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雑誌目次

雑誌文献

循環器ジャーナル69巻4号

2021年10月発行

雑誌目次

特集 プレシジョン・メディシン時代における腫瘍循環器学の重要性

序文

著者: 佐瀬一洋

ページ範囲:P.504 - P.505

 超高齢社会の到来に伴い,がんの罹患者が増加しつつあるが,いわゆるプレシジョン・メディシンの時代を迎えて,がんの予防・診断・治療技術も急速な発展を遂げており,今後がんサバイバーの数が急増すると予想されている.
 循環器領域では,以前からアントラサイクリン系薬剤の心毒性や放射線治療に伴う心血管障害の存在は知られていた.しかしながら,最近登場した分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などでは,いわゆるがん治療関連心血管疾患(CTRCD)として,心不全,動脈硬化症,心臓弁膜症,高血圧症,不整脈,血栓塞栓症,末梢血管障害および心膜疾患などのまったく新しい病態が出現しつつある.

序章

新しい学際領域としての腫瘍循環器学—循環器医の立場から

著者: 小室一成

ページ範囲:P.506 - P.513

Point
・治療の進歩によるがん患者の予後の向上によって,循環器病を併発することが増えている.
・がん治療に伴って多くの循環器病が併発するが,特に心不全が重要である.
・がん患者には血栓塞栓症が併発しやすいが,同時に出血も多い.
・世界的に腫瘍循環器学が注目されているが,わが国においても日本腫瘍循環器学会が設立された.

新しい学際領域としての腫瘍循環器学—がん治療医の立場から

著者: 石岡千加史

ページ範囲:P.514 - P.520

Point
・がんと心血管系疾患を併発する患者が増加している.
・がん治療に際し,心不全,血栓塞栓症などの心血管系合併症に注意が必要である.
・心血管系疾患を治療前後に合併する場合は循環器内科医との連携が必要である.

Ⅰ章 腫瘍循環器学とは

疫学研究からみた腫瘍循環器学の必要性

著者: 大倉裕二

ページ範囲:P.522 - P.528

Point
・がんと心臓病は危険因子を共有しているため,がん患者は心臓病を合併しやすい.
・心臓病の危険因子への介入は,がんと心臓病の双方を予防する.
・不全心由来の液性因子ががんの増殖を促進する現象が注目されている.

がん治療成績の向上と腫瘍循環器学の重要性

著者: 勝俣範之

ページ範囲:P.530 - P.537

Point
・がん治療関連心血管疾患(CTRCD)の概念を理解する.
・CTRCDを引き起こすがん薬物療法について知っておく.
・心筋障害を起こすがん薬物療法とその対応策を知っておく.

小児およびAYA世代におけるがん診療連携と腫瘍循環器学への期待

著者: 岩間優 ,   清水千佳子

ページ範囲:P.538 - P.543

Point
・小児・AYA世代のがん患者は,晩期合併症のリスクが高く,がん治療終了後も包括的な健康管理が重要である.
・がん治療による心血管疾患の予防法やスクリーニング検査,適切な治療の提供において,腫瘍に携わる医師と循環器の医師の連携が重要である.
・晩期合併症の多様さ,がんサバイバーとしての期間の長さなどから,小児・AYA世代のがん患者における長期的な健康管理の方法に関して課題の解決が求められている.
・包括的健康管理の体制構築にあたり,小児科と成人診療科との連携,がん治療医と非がん治療医との連携,がん治療施設と家庭医等との連携を強化するとともに,晩期合併症に関する非がん治療医への啓発と患者教育が求められる.

国内外における腫瘍循環器学の現状と今後の展望

著者: 南学

ページ範囲:P.544 - P.549

Point
・腫瘍循環器学は新たな学際領域であるが,国内外でめざましい広がりを見せている.
・充実したがんサバイバーシップ実現に腫瘍循環器学は欠かすことができない.
・腫瘍循環器学は,循環器疾患の新規病態メカニズム解明の扉を開く可能性がある.

Ⅱ章 がん医療の進歩と腫瘍循環器学

アントラサイクリン系の薬物療法とがん治療関連心機能障害(CTRCD)

著者: 赤澤宏

ページ範囲:P.550 - P.555

Point
・アントラサイクリン系抗がん剤による心毒性は蓄積性で用量依存性がある.
・高齢者,小児,基礎心疾患の合併,心血管リスク(喫煙,高血圧,糖尿病,脂質異常症,肥満)の合併も心毒性の危険因子となる.
・心機能低下を検出したら迅速に心保護薬(β遮断薬やレニン・アンジオテンシン系阻害薬)による治療を開始する.

