新型コロナウイルス感染症の感染拡大でPCR検査が話題となり,検査に求められるのは“簡便に行えてすぐに結果が出ること”だと改めて感じました.心電図検査はこの条件を満たし,さらに非侵襲的で安価です.
心電図は100年以上も前から存在する古い検査法でありながら,今なお循環器診療で最初に行われる基本検査であることに変わりありません.今後,画像診断がどんなに目覚ましい進歩を遂げても,心電図は決してなくなることのない検査法だと思っています.心電図から得られる情報量は心筋虚血・不整脈を筆頭に限りなく多い一方で,その診断は必ずしも容易ではありません.臨床現場では教科書に載っているような典型的な例ばかりではなく,診断に苦慮する例は少なくありません.
雑誌目次
循環器ジャーナル69巻2号
2021年04月発行
雑誌目次
特集 エキスパートに学ぶ 知っておきたい心電図診断のコツと落とし穴
序文 フリーアクセス
著者: 小菅雅美
ページ範囲:P.162 - P.163
“温故知新” 循環器疾患の診断における心電図の意義
著者: 土師一夫
ページ範囲:P.164 - P.176
Point
・心電図の温故知新のうち,主に温故に焦点を当て,心電図の原点である発電体としての心臓の解明とその電位の記録に立ち向かった先達の研鑽の歴史を中心に述べた.
虚血性心疾患
ST上昇型心筋梗塞
著者: 石原正治
ページ範囲:P.178 - P.184
Point
・心電図の迅速,的確な診断はSTEMI診療の要石であり,10分以内に記録し評価する.
・初回の12誘導心電図で診断に至らない場合は,背側部誘導の記録,経時的な観察が必要である.
Topics:de Winter Pattern
著者: 堤勝彦 , 小菅雅美 , 木村一雄
ページ範囲:P.186 - P.190
Point
・de Winter Patternは,前胸部誘導でST上昇を呈さずupsloping型のST低下と連続する増高した左右対称性の陽性T波を呈し,aVR誘導のST上昇を伴う特異なST-T変化である.
・de Winter PatternはLAD近位部閉塞を示唆する心電図所見で,この所見はST上昇と同様に考え再灌流療法の適応となる.
非ST上昇型急性冠症候群
著者: 川越康仁 , 安田聡
ページ範囲:P.192 - P.210
Point
・非ST上昇型急性冠症候群を疑う心電図の評価ではST変化・陰性T波などの変化から虚血性心疾患の検査前確率の評価と重症度評価を同時に行い,リスク/ベネフィットを天秤にかけて次の行動を決める.
・虚血性変化にばかり目を奪われがちであるが,常に他の可能性も鑑別に残しておく.
・心電図だけでは判読困難な症例もあり,総合的判断が大切である.
冠攣縮性狭心症
著者: 鈴木達 , 辻田賢一
ページ範囲:P.212 - P.219
Point
・冠攣縮は,多くの循環器疾患の病態に関与している.
・冠攣縮性狭心症の発作時の心電図はST上昇だけでなく,ST降下や陰性U波もありうる.
・一症例ごとに丁寧に心電図を判読していくことが,重要である.
急性冠症候群と鑑別を要する疾患
急性肺塞栓症
著者: 猿渡力
ページ範囲:P.220 - P.227
Point
・急性肺塞栓症では,初期診断の成否が予後を大きく左右するため,心電図などのスクリーニング検査が重要である.
・中等症以上の急性肺塞栓症では,特異性はないが何らかの心電図変化を認めることが多い.
・急性肺塞栓症の心電図では陰性T波の出現と分布に注意を向けることが重要である.
たこつぼ症候群
著者: 栗栖智
ページ範囲:P.228 - P.235
Point
・Apical typeでは,急性前壁心筋梗塞との鑑別に心電図が有用である.
・Mid-ventricular typeでは,心電図変化が乏しい.
・心電図変化に関連した合併症を来す可能性がある.
