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雑誌目次

雑誌文献

呼吸器ジャーナル70巻3号

2022年08月発行

雑誌目次

特集 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のすべて 序文

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のすべて

著者: 舘田一博

ページ範囲:P.308 - P.309

 2019年末,中国武漢市で原因不明の肺炎が流行,2020年早々,その原因が新型コロナウイルスであることが報告された.これまでにも新型コロナウイルスとしてSARS,MERSが報告されていたこともあって,世界中に緊張が走った瞬間である.日本においても1月16日に第1例が,2月初めにはダイヤモンド・プリンセス号における集団感染事例が確認され,世界中からその動向が注目される事態となった.その後の世界的蔓延はご承知の通りであり,これまでに感染者は5億人を超え,600万人以上の方がお亡くなりになっていることが報告されている(2022年6月現在).
 新型病原体ということもあり,感染症の特徴,診断,治療,感染対策に関して手探りの中での対応を余儀なくされた.この間,厚生労働省クラスター対策班などの努力により,密集・密閉・密接,いわゆる3密が重要なリスク因子であることが明らかになっている.

Ⅰ.疫 学

COVID-19の世界の流行状況

著者: 和田耕治

ページ範囲:P.310 - P.317

Point
・オミクロン株への置き換わりが生じる前の2021年10月末の視点で,世界全体では約2億4600万人が感染し,約500万人が死亡した(症例致命割合2.0%).
・2022年4月末で,日本では7,833,878人が感染し,29,540人が死亡した(症例致命割合0.38%).
・オミクロン株が主流となり,ワクチンのブースター接種とともに感染対策を緩和の方向に向けたが,感染者の増加などを経験している.
・日本での超過死亡は,2021年の夏頃までは様々な対策の実施により例年よりも減ったが,その後は徐々に増加して2021年10月末までに約1万人となった.

COVID-19:日本の流行と対策の特徴

著者: 中島一敏

ページ範囲:P.319 - P.328

Point
・日本では,パンデミック初期の丁寧な積極的疫学調査により,基本的な感染予防策や三密防止などのまん延防止策の原則が構築された.
・日常から基本的な感染予防を継続しながら,流行期には社会に広く行動抑制を求めるハンマーアンドダンスを基本戦略としてきた.
・2021年からは医薬品を用いない公衆衛生介入とともに新型コロナワクチンを用いて流行を抑制してきたが,変異株の出現のたびに対策は困難となってきた.
・今後どのような変異株が出現しどのような流行になるのか不確定要因が大きいが,これまで以上に,その特性に応じた,教育,社会,経済活動と感染予防のバランスの構築と維持が求められる.

Ⅱ.病態と診断

ウイルス学的特徴からの考察—新型コロナウイルスとかぜコロナウイルスの比較を含めて

著者: 古澤夢梨 ,   山吉誠也 ,   河岡義裕

ページ範囲:P.329 - P.337

Point
・SARS-CoV-2のウイルス学的特徴の一部が明らかになってきた.
・S蛋白質の開裂効率やウイルスの細胞指向性は,伝播効率や病原性に影響する.
・かぜコロナウイルスは下気道炎を起こしにくく,SARS-CoV-2とは異なる.

SARS-CoV-2変異ウイルス—突然変異と選択から見えてくる進化の方向性

著者: 武内寛明

ページ範囲:P.338 - P.343

Point
・SARS-CoV-2の遺伝子変異は,ウイルス長期生存戦略の有効な手段である.
・市中流行系統株の遷移は,感染伝播力の差異に起因する可能性が高い.
・感染伝播力の差異は,主にスパイク蛋白領域の変異型によるところが大きい.

感染様式から考えるCOVID-19の特徴

著者: 小坂健

ページ範囲:P.344 - P.349

Point
・換気などのエアロゾル感染対策を重視していくことが必要である.
・環境や物の表面からの感染リスクはそれほど高くない.
・感染管理の難しい高齢者施設等では,感染者のケアにあたる者は高性能マスクを着用すべきである.

発症病態と重症化メカニズム—10のポイント

著者: 小倉高志 ,   織田恒幸 ,   石井誠 ,   石田正之

ページ範囲:P.351 - P.361

Point
・COVID-19の重症度分類は治療選択に有用であるが,呼吸不全の評価による分類であり,高齢者のCOVID-19患者では必ずしも予後を予測するものではないことを銘記する.
・重症化に,SARS-CoV-2感染初期のⅠ型IFN応答の減弱が関与している.
・通常株やデルタ株における重症化には,サイトカイン放出による免疫亢進状態が関係しており,ステロイドや免疫調整剤の迅速な併用療法が有用である.
・オミクロン株は肺よりも気管支で増殖しており,肺に分布の多いTMPRSS2依存性経路ではなくカテプシン依存性経路で細胞に侵入するため,重症化が少ないと推定されている.
・重症化因子のある患者においては,早期診断と抗ウイルス薬・中和抗体薬の早期治療が今後も重要になる.また予防投与が可能な薬剤の開発が期待される.

肺炎画像から読み解くCOVID-19肺炎の特徴と病態

著者: 上甲剛

ページ範囲:P.362 - P.365

Point
・2〜5 μmのエアロゾル感染する場合,病変は末梢胸膜下に生じる.
・Kohn孔とLambert管を自由に通過できるウイルスと浸出液は円形(球形)すりガラス影をとりうる.
・組織像が器質化肺炎であることより,容積減少を伴う浸潤影perilobular opacityやreversed halo sign,索状影,末梢優位分布を示し,感染終了後遊走性や再燃も来しうる.

