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雑誌目次

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循環器ジャーナル71巻3号

2023年07月発行

雑誌目次

特集 心臓リハビリテーションのエビデンスを極める 序文

心臓リハビリテーションのエビデンスを極める

著者: 明石嘉浩

ページ範囲:P.322 - P.323

 心臓リハビリテーション(以下,心リハ)と聞くと「運動療法」を想像される方が多いであろう.確かに心リハを行ううえで運動療法は重要な要素であるが,9年ぶりに発刊された「2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン」の第1章の中で,心リハの構成要素は運動療法に加えて,患者教育,カウンセリング,医学的評価,そして疾病管理の5つの柱に組み替えられ,現在の心リハが再入院予防,フレイル予防,抑うつ改善にも寄与するべきであることがうたわれている.包括的な心リハプログラムを行ううえで重要なのは,多職種による多面的介入である.疾病の状態や重症度,社会的背景に関する評価を行い,各職種に応じた支援・指導を行うことが必要となるが,元来,多職種連携を得意とするこの領域において,それぞれの職種の強みを活かしたプログラム遂行が期待される.
 20世紀半ばに,心筋梗塞後の患者が運動プログラムに参画することで死亡リスクを高めることなく,身体的・生理学的恩恵を享受できたとの報告以降,心リハプログラムが全世界で施行されるようになった.歴史としては浅いものの,本邦では未曾有の超高齢社会に突入し,心リハを要する対象疾患が純粋な虚血性心疾患から心不全に大きく変化している.そのような中であっても,世界中で行われているフェーズ2心リハプログラムからは,8割以上が運動療法プログラムを提供し,代替プログラムはほとんどみられなかったという点で,時代とともに柔軟なプログラム変革が進行していない問題点を含んでいる.コロナ禍で当たり前となったリモート診療が,この分野に応用できるのかなど,議論は尽きない.

Ⅰ.ディベートで考える心臓リハビリテーション [A.科学的な運動耐容能評価はCPXか? それ以外か?]

CPXである

著者: 伊勢孝之

ページ範囲:P.324 - P.327

POINT
・CPXは客観的な運動耐容能の指標で再現性が高く,予後予測や比較に適している.
・peak VO2,AT,VE vs. VCO2 slopeはCPXで計測可能な代表的な予後指標である.
・CPXを用いると厳密に嫌気性代謝閾値(AT)レベル,心拍数予備能(HRR)を用いた運動処方が可能である.

それ以外である

著者: 牛島明子

ページ範囲:P.329 - P.334

POINT
・運動耐容能の最良の客観的指標は最高酸素摂取量である.
・酸素摂取量の測定値には,実測値と推定値がある.
・CPX以外の運動耐容能評価法として,フィールドテストと運動負荷心電図検査がある.

[B.心臓リハビリテーションの醍醐味は急性期か回復期か?]

急性期

著者: 加藤祐子

ページ範囲:P.335 - P.339

POINT
・長期臥床は,紀元前400年ごろの昔から有害ととらえられていた.
・重症者の急性期心リハにゴールドスタンダードはない.
・急性期心リハの早期介入には,多職種による主体的な関わりが必要不可欠である.

回復期

著者: 小幡裕明

ページ範囲:P.340 - P.347

POINT
・少子超高齢社会においては,急性期病床単独での高齢患者マネジメントが難しい.
・回復期病床の心リハには,退院支援に費やす時間的・精神的な余裕とリハビリ資源がある.
・回復期病床での心リハの醍醐味は,急性期病床でつないだ命を家庭や社会復帰という形に成就できることである.

[C.心臓リハビリテーションはオンラインか? オフラインか?]

オンライン

著者: 横山美帆

ページ範囲:P.348 - P.353

POINT
・オンラインによる心リハが求められている背景とは?⇒心リハはClass Ⅰの治療であるが,施設への距離,アクセス,スケジュールの制約など,心リハ参加に対する一般的な障壁が,施設側・患者側の双方向に存在する.
・オンラインによる心リハの患者選択は?⇒患者選択は,リスク層別化およびその目的からも重要である.低リスクから中リスクの患者に対するオンラインによる心リハの通院型心リハに対する非劣性効果が報告されている.
・オンラインによる心リハは令和時代に必要とされる個別化医療⇒心リハのエビデンスプラクティスギャップを打破するには,提供体制の拡大および質的変換が必要である.オンラインによる心リハは,それまで何らかの障壁により心リハに参加できなかった患者への一つの医療提供となりうる.

オフライン

著者: 足利光平

ページ範囲:P.354 - P.360

POINT
・オフラインで行う心臓リハビリテーションはエビデンスが豊富である.
・オンラインとの比較では,包括的介入や運動強度の調節が容易である.

[D.高齢者心不全に対する減塩の是非]

減塩は必要である

著者: 石原綾乃

ページ範囲:P.361 - P.366

POINT
・心不全ではステージによって減塩の目標は異なるが,いずれのステージにおいても減塩は必要である.
・SODIUM-HF試験1)において厳格な減塩を行った群でQOLの改善は認めたが,有害事象は減少しなかった.
・心不全ステージC/Dの高齢者の減塩は,合併症やライフスタイルに配慮した個別の対応が必要がある.

減塩は不要である

著者: 平敷安希博

ページ範囲:P.367 - P.371

POINT
・心疾患患者には減塩食が必要だという一律な固定概念は振り払われるべき時期に来ている.
・高齢者への塩分制限食の継続は現実的に難しいことが多い.
・高齢心不全患者では,減塩指導より十分栄養をとるなどのフレイル/サルコペニアの予防のほうが重要であることが最近わかってきている.
・患者に指導する前に,われわれは日常の外来での心不全患者において,どの程度,患者の食塩摂取量を評価したうえで,栄養指導をできているのであろうか?
・高齢者ほど,通常の日常生活における塩分摂取状態を見極めた心不全薬物コントロールを考慮することが重要ではないか?

