疾患の病態を理解し,患者のQOLや予後の改善のためには,正確な診断が重要なことは言うまでもない.心不全は循環器疾患の中でも解決しなければいけない課題の一つであるが,日常診療では,左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)と左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)の診断止まりで,それ以上の鑑別診断が十分なされていない場面にも遭遇する.心不全管理という観点からは薬物治療やデバイス治療はどのような病因であっても共通する部分も多いが,本来的な治療のためには,その原因疾患に応じた治療も極めて重要である.心筋症は心不全の原因として大きな位置を占める.心筋症の概念や定義が,世界的に混沌としているのは事実ではあるが,少なくとも病因の解明や正確な鑑別診断が重要であることは不変である.
そのなかで,2019年に「日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)」が発刊された.本ガイドラインはわが国における診療実態に即した新しい心筋症の定義を示し,さらに近年の診断や治療における進歩を取り入れ,日常臨床の参考になるガイドラインを目指した.本ガイドラインでは,今まで以上に家族歴/遺伝的背景の勘案,二次性心筋症の鑑別を求めている.その理由は,多くの心筋症の発症に遺伝子変異が関係すること,原発性心筋症と二次性心筋症では,一見形態や機能が類似していても,病因はもとより,予後や治療が全く異なることがあるためである.
雑誌目次
循環器ジャーナル70巻1号
2022年01月発行
雑誌目次
特集 心筋症診療のフロントライン—概念から最新の治療まで
序文 フリーアクセス
著者: 北岡裕章
ページ範囲:P.4 - P.5
Ⅰ章 心筋症の概念
心筋症の概念
著者: 北岡裕章
ページ範囲:P.6 - P.12
Point
・心筋症は「心機能障害を伴う心筋疾患」と定義される.
・病型として拡張型心筋症,肥大型心筋症,拘束型心筋症,不整脈原性右室心筋症に分けられる.
・二次性心筋症は,心機能障害の原因が明らかな心筋症や全身疾患に伴う心筋疾患である.病因ごとに予後や治療が異なるため,正確な鑑別診断が重要である.
Ⅱ章 心筋症の病因—何が解って,何が解っていないか
心筋症の病因としての遺伝子変異
著者: 野村征太郎
ページ範囲:P.13 - P.16
Point
・心筋症は遺伝子変異で発症する.
・遺伝子変異のタイプによって心筋症の病態が異なる.
・分子機序を標的とした治療法も開発されている.
・遺伝子変異に他のレイヤーを紐づけて,層別化や治療法開発がさらに進む.
遺伝子変異以外の原因で生じる心筋症
著者: 井手友美
ページ範囲:P.18 - P.22
Point
・原因が特定できない拡張型心筋症においては,炎症の進展が病態基盤に存在する.その炎症の主な原因は,感染と自己免疫である.
・心筋症における免疫異常を標的とした治療介入には,いまだ確立されたものはない.治療標的を見いだすには,さらに多くの知見の蓄積が必要である.
Ⅲ章 病理
心筋症の病理
著者: 池田善彦
ページ範囲:P.23 - P.32
Point
・心筋炎の中では,ステロイドや免疫抑制療法が有効な好酸球性,巨細胞性,肉芽腫性,ループス心筋炎の診断は重要である.心筋炎疑診例での凍結組織を用いた迅速診断は有用である.
・二次性心筋症の診断には,PAS,diastase PAS,oil red O,酸ホスファターゼなどの特殊染色,Gb3,LAMP 2,ATGL,PLIN 2,AL-κ,AL-λ,ATTR,AA,dystrophinⅠ・Ⅱ・Ⅲ,dystrophin A・B,PD-L1,ubiquitinなどの免疫染色,電顕による検索が有用である.
Ⅳ章 HFrEFと出会ったら
HFrEFにおける心筋症
著者: 木田圭亮 , 佐藤如雄
ページ範囲:P.34 - P.41
Point
・HFrEFは,日本のガイドラインでは左室駆出率40%未満,国際的な定義では40%以下である.
・HFrEFの主な原因として,虚血性心疾患と心筋症があり,治療においてもその鑑別が重要である.
・HFrEFの半数以上の症例で左室拡大(リモデリング)による二次性僧帽弁閉鎖不全を認める.
心エコー検査
著者: 北田修一 , 瀬尾由広
ページ範囲:P.42 - P.48
Point
・拡張型心筋症の診療において,心エコー検査はあらゆる場面において重要な役割を果たす.
