのどちらを受けたらいいですか?

Q26 子宮頸癌検診は、細胞診とHPV検査のどちらを受ければいいですか?

著者: 坂入みずき ,   有川茉莉

ページ範囲:P.812 - P.813

子宮頸癌検診は、細胞診とHPV検査のどちらを受ければいいでしょうか? 両方受けたほうがより確実に見つけられますよね?

腫瘍マーカー

Q27 PSAが高いと言われたのですが…

著者: パディアチィプラベン ,   草生多恵

ページ範囲:P.814 - P.815

健康診断でPSAが5ng/mLと高いと言われました。精密検査が必要と勧められたので、インターネットで検索すると、骨盤MRIと前立腺生検が必須と書いてありました。精密検査をできるだけ早くお願いしたいです。

Q28 CEAが高いと言われたのですが…

著者: パディアチィプラベン ,   草生多恵

ページ範囲:P.816 - P.817

健康診断でCEAが7.0ng/mLと高いと言われました。父が大腸癌と診断された時もCEA高値だったので、大腸カメラの検査を予約したいです。

Q29 CA125が高いと言われたのですが…

著者: パディアチィプラベン ,   草生多恵

ページ範囲:P.818 - P.819

健康診断でCA125が高いと言われました。調べたら、CA125は卵巣癌の腫瘍マーカーとわかりました。早めに婦人科を受診したいので、紹介状を書いていただけますか?

感染症

Q30 梅毒の疑いがあると言われたのですが…

著者: 上西信慶 ,   佐野文昭

ページ範囲:P.820 - P.821

健康診断で梅毒の疑いがあると言われました。以前梅毒の治療をしたことがありますが、それが関係してますか? 去年の検査では片方の項目が陰性だった気もします。最近、性風俗を利用しました。

Q31 HIV陽性と言われたのですが…

著者: 上西信慶 ,   佐野文昭

ページ範囲:P.822 - P.823

HIV陽性と言われました。私もパートナーもHIVってことなんですか?

Q32 HBVの検査が陽性と言われたのですが…

著者: 上西信慶 ,   佐野文昭

ページ範囲:P.824 - P.825

HBVの検査が陽性と言われました。性感染症とも関係あるって言われたのですけど本当ですか?

聴力・視力

Q33 聴力低下を指摘されたのですが…

著者: 田島篤生 ,   齋田瑞恵

ページ範囲:P.826 - P.826

健診で聴力低下を指摘されました。確かに最近、家族からテレビの音が大きいと言われます。どうしたらよいですか?

Q34 視神経乳頭陥凹拡大と言われたのですが…

著者: 田島篤生 ,   齋田瑞恵

ページ範囲:P.827 - P.827

健診で視神経乳頭陥凹拡大と言われました。これって、大きな病気ですか? 眼科で検査を受けたほうがいいですか?

甲状腺機能

Q35 甲状腺が腫れていると言われたのですが…

著者: 田島篤生 ,   齋田瑞恵

ページ範囲:P.828 - P.829

甲状腺が腫れていると言われました。癌でしょうか?

What's your diagnosis?[259]

Basedowの震え?

著者: 酒見英太

ページ範囲:P.744 - P.747

病歴
患者:62歳、女性
主訴:右上肢に限局してきた間欠的な震え
患者背景:5年前pylori菌陰性の萎縮性胃炎、3年前メチマゾールによる治療(15 mgから漸減され1年前に終了)を受けたBasedow病以外の著患を知らず、レバミピド頓用以外の薬剤を使用していない62歳主婦。夫と息子との3人暮らし。自身は27歳で禁煙し、家族もタバコを吸わない。10年前までデパートで販売員をしていた時に機会飲酒をしていたが、以後飲んでいない。普段の家庭血圧は110/60 mmHg台。
現病歴:受診18日前に突然に発症し、15分ほど持続した四肢のふるえと収縮期血圧170 mmHgほどの一過性血圧上昇にて、同日と15日前に2回ERを受診。動悸や胸痛は伴わなかったが、13日前に心臓内科を受診して心電図・心エコーは正常で、10日前のHolter心電図も正常であった。以後、8日前・6日前には右上下肢が、3日前・前日と受診当日早朝(これまでも早朝4時頃が多い)には右上肢のみが2〜10分ほど震えた(同居の息子さんがスマホに収めた動画:下記のQRコードから参照)。意識は失わず、他の部分は正常に動かすことができた。初発日以降、音への過敏、咽頭異物感、食欲低下もきたし、ここ3週間で体重が47→45 kgと減少した。
陰性症状:悪寒・発熱、動悸・発汗、悪心・嘔吐、便通変化、浮腫、頭痛・頸部痛、胸痛、腹痛、背部痛・腰痛、霧視・複視・羞明、耳鳴・眩暈、嗅覚・味覚障害、構音・嚥下障害、ふらつき・歩行障害、四肢の筋力低下・感覚障害、排尿障害、立ち眩み、抑鬱気分、睡眠障害
初診時身体所見:体温36.7℃、血圧130/76 mmHg、脈拍数74回/分、呼吸数<16回/分、意識・認知・感情:正常、声・構音:正常、歩行:正常、口腔咽頭粘膜:正常、甲状腺:正常、神経学的診察:固縮・振戦なし、運動・感覚に欠落徴候なし

