心臓リハビリテーションは,心疾患に伴う寝たきり状態からの回復手段として1940年代頃から始まりました.しかし,昨今の目覚ましい治療法の進歩により,このような意味でのリハビリテーションは不要なものになりつつあります.そのため,病棟において心臓リハビリテーションを導入していない施設は少なくありません.
ところで,日常臨床で遭遇する機会の多い心疾患として安定労作性狭心症があります.狭心症に対しては,多くの施設で経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を実施して「治った」と患者に言っておりますが,実はPCI後の患者の約20%が1年以内に再発することは患者には知らされていません.また,PCIに使用したワイヤーが血管を傷つけて新たな病変を作る可能性も患者には知らされません.一方,PCIを行わずに心臓リハビリテーションで治療すれば再発率は5%程度であり,どちらの治療法を選択するかというオプションを患者に提示している病院はほぼ皆無です.日本循環器学会のガイドラインに狭心症の約2/3は心臓リハビリテーションで治療可能という内容が記載されているにもかかわらずこの事実は変わりません.心臓リハビリテーションによる治療法と効果を熟知した医師が少ないことが一因であると思われます.いきなりPCIをされてしまうことは,患者にとっては不幸・災難以外の何物でもありません.
雑誌目次
循環器ジャーナル67巻2号
2019年04月発行
雑誌目次
特集 心疾患治療としての心臓リハビリテーション
序文 フリーアクセス
著者: 安達仁
ページ範囲:P.164 - P.165
Ⅰ.心臓リハビリテーション早わかり
心臓リハビリテーションのエビデンス
著者: 後藤葉一
ページ範囲:P.166 - P.176
Point
・心臓リハビリテーション/運動療法は,冠動脈疾患や心不全患者の運動耐容能・QOL・長期予後を改善させるとのエビデンスが確立されている.
・収縮が保たれた心不全(HFpEF)および肺高血圧症患者では,運動耐容能とQOLを改善させる.
・冠動脈疾患および慢性心不全の治療ガイドラインにおいて強く推奨されている.
心臓リハビリテーションの対象,施設の運用,体制,スタッフ,費用対効果,採算性
著者: 勝木達夫
ページ範囲:P.178 - P.186
Point
・心大血管疾患リハビリテーションは施設基準を認可された施設で実施されるものである.施設基準ⅠとⅡでは扱える対象疾患の時期が異なることに十分注意し,必要人員や物品,求められる記録内容など保険診療ルールを熟知しておくことが重要である.保険適用としての対象疾患も拡大され,維持期のリハビリテーションも認可されていることが,他の疾患別リハビリテーションとは異なる特徴である.
・ガイドラインでの推奨レベルも高く,保険適用になっている治療はできたらすればよいのではなく,しなければ落ち度であると考え,できない施設ではできる施設への積極的な紹介をするなど患者に選択肢を示すことが重要である.
・運動療法のみならず,包括的アプローチを急性期から維持期までシームレスに行える工夫が必要である.介護保険への移行も視野に入れる.
・心大血管疾患リハビリテーションは費用対効果に優れた治療であり,増加する医療費抑制にも十分寄与しうる.また工夫次第で医療機関にとっても十分に採算がとれ,健全な経営に貢献する.
各職種の役割と外来心リハの一例
著者: 長山雅俊 , 横澤尊代
ページ範囲:P.188 - P.195
Point
・心臓リハビリテーションは多くの専門職によるチーム医療によって成り立っている.
・定期的な多職種カンファレンスによる情報共有や問題への対策を講じることが有用である.
・方針については,臨床倫理4分割法を用い,患者を「医学的適応」,「患者の意向」,「周囲の状況」,「QOL」の観点から情報を整理すると分かりやすい.
Ⅱ.心臓リハビリテーション実施法
運動療法
著者: 大宮一人
ページ範囲:P.196 - P.201
Point
・心臓リハビリテーションのコンポーネントとしての運動療法には,病態や予後を改善する多くのエビデンスがある.
・適応や禁忌を確認し,運動療法のFITT(頻度,強度,運動の種類,運動時間)については原疾患や重症度などを考慮し,的確な運動処方に基づいて行う.
・高強度インターバルトレーニングが注目されており,運動耐容能などに対する改善効果が従来の中等度持続的運動に比して大であることから,今後普及していくことが考えられる.
運動処方
著者: 白石裕一 , 白山武司 , 的場聖明
ページ範囲:P.202 - P.209
Point
・運動処方には有酸素運動,インターバルトレーニング,レジスタンストレーニングなどがある.
・症候限界性運動負荷の50〜60%程度に嫌気性代謝閾値(AT)が存在し,その強度が勧められる.
・ATレベルを決めるのにheart rate reserve(Karvonenの式),Borg scale,二重積を用いる方法などがある.
CPXのパラメータ
著者: 西功 , 小池朗
ページ範囲:P.210 - P.217
Point
・呼気ガス分析を併用した運動負荷試験である心肺運動負荷試験(CPX)により,心疾患患者の運動中の呼吸循環状態に関する重要な情報を得ることができる.
・最高酸素摂取量,嫌気性代謝閾値,換気量・二酸化炭素排出量スロープがCPXから得られる一般的な指標である.
・CPXから得られる指標は単独でも有用であるが,諸指標を組み合わせて解釈することで,その有用性はさらに高まる.
・心不全症例のなかには,運動中の換気量に周期性変化を呈する例があり,本現象が心不全の重症度や生命予後とも関係することから,こうした特徴的な所見の出現にも注目する必要がある.
