すでに国内には50万人を超える成人期に達した先天性心疾患患者が存在すると言われている.循環器内科医,小児循環器医だけでなく,一般内科医にとってもいつかは遭遇する,もしくは既に実臨床で対応する必要性のある疾患群となっている可能性がある.
残念なことに,成人先天性心疾患の診療や治療では高いエビデンスで治療方針が確定している領域は限られており,過去の経験もしくは他の疾患群の治療を参考に個別の治療が行われているのが現状である.これは成人先天性心疾患といっても多種多様の病態があり,同一の疾患名であっても個別の患者の病態には大きな違いがあることが一因である.日本循環器学会を中心に国内でも成人先天性心疾患領域のガイドラインは発行され改訂も加えられてきたが,循環器領域の他領域のようにエビデンスレベルの高い推奨項目は非常に限られているのが実情である.特に肺高血圧,Fontan術後,妊娠・出産など,疾患そのものの多様性が大きいため,管理や治療については十分なエビデンスは確立していない.そして何よりも,このような患者の診療が成人先天性心疾患領域の最も重要な位置を占めているのである.
雑誌目次
循環器ジャーナル69巻3号
2021年07月発行
雑誌目次
特集 成人先天性心疾患 エキスパートコンセンサス
序文 フリーアクセス
著者: 赤木禎治
ページ範囲:P.344 - P.345
Ⅰ.成人先天性心疾患の全体像を理解する
成人先天性心疾患診療の実情・診療体制
著者: 相馬桂 , 八尾厚史
ページ範囲:P.346 - P.352
Point
・成人先天性心疾患(ACHD)の手術は決して根治術ではなく,生涯にわたる経過観察が必要である.
・ACHD診療体制の確立を目的に,JNCVD-ACHDの設置,専門医制度が開始された.
・循環器内科医を中心に,各科が連携してACHD患者を総合的に診る体制作りが必要である.
社会保障,医療支援はどうするか
著者: 檜垣高史 , 髙田秀実 , 赤澤祐介
ページ範囲:P.353 - P.362
Point
・社会保障制度を知って,適切に利用できるように情報提供することが重要である.
・ACHD患者の社会生活において,医療費助成,所得保障,就職支援などが重要である.
・ACHD患者が,生涯において安心して医療を受けられる医療体制の確立が目標である.
小児期からの移行期医療にどのように取り組めばよいか
著者: 落合亮太 , 秋山直美 , 佐藤優希
ページ範囲:P.363 - P.367
Point
・看護職やソーシャルワーカーを巻き込む.
・自立的なコミュニケーション,成人期の受診先,社会保障制度利用を調整・支援する.
・移行期医療支援センターと小児慢性特定疾病児童等自立支援事業との連携を検討する.
Ⅱ.成人先天性心疾患特有の問題点に対するアプローチ
成人期Fontan術後患者の問題点,PLE
著者: 杜徳尚
ページ範囲:P.370 - P.377
Point
・Fontan手術は低酸素血症の改善を目指す手術であるが,特殊な血行動態により遠隔期の合併症は少なくない.
・Fontan術後には不整脈,体心室機能低下,肺血管抵抗の上昇,といった循環器合併症だけでなく,血栓塞栓症,肝・腎機能異常や蛋白漏出性胃腸症など全身臓器に注意して診療する.
Fontan型手術あれこれ,および成人期再手術
著者: 上村秀樹
ページ範囲:P.378 - P.386
Point
・多岐にわたる右心バイパス手術の創意工夫について,歴史的要素を加えながら簡便に解説する.
・Fontan循環達成後の成人期に留意すべき再手術要因を体系的に考察する.
・用語により概念的混乱を引き起こしかねない事項について注意喚起する.
注意すべき妊娠・出産
著者: 神谷千津子
ページ範囲:P.387 - P.393
Point
・先天性心疾患をもつ女性に,10代から(成熟度による)妊娠リスクの情報を提供する.
