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雑誌目次

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循環器ジャーナル67巻4号

2019年10月発行

雑誌目次

特集 冠動脈疾患のリスク管理のフロントライン

序文

著者: 野出孝一

ページ範囲:P.506 - P.507

 2019年の12月には脳卒中・循環器病対策基本法が施行されるが,この法案の骨子の一つは循環器病予防である.循環器病予防において重要なことは動脈硬化を生理的・生化学・形態的観点から的確に早期診断し,その原因であるリスクファクターを厳格に管理し,動脈硬化に合併する心不全,不整脈,弁膜症の発症や悪化を防ぎ,突然死を抑制することである.
 冠動脈疾患患者では,一般住民と比較して心血管イベント発生率が高いことから,その予防は臨床的にも医療経済的にも意義が大きい.これまでの疫学研究から高血圧,糖尿病,脂質異常症,喫煙,CKDなどが動脈硬化の進展や心血管事故発症の危険因子であることがわかっている.また,危険因子の重複も多く,その重複によりイベントリスクが高まることから,包括的リスク管理が重要であることは言うまでもない.欧米の観察研究によれば,冠動脈疾患患者では複数の危険因子に対する管理が良好であれば長期予後も軽快することが報告されている.日本においても,2017年に発表されたJ-DOIT 3試験において,対象は一次予防の糖尿病患者ではあるが,長期にわたる血糖・血圧・脂質・肥満に対する積極的な介入の有用性が示された.心血管イベント再発の予防として,生活・運動習慣,食事療法,薬物療法を含めた積極的な介入が重要である.

Ⅰ.冠動脈疾患イベントリスクをどう評価する?

リスクファクターからどう評価する?

著者: 岡村智教 ,   平田あや ,   桑原和代

ページ範囲:P.508 - P.515

Point
・個々のリスクファクターではなく,複数のリスクファクターを組み合わせて冠動脈疾患の発症リスクを包括的に評価する必要がある.
・特定健診などでスクリーニングするのは,冠動脈疾患そのものではなく冠動脈疾患を発症する可能性が高いハイリスク者であり,そのためにも包括的リスク評価が重要である.

問診・理学所見でどう診る?

著者: 川尻剛照 ,   高村雅之

ページ範囲:P.516 - P.522

Point
・冠動脈疾患は専門医による問診のみで,かなり正しく診断できる.冠動脈疾患に特徴的な自覚症状だけでなく,非典型的な症状,大動脈解離や逆流性食道炎など鑑別疾患の典型的症状を知ることが重要である.
・冠動脈疾患の既往と家族歴,古典的冠危険因子の有無,重症度,治療歴の聴取により冠動脈疾患の検査前確率は向上する.
・冠動脈疾患に特異的な理学所見は少ない.鑑別疾患に特徴的な理学所見,全身の動脈硬化を示唆する身体所見に注意する.黄色腫や耳朶の皺(Frank徴候)は冠動脈疾患と関連する.

心電図でどう評価する?

著者: 小菅雅美

ページ範囲:P.524 - P.531

Point
・症状から急性冠症候群を疑うが心電図で診断がつかない場合,以前の心電図や経時的に記録した心電図との比較が診断率を向上させる.また急性後壁梗塞を見落とさないために背側部(V7〜9)誘導の記録が有用である.
・非ST上昇型急性冠症候群で,ST低下は高リスクの心電図所見であり,さらに広範なST低下に加えaVR誘導のST上昇を認めた場合には重症冠動脈病変が疑われ,緊急冠動脈造影検査・緊急血行再建を考慮する.

血管機能(PWV/CAVI)でどう評価する?

著者: 甲谷友幸

ページ範囲:P.532 - P.538

Point
・baPWV,CAVIは動脈硬化の指標として広く用いられ,2018年の血管不全診断指針でPWV,CAVIの基準値が示されている.
・冠動脈疾患患者ではbaPWV,CAVIは高く,またbaPWV,CAVIは冠動脈疾患患者の心血管イベントの予測因子である.
・個人差を考慮し,経時的変化をみることも重要である.

