心エコー図は循環器疾患に必須の画像診断で,心機能や心疾患が可視化することで,情報共有に基づくチーム医療に臨床的有用性が広く認められている.心疾患の管理に関連するガイドラインには必ず心エコー図が取り上げられているだけでなく,実際に心臓を扱うほとんどの医療施設には心エコー図が整備されている.
この画像診断の利点は非侵襲な点,ベッドサイドで実施可能なこと,特別な準備を必要としない簡便性である.放射線や造影剤を使うことがないため,最初の画像診断として用いられることが多い.またベッドサイドでモニタリング中の重症例にもその場で検査することができる.検査には,診断機器と電源があればよく,繰り返す検査にも患者は耐えることができる.
雑誌目次
循環器ジャーナル68巻2号
2020年04月発行
雑誌目次
特集 心エコー図で何を見る?—スクリーニングから精査まで
序文 フリーアクセス
著者: 渡辺弘之
ページ範囲:P.188 - P.189
Ⅰ.総論
心エコー図で何を見る?
著者: 渡辺弘之
ページ範囲:P.190 - P.197
Point
・心エコー図の役割で最も重要なことは,心臓の構造的異常を明らかにし,客観的定量評価を行うことで,的確な診断を助けることである.
・近年の心疾患治療の変化は,心エコー図評価の価値を相対的に高めており,より正確性の高いベッドサイド診断や手技ガイドが求められている.
・今後の心エコー図は,安静時だけでなく負荷時の変化を探る有用なツールとなるとともに,三次元や自動化を通じて標準化による質的向上に取り組まなければならない.
Ⅱ.基礎編
—基本断面を記録するために—LAX,SAX,4CV,3CV,2CV,subcostal view
著者: 藤原淳子 , 三木俊
ページ範囲:P.198 - P.209
Point
・心エコー図画像を明瞭に描出するには,エコー装置の調整法を理解することが重要である.
・さらに,各断面の解剖と適正な画像を描出するテクニックを理解することで,診断に有用な画像を得ることが可能となる.
—基本的計測をするために①—壁厚,Dd/Ds,LVEDV/LVESV,LVEF,storoke volume
著者: 川﨑俊博
ページ範囲:P.210 - P.218
Point
・心内腔計測は,心エコー図検査の最も重要な評価項目の一つであり,より正確な測定値が求められている.
・計測方法には様々な手法や計算式があるが,それぞれに利点やLimitationがあるため,それらを考慮して選択することが求められている.
・基本的にはガイドラインに推奨されている手法を用いるのが望ましいが,すべての評価項目に推奨されているものがあるわけではなく,また細かい計測部位や計測方法の記載はないことが多い.
・「いつ」,「どこで」,「だれが」検査をしても同じ結果になることを目標にし,心エコー図検査の計測の精度管理・標準化をする必要がある.
—基本を理解するために—ドプラ・組織ドプラ・ストレインの基礎
著者: 長野真弥 , 紺田利子
ページ範囲:P.220 - P.228
Point
・目的に応じたドプラ法の選択は,より正確な血行動態的評価を可能とする.
・心筋ストレイン解析は,従来の指標では評価不能な潜在的心筋障害の検出や予後予測に有用であり,日常臨床への応用が期待される.
—基本的計測をするために②—EFとLV inflowに始まる心不全管理指標
著者: 大西俊成
ページ範囲:P.230 - P.236
Point
・心エコー図の心不全管理指標として,心臓の収縮能評価はEFから,拡張能,左室充満圧評価はLV inflowから始まる.
・心不全は,大きく,収縮不全型心不全(HFrEF)と左室駆出率保持型心不全(HFpEF)に分けられ,心エコー図で計測したEFによって分類される.
・心不全の評価には,収縮能だけでなく拡張能評価も重要であり,治療方針の決定や予後予測の指標となりうる.
Ⅲ.ファーストタッチ編—救急に活かすために
胸痛・動悸・息切れ・浮腫へのアプローチ
著者: 飯塚祐基 , 舩越拓
ページ範囲:P.238 - P.246
Point
・胸痛の診断はfive killer chest painを必ず鑑別に挙げながら診察を進める.バイタル異常を認めない重症患者も存在するため,安易に除外しない.
・動悸はショック徴候の有無が重要であり,必要なら電気的除細動を迅速に行う.既に症状が消失している場合はリズムと脈拍数が重要となるため,本人に手を叩いて再現してもらう.
・息切れは原因臓器別に考えると良い.心不全が原因の場合は病歴と診察で病態を把握したうえで,各種検査により原因を同定する.
ショックへのアプローチ
著者: 三反田拓志 , 則末泰博
ページ範囲:P.248 - P.255
Point
・ショック患者におけるエコーの目的は,ショックの原因を認識して早期介入につなげることである.
・ショック時のエコープロトコールとしてRUSHの外的妥当性が検証されているが,RUSHプロトコールを用いる時のpitfallを理解しておく必要がある.
・IVC径でvolume statusはわからない,ERでもICUでも治療のゴールにしてはならない.
