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雑誌目次

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循環器ジャーナル70巻2号

2022年04月発行

雑誌目次

特集 循環器薬の使い方—使い分け,モニタリング,導入・中止のタイミング

序文

著者: 志賀剛

ページ範囲:P.180 - P.181

 循環器領域では,多くの治療デバイスが登場し,今や非薬物治療なくして循環器疾患の治療は考えられない時代になってきている.しかし,循環器疾患治療の基本は薬物治療であることには変わりない.様々な臨床背景を抱えた患者に対する薬物治療は,決して画一的なものでない.安全でかつ最大の効果を引き出すためには,薬を使うタイミングとともに,病態に応じて増量・減量あるいは中止も必要になってくる.診療ガイドラインや成書では,薬の選択は示されても,このような患者背景に応じた考え方や使い方は示されていない.
 冠動脈インターベンション時代に避けて通れない抗血小板薬であるが,デバイスや技術の進歩とともに,「より適切な抗血小板薬治療とは?」と議論は続いている.また,冠動脈疾患の心血管イベント抑制には,いかに必要かつ十分な脂質管理を行うことができるかが鍵となる.冠攣縮性狭心症は,カルシウム拮抗薬を中心とした薬物治療が基本であるが,患者の反応は一様でなく,奥が深い.古くから冠動脈疾患治療薬として使用されてきたβ遮断薬と硝酸薬であるが,多くのエビデンスが出てくるなかで使用される場面とは?

Ⅰ章 冠動脈疾患

冠動脈ステント留置患者への適切な抗血小板療法とは?

著者: 中川義久

ページ範囲:P.182 - P.189

Point
・PCI術後にはステント血栓症の予防のためにアスピリンとチエノピリジン系抗血小板薬の併用投与(DAPT)が主流となっている.
・DAPTを継続することは出血性合併症を増す危険性があり,中止または減量によって血栓性イベントを増す危険性がある.その両者のトレードオフで比較すべき問題である.
・抗凝固薬に加えてDAPTを投与する抗血栓薬3剤投与の期間は,できるだけ短くすることが大切である.

冠動脈疾患患者の脂質管理はどこまでやるか?

著者: 上田恭敬

ページ範囲:P.190 - P.194

Point
・LDLコレステロール値は低いほど良く,低すぎることの弊害はない.
・スタチン最大用量とエゼチミブまでは,管理目標値達成のため,ためらわず早急に投与する.
・心血管イベント抑制のため,EPA製剤の投与も考慮する.

冠攣縮性狭心症に対する薬物療法を学ぶ

著者: 末田章三

ページ範囲:P.195 - P.201

Point
・冠攣縮の重症度に応じたCa拮抗薬・冠拡張薬を選択する.
・重症例や治療抵抗性冠攣縮性狭心症例には,十分量の冠拡張薬を投与する.
・冠攣縮性狭心症におけるCa拮抗薬・冠拡張薬の減量・中止は慎重に検討する.

PCI時代の虚血性心疾患に対するβ遮断薬,硝酸薬の役割は?

著者: 長友祐司

ページ範囲:P.202 - P.208

Point
・陳旧性心筋梗塞,左室収縮障害を有する例では,β遮断薬投与により予後改善効果がある.
・上記のない症例では,β遮断薬投与の目的は虚血症状の改善である.
・硝酸薬は古くから使われている薬剤だが,長期ルーチン投与についてはエビデンスが乏しい.

Ⅱ章 心不全

利尿薬を使い分ける

著者: 加藤真帆人

ページ範囲:P.210 - P.217

Point
・急性心不全に対する利尿薬投与の目的はfluid overloadを解消するためであり,フロセミドの静注を行う.
・慢性心不全に対する利尿薬投与の目的はEu volumeを維持するためであり,ループ利尿薬の経口投与を行う.
・ループ利尿薬で効果不十分な場合や,間質浮腫が著明な場合はトルバプタンを併用する.
・すべての利尿薬は漫然と投与せず,患者をとりまく環境変化に応じてその用量を調節する.

RAS阻害薬からARNIまで

著者: 小林雄太 ,   安斉俊久

ページ範囲:P.218 - P.224

Point
・心不全患者においてACE阻害薬は予後を改善させると報告されている.
・ARBはACE阻害薬に対する優位性は証明されておらず,ACE阻害薬の忍容性がない場合に処方を検討する.
・ARNIはACE阻害薬と比較して優位性を示し,現在急速に普及している薬剤である.
・RAS阻害薬導入にあたっては,低血圧による臓器灌流障害,腎機能障害,電解質異常などに注意する.

ミネラルコルチコイド受容体阻害薬(MRA)をどう使う?