IMTでどう評価する?

著者: 石津智子

ページ範囲:P.540 - P.544

Point
・頸動脈は冠動脈と大動脈の第一分枝であるという解剖学的共通点があり,動脈硬化進達度が類似する.頸動脈内膜中膜厚(intima-media thickness;IMT)が体表超音波から容易かつ精度よく測定できることから,疫学研究における早期動脈硬化進達度指標として膨大な研究成果の実績がある.
・一方,冠動脈疾患のリスク管理において,頸動脈IMTを主要動脈硬化リスク因子として付加する意義については近年の欧米の研究では否定的な結果が多い.このため欧米の冠動脈疾患リスク管理のガイドラインではIMTを追加してリスクを層別化することは推奨されていない.しかし,これらのガイドラインの根拠となったメタ分析とその解釈は,あくまでもIMT計測の標準化以前の1990年代研究である.
・また,医学的判断に加え,費用対効果や検査再現性を鑑み,欧米の一般診療でのルーチン計測には有益性なしと判断したが,今後の前向き研究に期待する余地があることを強調したい.

CTでどう評価する?

著者: 中村日出彦 ,   石川哲也 ,   田口功

ページ範囲:P.546 - P.553

Point
・冠動脈CTは目覚ましい進化を遂げ,冠動脈疾患の診断ツールとして確立されており,その高い陰性適中率からスクリーニングに最適の検査である.
・冠動脈CTのプラーク評価については様々な報告が散見されており,今後ACSの予測因子などに有用となることが期待される.
・FFR-CTを始めとした冠動脈の機能的評価における診断能も期待される.

MRIでどう評価する?

著者: 野口暉夫

ページ範囲:P.554 - P.558

Point
・非造影T1強調画像MRIを用いた冠動脈プラーク診断は,被曝もなく造影剤も不要な非侵襲的画像診断である.
・非造影T1強調画像で高信号(PMR≥1.4)に描出されたプラークは不安定プラークの可能性が高い.

冠動脈イメージング(IVUS・OCT)でどう評価する?

著者: 嶋村邦宏 ,   久保隆史

ページ範囲:P.560 - P.565

Point
・OCTは,IVUSと比較して優れた画像分解能を有しており,プラークの形態の詳細な評価が可能で,冠動脈硬化の進展やプラークの不安定化を生体内で観察できる.
・NIRS-IVUSはIVUSによるプラークの形態評価に加えて脂質コアの存在を評価可能であり,脂質性プラークのサイズをlipid-core burden index(LCBI)により半定量的に評価できる.
・OCTにより確認されるTCFAやマクロファージの浸潤,NIRS-IVUSにより確認される高いmaxLCBI値などが冠動脈イベント発症に関連する可能性があり,今後,イメージングモダリティの進歩とさらなる研究が必要である.

FFRでどう評価する?

著者: 坂本知浩

ページ範囲:P.566 - P.571

Point
・FFRは心筋虚血判定のゴールドスタンダードであり,0.80以下の病変の存在は不良な予後と関連があった.
・多枝疾患におけるFFRに基づいたPCIは,医療コストの抑制,心血管イベントの低減と関連があった.

血液バイオマーカーでどう評価する?

著者: 井上晃男

ページ範囲:P.572 - P.578

Point
・これまで様々な血管不全バイオマーカーが研究されてきた.なかでもCRPとcTnは高感度測定法が開発され,その有用性が高まった.
・CRPは血管不全の各段階で,病態把握や予後予測に有力な炎症マーカーであり,多くの大規模臨床試験で用いられている.実臨床の場での診療に応用するためにはCRPを含むいくつかのマーカーの組み合わせによるmultiple biomarker strategyを目指すべきと考える.
・心筋傷害マーカーであるcTnは血管不全の終末像である急性心筋梗塞の診断に有用なマーカーであり,今後はcTnを基にした急性心筋梗塞の早期診断が本邦でも益々普及することが予想されるが,false positiveには警戒が必要である.

