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雑誌目次

雑誌文献

循環器ジャーナル70巻4号

2022年10月発行

雑誌目次

特集 循環器救急診療・集中治療を極める 序文

循環器救急診療・集中治療を極める

著者: 菊地研

ページ範囲:P.514 - P.515

 突然に発症して短時間で致死的な病態に陥る心血管疾患は,「救命の連鎖」を強化することで転帰を改善させることが可能になる.その代表疾患である急性心筋梗塞(AMI)には,致死性不整脈の治療に加えて緊急での冠動脈カテーテル治療(PCI)による再灌流療法が行われ,院内死亡率は劇的に低下し,5%となっている.
 その一方で,克服すべき課題は残されている.心原性ショックを伴うAMIには,緊急でのPCIと同時に機械的循環補助装置を駆動させるなど救急集中治療が即時に行われているが,院内死亡率は40%と依然として高い.機械的合併症を生じたAMIも致死率は高い.冠動脈治療室(coronary care unit ; CCU)または集中治療室(intensive care unit ; ICU)には,AMIによる心原性ショックだけでなく,難治性心不全,循環不全/ショックなど他の循環器疾患が増えている.この中には心停止後の自己心拍再開後症例も含まれている.さらに患者の高齢化と複数の併存疾患を伴うことにより,呼吸不全,腎不全,敗血症の併発による多臓器不全が増えている.このため,心血管系の処置に加え,脳蘇生,人工呼吸,腎代替療法,あるいは感染症治療が求められ,最近の救急集中治療に合わせた変化に対応しなければならなくなっている.

Ⅰ.総論:救急蘇生ガイドラインと治療システム

JRC蘇生ガイドラインと循環器救急集中治療システム

著者: 野々木宏

ページ範囲:P.516 - P.521

Point
・急性心筋梗塞(AMI)の院外死亡率は,心臓突然死の最大原因として,いまだなお高い.
・AMIの合併症を生じたときの死亡率は高く,重症心不全や多臓器不全による重症例が増加している.
・チーム医療として,集中治療医,救急医,麻酔科医を含めた多職種による連携を基本とした心血管系集中治療室(CICU)への転換が必要とされている.

Ⅱ.病院前救急で心停止を未然に防ぐ

プレホスピタル・ケア

著者: 羽柴克孝

ページ範囲:P.522 - P.524

Point
・STEMIの予後改善にはtotal ischemic timeの改善が重要である.
・病院前12誘導心電図を用いたトリアージと,早期のカテーテル検査室の準備が予後改善に有用である.

Ⅲ.院内心停止を未然に防ぐ

ラピッド・レスポンス・システム

著者: 武田聡

ページ範囲:P.525 - P.531

Point
・院内での多くの「急変」には前兆があり,事前に発生を予知できる可能性がある.
・それが「ラピッド・レスポンス・システム」で,「急変」を未然に防ぐシステムである.
・「ラピッド・レスポンス・システム」には,4つの要素,様々なチーム,様々な起動基準,がある.
・「安全安心な病院」であり続けるためにも「ラピッド・レスポンス・システム」の重要性を再確認いただきたい.

Ⅳ.心停止を救命する

救命処置(BLS/ACLS)

著者: 菊地研

ページ範囲:P.532 - P.537

Point
・チーム蘇生には有効なコミュニケーションと良好なチームワークが必須であり,BLS/ACLSのトレーニングが有用である.
・体系的なアプローチは,BLSアセスメント,ACLSの1次および2次アセスメントの手順から構成される.
・BLSアセスメントは,質の高いCPRと電気ショックの組み合わせが重要で,CPRの質を常にモニタリングする.
・ACLS 1次アセスメントはA-B-C-D-Eステップ,ACLS 2次アセスメントはSAMPLE,HとTを用いる.
・ACLSアセスメントで心停止を未然に防ぐ.

ECPR : 心肺蘇生症例に対するECMOの導入

著者: 須賀将文 ,   井上明彦

ページ範囲:P.538 - P.542

Point
・ECPRは,従来のCPRでは救命が困難な心停止症例を救うことができる.
・ただし合併症,コスト面などの害も多く,適切な適応選定が重要である.
・導入だけでなく,その後の合併症への対応,ICU管理なども重要となる.

Ⅴ.救急集中治療に必須の検査をマスターする

心電図

著者: 齋藤博則

ページ範囲:P.543 - P.550

Point
・救急外来では来院後1分以内にモニター心電図でトリアージを開始する.
・見逃してはいけない心電図所見(不整脈,虚血性変化)とはどのようなものがあるか理解する.
・治療の緊急性があるかないかを判別するためには,心電図所見にとらわれず,症状や徴候を観察する必要がある.