がん放射線療法に関連した心血管合併症(RACD)

著者: 志賀太郎

ページ範囲:P.557 - P.565

Point
・強度変調放射線治療(IMRT),定位放射線治療(SRT)のほか,粒子線治療といった高精度放射線療法により,患者個々へのオーダーメイド的治療が可能となり,心臓照射が回避され,RACD発症リスクが劇的に低減している.
・RACDでは晩期障害が主体であり,慢性心膜疾患,冠動脈病変,心筋症,弁膜疾患そして伝導障害の多くが数年から数十年の経過をもって顕在化する.
・RACDは晩期発症が多く,診断を見逃さぬようRACDについての患者教育が肝要である.
・高血圧,喫煙など心血管疾患リスク因子の適正管理は,RACDのリスク低減に極めて重要である.

分子標的薬とがん治療関連心血管疾患(CTRCD)

著者: 坂東泰子

ページ範囲:P.566 - P.569

Point
・がん治療全般は循環器疾患のリスク因子の一つとして認知される.
・治療前には一般的な心血管病リスク〔動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクと心不全(HF)リスク〕の評価と,使用予定の抗がん剤で引き起こされる特有の副作用を考慮する.

がん免疫療法による心血管系の免疫関連有害事象(irAE)

著者: 向井幹夫 ,   塩山渉

ページ範囲:P.570 - P.578

Point
・がん免疫療法はがん患者の予後を改善する一方で,免疫関連有害事象が問題となっている.
・がん免疫関連心毒性,特に劇症型心筋炎は予後が不良であり,早期診断・治療が重要である.
・がん免疫関連心毒性の病態・機序には不明な点が多く,実臨床データの蓄積が待たれる.

腫瘍循環器領域の診療ガイドライン—国内外の現状および今後の展望

著者: 郡司匡弘 ,   矢野真吾

ページ範囲:P.579 - P.585

Point
・がん患者に心血管合併症が発症した場合には,合併症を有さない患者より有意に生存期間が短縮する.
・がん治療中のがん治療関連心血管合併症に対する予防・診断・治療戦略が重要であり,海外の各学会からガイドラインが発表されている.
・本邦でも2017年に日本腫瘍循環器学会が設立され,がん診療において「腫瘍内科」と「循環器内科」の相互協力によるガイドライン作成に取り組んでおり,今後さらなるがん患者の生存期間の延伸・生活の質の向上が期待される.

Ⅲ章 プレシジョン・メディシン時代における循環器系の予防・診断・治療技術

腫瘍循環器領域における画像診断技術の研究開発と臨床評価

著者: 根岸朋子 ,   根岸一明

ページ範囲:P.587 - P.593

Point
・画像診断では,何を診たいのかという診断目的により適正にモダリティを選ぶ必要がある.
・CTRCDの診断にはLVEFを用いるが,GLSの有用性も注目されている.

腫瘍循環器領域におけるバイオマーカーの現状

著者: 中川仁 ,   斎藤能彦

ページ範囲:P.594 - P.599

Point
・心筋障害を反映するトロポニンと,心収縮能低下を反映するBNPが有用なバイオマーカーである.
・2種類のバイオマーカーを組み合わせて早期診断,早期治療につなげることが重要である.

腫瘍循環器領域における不整脈

著者: 庄司正昭

ページ範囲:P.600 - P.609

Point
・がんの治療によって様々な不整脈が惹起されうるが,致死的不整脈には特に注意する.
・不整脈治療方針決定には腫瘍医と循環器医は協議し診療を進めていくことが肝要である.
・がん治療を完遂するために,がん専門施設と総合病院の連携の重要性を認識したい.

血栓止血研究のアップデート—腫瘍循環器領域における血栓塞栓症とその予防・診断・治療

著者: 保田知生

ページ範囲:P.610 - P.617

Point
・がん関連血栓症(CAT)のリスクが高いと考えられるときは,血栓予防あるいはスクリーニングの実施を検討する.
・CATの診断は,単に静脈血栓症だけでなく,脳梗塞,心筋梗塞,DIC,動脈血栓症など多数の血栓症の疑いがあることを理解しながら進める.
・薬物予防は最大の治療戦略でありながら,最大の合併症の発生源であることを理解しながら,薬物の弱点を克服するように用いる.
・CATの治療はがん以外の血栓症治療とは異なることを理解し,マネジメントする必要がある.