著者: 名越智古

ページ範囲:P.225 - P.231

Point
・MRAは心不全治療の主要4薬剤の一つである.
・MRはアルドステロン以外のリガンドやリガンド非依存性にも活性化されうる.
・MRは高食塩環境下において,様々な病的作用を引き起こす.

HFrEF患者へのβ遮断薬療法のコツ

著者: 波多野将

ページ範囲:P.233 - P.239

Point
・HFrEF患者に対してわが国で保険適用となるβ遮断薬には,カルベジロールとビソプロロールがある.
・カルベジロールがα遮断作用を有するのに対し,ビソプロロールはβ1選択性である.
・ビソプロロールのほうがカルベジロールよりも心拍数低下作用が強い.
・近年承認されたイバブラジンと上手に併用することが,β遮断薬を効果的に使用するカギとなる.

急性心不全へどう静注薬を使いこなすか

著者: 星加優 ,   山本剛

ページ範囲:P.241 - P.246

Point
【静注血管拡張薬】
・血圧高値の心原性肺水腫症例に対しては,降圧作用の強いニトログリセリンを用いる.
・ニコランジルは降圧作用がマイルド.薬剤耐性は示さない.
・カルペリチドは血管拡張作用に加え,利尿作用,RAA系抑制および交感神経系抑制作用を併せもつ.
【静注強心薬】
・低心拍出,低灌流症例に対する第1選択薬としてドブタミンを選択する.
・低血圧を合併する際は,カテコラミン製剤にノルアドレナリンを併用する.
・高度低心拍出症例でドブタミン抵抗性の場合にPDE Ⅲ阻害薬を併用する.

ジゴキシンを考察する

著者: 佐藤幸人

ページ範囲:P.248 - P.253

Point
・洞調律のHFrEF患者において,ジゴキシンは主に心不全入院を抑制する.第1選択薬であるACE阻害薬またはARBとβ遮断薬に必要に応じて追加してもよい.
・治療抵抗性の心房細動患者には,徐拍化のためにβ遮断薬を第1選択とするが,ジゴキシンの追加投与を検討してもよい.
・中毒を起こしやすい薬剤であり,血中濃度が高くならないようにモニタリングし,0.5〜0.8 ng/mlとする.

新しい心不全治療薬①—イバブラジンが必要な場面

著者: 坂田泰彦

ページ範囲:P.254 - P.260

Point
・イバブラジンは洞結節のHCN4(If)チャネルに作用し,心拍数を低下させる.
・イバブラジンはSHIFT試験において,β遮断薬を含む心不全基本治療下の左室駆出率の低下した心不全(HFrEF)において心血管予後を改善させた.
・わが国では,心不全基本治療下のHFrEFにおいて,洞調律下に心拍数75 bpm以上の場合にイバブラジンの使用が可能である.
・イバブラジンは低用量から導入し,心拍数を見ながら増量することにより高度の徐脈の出現は避けることができる.
・イバブラジンによる心拍数低下は,心機能の改善・左室リバースリモデリングを伴う.
・血圧の低い症例でも血圧は保持されるため,比較的安心して使用できる.またβ遮断薬の開始・増量時にイバブラジンを併用すると,より安全かつ効果的にβ遮断薬を増量できる.

新しい心不全治療薬②—SGLT2阻害薬は特効薬になるか?

著者: 佐野元昭

ページ範囲:P.262 - P.265

Point
・経口血糖降下薬として開発されたSGLT2阻害薬は,心不全治療薬としても有効であることが明らかとなった.
・SGLT2阻害薬は腎臓低酸素を改善させて,交感神経系の過剰な活性化を鎮め,心不全を予防・治療する薬である.
・SGLT2阻害薬はStage A,B(心不全の発症予防)から,特にリスク因子として慢性腎臓病や糖尿病をもつ場合は積極的に投与すべきであり,Stage Cでは心不全入院の回復期から退院後の維持期まで,いつでも導入可能である.

Ⅲ章 不整脈

不整脈治療薬としてのβ遮断薬

著者: 近藤秀和 ,   髙橋尚彦

ページ範囲:P.267 - P.273

Point
・β遮断薬は,安全性と有効性を兼ね備えており,低心機能・心不全例の上室不整脈から心室不整脈まで幅広く使用可能である.
・β遮断薬には貼付剤および急性期に使用可能な静注薬も存在し,汎用性が高い.