Editorial

健診結果説明は、予防・健康教育を促し、患者とよりよい信頼関係を築くチャンス!

著者: 宮上泰樹 ,   内藤俊夫

ページ範囲:P.753 - P.753

患者が健康診断や人間ドックの結果を持って病院受診したとき、その解釈や説明に困ることは多いと思います。説明をした際に患者を怒らせてしまった、その場で適切な説明ができず後悔したという経験は一度や二度ではないのではないでしょうか。かくいう私も「大丈夫ですよ、また次の健診で」といった事なかれ主義的な対応をとり、患者とトラブルになったことがありました。
 また、外来という短時間で健診結果を把握し適切に回答するのは、かなりハードルが高いと感じます。エビデンスは国内外で異なり、どう回答すべきかわからないことも多々あります。しかも、患者は突然ふらっと健診結果を持参してくるため、予習は全くできません。

【エッセイ】アスクレピオスの杖—想い出の診療録・51

BMI 81への挑戦

著者: 赤津晴子

ページ範囲:P.832 - P.832

本連載は、毎月替わる著者が、これまでの診療で心に残る患者さんとの出会いや、人生を変えた出来事を、エッセイにまとめてお届けします。

対談|医のアートを求めて・9

医療×対話—精神医療とは? 患者の心にどうアプローチしたらよいか?

著者: 斎藤環 ,   平島修

ページ範囲:P.833 - P.839

「患者の話を聞く」という行為は医療行為のスタート地点で、診断・治療の柱でもある。
しかし、現代の医療においては、それが「患者の症状を聞く」になっていないだろうか?
症状のみに注目し、チェックリストを埋めて点数化、あるいはフローチャート化し、診断の箱に入れて治療を組み立てる。このテクニックばかりが強調され、実際の現場では、訴えをうまく表現できない患者、治療そのものが困難な超高齢患者が、こぼれ落ちてはいないか?修練中の医師から、「勉強にならない患者」と軽視されている現状はないだろうか?
今回、「対話を続ける」という考えが柱となったオープンダイアローグという精神療法を日本へ輸入した第一人者である、精神科医の斎藤環氏に、精神医療や患者の心へのアプローチ方法についてお話を伺った。(平島修)

オール沖縄!カンファレンス|レジデントの対応と指導医の考えVer.2.0・90

腸のクスリも超リスク?