診断法活用のポイントとピットフォール

著者: 加勢田富士子 ,   太田賢治 ,   栁原克紀

ページ範囲:P.366 - P.373

Point
・核酸検出検査,抗原検査の長所・短所を理解して,臨床現場で使い分ける.
・PCR法のCt値,抗原定性検査の陰性化を感染能評価に用いる際は慎重に行う.

Ⅲ.治 療

抗ウイルス薬(内服および注射)—ゲームチェンジャーとしての役割

著者: 佐藤ルブナ ,   大曲貴夫

ページ範囲:P.374 - P.379

Point
・COVID-19肺炎に対するレムデシビル投与により,臨床症状の改善が期待できる.
・重症化リスクのある症例に,重症化を防ぐ目的で抗ウイルス薬を投与することが可能になった.
・抗ウイルス薬は,患者背景や処方する医療機関,投与する場所を加味して選択する.

中和抗体薬使用のポイント—重症化予防から感染対策への応用まで

著者: 倭正也

ページ範囲:P.381 - P.388

Point
・デルタ株による第5波においてカシリビマブ/イムデビマブが有効であった.
・オミクロン株BA.1系統による第6波においてはソトロビマブが有効であった.
・オミクロン株BA.2,さらには今後のBA.2.12.1,BA.4/5に対して,現在,効果が証明されている中和抗体薬はわが国にはない.

抗炎症薬の有効性と使い分け:いつ,どのような患者に

著者: 武藤義和

ページ範囲:P.389 - P.396

Point
・現在,本邦において,デキサメサゾン,バリシチニブ,トシリズマブが承認されている.
・いずれも中等症Ⅱ・重症の病態に使用することが推奨されている.
・免疫応答による呼吸不全のタイミングを適切に評価して使用する.

ネーザルハイフローからECMOまで

著者: 星野耕大 ,   竹田晋浩

ページ範囲:P.397 - P.404

Point
・呼吸管理の一環として,腹臥位療法を積極的に施行する.
・自発呼吸による弊害を理解し,気管挿管のタイミングを見逃さない.
・人工呼吸器やECMOを活用し,P-SILIの予防と肺保護を徹底する.

治療薬としての可能性が検討されている薬剤—ドラッグ・リポジショニングを中心に

著者: 塩沢綾子

ページ範囲:P.405 - P.410

Point
・ドラッグ・リポジショニング(DR)は,早く・安全に・コストを抑えて既存薬を新たな疾患に応用できる可能性がある研究手法である.
・COVID-19に対しては,既知のウイルスとの類似性や宿主反応の類似性の観点からDRの模索が進んできた.
・感染症の早期制圧のために早い解決策を誰もが望むが,基礎研究のデータと臨床研究のデータに乖離が生じることがあるため,各研究結果には慎重な解釈が求められる.

Ⅳ.予 防

COVID-19ワクチンの有効性と安全性

著者: 西順一郎

ページ範囲:P.412 - P.420

Point
・mRNAとウイルスベクターを用いたCOVID-19ワクチンは強い免疫誘導作用をもつ.
・オミクロン株の免疫回避力は強く,12歳以上ではmRNAワクチンの3回接種が望まれる.
・発熱,疼痛,倦怠感など一過性の副反応の頻度は高いが,比較的安全に接種が進んでいる.

COVID-19の感染対策—市中クラスターや院内感染を防ぐために

著者: 坂本史衣

ページ範囲:P.422 - P.429

Point
・COVID-19の感染対策は,市中で流行しているSARS-CoV-2変異株の疫学・臨床情報をもとに構築する.
・感染性微粒子の吸入や飛沫による粘膜汚染が主要な感染経路であるとされており,それを防ぐための多面的な対策が求められる.

Ⅴ.後遺症

新型コロナウイルス感染症後遺症とその診療の実際

著者: 丸毛聡

ページ範囲:P.431 - P.439

Point
・新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(以下,コロナ後遺症)は発生頻度が高く,社会への影響が大きいことから,その病態解明および治療法確立は急務である.
・コロナ後遺症では,倦怠感・記憶障害・認知障害・息切れなど多彩な症状を長期に来す.
・コロナ後遺症が疑われて受診された患者の中には,亜鉛欠乏症・副腎不全・睡眠時無呼吸症候群・膠原病など様々な病態が合併・併存することがある.

Ⅵ.危機管理

パンデミック感染症に対する社会的備え,国の役割—新型インフルエンザ(2009年),COVID-19の経験を含めて

著者: 岡部信彦

ページ範囲:P.440 - P.446

Point
・感染症法制定(1997年)からこれまでの国の感染症対策の変遷について述べた.
・新型インフルエンザ(2009年)発生後にまとめられた,これからの感染症対策について述べた.
・COVID-19における専門家会議の動きについて述べた.

パンデミック感染症に対するワクチン・治療薬の開発—戦略的な行政的サポートの重要性

著者: 日置仰 ,   石井健

ページ範囲:P.447 - P.452

Point
・COVID-19パンデミックにおいて,日本での研究開発および薬事承認における課題が浮き彫りとなった.
・将来のパンデミックに備え,平時から戦略的にワクチンおよび治療薬を研究開発する必要がある.

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目次

ページ範囲:P.306 - P.307

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.453 - P.453

次号予告

ページ範囲:P.455 - P.455

奥付

ページ範囲:P.456 - P.456

基本情報

呼吸器ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2432-3276

印刷版ISSN 2432-3268

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