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雑誌目次

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循環器ジャーナル71巻4号

2023年10月発行

雑誌目次

特集 変革期を迎えた肺高血圧症—次世代の病態理解,診断,治療とは? 序文

変革期を迎えた肺高血圧症—次世代の病態理解,診断,治療とは?

著者: 波多野将

ページ範囲:P.468 - P.469

 肺高血圧症は,肺動脈性肺高血圧症(PAH)にしても慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)にしても難治性疾患であり,かつては治療法が極めて限られていた.診断についても,かつて肺動脈造影はリスクが高いことから一部の専門施設でしか行われておらず,結果としてCTEPHや末梢型狭窄が正しく診断されていないということもしばしばみられた.しかし,この10数年のうちに診断においても大きな進歩がみられ,治療においてもPAHに対する肺血管拡張薬の著しい進歩やCTEPHに対するバルーン肺動脈形成術の普及により,その予後は飛躍的に改善している.まずは総論,各論においてこのような診断・治療の進歩,そして現時点での最新知見について整理したい.

序章

Overview:変わりゆく肺高血圧症診療

著者: 波多野将

ページ範囲:P.470 - P.477

POINT
●肺高血圧症の定義や分類は,これまでに6回開催されている肺高血圧症ワールドシンポジウムによって決められている.
●PAHにおいては,治療薬の進歩に伴い,単剤治療から逐次併用療法,初期併用量へと治療の推奨が変化してきた.
●CTEPHにおいては,わが国発の治療と言ってよいバルーン肺動脈形成術が,現在では全世界に普及している.

Ⅰ.総論:肺高血圧症の診断と治療

肺高血圧症の診断と治療アルゴリズム

著者: 矢尾板信裕 ,   安田聡

ページ範囲:P.480 - P.488

POINT
●肺高血圧症は治療の進歩により予後が改善しつつある一方で,早期診断・早期治療の必要性が増している.そのためには,肺高血圧症を疑う症状や身体所見から肺高血圧症に必要な検査に進まないといけない.
●本稿では肺高血圧症を疑う症状と,そこから肺高血圧症の鑑別に必要な検査を日欧のガイドラインからわかりやすく解説する.
●また,肺動脈性肺高血圧症は3系統の肺血管拡張薬を組み合わせて行われる一方で,慢性血栓塞栓性肺高血圧症は手術やカテーテル治療,肺血管拡張薬を組み合わせて行われる.このように治療に関しても様々な選択肢があるため,治療に関してもわかりやすく解説する.

肺高血圧症の鑑別に必要な画像検査—近年の進歩

著者: 上田仁

ページ範囲:P.490 - P.500

POINT
●PHのスクリーニングおよび病型診断において,画像検査は大きな役割を担っている.
●心エコー図検査は,PH診断のスクリーニングにおいてkeyとなる重要な検査である.
●PH診断後は,専門施設へ紹介し,専門施設での病型診断および治療が推奨されている.

Ⅱ.各論:各種肺高血圧症の診断と治療

PAH治療薬①:エンドセリン受容体拮抗薬

著者: 牧尚孝

ページ範囲:P.502 - P.509

POINT
●エンドセリンは肺動脈性肺高血圧症を進行させる悪玉因子である.
●エンドセリン受容体拮抗薬は多剤併用により強力な治療効果が得られる.

PAH治療薬②:PDE5阻害薬とsGC刺激薬

著者: 平川今日子 ,   山本英一郎 ,   辻田賢一

ページ範囲:P.510 - P.514

POINT
●肺血管拡張薬には3経路存在し,そのうちの一つに一酸化窒素(NO)経路に作用する薬剤がある.
●NO経路の肺血管拡張薬としてはPDE5阻害薬,sGC刺激薬が存在する.