劇症型心筋炎
著者: 菊地進之介 , 木村一雄
ページ範囲:P.236 - P.244
Point
・劇症型心筋炎は稀だが予後不良であり,迅速かつ的確な診断が必要である.
・劇症型心筋炎の多くでST-T異常を示し,ST上昇型心筋梗塞との鑑別を要する.
・病歴と心電図を含めた検査所見から総合的に急性心筋炎の診断・治療を行うべきである.
急性A型大動脈解離における心電図変化について
著者: 平田一仁
ページ範囲:P.246 - P.253
Point
・急性A型大動脈解離では高率に心電図変化を来す.
・約1/3に慢性変化,約1/2に急性のST-T変化を来し,正常心電図は約1/4の症例にすぎない.
・心電図異常を伴う胸部背部痛,意識障害,ショック例には,急性冠症候群以外にも大動脈解離を強く疑う必要がある.
急性心膜炎
著者: 北方博規 , 香坂俊
ページ範囲:P.254 - P.260
Point
・急性心膜炎は,何らかの原因で心膜囊が炎症を起こしている状態を指す.
・心膜摩擦音や心囊液貯留といった身体所見,そして特徴的な心電図異常が診断に重要である.
・本稿では心電図所見を中心に急性心膜炎の特徴を振り返り,類似の症状を呈する虚血性心疾患やその他の胸部疾患との鑑別点を明確にしたい.
不整脈
徐脈性不整脈
著者: 矢野健介 , 小池秀樹 , 池田隆徳
ページ範囲:P.261 - P.267
Point
・徐脈性不整脈は刺激生成能の低下,伝導の遅延,伝導の途絶のいずれかで生じる.
・徐脈性不整脈は,洞(機能)不全症候群と房室ブロックの2つに大別される.
・心電図診断の決め手は,P波とQRS波の関係を詳しく観察することである.
頻脈性不整脈
著者: 山根禎一
ページ範囲:P.268 - P.277
Point
・頻脈性不整脈の心電図診断として,心房粗動,心房細動,心室頻拍にポイントを絞って解説した.
・心房粗動は房室伝導の善し悪しで心電図所見が大きく変わることに注意が必要である.特に2:1伝導や1:1伝導の心電図は誤診されやすい.
・心房細動の心電図では心房波が不規則に速く興奮していることを確認する必要がある.房室ブロックを伴ったり,副伝導路を有する場合などには特異な心電図所見を呈することがあることを念頭に置いておく必要がある.
・QRS波の幅広い頻拍においては,上室性か心室性かの判断が患者の治療と予後を大きく左右する.過去に報告されているアルゴリズムなどを用いて慎重に解析する必要がある.
QT延長症候群
著者: 篠原徹二 , 中川幹子
ページ範囲:P.278 - P.286
Point
・先天性QT延長症候群(先天性LQTS)は,現在までに十数個の遺伝子型が報告されているが,1型,2型,3型LQTSが90%以上を占めている.β遮断薬は心イベントのリスクを低下させるエビデンスがあり,第1選択の薬物である.
・二次性LQTSは,本来のQT間隔は正常もしくは正常上限であるが,外的要因(薬剤,電解質異常,徐脈,器質的心疾患など)によってQT間隔の延長を認める場合に診断する.QT延長の原因を特定し,可及的速やかに除去および是正することが治療の基本である.
・無症状のQT延長を有する患者が初回イベントとして突然死もしくは心停止を発症することがあるので,初診時には適切に対応する必要がある.
Brugada症候群
著者: 深田光敬 , 丸山徹
ページ範囲:P.287 - P.294
Point
・診断的意義のあるcoved型心電図は,QRS終末部からhigh-take offを示し,上に凸もしくは直線的にST部分が上昇し,陰性T波へ移行する.
・Brugada phenocopyを示す疾患について知り,Corrado indexなどの指標を用いることが鑑別に有用である.