著者: 中島洋平 ,   杉田周一 ,   本永英治 ,   徳田安春 ,   仲里信彦 ,   鈴木智晴 ,   佐藤直行

ページ範囲:P.840 - P.844

CASE
患者:89歳、女性。救急車にて来院。
主訴:腹痛、嘔吐。
現病歴:入院2カ月前から、頻回のふらつきと転倒があり、訪問リハビリが中止となることが増えた。排便は7〜10日に1度硬便がみられる、慢性的な便秘であった。
 入院3日前の訪問リハビリ中に血圧低下がみられ、入院2日前の昼食後から腹痛を訴え、嘔気・嘔吐、食欲不振も伴っていた。入院当日まで嘔吐が続き、いつもより反応が鈍いと感じた家族が、救急車を要請して来院された。今回の受診前に抗菌薬の曝露はなかった。
既往歴:慢性便秘症、慢性腎不全(CKD G3b)、逆流性食道炎、高血圧、心筋梗塞、脳梗塞。
内服歴:酸化マグネシウム500 mg 2錠1日2回、ランソプラゾール15 mg 1日1回、カルベジロール2.5 mg 2錠1日2回、アスピリン100 mg 1日1回, リバーロキサバン10 mg 1日1回。
生活歴:喫煙・飲酒:なし、次女と同居、ADL杖歩行、訪問看護1回/週。
来院時バイタルサイン(矢印以下は診察中の変化):体温36.7℃、血圧90/63 mmHg(→60/40 mmHg)、脈拍数60回/分(→80回/分)、呼吸数20回/分(→30回/分)、SpO2 95%(room air)、意識レベルGlasgow Coma Scale 12(E4V3M5)。
身体所見:
全身状態:不穏様、見当識障害あり。
胸部:肺音 清、肺雑音聴取されず。
腹部:膨満・軟、腸蠕動音亢進、全体に圧痛あり、反跳痛なし。
※救急外来での診察中に大量の緑黄色の水様性下痢あり。
検査所見:
血液:WBC 4.1×103/μL、RBC 3.99×104/μL、Hb 13.1 g/dL、Ht 39.5%、Plt 21.1×104/μL。
生化学:TP 6.2 g/dL、Alb 3.2 g/dL、T-bil 1.0 mg/dL、AST 33 U/L、ALT 19 U/L、ALP 180 U/L、LDH 369 U/L、γ-GTP 14 U/L、CPK 119 U/L、Glu 147 mg/dL、Na 136 mEq/L、K 4.4 mEq/L、Cl 99 mEq/L、BUN 24.4 mg/dL、Cr 0.99 mg/dL、eGFR 39.97 mL/分/1.73 m2、Ca 9.3 mg/dL、Mg 6.4 mg/dL、P 3.9 mg/dL、CRP 1.2 mg/dL。
血液ガス(静脈血):pH 7.386、PaCO2 47.5 Torr、cHCO3- 27.8 mEq/L、cLac 2.1 mmol/L。
尿沈渣:細菌(4+)、白血球(-)。
心電図:心拍数60回/分、左脚ブロック。
便性状・グラム染色:緑色水様便、グラム陽性球菌多数(4+)。
血液培養2セット:陰性。
腹部造影CT:図1。

臨床医のためのライフハック│限りある時間を有効に使う仕事術・16

—問題解決2—大きな問題を解決し、不運や逆境も乗り越えていくには?

著者: 中島啓

ページ範囲:P.846 - P.849

時間がない! 臨床医の仕事は診療だけにあらず。事務、教育、自己学習、研究、学会発表、情報発信、所属組織の運営などなど、尽きることはありません。もちろんプライベートの生活もあり、「時間不足」は臨床医の永遠の課題です。では、一度きりの“医師人生”の限られた時間を、どう有効に使うのか? 筆者が培ってきた「ライフハック(仕事術)」のすべてを、余すところなく開陳します。

ジェネラリストに必要な ご遺体の診断学・16

—ご遺体の検査❼—解剖

著者: 森田沙斗武

ページ範囲:P.850 - P.853

Case
患者:43歳、女性
既往歴:特になし
病歴:某日、オートバイを運転中、交差点で出会い頭に自動車と衝突したとのことで、当院へ救急搬送となった。左多発肋骨骨折、外傷性気胸、左大腿骨骨折を認めたため、胸腔ドレナージを行い、呼吸状態を含めたバイタルは安定。翌日、左大腿骨の整復手術が行われた。手術後、回復室に移動し経過観察していたが、手術5時間後に急激な血圧低下と意識消失が出現し、心肺停止(CPA)となった。救急救命処置を行うも蘇生することはなく、死亡宣告した。泣き崩れる家族を前に、主治医は「できる限りの処置をしたのですが…」と説明するほかなかった。
 交通事故を捜査していた警察官から司法解剖となると告げられ、カルテの提供を求められた。電子カルテを印刷しながら「司法解剖はどこでするのですか?」と聞いたところ、主治医の出身大学で、学生時代に授業を受けたことのある法医学の教授が執刀することがわかった。救命できなかった理由がわからず死因を知りたいこと、これまでの経過や手術の経過を直接説明したほうがよいと考え、司法解剖に立ち会ってもよいか警察に尋ねたところ、執刀医の許可が得られ、立ち会うこととなった。
 司法解剖前に法医学教室でCTが撮影された。「解剖するのにCTなんて意味があるのか?」と思いながらも、CT所見と治療経過を説明しようとした途端、教授に「説明は不要」と冷たく遮られた。その後、解剖を間近で見学したが、一見して致命的な病変はないように思えた。解剖後に「死因は何だったんですか?」と尋ねたが、「後日、警察に鑑定書を発行しますので、警察に聞いてください」と言われた。主治医は愛想の悪い教授に対し「臨床のことを何もわかっていないのに、聞こうともしないで何がわかる」とずいぶん立腹した。