遺伝子解析でどう評価する?

著者: 加藤規弘

ページ範囲:P.579 - P.584

Point
・冠動脈疾患では40%程度が遺伝要因に規定されると推測されている.
・GWASにより冠動脈疾患の遺伝子座が既に160近く見つかっている.
・遺伝的リスクスコアを用いて遺伝的な高リスク群の推定が可能となってきた.

Ⅱ.冠動脈疾患リスクファクターをどう管理する?

冠動脈疾患の血圧はどこまで下げる?

著者: 甲斐久史 ,   松島慶央 ,   佐々木基起

ページ範囲:P.585 - P.593

Point
・冠動脈疾患の進展・再発の予防のみならず,心不全や脳卒中などの動脈硬化性心血管疾患の発症予防のために,冠動脈疾患の降圧目標は130/80mmHg未満とする.
・陳旧性心筋梗塞や虚血性心筋症による左室駆出率が低下した心不全では,RA阻害薬・β遮断薬・MR拮抗薬・利尿薬をそれぞれの最大忍容量まで投与するため,降圧目標を一概に定めることはできない.
・個々の症例においては,めまい,ふらつき,たちくらみなどの脳虚血症状や腎機能低下など,忍容性を確認しながら降圧を進める.

コレステロールはどこまで下げる?

著者: 西尾亮太 ,   和田英樹 ,   宮内克己

ページ範囲:P.594 - P.599

Point
・スタチンは高LDL-C血症に対する薬物治療の中心であり,一次予防,二次予防に関して豊富なエビデンスが蓄積されている.
・スタチンに加えてエゼチミブやPCSK9阻害薬といった新たな脂質低下薬を用いた大規模臨床試験が発表されており,LDL-C値がスタチンのみでは管理目標値に到達しないような高リスクの患者群においては併用を検討する必要がある.
・心血管イベント発症率が欧米と比較し少ない日本人においても,REAL-CAD試験にて高用量のストロングスタチンの使用が,通常量と比較し心血管イベントを抑制することが示された.

中性脂肪はどこまで下げる?

著者: 磯尾直之 ,   塚本和久

ページ範囲:P.600 - P.606

Point
・中性脂肪(TG)につき空腹時150mg/dL,非空腹時175mg/dLをカットオフとして高TG血症のスクリーニングを行い,さらにレムナントやsmall dense LDLの増加の有無を把握する.これらの増加がある場合は空腹時TG<150mg/dLを目標に治療介入する.特に2型糖尿病症例ではより厳格に(例えばTG<115mg/dL)することが望ましい.

血糖はどう下げる?

著者: 西村和之 ,   坂東泰子 ,   室原豊明

ページ範囲:P.608 - P.611

Point
・2型糖尿病患者において心血管イベントは患者の生命予後に大きく関わる問題であり,早期からの治療介入を行う必要がある.
・大血管障害の予防という観点からは血糖をどこまで下げるかということよりも血糖をどのように下げるかということのほうが重要である
・糖尿病治療薬の選択としては,低血糖や血糖変動が少なく体重増加を来しにくい薬剤を選択する.

尿酸はどこまで下げる?

著者: 小島淳

ページ範囲:P.612 - P.618

Point
・これまでの疫学研究では,高尿酸血症は冠動脈疾患と関係があることが明らかになっている.
・高尿酸血症が心血管イベントのリスクになりうるか不明である.
・高尿酸血症治療薬であるフェブキソスタットを用いた前向き大規模臨床試験が世界的に行われており,それらの結果が注目されている.

肥満の是正はどうする?

