心臓ペースメーカは1930年代,除細動器は1940年代にその原形が開発された.第二次世界大戦が1939〜1945年であるので,戦後の約80年間でこれらの医療機器は急速に進歩を遂げたことになる.ちょうど同じ頃,日本には昭和の三種の神器(テレビ,洗濯機,冷蔵庫)が存在し,それぞれが現在の形に進歩していったのであるが,巨大な体外式ペースメーカが心臓の中に植込むカプセル型のペースメーカに進歩したことを考えると,医療機器の進化の凄まじさが理解できるであろう.
不整脈治療の最新デバイスといえば,前出のリードレスペースメーカ以外に,致死的心室性不整脈に対する様々な除細動器があり,そのなかには経静脈的にリードを植込むシステムだけではなく,皮下植込み型除細動器,ベストの様に着脱できる着用型自動除細動器などがある.さらに心不全治療にまで守備範囲を広げた心臓再同期治療は,現在では確立した治療法として位置付けられている.進歩はハードウェアだけではない.対面診療なしでもデバイスや不整脈の状況を診断できる遠隔モニタリングのネットワークは世界中で確立し,今後はスマホなどの携帯端末やAI技術などを使った総合的な健康管理システムに進化するはずである.
雑誌目次
循環器ジャーナル68巻3号
2020年07月発行
雑誌目次
特集 不整脈治療の最新デバイステクノロジーとリードマネジメント
序文 フリーアクセス
著者: 庄田守男
ページ範囲:P.404 - P.405
Ⅰ.ペースメーカ
ペースメーカの歴史
著者: 安岡良文 , 栗田隆志
ページ範囲:P.406 - P.411
Point
・1958年に当時最先端の機械工学が医療に応用され,植込み型ペースメーカの歴史が幕を開けた.
・以降,技術開発に関わる技術者,植込み技術向上をめざす医師,患者とその家族および社会の受け入れ,経済界などの様々な分野の人々の努力によりペースメーカ治療が広く普及していった.
・日本不整脈デバイス工業会の調べでは,現在,本邦では毎年約4万人もの患者が新たにペースメーカの植込み手術を受け,その恩恵により失神や心不全症状から解放された日常生活を送っている.
リードレスペースメーカ
著者: 若月大輔 , 浅野拓
ページ範囲:P.412 - P.421
Point
・リードレスペースメーカのデリバリーシステムの構造と植込み方法.
・リードレスペースメーカ再留置およびデザー抜去後の本体回収の方法.
・リードレスペースメーカの利点と合併症および今後の展開.
バイオペースメーカ
著者: 門田真 , 柴祐司
ページ範囲:P.422 - P.427
Point
・遺伝子治療や細胞治療によるペースメーカ開発を目指した研究がある.
・自動能をもつように局所的に遺伝子を発現させる,もしくは細胞を移植する.
・将来的には機械式ペースメーカに代わる可能性がある.
ヒス束ペーシング・左脚ペーシング
著者: 藤生克仁
ページ範囲:P.428 - P.436
Point
・房室ブロック症例において,通常の心室ペーシングに比較して,ヒス束ペーシングは予後を改善する.
・selectiveヒス束ペーシングよりnon selectiveヒス束ペーシングが望ましい.
・左脚ペーシングは,将来的にヒス束ペーシングの弱点を克服する方法として期待される.
Ⅱ.除細動治療
植込み型除細動器(ICD)
著者: 中井俊子
ページ範囲:P.438 - P.444
Point
・植込み型除細動器は,心臓突然死を防止できる唯一かつ最も有効な手段である.
・日本においては,一次予防としてのICD植込みは少なく,突然死予防の観点から重要な課題となっている.
・ショック作動は患者のQOL低下を招くだけでなく,生命予後にも関与する.抗頻拍ペーシングを積極的に設定し,ショック作動を少なく,特に不適切作動は限りなくゼロにする管理を心掛けたい.
心臓再同期治療(CRT-D)
著者: 三橋武司
ページ範囲:P.446 - P.451
Point
・心臓再同期療法(CRT)は左室の電気的興奮の遅れを改善させる治療であり,その伝導遅延をいかに検出するか,改善させるかが重要である.
・CRTに除細動機能が絶対に必要であるとは現段階では断定できない.
・Non-responderをいかに減らすかがCRTの課題であり,適応を早期に,また厳格にすればnon-responderは減少するが,実臨床では境界領域の症例も存在する.
・植込み手技やデバイスのアルゴリズムで死亡率や心不全入院率が低下する可能性があるのかが今後の検討課題である.