腫瘍循環器領域における治療介入とその評価—ランダム化比較対照試験からリアル・ワールド・エビデンスまで

著者: 田村祐大 ,   田村雄一

ページ範囲:P.618 - P.625

Point
・がん治療関連心機能障害に対する治療介入における臨床データは着実に増えている.
・腫瘍循環器関連のエビデンスの構築がなされてはいるが,それを上回る速度で悪性腫瘍に対する治療の開発,多様化が進んでいる.
・免疫チェックポイント阻害薬による心筋炎のリアル・ワールド・エビデンスを日本から発信するため,多施設,複数学会の協力の下,データ構築を行っている.

Ⅳ章 腫瘍循環器学 トピックス

ヒトiPS細胞技術を応用した抗がん剤の心毒性評価と個別化医療への展望

著者: 佐塚文乃 ,   諫田泰成

ページ範囲:P.626 - P.633

Point
・国内外のバリデーション試験により,ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いて薬剤性のQT間隔延長および催不整脈リスク評価法が開発された.
・近年,がん治療の進歩により患者の生命予後が延長したこと,新たな作用機序を有する分子標的治療薬が登場をしたことなどにより,抗がん剤による不整脈,心筋障害などの循環器系有害事象が注目を集めている.
・筆者らは,抗がん剤による左心室機能障害に着目し,ヒトiPS細胞由来心筋細胞の動きを高解像度カメラで取得した画像の解析により,収縮・弛緩を評価できる新たなイメージング評価法を開発した.この評価法がドキソルビシンなどの抗がん剤による心毒性を評価可能であることを見いだし,現在,国際検証試験が進行中である.
・今後は,個別のヒトiPS細胞由来心筋細胞を作成し,個別の循環器データとの比較などによる検証を進めることで患者を層別化し,将来的にclinical trial in a dishへの活用が期待される.

クローン性造血(CHIP)と腫瘍循環器学

著者: 福本義弘

ページ範囲:P.634 - P.640

Point
・CHIPは造血器腫瘍発症のリスクを上げるが,必ずしも造血器腫瘍を発症するわけではない.
・CHIPはIL-1βやIL-6を介して動脈硬化,心不全,血栓症などの発症リスクを上げる.
・CHIPのうち,高頻度で認められるのがDNMT3ATET2ASXL1JAK2である.

腫瘍循環器リハビリテーション(CORE)

著者: 古川裕

ページ範囲:P.642 - P.646

Point
・がん治療が進歩した結果,がんと循環器疾患が併存する患者へのCOREが必要となった.
・COREは多職種による,がん診療・循環器診療の両視点からの包括的疾病管理プログラムである.
・COREが普及し,保険診療での実践が可能となるには,解決すべき課題が残されている.

連載 臨床研究の進め方:ピットフォールに落ちないための工夫・7

研究計画書(プロトコル)・症例報告書・説明文書と同意書の3点セット:ここが次のステップだ!④

著者: 植田育子

ページ範囲:P.648 - P.654

はじめに なぜ医師にとって身近であるはずの臨床研究は進まないのか? どのようにすれば臨床研究を最後まで進めることができるのか.
 研究者という立場でもある多くの医師は,実は研究を開始する前の準備段階で多かれ少なかれ「ピットフォール」に落ちてしまっている.そして,そのことに気付かずそのまま研究を進めようとしているケースが実に多い.本連載では,こうしたピットフォールを避けるために,
 ① 医師自らのアイデアを具現化し,臨床研究の計画の骨子を立てる
 ② 臨床研究実施に必要な文書類を系統的に整備する
 ③ 研究を効率的に運用するために必要な体制構築を認識しておく
という3つのポイントを提案し,臨床研究の立ち上げに数多く携わってきた「元」臨床研究コーディネーター(Clinical Research Coordinator;CRC)の立場から紹介する.

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目次

ページ範囲:P.502 - P.503

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.656 - P.656

次号予告

ページ範囲:P.657 - P.657

奥付

ページ範囲:P.658 - P.658

基本情報

循環器ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2432-3292

印刷版ISSN 2432-3284

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