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雑誌目次

雑誌文献

循環器ジャーナル65巻4号

2017年10月発行

雑誌目次

特集 ACSの診断と治療はどこまで進歩したのか

序文

著者: 阿古潤哉

ページ範囲:P.556 - P.557

 急性心筋梗塞や不安定狭心症といった疾患を含む概念である急性冠症候群(acute coronary syndrome;ACS)の診断・治療は大きく変化しつつある.日常臨床で多く遭遇する疾患でありながら,われわれはACSの概念そのものも十分定義できておらず,また,その病理像も多様なものであることがわかっている.血行再建術により予後は大幅に改善したとはいえ,今もACSは予後不良の疾患の一つである.そうであるがゆえに多くの臨床試験が行われ,常に新たなエビデンスが創出されてきている分野となっている.今回の『循環器ジャーナル』ではACSの多くの側面に関してエキスパートの方々に解説いただいた.
 まずACSの基礎知識として,定義,疫学,病理をまとめることとした.時代とともに変遷してきているACSの疾患概念をどのように見るか.新たな定義の下でわが国での疫学の最新のデータは変化しているのであろうか.ACSの病理の最新知見に関しても一項目を割くこととした.

Ⅰ.ACSの基礎知識

ACSの分類,universal definition,バイオマーカー

著者: 川島千佳 ,   日比潔 ,   木村一雄

ページ範囲:P.558 - P.564

Point
・universal definitionでは心筋マーカーの上昇と臨床所見により心筋梗塞の診断がされる.
・バイオマーカーを使用することで心筋梗塞診断の感度,特異度が上昇する.

わが国におけるACSの疫学

著者: 石原正治

ページ範囲:P.566 - P.573

Point
・わが国では人口10万人当たり年間約50人の急性心筋梗塞が発症している.
・近年,欧米を中心に急性心筋梗塞の診断基準は従来のCK基準からトロポニン基準に移行している.
・トロポニン基準のみで診断されたCK上昇のない急性心筋梗塞(NSTEMI-CK)も回復期以降の予後は不良である.

ACSの病理,ACS発症のメカニズム

著者: 大塚文之

ページ範囲:P.574 - P.581

Point
・冠動脈血栓症の主たる成因はプラーク破裂で,ほかにプラークびらんやcalcified noduleも原因として知られる.
・ステント血栓症によるACS発症のメカニズムは,ステントの種類や留置期間によって様々である.

Ⅱ.ACSの診断

ACSの診断

著者: 高見浩仁 ,   園田信成

ページ範囲:P.582 - P.590

Point
・ACSでは迅速な診断が求められるが,最も重要なのは問診であり,その後に心電図,心エコー,バイオマーカーなどを用いた総合的な評価を行っていく.
・心電図では典型的なST変化以外にも,様々な診断の一助となる所見を呈することがある.
・初期診断で判断困難な場合には,時間経過による変化を確認するために心電図や心エコーの再チェックを行うことで診断精度の向上が期待できる.

ACSのCT,MRI診断

著者: 寺島正浩

ページ範囲:P.592 - P.599

Point
・冠動脈CTによるACSの迅速診断の有用性が確立されつつある.
・心臓MRIによりACS患者の心筋虚血を正確に診断することが可能である.
・心臓MRIは心筋生存性評価,心筋梗塞サイズ,リスク領域の判定が可能である.
・冠動脈CTおよび心臓MRIによりACSの予知の試みが行われている.

ACSと鑑別すべき疾患

著者: 奥野泰史 ,   青木二郎

ページ範囲:P.600 - P.608

Point
・急性冠症候群(ACS)は時に,急性大動脈解離や肺塞栓症,急性心筋炎,たこつぼ心筋症といった重篤な循環器救急疾患との鑑別を要することがあり,迅速で正確な診断が必要である.
・ACSを含む循環器救急疾患には様々な鑑別方法があるが,常に鑑別の視野を広く保ち,最重症の疾患を絶対に見落とさないようにすることが重要である.

Ⅲ.ACSの治療

ACSの血管内イメージング所見

著者: 石松高 ,   光武良亮 ,   上野高史

ページ範囲:P.609 - P.617

Point
・ACSの診断における,それぞれのイメージングデバイスの特徴を理解する.
・PCI時のno-reflow現象や末梢塞栓などが発症する病変上のリスク因子を理解する.