皮下植込み型除細動器(subcutaneous implantable defibrillator;S-ICD)
著者: 岡田綾子
ページ範囲:P.452 - P.458
Point
・S-ICDデバイスは完全な皮下植込み型の電気的除細動器である.
・静脈アクセスや易感染性,若年者に対するTV-ICDの問題がこのデバイスの登場により解決された.
・ペーシング機能や抗頻拍ペーシング機能が付随していないが,必要である症例を除外することで適切なデバイス選択が可能となる.
着用型自動除細動器(wearable cardioverter defibrillator;WCD)
著者: 菊池規子 , 庄田守男
ページ範囲:P.460 - P.464
Point
・着用型自動除細動器は,直ちには植込み型除細動器を植込むことのできない患者に,一時的に使用する突然死予防のデバイスである.
・除細動機能に加え,モニタリング機能もあるデバイスである.
Ⅲ.植込みデバイス手術の合併症
合併症の種類
著者: 楊培慧 , 髙木雅彦
ページ範囲:P.466 - P.474
Point
・植込み型心臓電気デバイスに伴う合併症は,ポケット関連とリード関連の合併症があり,周術期のみならず遠隔期にも発生する.合併症の内容とその予防策,トラブルシューティングを十分に知っておく必要がある.
・経静脈リードシステムの合併症を予防する目的で,ヒス束ペーシング,リードレスペースメーカ,皮下植込み型除細動器などが施行されるようになってきたが,それらに対しても新たな合併症が報告されている.
・植込み型除細動器や心臓再同期治療では,デバイスの大きさ,リードの硬さ・太さ,手技の難しさなどから,ペースメーカより合併症の発生率が高くなる.
感染性合併症の予防
著者: 今井克彦
ページ範囲:P.476 - P.483
Point
・植込みデバイス手術時の感染への対策として最も重要なことは予防であり,感染性合併症に対する予防的観点を十分に含んだ植込みの基本的手技を十分に習得することが必要である.
・植込みデバイスの感染性合併症の診断は,解決されていない問題を含んでいることから後手に回ることもしばしばだが,診断の遅れは最終的に致死につながることに留意する.
・植込みデバイスの感染性合併症の治療の大原則は「すべての人工物をいったん取り去り,抗菌薬などで十分な治療を行う」である.これは経皮的リード抜去と外科的処置の組み合わせによって実施されるが,しばしば困難を伴う.
出血性合併症の予防
著者: 森本大成
ページ範囲:P.484 - P.489
Point
・デバイス手術での出血性合併症の原因の多くは手術手技である.
・予防のためには適切な手術手技の習得が必要である.
・抗凝固療法を受けている患者のデバイス手術では,薬剤中止の利点・欠点を十分に考慮して決定する必要がある.
Ⅳ.リードマネジメント
リードマネジメントの考え方
著者: 庄田守男
ページ範囲:P.490 - P.495
Point
・リードマネジメントは,トラブル発生時に問題解決することだけではなく,初回植込み時から始まる.
・リードの構造を良く理解し,患者の病態に最適なリードを選択し,ペースメーカ機能を十分に発揮させることができる部位に植込む.ただし,植込み時より将来抜去しなければならない可能性を考慮しながら手術を行うことが重要である.
・ペースメーカ交換は決して簡単な手術ではなく,感染防御,出血予防をしながらリードを大切に扱う手技が必要である.
・アップグレード時,リードトラブル時には,単純にリードを追加するのではなく,不要になったリードを抜去してリードを「交換」する選択肢も考えながら手術を行う.
リードの構造
著者: 中島博
ページ範囲:P.496 - P.506
Point
・ICDリードは非常に複雑な構造をもっている.
・ICDリードの空間構造構成には2つの潮流がある.
・ICDリードはモデルごとに構造が異なる.
・リードの構造は長期成績に影響する.
・リードの構造を知ることは,留置上の注意点を知ることである.
リード抜去の適応
著者: 合屋雅彦
ページ範囲:P.508 - P.515
Point
・日本においてもリード抜去術のガイドラインが作成された.
・すべてのデバイス感染症はリード抜去術のクラスⅠ適応である.
・非感染症例では「リードマネジメント」の考え方に従ってリード抜去術の適応を考慮すべきである.
リード抜去手術機器
著者: 西井伸洋
ページ範囲:P.516 - P.523
Point
・リード抜去手技の前には,リードのすべてのパーツを牽引するために,ロッキングスタイレットの挿入などいくつかの準備が必要である.
・エキシマレーザーシースは最初に保険償還されたリード抜去用シースであり,非常に良好な成績が報告されている.シースは柔らかく,リードに追随しやすいようになっており,心内での操作も安心して行える.