まだ使えるⅠ群抗不整脈薬

著者: 今井靖

ページ範囲:P.275 - P.281

Point
・Ⅰ群薬はナトリウムチャネルを主体に遮断する薬剤であり,活動電位持続時間を延長させるⅠa群,短縮させるⅠb群,変えないⅠc群とに分けられる.
・Ⅰb群のキシロカイン,メキシレチンは心室性不整脈のみに使用する.
・Ⅰa,Ⅰc群は心房・心室性不整脈に使用されるが,器質的心疾患,心不全例では使用を避ける.
・腎排泄性の薬剤が多いため,腎機能低下例,高齢者では,その使用および用量に注意を要する.

アミオダロンとベプリジルを使いこなす

著者: 志賀剛

ページ範囲:P.283 - P.291

Point
・アミオダロンとベプリジルは肝代謝型のマルチチャネル遮断薬であり,半減期が長い.
・アミオダロンは交感神経抑制作用と血管拡張作用を有し,低心機能・心不全例にも有用である.
・アミオダロンは肺毒性と甲状腺機能亢進症,ベプリジルはQT延長に伴う心室頻拍に注意する.

抗凝固薬の使い方

著者: 赤尾昌治

ページ範囲:P.292 - P.299

Point
・経口抗凝固薬は,ワルファリンから,2011年以降に登場したDOACに世代交代した.
・DOACは頻繁なモニタリングも不要で,固定用量で用いることができるが,添付文書に則った用量選択を遵守する.
・出血性副作用に注意が必要で,出血の予防と,出血時の迅速かつ的確な対処が重要である.

Ⅳ章 高血圧

降圧治療のエッセンスとポイント

著者: 下澤達雄

ページ範囲:P.300 - P.306

Point
・診察室のみならず家庭血圧もモニターし,降圧目標を達成することが肝要である.
・β遮断薬はメタ解析の結果降圧効果が弱いことが明らかになったため,一般的には第一選択薬として推奨されない.
・各種利尿薬は減塩療法とは異なるものであり,利尿薬投与にて減塩が不要となることはない.作用機序,臓器障害を鑑みて適切な利尿薬を選択する.
・血圧が安定してコントロールされている場合,時に降圧薬を減量・中止することが可能である.
・中止後も,家庭血圧などで血圧の再上昇がないか確認すべきである.

Ⅴ章 肺高血圧

経口肺高血圧治療薬の使い方と注意点

著者: 福本義弘

ページ範囲:P.308 - P.318

Point
・PAHは,直径500 μm以下の末梢の肺小動脈での狭窄・閉塞による.
・肺血管拡張薬は,プロスタサイクリン経路,エンドセリン経路,一酸化窒素経路に大別される.

Ⅵ章 安全性

循環器診療で使ってはいけない薬

著者: 松本直樹

ページ範囲:P.320 - P.325

Point
・病態により薬の危険度が異なり,また病態変化で新たな危険が増加する点に注意する.
・特に注意すべきことは,心筋虚血・心不全・電解質異常などの病態と,薬物相互作用である.
・妊娠では絶対的禁忌も存在するが,相対禁忌では利害のバランスによって熟考を要する.

循環器薬で知っておくべき相互作用の知識

著者: 三輪宜一

ページ範囲:P.326 - P.331

Point
・薬物相互作用が起こる機序を理解しておく.
・日常的によく使う薬は薬物動態を熟知し,相互作用を来す可能性の高い薬は覚えておく.
・CYPやP-糖蛋白の基質および誘導・阻害薬をある程度覚えておく.

連載 臨床研究の進め方:ピットフォールに落ちないための工夫・9【最終回】

研究の品質を確保するデータ管理と体制構築:ここが最終ステップだ!②

著者: 植田育子

ページ範囲:P.332 - P.338

はじめに なぜ医師にとって身近であるはずの臨床研究は進まないのか? どのようにすれば臨床研究を最後まで進めることができるのか.
 研究者という立場でもある多くの医師は,実は研究を開始する前の準備段階で多かれ少なかれ「ピットフォール」に落ちてしまっている.そして,そのことに気付かずそのまま研究を進めようとしているケースが実に多い.本連載では,こうしたピットフォールを避けるために,
 ① 医師自らのアイデアを具現化し,臨床研究の計画の骨子を立てる
 ② 臨床研究実施に必要な文書類を系統的に整備する
 ③ 研究を効率的に運用するために必要な体制構築を認識しておく
という3つのポイントを提案し,臨床研究の立ち上げに数多く携わってきた「元」臨床研究コーディネーター(Clinical Research Coordinator;CRC)の立場から紹介する.

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目次

ページ範囲:P.178 - P.179

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.340 - P.340

次号予告

ページ範囲:P.341 - P.341

奥付

ページ範囲:P.342 - P.342

基本情報

循環器ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2432-3292

印刷版ISSN 2432-3284

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