STEMIの治療

著者: 伊苅裕二

ページ範囲:P.618 - P.622

Point
・STEMIに対してはprimary PCIが第一選択である.治療成績は血栓溶解療法よりも優れている.
・primary PCIは熟練した術者,24時間体制の設備が必要であり,施行困難な場合に血栓溶解療法を考慮する.
・STEMI例が,出血性合併症を来すとSTEMIの死亡率を上昇させる.
・橈骨動脈アプローチは出血合併症が大腿動脈アプローチより低いことからACSでは死亡率を低下させるアプローチである.
・金属ステント(BMS)と薬剤溶出性ステント(DES)の間に短期的な成績の差はない.長期的な再治療はDESに少ないため,DESのほうが好まれる.過去に言われた「DESに血栓症が多い」というのは第二世代DES時代となり,誤りであるとわかった.

血栓吸引療法のコントロバーシー

著者: 日置紘文 ,   興野寛幸 ,   上妻謙

ページ範囲:P.624 - P.627

Point
・急性心筋梗塞症例に対する血栓吸引療法は,早期に再灌流を獲得し,さらなる末梢塞栓の予防が果たせる可能性があり,有効な手段と考えられる.
・現在までの科学的なエビデンスをみると,“routine”での血栓吸引療法の有効性は認められていない.しかし,血栓塞栓症症例や発症から時間が経過した血栓を有する心筋梗塞症例では有効性が得られる可能性がある.

door-to-balloon時間(D2BT),onset-to-balloon時間(O2BT)の重要性

著者: 藤田英雄

ページ範囲:P.628 - P.634

Point
・D2BT,O2BT短縮の臨床的インパクトが明らかになりつつある.
・プレホスピタル心電図がD2BT,O2BT短縮に有効である.
・O2BT短縮をターゲットとした救急システム構築が今後の課題となる.

NSTEMI,UAPの治療方針

著者: 齋藤佑一 ,   小林欣夫

ページ範囲:P.635 - P.642

Point
・NSTE-ACSは患者背景や重症度といった点において幅広い疾患概念である.
・個々の患者に対してリスクに応じた適切な治療方針を選択すべきである.
・リスクが高い症例ではより積極的に侵襲的な治療戦略をとるべきで,状況に応じて完全血行再建を検討する.

特殊な病態 冠動脈解離と冠攣縮

著者: 伊藤智範

ページ範囲:P.643 - P.651

Point
・冠動脈解離は,冠動脈造影では診断が容易でない例があり,攣縮と安易に診断せず,積極的な冠動脈内イメージングが必要である.
・冠攣縮は,急性冠症候群の原因か結果かを確定しきれない例も少なくない.特に,プラーク破綻の原因の一つが冠攣縮で起こる可能性が指摘されているものの,それを証明した研究はない.
・Kounis症候群には,多彩な原因があり,医療面接での十分なアレルギー歴の聴取と,医原的・複合的な要因をも勘案することが必要である.

冠動脈インターベンションの適切な適応—appropriate use criteriaの視点から

著者: 猪原拓 ,   香坂俊

ページ範囲:P.652 - P.658

Point
・適応適切性基準(appropriate use criteria;AUC)とは,エビデンスに準拠したエキスパートオピニオンをシナリオ別に集約し,現場にわかりやすい形式で提示したものである.
・冠動脈インターベンション(PCI)のAUCは「安定狭心症の予後の改善は狭窄の解除のみに依って図られるものではない」という知見の集積に基づき,その過剰使用を戒めるための自浄努力の一環として米国で生まれた.
・米国におけるAUCの評価を検討することは,本邦におけるPCIを取り巻く問題点を明確にすることにつながるものと考えられる.

Ⅳ.ACSの二次予防

抗血小板療法,DAPT

著者: 飯島雷輔

ページ範囲:P.659 - P.665

Point
・ACSに薬物溶出性ステント治療後にDAPTは少なくとも12カ月継続が推奨されている.
・ACSを対象とした新世代の薬物溶出性ステントでの無作為試験の臨床成績はない.
・DAPT試験は,長期DAPTの有効性を示した臨床試験だが,ステント治療に続く1年間にイベントのない症例での検討である.
・DAPT試験からACS患者では,特に長期DAPT継続のメリットがあることが示された.