PAH治療薬③:プロスタサイクリン系薬剤

著者: 竹内かおり

ページ範囲:P.515 - P.522

POINT
●肺高血圧症の併用療法におけるプロスタサイクリン系薬剤の位置付けと,使用方法についてまとめた.
●治療により改善した症例に対して,次のステップとしてどのように減薬を判断するか,当院での経験をまとめた.

atypical PAHの病態と治療

著者: 足立史郎

ページ範囲:P.523 - P.528

POINT
●世界的に高齢で診断されるIPAHが増加してきている.typicalなIPAHと異なり,高齢者特有の問題が併存しておりatypical PAHと呼ばれるようになった.atypical PAHにはcardiac phenotypeとpulmonary phenotypeがあり,その合併もあり得る.
●cardiac phenotypeの多くはHFpEFを合併したPAHであり,硬い左室が問題である.2群PHとtypical PAHとの間にある概念である.肺血管拡張薬によるうっ血のリスクであり,HFpEFへの治療介入の後,単剤から慎重に治療を考慮するほうがよい.
●pulmonary phenotypeは,肺疾患の診断に至らない軽微な肺野の異常と,低い%DLCOが併存したPAHである.肺血管拡張薬による低酸素血症の増悪が危惧されるため,在宅酸素療法や肺疾患への介入を考慮しつつ,肺血管拡張薬は単剤から慎重に使用するほうがよい.
●typical PAHは肺循環障害だけが問題であることが多く,早期併用療法が安全に選択できる.一方,atypical PAHは,肺循環障害だけでなく心疾患や肺疾患などの他の問題を抱えたPAHであり,早期併用療法はリスクである.

膠原病に合併する肺高血圧症の鑑別と治療

著者: 加藤将 ,   久田諒

ページ範囲:P.530 - P.537

POINT
●膠原病には,疾患に直接関連して肺動脈性肺高血圧症/第1群肺高血圧症が合併する.
●加えて,全身性強皮症には左心性疾患(第2群肺高血圧症),間質性肺疾患(第3群肺高血圧症)がしばしば合併する.
●全身性強皮症の肺血管障害は,肺動脈のみならず肺毛細血管,肺静脈と広範囲に及ぶことが多い.

成人先天性心疾患に合併する肺高血圧症の管理

著者: 齊藤暁人 ,   相馬桂

ページ範囲:P.538 - P.542

POINT
●成人先天性心疾患に合併する肺高血圧症は,肺血流量増加に伴うシャント性の肺動脈性肺高血圧症が多い.
●構造的に未修復のシャント性肺動脈性肺高血圧症に対しては専門施設でのtreat & repair strategyが検討される.
●肺動脈低形成による区域性肺動脈性肺高血圧症やFontan手術後の肺血管抵抗上昇に対する治療アプローチは今後の課題である.

左心性心疾患に合併する肺高血圧症

著者: 世良英子

ページ範囲:P.543 - P.549

POINT
●PH-LHDでは,pre-capillary PHの要素および右室機能を含めた病態把握がリスク層別化に重要である.
●安静時の評価では左房圧上昇を認めず,第1群PAHとの鑑別を要するHFpEF症例が存在する.
●PH-LHD治療の基本は,基礎心疾患,併存症へ適切に介入し,左房圧を下げることである.

肺疾患に合併する肺高血圧症の診断と治療

著者: 内藤亮 ,   田邉信宏 ,   鈴木拓児

ページ範囲:P.550 - P.554

POINT
●肺疾患に伴う3群肺高血圧は,肺高血圧の中でも特に予後不良である.
●肺高血圧の重症度だけでなく呼吸機能検査,胸部CTなどを踏まえ治療方針を考慮する.
●海外では吸入トレプロスチニルが良好な成績を示し,国内でも治験が進行中である.

CTEPHに対する薬物療法—抗凝固療法も含めて

著者: 細川和也

ページ範囲:P.556 - P.561

POINT
●CTEPHに対する抗凝固療法としてはビタミンK拮抗薬が推奨され,直接経口抗凝固薬のエビデンスは不足している.
●CTEPHに対する肺血管拡張薬としてはリオシグアトとセレキシパグが承認されている.
●抗凝固療法に加え外科治療,BPA,肺血管拡張薬による集学的治療が推奨されており,戦略の最適化が試みられている.