Ⅳ.鑑別診断編—鑑別診断に活かすために
拡張障害を示す疾患の鑑別
著者: 鳥居裕太 , 山田博胤
ページ範囲:P.256 - P.267
Point
・問診・視診・聴診・触診で得られた情報に,心エコー図検査を加えることで,総合的に診断する.
・新しいASE左室拡張能ガイドラインは旧ガイドラインに比べて,簡便かつ精度が高くなり,日常臨床において用いやすくなった.
・左室拡張能は複数の心エコー図指標を組み合わせて評価する.
・拡張障害を来す各疾患の特徴について理解しておく.
収縮障害を示す疾患の鑑別
著者: 阿部幸雄
ページ範囲:P.268 - P.274
Point
・左室の局所壁運動異常は主に虚血性心疾患で認められ,冠動脈病変に伴ってその支配領域に出現する.
・たこつぼ型心筋症や心サルコイドーシスでは特徴的な局所壁運動異常が認められる.
・左室全体の壁運動異常が認められた際には,まず虚血性心疾患かどうか,そうでない場合には心筋炎によるものや二次性の心機能低下でないかを識別し,これらが除外されれば特発性拡張型心筋症と診断される.
Ⅴ.病棟編—精査とその解釈のために
大動脈弁狭窄症(AS)
著者: 名倉福子 , 片岡明久
ページ範囲:P.276 - P.284
Point
・聴診を忘れずに—基本は身体所見から.
・ASの形態評価と重症度分類を—心エコーを当てて自分なりに評価してみよう.
・低圧較差でも重症ASは否定できない—心機能低下例・左室肥大が強い例は要注意.
・高齢者,ハイリスク患者でもASはカテーテルで治療できる時代に.
大動脈弁逆流症(AR)
著者: 天野雅史
ページ範囲:P.285 - P.294
Point
・左室に対する「容量」ならびに「圧」負荷が同時に生じ,拡張末期容量(前負荷の指標)ならびに収縮末期容量(後負荷の指標)が共に増加することが,慢性大動脈弁逆流症における血行力学的な特徴である.
・大動脈弁逆流症例では,主に心エコー図検査を用いて逆流の病因・重症度・左室サイズや機能を評価し手術介入時期を検討するが,時にCTやMRIなどのマルティモダリティを用い,弁尖だけでなく大動脈基部を含めた大動脈複合体の評価を行う必要がある.
・重症慢性大動脈弁逆流症例では,大動脈弁置換術直後から左室に対する容量負荷が軽減するため,術前に左室機能低下を認めた症例でも大半が術後1年でいったん左室機能は正常化するが,術後慢性期に再増悪することがあるため注意深いフォローアップが必要である.
僧帽弁狭窄症(MS)
著者: 佐々木俊輔
ページ範囲:P.295 - P.305
Point
・僧帽弁狭窄は,左房から左室への流入障害によって左房圧,肺静脈圧,そして肺動脈の圧が上昇し,心房細動や肺高血圧,そして心不全に至るなど,多彩な臨床像を呈する病態である.
・弁口面積を用いて重症度を評価するが,僧帽弁狭窄の成因によって不正確となる場合や血行動態に左右される算出方法があるため,症例に応じて慎重に評価することが求められる.
・侵襲的な治療を選択する際に,僧帽弁狭窄の成因や弁の形態,また症例の背景に応じて総合的に判断する必要がある.
僧帽弁閉鎖不全症(MR)
著者: 磯谷彰宏
ページ範囲:P.306 - P.317
Point
・僧帽弁閉鎖不全症は,primary MR(器質性逆流)とfunctional MR(機能性逆流)に分類され,さらに最近ではfunctional MRのなかでも心房性機能性逆流が注目されるようになっている.
・primary MRとfunctional MRは,逆流の成り立ち,患者背景,治療方針の決め方,治療方法に至るまで,まったく違う疾患と言ってよいほど大きく異なる性質をもっている.
・経皮的僧帽弁形成術などの新しい治療法が発展してきており,診断のみならず治療面でも心エコーの役割が増している.
三尖弁閉鎖不全症(TR)
著者: 出雲昌樹
ページ範囲:P.318 - P.325
Point
・三尖弁閉鎖不全症(TR)は予後と関連する.
・経胸壁心エコー図評価が中心であるが,描出不十分な場合には経食道心エコー図による評価を加える.
・重症度評価では様々な指標を総合的に判断し,それぞれの指標のピットフォールを理解した評価が必要である.
・左心系術前評価においては,三尖弁輪径計測が必須である.
感染性心内膜炎(IE)
著者: 楠瀬賢也
ページ範囲:P.326 - P.333
Point
・経胸壁心エコー検査で陰性であっても,IEが臨床的に疑われる場合には,積極的に経食道心エコー検査を施行する.
・初回検査で検出できなくても,IEの疑いが続く場合は,繰り返し検査を実施することが重要である.
・造影CTやFDG-PETを用いることで,IEの診断精度を上げることができる.
人工弁とその合併症
著者: 太田光彦
ページ範囲:P.334 - P.343
Point
・心エコー図検査を行う前に人工弁の種類やサイズ,手術時期などの情報を収集し,身体所見や血液データまで確認する準備が大切である.
