心血管疾患は急に発症して短時間で致死的な病態に陥る場合や,発症後に安定している状態から急変する場合も少なくなく,このような患者が救急搬送される医療機関の救急部門では迅速で適切な患者対応が求められます.そのため循環器専門医のみならず,救急部に専従する救急専門医をはじめ救急外来診療を担当する他の診療科の医師にも循環器救急に関する基本的な知識と技術の習得が求められます.
重症の循環器救急患者は救急外来における初期診療に引き続き,集中治療室に入院し循環管理を中心とした集中治療を受けます.従来,冠動脈疾患集中治療室(coronary care unit;CCU)と呼ばれ急性心筋梗塞患者を収容するユニットでしたが,最近は様々な急性心血管疾患患者を収容するユニット(cardiovascular intensive care unit;CICU)として活用されるようになりました.そのため循環器専門医には呼吸管理や体液管理などの集中治療に関する基本的な知識や技術も求められるようになりました.
雑誌目次
循環器ジャーナル66巻4号
2018年10月発行
雑誌目次
特集 循環器救急の最前線—初期診療と循環管理を極める
序文 フリーアクセス
著者: 笠岡俊志
ページ範囲:P.482 - P.483
Ⅰ.総論
循環器救急患者の診断・治療プロセスにおける課題
著者: 野々木宏
ページ範囲:P.484 - P.490
Point
・循環器疾患のフォーカスは院外と病院との連携にある.
・循環器医は心停止の予防対策のリーダーとなる.
・院外では市民の啓発,救急隊からの12誘導心電図伝送,心拍再開後の集中治療が重要.
・院内では冠疾患集中治療(CCU)から心血管集中治療(CICU)への再構築が必要.
Ⅱ.心原性心停止を救う
蘇生ガイドラインの概要と心肺蘇生の普及
著者: 石見拓
ページ範囲:P.491 - P.497
Point
・心臓突然死を減らすために,心肺蘇生の普及,AEDの効果的な設置など,フォーカスを院外にも当てる必要がある.
・最新の蘇生ガイドラインでは,絶え間のない胸骨圧迫に加えて,判断に迷った際に行動を開始することの重要性を強調している.
・AEDを活用した救命戦略として,胸骨圧迫のみの心肺蘇生の普及,学校教育への導入,ソーシャルメディアの活用などが求められる.
一次救命処置(BLS)
著者: 加藤啓一 , 柄澤俊二
ページ範囲:P.498 - P.505
Point
・強く(約5cmで,6cmを超えない),速く(100〜120回/分),絶え間ない胸骨圧迫から心肺蘇生(CPR)を開始する.
・バッグ・バルブ・マスクの準備ができ次第,30:2で胸骨圧迫に人工呼吸を加える.
・除細動器が到着するまでは,医療従事者であっても脈拍をチェックすることなくCPRを続ける.
二次救命処置(ALS)
著者: 武田聡
ページ範囲:P.506 - P.512
Point
・質の高い胸骨圧迫の継続が不可欠である.
・「心室細動や無脈性心室頻拍」の場合には早期の電気的除細動が重要である.
・「無脈性電気活動や心静止」の場合には原因疾患の検索と治療が重要である.
・心停止にしない予知予防や自己心拍再開後の集約的治療も大切である.
Ⅲ.初期診療に必須の検査と処置をマスターする
心電図
著者: 小菅雅美
ページ範囲:P.513 - P.521
Point
・肢誘導はCabrera配列に並べ替えると心臓と対応する部位の解剖学的関係が理解しやすくなる.
・ST上昇は虚血責任冠動脈の完全閉塞による貫壁性虚血を示唆する.
・前胸部誘導で陰性T波を認める循環救急疾患に左前下行枝病変の急性冠症候群,重症急性肺塞栓,たこつぼ症候群が挙げられる.
心エコー図
著者: 東岡大輔 , 穂積健之 , 赤阪隆史
ページ範囲:P.522 - P.531
Point
・急変を伴う循環器救急診療における心エコー図の検査手順や,症状別による救急疾患について解説する.
心血管バイオマーカー
著者: 清野精彦
ページ範囲:P.532 - P.537
Point
・冠動脈疾患の早期診断,リスク層別化には心筋トロポニン,H-FABPが重要.
・不安定プラーク関連マーカーに関する知見が興味深い.
・心不全の診断,重症度・予後評価にはBNP,NT-proBNPが重要.
・心不全でもトロポニンにより微小心筋傷害が検出され,予後指標に該当.
・肺血栓塞栓症や急性大動脈解離の除外診断にはDダイマーが有用.
画像診断
著者: 山科章
ページ範囲:P.538 - P.544
Point
・循環器救急では一瞬の遅れが致命的になる場合が稀でない.症状,身体所見,簡単な検査(迅速血液検査,心電図など)をもとに頻度と緊急性の2本の軸で鑑別診断を考える.