・妊娠母体の循環動態変化を知り,心血管合併症の予防や早期診断に努める.
・ハイリスク例では,妊娠・出産だけでなく避妊法の提供や生殖医療の際にも,産婦人科と循環器科の連携が望ましい.
成人先天性心疾患患者の運動負荷,運動療法
著者: 大内秀雄
ページ範囲:P.394 - P.400
Point
・成人先天性心疾患患者でも,心肺運動負荷試験はその予後を含めた病態の把握に重要である.
・運動耐容能の規定要因は心肺機能を含めた多要因であるが,最近は体組成,特に骨格筋量維持の重要性が指摘されている.
・運動トレーニングは一般循環器領域では運動耐容能改善に有用であるとされるが,成人先天性心疾患患者でのエビデンスは少なく,今後の新たな知見の構築が望まれる.
Marfan症候群,大動脈拡大
著者: 佐藤正規 , 稲井慶
ページ範囲:P.402 - P.409
Point
・Marfan症候群は高確率で大動脈解離を伴う疾患である.早期診断と適切な降圧療法で病変の進行を遅らせる必要があり,大動脈拡大例には大動脈置換術が検討される.
・常染色体優性遺伝疾患であり,妊娠前の遺伝カウンセリングが必要である.妊娠・出産はリスクも高く,注意深い管理を要する.
・Fallot四徴症など一部の先天性心疾患には大動脈拡大を伴う症例があり,生命予後の改善で今後はさらに大動脈拡大症例が増加してくると考えられる.
心房中隔欠損症の臨床像とカテーテル治療
著者: 塩見紘樹
ページ範囲:P.410 - P.413
Point
・心房中隔欠損症は成人に認められる先天性心疾患のなかで最も頻度が高い.
・カテーテル治療の対象となるのは二次孔欠損かつ周囲縁(rim)欠損でない症例である.
・カテーテル治療の適応判断には,解剖学的特徴のほか肺高血圧の存在など病態の評価が重要である.
卵円孔開存の診断とカテーテル閉鎖術の適応
著者: 高谷陽一
ページ範囲:P.414 - P.420
Point
・卵円孔開存(PFO)による潜因性脳梗塞の発生頻度は低くなく,PFOカテーテル閉鎖術は再発予防に有効である.
・PFOカテーテル閉鎖術の有効性が示され,PFOを確実に診断することが重要になってきている.
・PFO診断には,経胸壁心エコー図での右左短絡の検出,経食道心エコー図でのPFO形態の評価が重要である.
成人期に発見される動脈管開存症の臨床的特徴とカテーテル治療戦略
著者: 金澤英明
ページ範囲:P.421 - P.429
Point
・成人PDAは小児PDAとは異なる解剖学的特徴や病態的背景を有している.
・CTによる術前評価は,治療ストラテジーの検討や合併症回避に有用な可能性がある.
・ADO Ⅱの登場により,PDAのカテーテル治療の選択肢が広がった.
・心不全や併存疾患を有する高齢者PDAに対しては,ハートチームによる集学的アプローチが重要である.
Fallot四徴症:術後不整脈の管理
著者: 立野滋
ページ範囲:P.430 - P.438
Point
・術後不整脈の成因は,手術侵襲と術後の異常な血行動態に深く関係する.
・高い頻度で出現する不整脈と突然死の管理は,予後とQOL改善のために重要である.
Fallot四徴症術後右室流出路治療介入のポイントは?
著者: 佐地真育 , 七里守 , 矢崎諭
ページ範囲:P.440 - P.450
Point
・右室流出路機能不全に対する介入時期はいまだ明らかでない部分があり,症状,画像診断などで総合的に判断し,右室が非可逆性変化を起こす前に介入する必要がある.
・経カテーテル肺動脈弁置換術は手術の代替となる可能性がある.またその低侵襲性から,手術と組み合わせることで,患者の生活の質を向上できる可能性がある.