・診断においては,左室拡大と左室収縮低下を呈す,全身疾患の心病変である二次性心筋症や弁膜症などを鑑別することが求められるが,心エコー検査は鑑別に欠かせない.
・心不全の非代償期には血行動態の把握に,代償期にはリバースリモデリングの評価に心エコー検査が行われるが,治療選択において重要な情報を提供する.
・植込み型除細動器,心臓再同期療法など植込みディバイス治療に加え,経皮的カテーテル僧帽弁形成術が治療選択として加わり,拡張型心筋症に対する侵襲的な治療の選択においても,心エコー検査の果たす役割は拡大している.
心臓MRI検査
著者: 佐久間肇 , 堂前謙介 , 石田正樹
ページ範囲:P.49 - P.56
Point
・シネMRIは左室・右室の容積,心筋重量,収縮機能評価におけるゴールドスタンダードとして広く受け入れられている.
・遅延造影MRIは心筋の壊死,線維化,浸潤などの心筋組織変化を描出する.
・T1マッピングはFabry病や心アミロイドーシスの診断に,T2マッピングは心筋炎の浮腫の診断に不可欠のMRI撮影法である.
—重要な二次性DCM①—心サルコイドーシス
著者: 猪又孝元
ページ範囲:P.58 - P.64
Point
・心サ症の発見契機として,左室形態異常と心伝導障害に留意する.
・心サ症のスクリーニングとして,心臓MRIとFDG-PETが有用である.
・心サ症は,HFrEF薬物治療と免疫抑制治療,不整脈対応にて管理される.
—重要な二次性DCM②—周産期心筋症
著者: 神谷千津子
ページ範囲:P.65 - P.71
Point
・周産期心筋症は,心筋症既往のない妊産婦が発症するHFrEFである.
・多様な疾患背景をもち,妊娠高血圧症候群や多胎妊娠などが危険因子である.
・妊娠関連ホルモン,血管障害,アルドステロンなどの病因可能性が報告されている.
—重要な二次性DCM③—その他の二次性心筋症
著者: 尾上健児
ページ範囲:P.72 - P.82
Point
・DCMが特発性(原発性)なのか二次性なのかを鑑別することが重要である.
・二次性心筋症では,病因に応じた治療法が病期の進行を抑制し,心機能改善にもつながる.
Ⅴ章 心肥大と出会ったら
HCMと二次性心筋症:鑑別への一歩
著者: 久保亨
ページ範囲:P.83 - P.89
Point
・肥大型心筋症の病因・臨床病型・予後は多様であるとともに,肥大型心筋症は若年者の突然死の原因疾患として最も頻度が高い.
・肥大型心筋症は生涯にわたる左室リモデリング(lifelong remodeling)の過程で病態が変化しうるため,その点に留意してマネジメントしていく.
・肥大型心筋症の診断には可能な限り二次性心筋症を除外する必要があり,年齢・家族歴・心臓外所見は鑑別診断に重要な情報である.
心エコー検査
著者: 大門雅夫
ページ範囲:P.90 - P.98
Point
・心エコー図は,肥大型心筋症や高血圧性心肥大,心アミロイドーシス,心Fabry病など心肥大を来す疾患の診断と鑑別に有用である.
・肥大型心筋症における心エコー図では,病期に応じて様々な機能的・構造的異常を来すことを理解して検査にあたる.
・肥大型心筋症における左室流出路狭窄の有無や機序は,治療指針を立てるうえで重要な評価項目である.
・肥大型心筋症では,長期的には心尖部瘤形成や拡張相への移行が生じることがあり,症状の有無にかかわらず定期的な心エコー図が必要である.
心臓MRI
著者: 江原省一
ページ範囲:P.99 - P.106
Point
・肥大心の鑑別・予後推定にはシネMRIと遅延造影が必須である.
・シネMRIはエコーで死角となりやすい前側壁や心尖部,右室の評価に有用である.
・遅延造影は肥大心鑑別のゲートキーパーとなりうる.
HCM突然死予防へのアプローチ
著者: 南雄一郎 , 萩原誠久
ページ範囲:P.108 - P.114
Point
・突然死は,肥大型心筋症(HCM)患者における最も重大な死因である.
・HCMのガイドラインに準じた,突然死リスクの層別化を行うことが重要である.
・植込み型除細動器(ICD)により,HCM患者の生命予後を改善することが可能である.