救急で必要な心エコー

著者: 石津智子

ページ範囲:P.552 - P.559

Point
・循環器救急の心エコーとしてのFOCUSは最低限評価すべきである.
・FOCUSに加え,急性期には,①血行動態評価(うっ血と低心拍出の有無),②通常の心不全治療を行ってよい病態か,③緊急で介入が必要な疾患か,を見極める.
・それ以上の詳細な包括的心エコー診断は,急性期を乗り切った後に行えばよい.

心血管バイオマーカー

著者: 白壁章宏 ,   浅井邦也

ページ範囲:P.560 - P.565

Point
・急性心不全における心筋ストレスバイオマーカーとして,BNPとNT-proBNPが挙げられる.それぞれの特性を考慮し,日常診療に当たるべきである.
・高感度トロポニンTは,非ST上昇型急性心筋梗塞の診断補助に特に有用である.しかし,他の循環器疾患でも上昇することが知られており,特に急性心不全の診療の際などは,その他の臨床理学所見と合わせて緊急冠動脈造影検査の適応を判断すべきである.
・急性心不全における潜在性心筋障害マーカーとして,H-FABPが挙げられる.急性腎障害と関連して上昇することや,長期予後不良と関連することが報告されており,さらに様々な急性期循環器疾患での予後予測に有用である.
・D-ダイマー(D-dimer)は,急性大動脈解離や急性血栓塞栓症の診断または除外のためのバイオマーカーとして古くから知られている.

画像診断

著者: 新沼廣幸

ページ範囲:P.566 - P.572

Point
・循環器集中治療の際に,本邦を含めた胸痛や重篤な疾患のガイドラインを熟知する.
・循環器画像診断で重要な超音波,CT,MRIの基本についてよく理解し,長所や短所を踏まえて適切な画像診断法の選択を行う.
・画像診断の際には,疾患に関する十分な基礎知識を確認し,特徴的な所見を自身で判定できるレベルを目標とし,他の専門医と常に情報共有を行い,知識と経験を更新すべきである.

循環動態モニタリング

著者: 川上将司

ページ範囲:P.573 - P.579

Point
・Swan-Ganzカテーテルによる循環動態モニタリングは,器質的心疾患を有する患者の循環管理に適している.
・動脈圧波形解析による心拍出量モニタリングは変化への追従性に優れており,動的パラメータによる輸液反応性を評価することが可能である.

脳波モニタリング

著者: 黒田泰弘

ページ範囲:P.580 - P.591

Point
・てんかん発作には痙攣性と非痙攣性があり,後者の頻度が高い.
・全身性痙攣性てんかん重積状態は抗けんれん薬により直ちに発作を止めることが重要である.
・持続脳波モニタリングは非痙攣性てんかん重積状態の診断および予後評価に用いられる.

Ⅵ.循環呼吸管理を極める

循環器疾患における呼吸管理

著者: 中山英人 ,   柴田正幸

ページ範囲:P.592 - P.599

Point
・心原性肺水腫に対する呼吸管理では,非侵襲性陽圧換気(NPPV)が非常に有用である.
・NPPVをはじめ陽圧換気を実施する際には,陽圧換気の循環への悪影響を常に念頭に置きながら管理する.

薬物による循環管理

著者: 今村浩

ページ範囲:P.600 - P.608

Point
・投与開始後の反応を評価し,次のアクションにフィードバックする.
・用量調節は極めて重要である.
・薬物の作用機序を理解する.
・短期的効果と中長期的効果のバランスを考える.
・非循環器薬剤の循環への影響を考慮する.
・薬物治療の限界を見極める.

電気ショック(同期・非同期)・心臓ペーシング(経静脈・経皮)

著者: 平井信孝

ページ範囲:P.609 - P.615

Point
・心室細動や無脈性心室頻拍では,高エネルギーで非同期の電気ショックを行う.
・低エネルギーの電気ショックでは,心室細動の誘発を避けるために心電図同期を行う.
・症候性徐脈には,アトロピン投与に続いて経皮もしくは経静脈ペーシングを行う.

補助循環法(IABP,Impella,PCPS/VA-ECMO)

著者: 中田淳

ページ範囲:P.616 - P.622

Point
・補助循環法の導入にあたっては,おのおのの補助循環法により得られる①末梢臓器灌流,②心筋保護/心機能回復,③介入スピード/侵襲度,④想定使用期間を考慮する.
・補助循環法の選択の際,左心不全/右心不全/両心不全のいずれかを,血行動態の指標を参考に判断する.
・心原性ショックの治療では,多職種・多部門により構成されたショックチームで対処することが患者の予後改善につながる.