・その検査で何が評価できるかを事前に整理したうえで,適切な画像診断を選択する.
・患者のその後の診断・管理の方針に影響を与えない検査は控える.
・検査を行えば,重大な所見を見落とさないよう細心の注意をもって評価する.
・緊急血行再建が必要な急性冠症候群では画像診断は最低限とし侵襲的冠動脈造影を優先し,door to balloon timeの短縮を図る.
電気的除細動,ペーシング
著者: 村上博基 , 西山慶
ページ範囲:P.545 - P.551
Point
・電気的除細動とは心臓に電流を流し,頻拍性不整脈を洞調律に復帰させる処置である.
・ペーシングは症候性徐脈に対して,電気的に心筋を刺激し心拍数を増加させる処置である.
・ペーシングには経皮ペーシングと経静脈ペーシングがある.
補助循環法 IABP
著者: 鶴岡歩 , 有元秀樹
ページ範囲:P.552 - P.556
Point
・拡張期にバルーンをinflation(拡張)することで(diastolic augmentation),冠動脈への血流,酸素供給量が増加する.
・収縮期にバルーンをdeflation(収縮)することで(systolic unloading),後負荷が軽減され心拍出量が10〜20%程度増加する.
・inflationとdeflationのタイミングがずれると上記の効果が得られず,逆に心負荷となってしまうことがある.
・V-A ECMO使用患者においてIABPを併用することで,ECMO離脱成功率,28日予後,院内死亡率の改善が期待される.
補助循環法 ECMO
著者: 有元秀樹
ページ範囲:P.557 - P.561
Point
・PCPSと呼ばれる循環補助として現在はV-A ECMOと呼ばれるようになり,体外循環装置が様々に応用されている,
・ECPRはV-A ECMOを用いた心肺蘇生法であり,従来に比べ良好な成績が報告されている.
・ECMOは侵襲を伴う処置のため,発生しうる合併症を理解したうえで管理を行うことが重要である.
Ⅳ.循環管理を極める
循環作動薬の使い方
著者: 安部晴彦 , 上田恭敬
ページ範囲:P.562 - P.567
Point
・病態を正しく把握することによって,血管収縮薬,強心薬,血管拡張薬を適切に使い分けることができる.
・肺動脈カテーテルから得られる情報は,カテコラミンの用量調節に根拠を与えてくれる.
・カテコラミン抵抗性ショックを念頭に置く.
循環動態モニタの活用
著者: 神津成紀 , 菊地研
ページ範囲:P.568 - P.576
Point
・循環管理には,酸素需給バランスと平均血圧が重要である.
・循環動態モニタの特徴を理解し,総合的に評価して全身状態の改善に努めていく必要がある.
心停止後症候群に対する体温管理療法
著者: 黒田泰弘
ページ範囲:P.577 - P.588
Point
・成人の心原性(推定を含む)心停止で,心拍再開後の循環動態が安定しているにもかかわらず昏睡状態の患者は,体温管理療法(32〜36℃の間の一定の体温で,少なくとも24時間)の適応となる.
・TTMは初期心電図波形がVF/VTの院外心停止に対して推奨されるが,電気ショック非適応の院外心停止や院内心停止に対しても行う.
・TTM施行方法には血管内冷却法や体表冷却法があるが効果に差はない.冷却輸液も院内では併用してよい.
・TTM施行時には適切に鎮静鎮痛などを行い,シバリングの予防と対策を行う.
・TTM施行時には発生が予想される合併症の予防と対策を行う.
・TTMの復温期,復温完了後の全身管理も重要である.TTM終了後も昏睡状態である場合,自己心拍再開から96時間は37.5℃程度に発熱をコントロールする.
体液管理における血液浄化療法
著者: 吉本広平 , 土井研人
ページ範囲:P.589 - P.595
Point
・心不全に対しては,機械的除水手段として体外限外濾過法と持続的血液濾過が用いられる.
・早期の限外濾過施行により短期・長期予後が改善する可能性があるが,結論は出ていない.
・限外濾過を行う際は,患者状態に応じ血管内脱水を避けるよう施行することが重要である.
Ⅴ.主な循環器救急疾患を診る
急性冠症候群
著者: 新沼廣幸
ページ範囲:P.596 - P.601
Point
・急性冠症候群(ACS)は心電図変化からST上昇型ACS(STE-ACS)と非ST上昇型ACS(NSTE-ACS)に分類される.
・NSTE-ACS患者では高感度トロポニン値を用いた診断アルゴリズムが有用である.
・STE-ACS患者では緊急冠動脈造影の適応,NSTE-ACSではリスク層別化により冠動脈造影の適応を判断し,再灌流までの時間短縮を図る.