Ⅱ.新しい分野の心臓リハビリテーションを知る

SHDインターベンション患者のフレイル評価方法と心臓リハビリテーションの重要性

著者: 佐地真育

ページ範囲:P.372 - P.379

POINT
・弁膜症に対する経カテーテル治療適応は,デバイスの改良や手技の成熟とともに,年々拡がっている.
・経カテーテル治療の対象となる患者の多くは高齢,フレイル,心不全を伴う.
・経カテーテル治療,術後経過,外来診察と,回復過程を一つの治療スペクトラムとして考えることが重要である.

AIを駆使した心臓リハビリテーション

著者: 貝原俊樹

ページ範囲:P.381 - P.384

POINT
・心リハ領域では,生体データ解析と患者フィードバックに対してAI利活用が期待される.
・AIを心リハへと活用する際,透明性や説明可能性などAI特有の解決すべき課題がある.
・引き続き,心リハ臨床現場におけるAIの実行可能性調査を重ねることが重要である.

社会復帰と就労支援をサポートする心臓リハビリテーション

著者: 中山敦子

ページ範囲:P.386 - P.392

POINT
・罹患後も就労を継続する心血管患者に対して,心臓リハビリテーションは有効なプログラムである.
・心血管患者に対する両立(就学・就労)支援は,保険適用となっているが,いまだ普及しておらず,各病院において多職種で対応する必要がある.

HFpEFに対する心臓リハビリテーション

著者: 合田あゆみ

ページ範囲:P.393 - P.400

POINT
・HFpEFにおいてもHFrEFと同様,運動療法ならびに心臓リハビリテーションの効果が示されており,運動可能なすべての患者に提供されるべきである.
・HFpEFの運動療法の効果の主たるものは,末梢での動静脈酸素較差に代表される末梢機能の改善,骨格筋機能の改善,それに伴う,運動耐容能改善と生活の質(QOL)改善である.
・HFpEFに伴うフレイルに対しては,筋力,バランス能力,移動能力,持久力それぞれに介入していくことが身体機能改善に有用であることが示されている.栄養に対する介入や高齢者に対する社会的視点をもった包括的な介入もますます重要となってくる.

成人先天性心疾患患者の心臓リハビリテーション

著者: 石北綾子 ,   坂本一郎

ページ範囲:P.402 - P.409

POINT
・多くの成人先天性心疾患において安全に中強度の心臓リハビリテーションが行える.
・運動ハイリスクの症例を抽出し,特に慎重に繰り返し評価を行う.
・患者は若年成人であることが多く,社会生活(学校・就職・家庭)と両立できる運動処方を心がける.

Ⅲ.各分野のトピックスを知る

サルコペニアのトピックス

著者: 河野裕治 ,   井澤英夫 ,   大高洋平

ページ範囲:P.411 - P.418

POINT
・サルコペニアとは,加齢に伴う骨格筋量の低下と身体機能の低下を示す.
・心不全患者では,多くの背景因子の影響によりサルコペニアを合併しやすい.
・サルコペニアに対しては包括的心臓リハビリテーションが重要である.

心臓悪液質のトピックス

著者: 小西正紹

ページ範囲:P.419 - P.428

Point
・心臓悪液質は,主に慢性心不全における体重減少を中心とした代謝異常である.
・心臓悪液質の病態には,全身性の炎症,食欲低下,筋肉量減少などが関与している.
・主な治療法は栄養療法と運動療法であるが,エビデンスはまだ確立されていない.

心臓リハビリテーションのトピックス

著者: 石原広大 ,   井澤和大

ページ範囲:P.429 - P.435

POINT
・超高齢化に伴い,従来の心臓リハビリテーションでは,対応が困難な場合がある.
・トピックスはプレリハビリテーション,身体活動,運動耐容能の評価,フレイルである.
・各トピックスの課題は山積しており,その課題解決およびさらなる発展が望まれる.

腎臓リハビリテーションのトピックス

著者: 祖父江理

ページ範囲:P.436 - P.442

POINT
・CKD患者はフレイル・サルコペニアの有病率が高い.
・サルコペニアを有するCKD患者に対しては蛋白制限を緩和する.
・運動療法はCKD患者において腎保護効果・生命予後改善効果を認める.

腫瘍循環器リハビリテーションのトピックス—COREの可能性

著者: 木田圭亮 ,   土岐真路 ,   佐々木信幸

ページ範囲:P.443 - P.451

POINT
・腫瘍循環器リハビリテーションは,がん患者とがんサバイバーに対する心リハである.
・すべてのがん患者に対して,集学的アプローチが強く推奨されている.
・がん患者の状況を判断しながら,運動処方を調整していくことが重要である.

新しいバイオセンサを活用した心臓リハビリテーション

著者: 勝俣良紀 ,   中島大輔

ページ範囲:P.452 - P.456

POINT
・汗乳酸センサを用いて,漸増負荷検査中の汗乳酸値を簡便かつリアルタイムに測定可能である.
・漸増負荷検査中の汗乳酸値の変曲点(汗乳酸性作業閾値)が嫌気性代謝閾値と一致する.

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目次

ページ範囲:P.320 - P.321

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.457 - P.457

次号予告

ページ範囲:P.459 - P.459

奥付

ページ範囲:P.460 - P.460

基本情報

循環器ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2432-3292

印刷版ISSN 2432-3284

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