体液管理における血液浄化療法

著者: 高橋弘

ページ範囲:P.623 - P.630

Point
・「どのような患者に」,「どのタイミングで」,「どの方法で行うか」.
・体液過剰状態で薬物療法に抵抗性を感じたら,すぐにECUMもしくはCHDFを実施する.
・身体所見,胸部X線写真,心エコーなどで繰り返し観察し「手の引き際」を意識する.

Ⅶ.ショックを集中治療する

ショック

著者: 田原良雄

ページ範囲:P.631 - P.636

Point
・ショックの初期評価と初期診療は迅速に行う.
・ショックの初期管理と治療目標を知る.

—心原性ショック①—急性心不全

著者: 佐藤直樹

ページ範囲:P.637 - P.642

Point
・急性心筋梗塞と同様,時間軸を念頭に置いて治療を行う.
・急性心不全はSCAI分類も参考に,病態把握とそれに応じた対応が重要である.
・人工心臓や移植を念頭に置く.重症例は対応可能な施設との連携も念頭に置く.

—心原性ショック②—急性冠症候群

著者: 田口裕哉 ,   伊藤智範

ページ範囲:P.644 - P.652

Point
・心原性ショックを合併したACSは,冠動脈インターベンションが進歩した現代でも予後不良である.
・病状は経時的に変化することが多く,ショック進行の徴候を見逃さず早期に治療介入する.
・アルゴリズムを用いて適切に補助循環を使用することが,予後改善につながる可能性がある.

—心原性ショック③—劇症型心筋炎

著者: 澤村匡史

ページ範囲:P.653 - P.660

Point
・心筋炎の劇症化には,サイトカインストームが関与していると考えられる.
・劇症型心筋炎の治療では,補助循環装置の適応を見誤らないことが重要である.
・補助循環装置は単なるブリッジではなく,サイトカインストームの改善にも寄与している可能性がある.
・補助循環装置が必要になったら,適応があれば心移植または補助人工心臓装着が可能な施設と連携を図ることも重要である.

COVID-19に関連するショック

著者: 菊池優志 ,   谷口隼人 ,   竹内一郎

ページ範囲:P.661 - P.663

Point
・COVID-19では,直接的な血管内皮障害と,炎症性サイトカインによる様々な二次的反応によって心血管障害が起こる.
・心血管障害としては,心筋梗塞,心筋炎/心筋症,不整脈,心不全,肺塞栓症などがある.
・COVID-19に関連するショックには,心原性ショック,敗血症性ショック,肺塞栓症による閉塞性ショックがある.

心タンポナーデ

著者: 花田裕之

ページ範囲:P.664 - P.668

Point
・心囊貯留物の量だけでなく,貯留速度と心囊の伸展性が病態を決定する.
・超音波検査は診断・治療とも必須である.
・X線透視で,左前斜位60°,心臓後壁の動きは診断に有用である.
・心囊穿刺は古典的心尖部アプローチにこだわらず,超音波所見で決める.

重症急性肺血栓塞栓症によるショック

著者: 山本剛

ページ範囲:P.669 - P.674

Point
・心停止,臨床的ショック,15分以上持続する血圧低下例を高リスクと認識する.
・高リスク例には,抗凝固療法だけでなく肺血栓塞栓への直達治療を行う.
・直達治療は血栓溶解療法を第一選択とし,出血リスクが高い例には血栓摘除術を行う.

致死的不整脈(症候性徐拍と不安定頻拍)によるショック

著者: 船崎俊一

ページ範囲:P.675 - P.683

Point
・不安定頻拍には電気ショック(同期・非同期)を行う.
・症候性徐拍にはペーシング(経皮的・経静脈)を行う.
・迅速なBLSと適切なACLSの実践が重要である.

心停止後症候群によるショック

著者: 遠藤智之

ページ範囲:P.684 - P.689

Point
・心拍再開後は,可逆性の両心室の収縮能低下および拡張能低下を来す.
・心拍再開後は「sepsis-like syndrome」と呼ばれる血液分布異常性ショックを来す.
・輸液負荷,循環作動薬,冠動脈再灌流療法などでも循環不全が悪化する場合は,補助循環装置を導入する.

敗血症性ショックの管理

著者: 内田雅俊

ページ範囲:P.690 - P.698

Point
・敗血症性ショックでは,ショック管理と原因となっている感染症の診断・治療を並行して行う.
・ショック管理では,初期蘇生輸液,早期からの血管収縮薬投与が重要である.
・経験的抗菌薬投与と外科的感染巣コントロールの必要性の評価を迅速に行い,必要ならば外科医へコンサルテーションを行う.

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目次

ページ範囲:P.512 - P.513

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.699 - P.699

次号予告

ページ範囲:P.701 - P.701

奥付

ページ範囲:P.702 - P.702

基本情報

循環器ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2432-3292

印刷版ISSN 2432-3284

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