CTEPHに対するBPA

著者: 池田長生

ページ範囲:P.562 - P.568

POINT
●CTEPH治療のターゲットは「生命予後の確保」から「症状の改善」に移っている.
●contemporary BPAと薬物療法の併用で,健常人に近い血行動態と自覚症状を目指す.

肺高血圧症に対する肺移植の現状と将来展望

著者: 前田寿美子

ページ範囲:P.569 - P.574

POINT
●エポプロステロールを使用しても治療効果の乏しい肺高血圧症には,肺移植を検討する.
●登録には年齢制限がある.適応・除外条件を確認し,計画的に移植実施施設へ紹介する.
●待機中は栄養管理,感染管理,合併症管理,フレイル回避のリハビリテーションを行う.

case seriesから学ぶ稀な原因による肺高血圧症

著者: 谷口悠 ,   住本恵子 ,   平田健一

ページ範囲:P.575 - P.583

POINT
●第4群PHのCTEPHと鑑別を要する疾患として肺動脈肉腫があり,極めて予後不良である.
●サルコイドーシスに関連するPHの原因は多岐にわたる.患者個別の対応が必要である.
●PTTMは担癌患者に併発し,急速に進行する呼吸困難とPHを特徴とする予後不良疾患である.

Ⅲ.肺高血圧症における最新トピックス

肺高血圧症における遺伝学的知見

著者: 平出貴裕

ページ範囲:P.584 - P.589

POINT
●遺伝学的検査技術の進歩により肺高血圧症の発症原因遺伝子が多く報告されているが,約7割の症例ではいまだに発症原因遺伝子が同定されていない.
●肺高血圧症診療において,遺伝学的検査は疾患の診断や予後予測,家族員の早期発見に有用である一方,根治療法がないため,検査の実施や結果の開示には十分に配慮が必要である.

肺高血圧症に関する最新の臨床研究

著者: 佐藤希美

ページ範囲:P.591 - P.596

POINT
●従来の肺高血圧症治療薬に代わる薬剤としてTGF-β/BMPRⅡ経路に作用するsotaterceptが開発され,その有効性が海外の第Ⅱ・第Ⅲ相試験で示されている.
●肺腫瘍血栓性微小血管症は腺癌に合併する重篤な肺高血圧症であり,チロシンキナーゼ阻害薬によるPDGF・VEGFシグナリング経路の制御の有効性を明らかにするための臨床研究が進行中である.

肺高血圧症における新規治療法開発の現状と将来展望

著者: 佐藤大樹 ,   矢尾板信裕 ,   安田聡

ページ範囲:P.597 - P.601

POINT
●肺動脈性肺高血圧症の病因は肺動脈リモデリングであり,基礎研究が積み重ねなられてきた.
●実臨床で応用可能な肺動脈リモデリングの評価・治療方法は未確立である.
●基礎研究と実臨床をつなぐブレイクスルーとなる技術革新,評価・治療戦略が期待される.

治療抵抗性肺高血圧症に対する肺動脈自律神経叢除神経治療

著者: 浅野遼太郎 ,   大郷剛

ページ範囲:P.602 - P.607

POINT
●近年の肺血管拡張薬の発展は目覚ましいが,治療抵抗性の患者が一定数存在する.
●肺動脈周囲自律神経叢は肺動脈の収縮弛緩に関わっている.
●世界中で肺動脈自律神経叢を特異的に除神経するカテーテル治療開発が進められている.

動物モデルを用いた肺高血圧症の病態解明と新規治療法開発

著者: 藤原隆行

ページ範囲:P.608 - P.616

POINT
●肺動脈性肺高血圧症モデル動物は複数存在し,重症度の面でモデル間での差異が大きい.
●動物モデルを用いて新規治療法開発が進められており,一部は実用に近づいている.
●病態解明のため生理的な動物モデルの確立や,新規の解析手法の応用が求められている.

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目次

ページ範囲:P.466 - P.467

書評

ページ範囲:P.479 - P.479

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.617 - P.617

次号予告

ページ範囲:P.619 - P.619

奥付

ページ範囲:P.620 - P.620

基本情報

循環器ジャーナル

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 2432-3292

印刷版ISSN 2432-3284

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