・小児循環器医,小児心臓外科医,循環器内科医,コメディカルなどがハートチームを形成し,成人先天性心疾患術後患者を包括的に診療することが重要である.
Ⅲ.成人先天性心疾患の病態別の治療指針
心不全に対する薬物療法
著者: 坂本一郎
ページ範囲:P.451 - P.455
Point
・慢性心不全の薬物療法は,体心室収縮能が低下しているか否かで大きく異なる.
・Fontan手術後症例では他の心不全と違った視点での評価・治療が必要である.
難治性不整脈に対する薬物療法
著者: 住友直方
ページ範囲:P.456 - P.461
Point
・成人先天性心疾患の不整脈発生に関与する要因を解説する.
・薬物療法は,頻拍の停止や,非薬物療法の補完的治療として位置付けられる.
難治性不整脈に対するアブレーション治療,デバイス治療
著者: 西井伸洋
ページ範囲:P.462 - P.470
Point
・頻脈性不整脈は手術などの障害部位に関連したリエントリ性頻拍が多い.
・カテーテルのアプローチができれば,アブレーションで治療可能である.
・心臓植込み型電気デバイスの適応は,正常な解剖の患者と大きく変わらないが,リードのアプローチ方法に制限があり,さまざまな手技が試みられている.
肺高血圧症を合併した患者に対する管理と治療
著者: 赤木達
ページ範囲:P.471 - P.477
Point
・肺動脈性肺高血圧症は先天性心疾患における重要な併存疾患である.
・肺動脈性肺高血圧症に対し,特異的肺血管拡張薬が有効な症例が存在する.
・Treat and Repairは,シャント性心疾患関連肺動脈性肺高血圧症の治療戦略である.
3D printing modelを使った治療戦略
著者: 白石公
ページ範囲:P.478 - P.486
Point
・小児の先天性心疾患は,心臓が小さいだけでなく立体構造が極めて複雑である.手術支援には心臓レプリカを用いたシミュレーションが有用である.
・手術シミュレーションとして切開縫合が可能な心臓の軟質レプリカを作製するには,高度な3D printing技術および注型技術が必要である.
・筆者らは,先天性心疾患の複雑な心臓の内部構造を詳細に再現可能な「超軟質精密心臓レプリカ」を世界に先駆けて開発した.その詳細と今後の展望を解説する.
新型コロナウイルス感染症と成人先天性心疾患
著者: 赤木禎治
ページ範囲:P.487 - P.490
Point
・国内の成人先天性心疾患領域において,COVID-19発生状況は限られており,重症化症例の報告は少ない(2021年5月時点).
・国際レジストリー研究では,成人先天性心疾患のCOVID-19による死亡率は一般人口と同等とされている.
・先天性心疾患の解剖学的特徴はCOVID-19の重症度とは関連せず,チアノーゼ,肺高血圧,心不全の合併など全身状態が予後に影響する.
連載 臨床研究の進め方:ピットフォールに落ちないための工夫・6
研究計画書(プロトコル)・症例報告書・説明文書と同意書の3点セット:ここが次のステップだ!③
著者: 植田育子
ページ範囲:P.492 - P.497
はじめに なぜ医師にとって身近であるはずの臨床研究は進まないのか? どのようにすれば臨床研究を最後まで進めることができるのか.
研究者という立場でもある多くの医師は,実は研究を開始する前の準備段階で多かれ少なかれ「ピットフォール」に落ちてしまっている.そして,そのことに気付かずそのまま研究を進めようとしているケースが実に多い.本連載では,こうしたピットフォールを避けるために,
① 医師自らのアイデアを具現化し,臨床研究の計画の骨子を立てる
② 臨床研究実施に必要な文書類を系統的に整備する
③ 研究を効率的に運用するために必要な体制構築を認識しておく
という3つのポイントを提案し,臨床研究の立ち上げに数多く携わってきた臨床研究コーディネーター(Clinical Research Coordinator;CRC)の立場から紹介する.
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