著者: 島袋充生 ,   益崎裕章

ページ範囲:P.619 - P.623

Point
・肥満,やせは,いずれも冠動脈疾患の発症リスクである.
・食事・運動療法や手術による減量で,冠動脈疾患の発生や予後が改善するというエビデンスは乏しい.
・肥満を是正する薬物療法で冠動脈疾患が減る可能性がある.

SASの管理はどうする?

著者: 得能智武 ,   安藤眞一

ページ範囲:P.624 - P.628

Point
・SASは,いびきや眠気などの症状だけでなく,高血圧や脂質異常,糖尿病,冠動脈疾患のリスクを上昇させている.
・中等症から重症のSASではCPAP治療が有効であり,冠動脈疾患の予後改善が期待される.

禁煙はどう成功させる?

著者: 長谷川浩二 ,   小見山麻紀 ,   髙橋裕子

ページ範囲:P.630 - P.635

Point
・禁煙後,ニコチン離脱症状の一つとして,体重は増加する.
・禁煙して2〜6年後,体重が10kg以上増加しても心血管死亡リスクは有意に減少する.しかし過度な体重増加が10年以上続くことは要注意である.
・心理社会的ストレスや潜在的うつ状態は,喫煙や過食などの生活習慣の乱れと密接な相互関係のもと,悪循環を形成し脳卒中や心筋梗塞の発症に結びついている.
・禁煙とともに心理的ストレスを含めたトータルケアが心血管リスク管理に重要である.

慢性腎臓病(CKD)はどう治療する?

著者: 瀬田公一 ,   笠原正登

ページ範囲:P.636 - P.643

Point
・慢性腎臓病(chronic kidney disease;CKD)に特有の冠動脈疾患リスクとして,CKD-mineral and bone disorder(CKD-MBD)と腎性貧血が挙げられる.
・CKDが進行すると代謝性アシドーシスを来す.代謝性アシドーシスの補正は,腎機能悪化を遅らせる.
・CKDだからという理由で冠動脈造影検査やカテーテル治療をためらうべきではない.

Ⅲ.冠動脈疾患合併症をどう管理する?

心不全をどう防ぎ治療する?

著者: 竹石恭知

ページ範囲:P.644 - P.654

Point
・心不全は進行性の病態であり,ステージを意識した治療方針の決定が必要である.
・冠危険因子管理,心臓リモデリング抑制,心筋虚血評価と血行再建,合併症管理が重要である.

不整脈をどう防ぎ治療する?

著者: 廣田慧 ,   髙橋尚彦

ページ範囲:P.655 - P.661

Point
・冠動脈疾患にはしばしば不整脈が合併する.
・心筋梗塞後の心室性不整脈の管理は,患者の予後を左右する.
・冠動脈疾患合併の心房細動の抗血栓療法はリスク・ベネフィットをよく検討する.

弁膜症をどう防ぎ治療する?

著者: 岩崎陽一 ,   冨山博史

ページ範囲:P.662 - P.669

Point
・高齢化に伴い心不全患者数が増加しており,弁膜症に対する適切な治療方法が求められている.
・弁膜症治療の第一選択肢は外科的治療だが,近年ハイリスク症例に対しては非侵襲的治療が可能になっている.

連載 心エコー読影ドリル【新連載】

第1回(Case 1〜3)

著者: 馬場萌 ,   松谷勇人 ,   泉知里

ページ範囲:P.671 - P.676

Case 1
65歳,男性
健診にて心雑音を指摘.自覚症状は認めず.精査目的で経胸壁心エコー図検査を施行.
【計測値】左室拡張末期径:55mm,左室収縮末期径:39mm,駆出率:55.4%,僧帽弁逆流定量(PISA法);逆流量:64ml,逆流有効弁口面積:0.40cm2
 
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2021年10月まで公開)。

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ページ範囲:P.670 - P.670

次号予告

ページ範囲:P.677 - P.677

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ページ範囲:P.678 - P.678

基本情報

循環器ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2432-3292

印刷版ISSN 2432-3284

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