ACSの脂質低下療法—PCSK9を含めて

著者: 藤末昂一郎 ,   辻田賢一

ページ範囲:P.666 - P.673

Point
・急性冠症候群患者の二次予防において,早期の積極的脂質低下療法が重要である.
・脂質低下療法の中心はスタチンであり,急性冠症候群では可能な限り中-高強度のスタチンを選択する.
・今後,エゼチミブ,PCSK9阻害薬,選択的PPARモジュレーター,MTP阻害薬などの新規脂質低下薬による心血管イベント抑制効果が期待される.

糖尿病治療

著者: 坂口一彦

ページ範囲:P.674 - P.683

Point
・糖尿病患者の心血管イベントや死亡の減少に,短期間の介入で効果のある薬剤が登場してきた.
・糖尿病治療の目的から考え,どの薬剤を用いて治療するかがこれからは重要になるかもしれない.

β遮断薬

著者: 田巻庸道 ,   中川義久

ページ範囲:P.684 - P.689

Point
・β遮断薬は,心筋酸素需要を低下させ梗塞領域を縮小させると同時に,心室性不整脈の抑制と左室リモデリング抑制の効果を有し,予後を改善する.
・急性冠症候群の患者で,残存虚血・心機能低下・心室性不整脈がある場合にはβ遮断薬の適応である.
・再灌流に成功しており,左室機能障害がなく重篤な心室性不整脈を認めない場合,β遮断薬による予後改善効果は証明されていない.

ACS患者におけるACE-I,ARB,MRA

著者: 神田大輔 ,   大石充

ページ範囲:P.690 - P.696

Point
・ACE-I/ARBの予後改善効果は,ACS(急性冠症候群)時に過剰に賦活化されたRA系を遮断し,アルドステロンⅡ産生を抑制することにより発揮される.
・ACE-I/ARBは,ACS患者において血圧が高ければ全例に,血圧が正常もしくは低くても少量から開始し,腎機能・電解質をモニターしながらできる限り増量を目指す.
・左室機能が低下した症候性心不全に対しては,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬のACE-I/ARBへの上乗せ効果を考慮する.
・ACE-Iに忍容性のない場合には,ARBの使用を考慮すべきである.

Ⅴ.ACSの非薬物療法

リハビリテーション

著者: 長山雅俊

ページ範囲:P.697 - P.702

Point
・心臓リハビリテーションの原則は,長期臥床によるdeconditioning(脱調節状態)をリハビリテーションによりreconditioning(再調節)することであったが,現代の役割はQOLや長期予後の改善が主となっている.
・再発予防を目的としたリハビリテーションでは,運動療法のみならず患者教育や栄養指導などの包括的介入が重要である.
・心筋梗塞についての予後改善効果では,死亡率が20〜30%低下するという報告が多い.
・予後改善の機序は,自律神経バランスの改善,冠動脈プラークの安定化,冠危険因子の是正などによる.
・運動療法における運動強度は,嫌気性代謝閾値レベル,最大酸素摂取量の50〜70%,最高心拍数の40〜60%,心拍数予備能(HRR)の40〜60%,または自覚的運動強度(旧Borg指数)11〜13相当が推奨されている.

重症心不全を合併したACSに対する補助循環—VAD,IABP,Impella

著者: 中本敬 ,   坂田泰史

ページ範囲:P.703 - P.709

Point
・心原性ショック,重症心不全を合併したACSの死亡率は依然高く,補助循環を上手に使うことが予後改善に重要である.
・VAD,IABP,Impellaはそれぞれの特徴が異なり,それぞれの適応,エビデンスを熟知したうえで使用する必要がある.

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第9回『呼吸と循環』賞 受賞論文発表

ページ範囲:P.623 - P.623

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.710 - P.710

次号予告

ページ範囲:P.711 - P.711

奥付

ページ範囲:P.712 - P.712

基本情報

循環器ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2432-3292

印刷版ISSN 2432-3284

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