CPXの臨床応用
著者: 村田誠
ページ範囲:P.218 - P.225
Point
・CPXを用いた心不全および虚血性心疾患の病態評価では,安静時では得られない情報を得ることができる.
・CPXを用いて労作時息切れの精査をすることができる.
手術前に行う心肺運動負荷試験および術前リハビリテーションの重要性—ヨーロッパの現場から
著者: 中出泰輔
ページ範囲:P.226 - P.232
Point
・CPXは客観的に患者の運動耐容能を評価することが可能である.
・術前にCPXを実施することにより,患者の術前リスク評価,治療方針の決定,併存している疾患の同定および術後起こりうる合併症の予測が可能となる.
・術前にリハビリテーションを行うことにより,術後の合併症発生リスクを低減させる.
食事療法の実際
著者: 折口秀樹
ページ範囲:P.234 - P.240
Point
・食事療法はエビデンスが確立した基本的なものを実践し,環境に応じて個別に対応する.
・心血管疾患の栄養はメタボ患者の動脈硬化,高齢者心不全のフレイル対策が重要である.
・食事療法の目標設定は計算から求め,見える化して,適切な処方を提案し評価を繰り返す.
生活習慣改善の実際
著者: 東條美奈子
ページ範囲:P.242 - P.248
Point
・病態や病期,生活環境を考慮し,具体的かつ優先順位を付けた生活習慣改善指導を行う.
・指導の基本は,減塩,体重管理,野菜・果物の摂取量増加,節酒,身体活動量増加である.
・医学的に正しい知識の提供,ストレスマネジメント,健康地域格差,を考慮する.
Ⅲ.各種疾患の心臓リハビリテーション
狭心症—有意狭窄病変がある場合
著者: 安達仁
ページ範囲:P.250 - P.259
Point
・安定狭心症が心筋梗塞になる率はPCIを行っても行わなくても変わらない.
・狭心症の症状は心臓リハビリテーションにより消失させることができる.
・新規病変発症率は心臓リハビリテーションを行うと1/5に減る.
PCI後二次予防
著者: 木庭新治
ページ範囲:P.260 - P.266
Point
・PCI後の長期の生命予後改善には心リハプログラムの完遂が重要である.
・PCI後の心リハ施行は,PCI施行部位の晩期血管径損失抑制効果が期待される.
・冠動脈硬化の進展抑制・退縮には,身体活動量や運動耐容能の増加が有用である.
心筋梗塞後
著者: 小笹寧子
ページ範囲:P.268 - P.273
Point
・心筋梗塞急性期には段階的に負荷量を増加させる.
・回復期には運動負荷試験に基づく運動処方を行う.
・運動療法と並行して包括的な患者教育を行う.
慢性心不全
著者: 絹川真太郎
ページ範囲:P.274 - P.283
Point
・心不全は心機能障害と神経体液性因子の活性化を中心とし,他の臓器障害が合併し,運動耐容能が低下した進行性の病態である.
・心不全においては,適切に処方された有酸素運動と抵抗運動は極めて有用であり,多面的な効果をもたらす.
・運動療法と疾患管理プログラムは心臓リハビリテーションそのものであり,心不全の標準的治療法である.
肺高血圧症患者に対する心肺運動負荷試験とリハビリテーション
著者: 西﨑真里 , 松原広己
ページ範囲:P.284 - P.291
Point
・心肺運動負荷試験は,運動中の呼吸・循環・代謝動態を評価できる有用な検査であり,肺高血圧症に特徴的な所見としては,最高酸素摂取量や嫌気性代謝閾値の低下,分時換気量(VE)/二酸化炭素排出量(VCO2)ratioやVE vs. VCO2 slopeの上昇,呼気終末二酸化炭素分圧の低下などがある.
・リハビリテーションは,運動耐容能やQOLの向上を目指した運動療法を主体とした包括的プログラムである.
開心術
著者: 福田幸人
ページ範囲:P.292 - P.299
Point
・冠動脈バイパス手術は多くが人工心肺を使用しない心拍動下手術となり,早期リハビリテーションが可能になってきた.
・2017年に「集中治療における早期リハビリテーション」のガイドラインが発表され,より安全で適切な離床や積極的な運動療法が行えるようになった.
・入院期間の短縮により十分な患者教育がされずに退院する症例が多い.入院中に術者からもリハビリテーションの重要性を説明する必要がある.
心大血管疾患
著者: 牧田茂
ページ範囲:P.300 - P.305
Point
・術後の状態が安定していれば,第1病日から離床を開始する.看護師・理学療法士と共同して離床を進めていく.
・病棟内歩行が実施できれば,運動負荷試験を行って,有酸素トレーニングを開始する.
・患者の危険因子を評価して,行動変容のための患者教育を進めていく.入院中にできなければ回復期外来心臓リハビリテーションを積極的に導入する.
・多職種が関与する包括的心臓リハビリテーションを心がける.
末梢動脈疾患に対するリハビリテーションの適応と効果
著者: 安城直史 , 安隆則
ページ範囲:P.306 - P.312
Point
・重症虚血肢を除く末梢動脈疾患の初期治療第一選択は,運動療法と抗血小板薬である.
・重症虚血肢には,血行再建術後に予後改善のために運動療法を指導することが肝要である.
・跛行症状のある末梢動脈疾患において運動療法は監視下で導入することがガイドラインで推奨されているが,監視下での導入が困難であれば,非監視下での運動を可能な限り早期に開始すべきである.
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