J波症候群
著者: 相澤義泰
ページ範囲:P.295 - P.299
Point
・12誘導心電図で,下壁または側壁誘導の2誘導以上で0.1mV以上のJ点上昇を伴う,スラーまたはノッチを認める場合をJ波と定義する.
・J波は男性,若年者,アスリート,アフリカ系アメリカ人,アジア人に多く認め,特発性心室細動との関連が報告されている.
・一般集団にも認めるが,ハイリスク心電図所見として,高振幅,広範囲の誘導での出現,水平型/下降型のST部分,低いT波,徐脈依存性の振幅の増大などが知られている.
知っておきたい心電図異常
肺高血圧症
著者: 田村雄一
ページ範囲:P.300 - P.305
Point
・肺塞栓症に代表される急性右心負荷の異常所見は,胸部誘導の陰性T波のみで現れることが多いため,原因不明の呼吸困難を合併する場合は造影CTを撮影することが重要である.
・肺動脈性肺高血圧症に代表される慢性の右心負荷の場合は,V1のR波の増高やV5のS波を特徴とし,治療によって圧負荷が改善された際には所見も改善する場合が多い.
電解質異常
著者: 庭野慎一
ページ範囲:P.306 - P.311
Point
・血清カリウム,血清カルシウムの異常によって心電図が変化する.
・電解質異常は致死的不整脈の発生原因となることがあり,早期の診断が重要である.
特殊心電図
ホルター心電図
著者: 速水紀幸
ページ範囲:P.312 - P.323
Point
・24時間のすべての心電図を記録でき,不整脈,虚血性心疾患の診断に有用である.自律神経機能の評価にも使用される.
・発作頻度が高い症例が適しており,記録中に発作が起こるように普段通りの生活を行うよう事前に説明することが重要である.
・ある程度の自動解析はされるが,最終的には医師の目による判読が欠かせない.
運動負荷心電図
著者: 上嶋健治
ページ範囲:P.324 - P.331
Point
・運動負荷心電図の目的は,①虚血性心疾患の診断,②虚血性心疾患の重症度評価,③心筋虚血への治療効果の判定,④運動耐容能の評価,⑤運動が不整脈に及ぼす影響を評価など多岐にわたるが,主たる目的はスクリーニングも含めた虚血性心疾患の診断と重症度評価にある.
・冠動脈疾患へのインターベンション治療の適応決定には,心筋虚血の評価が義務付けられるなか,運動可能な患者にとって,運動負荷心電図は心筋虚血検出の最初のステップである.
・心筋虚血陽性の判定は主にST部分の変化で行うが,U波の変化や不整脈の出現にも注意し,症状や血圧変化など運動から得られた心電図以外の情報も活用することで診断精度が向上し,予後の推測も可能である.
連載 臨床研究の進め方:ピットフォールに落ちないための工夫・5
研究計画書(プロトコル)・症例報告書・説明文書と同意書の3点セット:ここが次のステップだ!②
著者: 植田育子
ページ範囲:P.332 - P.337
はじめに なぜ医師にとって身近であるはずの臨床研究は進まないのか? どのようにすれば臨床研究を最後まで進めることができるのか.
研究者という立場でもある多くの医師は,実は研究を開始する前の準備段階で多かれ少なかれ「ピットフォール」に落ちてしまっている.そして,そのことに気付かずそのまま研究を進めようとしているケースが実に多い.本連載では,こうしたピットフォールを避けるために,
① 医師自らのアイデアを具現化し臨床研究の計画の骨子を立てる
② 臨床研究実施に必要な文書類を系統的に整備する
③ 研究を効率的に運用するために必要な体制構築を認識しておく
という3つのポイントを提案し,臨床研究の立ち上げに数多く携わってきた臨床研究コーディネーター(Clinical Research Coordinator;CRC)の立場から紹介する.
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目次 フリーアクセス
ページ範囲:P.160 - P.161
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