・癒着組織が高度になると,エキシマレーザーの効果が減弱し,メカニカル・ダイレーターシースやメカニカル・ローテイションシースの使用が必要となる.いずれもリードを牽引し同軸を保つことが重要である.
・鎖骨下領域からの抜去に固執することなく,スネアなどを用いた下大静脈,内頸静脈からのアプローチも重要で,これらの手技に精通することで,良好な成績が得られる.
リード抜去手術法
著者: 山田貴之
ページ範囲:P.524 - P.530
Point
・経静脈的リード抜去術における様々なツールの特徴を理解しておく必要がある.
・抜去対象リードについてよく調べておくことが大切である.
・成功率は高く合併症率は低いが,致死率の非常に高い合併症も含まれる.
Ⅴ.遠隔モニタリング
遠隔モニタリングの概念
著者: 原田将英 , 渡邉英一
ページ範囲:P.532 - P.541
Point
・植込みデバイス患者における遠隔モニタリングは,対面診療と同等に安全かつデバイスの異常や不整脈のイベントを早期に発見できることが臨床試験で示されている.
・遠隔モニタリングは対面診療に代わる手段として方法が確立されつつあり,日本のガイドラインでも標準治療(Class Ⅰ)として推奨されている.
・すべてのデバイスメーカーが遠隔モニタリングを導入しているが,システムは多様化しており,患者の生活や病態に合わせた機種の選定を行うため,各社の特徴を知る必要がある.
デバイス管理
著者: 脇田亜由美 , 仲村健太郎
ページ範囲:P.542 - P.549
Point
・遠隔モニタリングは予後改善効果が示され,主要学会でも心臓植込みデバイスの管理に用いることが推奨されている.
・遠隔モニタリングで得られる様々な情報を活用することで,デバイス管理のみならず不整脈の検出や心不全管理にも有用性が高い.
・医師・臨床工学技士および看護師など,多職種による遠隔モニタリング運用体制を構築し,情報共有と緊密な連携を図ることが望ましい.
遠隔管理を用いた心不全管理
著者: 奥山貴文 , 今井靖
ページ範囲:P.550 - P.557
Point
・胸郭インピーダンスを含めた多面的な情報収集により,心不全増悪の早期発見が可能となる.
・外来通院回数の軽減や診察時間の短縮につながり,患者負担を軽減することができる.
・実臨床での有効性が示され,日本循環器学会にてClass Ⅱaで推奨されている.
スマホアプリ
著者: 冨樫郁子 , 前田明子 , 副島京子
ページ範囲:P.558 - P.565
Point
・スマートフォンアプリ,Bluetoothを用いた遠隔モニタリングが導入開始されている.
・専用アプリをダウンロードしたスマートフォンをトランスミッターとして使用することにより,よりリアルタイムの遠隔モニタリングが可能となっている.
・一部のデバイスデータは患者にもフィードバックされ,これにより健康意識の向上にもつながっている.
連載 心エコー読影ドリル・4
第4回(Case 10〜12)
著者: 泉知里 , 松谷勇人
ページ範囲:P.567 - P.572
Case 10 75歳,女性.糖尿病,脂質異常症の基礎疾患があり,労作時の息切れと軽い胸痛を自覚しており,トレッドミル運動負荷心電図検査を施行したところ,最大負荷時にⅡ,Ⅲ,aVF,V4,V5,V6誘導にST低下を認め,虚血性心疾患の評価目的で経胸壁心エコー図検査を施行した.
*本論文中、関連する動画を見ることができます(公開期間:2022年7月まで公開)。
臨床研究の進め方:ピットフォールに落ちないための工夫・2
研究アイデアを具現化し計画の骨子を考える②
著者: 庄司聡 , 植田育子
ページ範囲:P.574 - P.579
はじめに なぜ医師にとって身近であるはずの臨床研究は進まないのか? さらに,どのようにすれば臨床研究を最後まで進めることができるのか.
研究者である多くの医師は,研究を開始する前の準備段階で,そのピットフォールに落ちてしまっている.そして残念ながらそのことに気付かずにいる医師(=研究者)が多数存在している現状がある.本連載では,臨床研究のピットフォールに落ちないために,
① 医師自らのアイデアを具現化し臨床研究の計画の骨子を立てる.
② 臨床研究実施に必要な文書類を系統的に整備する.
③ 研究を効率的に運用するために必要な体制構築を認識しておく.
という3つのポイントを,幾度も臨床研究の立ち上げに携わってきた臨床研究コーディネーター(clinical research coordinater;CRC)の立場から紹介する.
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ページ範囲:P.402 - P.403
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