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特集 今伝えたいクリニカル・パール—つくり方、使い方、活かし方 【“あの先生”のクリニカル・パールMy Best 3】
❸2024年Dr. Kiyotaの3つのクリニカル・パールズ
著者: 清田雅智1
所属機関: 1飯塚病院 総合診療科
ページ範囲:P.1012 - P.1015
文献購入ページに移動My Bestクリニカル・パール❶RPRは思慮なくオーダーされるが、解釈には深い思慮が必要
梅毒は2021年頃から世界的流行下にあり、国内でも同様に増加を認め、1999年の全例把握開始以来の最多数を更新している1)。2023年になってから、当院の総合診療科でも外来で梅毒を診断して治療するという事例が多くなり、週に2人も治療したことがあった(内科の外来ですよ!)。個人的に経験した院内の梅毒は、2009年に珍しい鎖骨骨炎で顕在化した2期梅毒と、神経梅毒のコンサルト症例を合わせて3例程度であった。実際には「術前検査でRPR(rapid plasma reagin)陽性になり、その判断がわからない」という相談を受けたものの、高齢者の無症状な生物学的偽陽性(biologically false positive : BPF)であったというのが大半である。2005年にMayo Clinicに留学した時に、そもそもBPFと真の感染を分けるのにRPR 16倍のカットオフを設定した由来に興味をもった。しかし、文献や教科書を読んでも、その起源を当時見つけることができなかった。とある本に、「梅毒感染の早期には抗カルジオリピン抗体が他の疾患と比べて極端に高くなることが経験的に知られていたので、診断の基準とした」という記述を確認したにすぎなかった。
しかし、Mayo Clinicでの衝撃は、いわゆる“術前感染症検査”というのが全くされていないことだった。現地の医師に尋ねると、「そもそも何で手術をする前に、梅毒やB型肝炎やC型肝炎を確認するの? その結果によって手術の方針は変わるの?」と問われ、逆にハッとさせられた。何も考えていなかったという、ルーチンワークの怖さである。当時の日本では、術中の針刺しによる血液経由の感染を心配して術前検査をしていた印象である。陽性者の場合、布の術衣を使い捨てに変えたりしていた。しかし、今や術衣はすべてディスポーザブルであるし、針刺し時には、発生後に患者へ説明して検査をするのが妥当なので、そもそも術前に検査する理由などないのである。術前の検査結果によって針刺し自体は防げないし、通常は術前に調べないHIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、針刺しを考えるのであれば無視するのは問題でもある。RPRは本来なら梅毒の診断時にしかオーダーする必要はないので、術前検査なら全く無思慮だと思っていた。
梅毒は2021年頃から世界的流行下にあり、国内でも同様に増加を認め、1999年の全例把握開始以来の最多数を更新している1)。2023年になってから、当院の総合診療科でも外来で梅毒を診断して治療するという事例が多くなり、週に2人も治療したことがあった(内科の外来ですよ!)。個人的に経験した院内の梅毒は、2009年に珍しい鎖骨骨炎で顕在化した2期梅毒と、神経梅毒のコンサルト症例を合わせて3例程度であった。実際には「術前検査でRPR(rapid plasma reagin)陽性になり、その判断がわからない」という相談を受けたものの、高齢者の無症状な生物学的偽陽性(biologically false positive : BPF)であったというのが大半である。2005年にMayo Clinicに留学した時に、そもそもBPFと真の感染を分けるのにRPR 16倍のカットオフを設定した由来に興味をもった。しかし、文献や教科書を読んでも、その起源を当時見つけることができなかった。とある本に、「梅毒感染の早期には抗カルジオリピン抗体が他の疾患と比べて極端に高くなることが経験的に知られていたので、診断の基準とした」という記述を確認したにすぎなかった。
しかし、Mayo Clinicでの衝撃は、いわゆる“術前感染症検査”というのが全くされていないことだった。現地の医師に尋ねると、「そもそも何で手術をする前に、梅毒やB型肝炎やC型肝炎を確認するの? その結果によって手術の方針は変わるの?」と問われ、逆にハッとさせられた。何も考えていなかったという、ルーチンワークの怖さである。当時の日本では、術中の針刺しによる血液経由の感染を心配して術前検査をしていた印象である。陽性者の場合、布の術衣を使い捨てに変えたりしていた。しかし、今や術衣はすべてディスポーザブルであるし、針刺し時には、発生後に患者へ説明して検査をするのが妥当なので、そもそも術前に検査する理由などないのである。術前の検査結果によって針刺し自体は防げないし、通常は術前に調べないHIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、針刺しを考えるのであれば無視するのは問題でもある。RPRは本来なら梅毒の診断時にしかオーダーする必要はないので、術前検査なら全く無思慮だと思っていた。
参考文献
1)NIID国立感染症研究所:日本の梅毒症例の動向について(2024年4月3日現在). https://www.niid.go.jp/niid/ja/syphilis-m/syphilis-trend.html(2024年6月17日閲覧) 〈NIIDによる国内の発生状況が記載されていて、コロナ時に届出数が減少したことも興味深い〉
2)横地律子:Hospitalist 9(1) : 93-114, 2021. 〈本文末の資料にAPSの歴史が記載されていて、梅毒検査との関連がわかる〉
3)Moore JE, et al : J Am Med Assoc 150(5) : 467-473, 1952. PMID 14955455 〈かつてはJohns Hopkins大学でも入院時のルーチンに梅毒検査を行い、慢性のBPFにSLEが多かったことを示した古典的に重要な文献〉
4)Fiumara NJ : N Engl J Med 268(8) : 402-405, 1963. PMID 13945385 〈マサチューセッツ州で梅毒を長年研究していたFiumaraが、1,000人の対象者のうちBPFは大半が8倍未満で、16倍は1人であったことを示した。これ以上の力価であれば梅毒があるという判断を妥当としていたと考えられる〉
5)Smyrnios NA, et al : Arch Intern Med 158(11) : 1222-1228, 1998. PMID 9625401 〈3週間以上続いてCXR正常の患者を前向きに原因調査した結果、後鼻漏(postnasal drip)が48%と最も多く、逆流性食道炎、喘息の3つの疾患で85%を占めるという、地味だが現在でも有益な情報を示した〉
6)Irwin RS, et al : Chest 129(1 Suppl) : 1S-23S, 2006. PMID 16428686 〈慢性咳を8週間以上、感冒後3〜8週以内の咳を亜急性と定義して、postinfectious coughとしてUCUSの関与を考えるようにとしている。同年にACCPは咳にまつわる複数のガイドラインを出しており、2016年に若干の更新をしている。咳で悩む時にはこれらの資料が有用である〉
7)Gwaltney JM Jr, et al : N Engl J Med 330(1) : 25-30, 1994. PMID 8259141 〈31人を対象とした小規模な研究だが、感冒のほとんどで副鼻腔病変があったことを示した〉
8)Deyo RA, et al : N Engl J Med 344(5) : 363-370, 2001. PMID 11172169 〈腰痛の疫学や画像検査のタイミングなど古典的だが重要な内容が書かれている〉
9)鵜木友都:Hospitalist 7(1) : 137-148, 2019. 〈腰痛のred flagとyellow flagの違い、画像や薬剤の適応について概説している〉
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