・人工弁狭窄は人工弁劣化のほかに血栓弁やパンヌスなどで起こることを知る.
・経弁逆流は生理的に生じることがあるが,弁周囲逆流はすべて異常である.
・経胸壁心エコー図検査で人工弁異常が疑われた場合や観察が困難な場合には,躊躇せずに経食道心エコー図検査で評価することを常に心がける.
全身性エリテマトーデス(SLE),強皮症
著者: 江口紀子
ページ範囲:P.344 - P.352
Point
・SLEの心病変としては,心膜炎や弁膜疾患に加え,若年であっても冠動脈疾患リスクが高いので注意を要する.
・強皮症の心病変としては,心膜疾患や拡張障害を筆頭とした心筋障害の頻度が高い.
・本邦では,結合組織病に伴う肺動脈性肺高血圧の原因疾患としてMCTD,SLEが強皮症よりも多く,より広い疾患で肺高血圧の可能性を念頭に置く必要がある.
—先天性心疾患(Ⅰ)—心房中隔欠損症(ASD),卵円孔開存(PFO),心室中隔欠損症(VSD)
著者: 高谷陽一
ページ範囲:P.353 - P.361
Point
・ASDはカテーテル閉鎖術が第一選択であり,欠損孔の評価が重要である.
・PFOは奇異性脳塞栓症の再発予防にカテーテル閉鎖術の有効性が示され,診断が重要になっている.
・VSDは成人期では小欠損孔が多く,肺高血圧症や大動脈弁逸脱など合併症に注意する.
—先天性心疾患(Ⅱ)—Fallot四徴症
著者: 市川奈央子 , 椎名由美
ページ範囲:P.362 - P.367
Point
・心エコーで両心室機能と肺動脈狭窄,逆流の評価を定期的に行う必要がある.
・再手術により予後の改善が期待されるため,タイミングが重要である.
・右室は複雑な形態をしており,エコーでは正確な評価は困難なため,マルチモダリティで評価する必要がある.
Fabry病,アミロイドーシス,サルコイドーシス
著者: 古川敦子
ページ範囲:P.368 - P.375
Point
・Fabry病,アミロイドーシス,サルコイドーシスは,心筋障害を引き起こす全身疾患の代表である.
・確立された治療法や新たな治療薬の登場もあり,早期診断と適切な時期での治療開始が病態の進行抑制や多臓器合併症の発症予防,患者の予後改善につながりうる.
肺高血圧および右心機能評価
著者: 杜徳尚
ページ範囲:P.376 - P.383
Point
・肺高血圧の治療の進歩はめざましく,これまで以上に正確で迅速な肺高血圧の診断が求められている.
・平均肺動脈圧≧20mmHgは肺高血圧の診断において必須の項目である.
・心エコー図を用いて各種の肺動脈圧を推測することができるが,各々に限界がある.
・さらに肺血管抵抗や肺動脈楔入圧も推測することができるが,各々の限界を熟知しておかねばならない.
・右室のサイズや機能評価も心エコー図で可能であるが,限界は多く,使用に際して注意しないといけない.
連載 心エコー読影ドリル・3
第3回(Case 7〜9)
著者: 泉知里 , 柳善樹
ページ範囲:P.385 - P.390
Case 7 80歳代,男性
無症候性の大動脈弁閉鎖不全症で経過観察中.経胸壁心エコー図検査を施行.
【計測値】大動脈径;弁輪径:21mm,Valsalva洞径:35mm,洞上行大動脈移行部(sinotubular junction;STJ)径:28mm,上行大動脈径:36mm
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年4月まで公開)。
臨床研究の進め方:ピットフォールに落ちないための工夫・1【新連載】
研究アイデアを具現化し計画の骨子を考える①
著者: 植田育子 , 庄司聡
ページ範囲:P.392 - P.398
はじめに 臨床研究を始めようと思うとき,それは日常診療で薬の使い方や治療方針にふと疑問を感じたとき,あるいはカンファレンスでの指導医とのディスカッションがきっかけとなることが多い.そして周りを見回すと,研究対象となる患者は身近にいるし,データは電子カルテを見ればすぐ入手できるので,臨床研究など実にたやすく実施できるように思えてしまう.
しかし,いざとりかかってみると,臨床研究はそれほど簡単なものではないことを痛感する.実際に,慶應義塾大学病院では年間約1,000件もの臨床研究が実施されているが,医師主導臨床研究の多くは,学会発表や論文発表まで辿り着けないという状況にある.ここで改めて考えてみたいのは,なぜ医師にとって身近であるはずの臨床研究は進まないのか,そして,どのようにすれば臨床研究を最後まで完遂することができるのか,という点である.本連載では,臨床研究のピットフォールに落ちないために,
① 医師自らのアイデアを具現化し,臨床研究の計画の骨子を立てる
② 臨床研究実施に必要な文書類を系統的に整備する
③ 臨床研究を効率的に運用するために必要な体制構築を認識しておく
という3つのポイントを,幾度も臨床研究の立ち上げに携わってきた臨床研究コーディネーター(clinical research coordinater;CRC)の立場から紹介する.
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