急性大動脈解離
著者: 内室智也 , 高梨秀一郎
ページ範囲:P.602 - P.611
Point
・初診から診断へ:患者背景,臨床症状,身体所見から急性大動脈解離を疑い,心エコー,CT検査にて診断を確定する.
・診断から治療方針決定へ:Stanford A型,臓器虚血や切迫破裂を来しているStanford B型は緊急手術が必要であり,迅速に外科チームにコンサルトをする.
・初期治療:血圧100〜120mmHg・心拍数60回/分を目標とした循環管理と鎮痛,安静の初期治療を開始し,低血圧・ショック症例では緊急手術を急ぐ.
急性肺血栓塞栓症
著者: 山本剛
ページ範囲:P.612 - P.620
Point
・肺血栓塞栓症の初期治療方針は早期の予後リスクに基づいて決定する.
・ショック患者は高リスクと認識して,血栓溶解療法を行う.
・血行動態が安定した非高リスク例には,抗凝固療法を行う.
急性心筋炎
著者: 澤村匡史
ページ範囲:P.621 - P.629
Point
・急性心筋炎の組織型にはリンパ球性,巨細胞性,好酸球性,肉芽腫性がある.
・心筋生検の感度は低いが,免疫抑制療法の適応になる巨細胞性や好酸球性心筋炎を鑑別するのに役立つ.
・劇症型心筋炎では機械的循環補助装置が有効な可能性があるが,急性期死亡率,長期予後ともまだ悪く,心臓移植を前提として心室補助装置の適応になることがある.
不整脈
著者: 清水昭彦
ページ範囲:P.630 - P.639
Point
・失神,眼前暗黒感で受診した症例は,心電図にて不整脈の所見がなくても原則帰宅させない.
・不整脈治療の緊急性は,不整脈の種類よりも診察時の血圧,脈拍のバイタルサインによる.
・治療困難な場合には不整脈専門家に相談する.頻脈性不整脈の場合,カテーテルアブレーションが有効な場合がある.
急性心不全・心原性ショック
著者: 中野宏己 , 田原良雄
ページ範囲:P.640 - P.647
Point
・心不全の原因にかかわらず急性期の治療目標は心拍出量を増加させ,左室拡張末期圧を軽減させることである.
・Nohria-Stevenson分類に基づき患者の状態を把握し初期治療を開始する.
・急性心不全患者のなかでも“Wet & Cold”の患者は特に重症であり注意が必要である.
心タンポナーデ
著者: 花田裕之
ページ範囲:P.648 - P.651
Point
・心囊貯留物の貯留速度と心囊の伸展性で病態が決まる.
・身体所見と超音波が診断に有効である.
・心囊穿刺は古典的心尖部アプローチにこだわらず,超音波所見で決める.
高血圧緊急症(hypertensive emergencies)
著者: 原田正公
ページ範囲:P.652 - P.655
Point
・高血圧緊急症について,日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン2014に沿って解説する.
・高血圧緊急症が疑われたら,迅速な診察と検査を行う必要がある.
・降圧の目的・目標は病態別に違うので,病態に応じた適切な治療を行う必要がある.
Ⅵ.循環管理を要する特殊病態へのアプローチ
敗血症—敗血症性ショックの病態と循環管理のポイント
著者: 垣花泰之
ページ範囲:P.660 - P.666
Point
・敗血症性ショックには複数のショックが混在している.
・敗血症性心筋障害には2つのタイプが存在する.
・治療のポイントは早期の急速大量輸液と適切な循環作動薬の選択である.
書評
—小室一成/総編集・専門編集—循環器内科専門医バイブル 1—心不全—識る・診る・治す フリーアクセス
著者: 小川久雄
ページ範囲:P.668 - P.668
世界でもトップレベルの長寿社会に入った日本では,今後医療問題が益々大きな課題となってくる.そして医療費という点からは,日本では循環器系疾患が20%と最も高い割合を占めている現状がある.なかでも心不全の増加が顕著であり「心不全パンデミック」と呼ばれるようになってきた.日本循環器学会では全国に1,353施設あるすべての循環器専門施設と協力施設212施設の合計1,565施設から循環器疾患診療実態調査The Japanese Registry Of All cardiac and vascular Diseases(JROAD)を行い,2012年からは心不全患者の入院数も調査し21万人から2016年には26万人となっている.増加の程度は著明で今後もさらに増え続けると思われる.これは日本のみならず世界的な傾向でもある.
これに対して,日本循環器学会と日本心不全学会は関連11学会とともに「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」を作成した.このなかには心不全の一般の方への啓発活動として,分かりやすい表現で「心不全とは,心臓が悪いために,息切れやむくみが起こり,だんだん悪くなり,生命を縮める病気」と定義されている.さらに日本循環器学会では日本脳卒中学会,さらに関連19学会と協力して「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」を策定し発表したが,このなかでも心不全に注目している.特に予防の重要性も記載している.
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