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『総合診療』編集方針

ページ範囲:P.743 - P.743

 1991年に創刊した弊誌は、2015年に『JIM』より『総合診療』に誌名を変更いたしました。その後も高齢化はさらに進み、社会構造や価値観、さらなる科学技術の進歩など、日本の医療を取り巻く状況は刻々と変化し続けています。地域医療の真価が問われ、ジェネラルに診ることがいっそう求められる時代となり、ますます「総合診療」への期待が高まってきました。これまで以上に多岐にわたる知識・技術、そして思想・価値観の共有が必要とされています。そこで弊誌は、さらなる誌面の充実を図るべく、2017年にリニューアルをいたしました。本誌は、今後も下記の「編集方針」のもと、既存の価値にとらわれることなく、また診療現場からの要請に応え、読者ならびに執筆者のみなさまとともに、日本の総合診療の新たな未来を切り拓いていく所存です。
2018年1月  『総合診療』編集委員会

目次

ページ範囲:P.748 - P.750

読者アンケート

ページ範囲:P.855 - P.855

『総合診療』バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.856 - P.857

お得な年間購読のご案内

ページ範囲:P.857 - P.858

次号予告

ページ範囲:P.859 - P.860

#総合診療

#今月の特集関連本

ページ範囲:P.789 - P.789

#今月の特集関連本

ページ範囲:P.809 - P.809

#今月の特集関連本

ページ範囲:P.815 - P.815

#医学書院の新刊

ページ範囲:P.830 - P.831

#書評:ケースで学ぶ抗菌薬選択の考え方—耐性と抗菌メカニズムの理解で深掘りする

著者: 林俊誠

ページ範囲:P.845 - P.845

 感染症診療のマニュアル本は持っているし、一般的な感染症はだいたい治療できている。とは言え、もしも耐性菌やそれに対する抗菌薬選択について聞かれたら、スムーズに答えられるほど詳しいわけでもない。いっそ専門書を読んでみたいけど、読める自信もない。見慣れない・聞き慣れない菌は、微生物学の本を読んでもしっくりこない。そんなあなたがギャップを乗り越えステップアップするのにお薦めなのが本書である。
 第1章は薬剤耐性の総論である。「MICの数字を横読みする」「CEZを使用し続けても、そのMSSAはMRSAにはなりません」など、耐性菌に対する抗菌薬選択に欠かせない基礎知識が満載だ。続く第2章は臨床で主に使用される抗菌薬に対する耐性機序の解説で、ここまでをじっくり読んでも2時間程度で理解できるのが嬉しい。最もよく出合うβ-ラクタマーゼについては特に図が豊富なので、この分野について初めて読む場合でもイメージしやすい。また、AmpCの「心変わり」や複雑怪奇なカルバペネマーゼがわかりやすく解説されてもいる。
 本書の真骨頂とも言えるのが第3章である。グラム陽性菌が20症例、グラム陰性菌が18症例、その他が11症例。それぞれ10分程度で読める分量なので、ちょっと空いた時間に一読できる。検査室の情報から起因菌を特定するためのコツや、その菌に対する治療戦略を考えるうえで必要な耐性機序の知識など、臨床現場で中堅が悩むときの感染症医の考え方を身につけることができる。取り上げられているのがマニアックな症例ではなく、臨床で日々問題となるようなものばかりなのもいい。腎盂腎炎や肺炎、胆管炎、髄膜炎などよく出合う感染症で、もしも耐性菌が検出されたときのシミュレーションができる。レンサ球菌群を溶血性などから分別する方法、グラム染色で見えているブドウ球菌が黄ブ菌なのかそれ以外か、痰でCorynebacterium属が検出された場合に治療すべきか、HACEKが血液培養から生えたらどうしたらいいか。菌が顕微鏡で見えた段階、菌が発育した段階、菌名が同定された段階、薬剤感受性結果も判明した段階、それぞれでどのように抗菌薬選択を考えるかも教えてくれる。あまりに記述がリアルなので、著者のもとで研修している感覚になってしまい、いつもなら本を読みながら手にしてしまうスマホの存在を忘れるくらい、症例の世界に入り込んでしまった。まるで読者の手をやさしく引っ張って、専門書を読むための基礎体力を鍛える手助けをしてくれるような一冊だ。

#書評:こどもの入院管理ゴールデンルール

著者: 伊藤健太

ページ範囲:P.854 - P.854

 笠井正志先生から「ロックな書評を」と依頼され、(何を言っているのかよくわからなかったが)ロックな書評を試みてみようと手に取った本の書名が『こどもの入院管理ゴールデンルール』である。反抗の音楽の代表格ともいえるロケンロールな書評の対象が「ルール」とは……。ルールを破ってこそが、ロックじゃないのか。
 気を取り直して、「ルール」とは何か、考えてみた。ルールは、よくある「マニュアル」や「トリセツ」と何が異なるのだろうか? そんな思いを抱えながら、この本を読み進めていった。すると本書がルールとしているものがおぼろげながら見えてきた。

基本情報

総合診療

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2188-806X

印刷版ISSN 2188-8051

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