HCMの心不全症状へのアプローチ
著者: 髙見澤格
ページ範囲:P.116 - P.125
Point
・β遮断薬による薬物治療を開始する.閉塞性の場合はカルシウム拮抗薬・Naチャンネル阻害薬を併用する.
・薬物治療によっても心不全症状が残存し,左室内圧較差が50 mmHgを超える場合は中隔心筋縮小術を積極的に検討する.
・左室内構造異常など,解剖学的な評価をマルチモダリティでしっかり行い治療方針をたてる.
—肥大を呈する二次性心筋症①—心Fabry病
著者: 山川裕之
ページ範囲:P.126 - P.136
Point
・肥大心の中にFabry病の心病変は,1%程度存在している.
・Fabry病の診断としては,αGAL酵素活性や
・Fabry病の治療法としては,根本治療である酵素補充療法・薬理学的シャペロン療法などと,対症療法が存在している.
—肥大を呈する二次性心筋症②—心アミロイドーシス
著者: 高潮征爾 , 辻田賢一
ページ範囲:P.137 - P.144
Point
・心アミロイドーシス診断のためには,まずはred flag所見を基に疑うことが重要である.
・M蛋白とピロリン酸シンチグラフィによる診断アルゴリズムを理解する.
・心アミロイドーシスは治療可能な疾患であり,早期診断が重要である.
Ⅵ章 肥大とHFrEFのどちらでも出会うかも?
ミトコンドリア心筋症
著者: 佐野元昭
ページ範囲:P.145 - P.148
Point
・肥大型心筋症,拡張型心筋症の鑑別すべき2次性心筋症としてミトコンドリア心筋症がある.
・ミトコンドリア病はミトコンドリアの機能不全を原因とした全身疾患であり,母系遺伝形式の糖尿病や感音性難聴の併存などが診断の手掛かりとなる.
・基本的には対症療法しかないが,ミトコンドリア病の一種MELASに対しては,タウリンが保険適応となっている.
左室緻密化障害
著者: 廣野恵一 , 市田蕗子
ページ範囲:P.149 - P.155
Point
・左室緻密化障害は,新生児期から成人まで発症時期は幅広く,臨床像が多彩である.
・遺伝性が高く遺伝学的検査が診断に有用である.
・臨床病型と遺伝子型にサブタイプがあり,サブタイプ分類は診療に有用である.
・心不全治療,不整脈治療に加えて,血栓塞栓症の予防が重要である.
Ⅶ章 不整脈と出会ったら
不整脈原性右室心筋症(ARVC)
著者: 大野聖子
ページ範囲:P.157 - P.162
Point
・不整脈原性右室心筋症(ARVC)は心室不整脈により突然死を生じる遺伝性疾患である.
・致死性不整脈に対しては薬物・アブレーション治療や植込み型除細動器が使用される.
・ARVCは進行すると右心不全を生じ,重症例では心移植を必要とする.
徐脈と関係する心筋症
著者: 村田広茂 , 清水渉
ページ範囲:P.164 - P.167
Point
・徐脈性不整脈の原因として,加齢性変化が半数を占め,原発性心筋症の占める割合は小さい.
・房室ブロックを合併する心筋症は,頻度が低いものの予後が悪く,若年者ではラミン心筋症を含めた遺伝性疾患も考慮する.
・可逆性の房室ブロックの原因として心臓サルコイドーシスや心筋炎があり,早期診断することが重要である.
連載 臨床研究の進め方:ピットフォールに落ちないための工夫・8
研究の品質を確保するデータ管理と体制構築:ここが最終ステップだ!①
著者: 植田育子
ページ範囲:P.168 - P.173
はじめに なぜ医師にとって身近であるはずの臨床研究は進まないのか? どのようにすれば臨床研究を最後まで進めることができるのか.
研究者という立場でもある多くの医師は,実は研究を開始する前の準備段階で多かれ少なかれ「ピットフォール」に落ちてしまっている.そして,そのことに気付かずそのまま研究を進めようとしているケースが実に多い.本連載では,こうしたピットフォールを避けるために,
① 医師自らのアイデアを具現化し,臨床研究の計画の骨子を立てる
② 臨床研究実施に必要な文書類を系統的に整備する
③ 研究を効率的に運用するために必要な体制構築を認識しておく
という3つのポイントを提案し,臨床研究の立ち上げに数多く携わってきた「元」臨床研究コーディネーター(Clinical Research Coordinator;CRC)の立場から紹介する.
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