心房細動は,古くから知られている,たいへんありふれた不整脈であり,生活習慣に密接に関係することが知られています.心原性脳塞栓だけでなく,心不全や洞不全など,重症な循環器疾患に密接に関係していることは以前から理解されていましたが,2002年に発表されたAFFIRM研究によって,抗不整脈薬による心房細動治療が生命予後改善に結びつかないという残念な結果の影響で,治療の首座がレートコントロールへと移行し,心房細動そのものへの積極的な治療が施されていませんでした.しかし近年,新規抗凝固薬を用いた様々な前向き介入研究の結果や,カテーテルアブレーションの進化による非薬物治療の進化などにより,あらためてその臨床的な重要性について理解が深まってきました.特に心房細動は経年的に重症化することや,約40%が無症状であり,かつ決して予後が良好ではないことも明らかとなり,病態への理解とともに,「心房細動の発症予防」「心房細動の早期検出」などが叫ばれるようになりました.
また当初は動悸症状を取り除くために開発された心房細動へのカテーテルアブレーション治療が,脳梗塞予防や心不全予防に大きく寄与し,生命予後を改善する可能性が報告され,無症状心房細動への治療対象の広がりをみせています.バルーンアブレーションやPulse Field AblationなどのOne Shotデバイスと呼ばれる新しいアブレーション法が登場してきました.薬剤治療に関しても,ジギタリスが見直され,また新しく登場してきた,Fantastic Fourと呼ばれる心不全薬の心房細動への効果も報告されてきています.ほかにも,進行した心房細動への内科的・外科的左心耳閉鎖術の登場,Maze手術の進化など,この数年だけでも治療が著しく進化しています.
雑誌目次
循環器ジャーナル72巻3号
2024年07月発行
雑誌目次
特集 心房細動—予防・早期発見・治療の進化
序文
心房細動—予防・早期発見・治療の進化 フリーアクセス
著者: 草野研吾
ページ範囲:P.356 - P.357
Ⅰ.病態
AFの疫学からみた脳梗塞リスク—CHADS2,CHA2DS2-VAScスコアは日本人にあてはまるか?
著者: 赤尾昌治
ページ範囲:P.358 - P.365
POINT
●欧米発のCHADS2スコアやCHA2DS2-VAScスコアの,日本人心房細動患者における脳梗塞リスク予測性能は高くない.
●わが国発のHELT-E2S2スコアが,日本人心房細動患者のデータから開発され,ガイドラインに採用された.
生活習慣と心房細動発症,重症化について考える
著者: 平光伸也
ページ範囲:P.366 - P.370
POINT
●心房細動の予防には,肥満,喫煙,アルコール多飲などの生活習慣の是正が必要である.
●高血圧,心不全,糖尿病,閉塞性睡眠時無呼吸などの厳格で包括的な管理が重要である.
●無症候性,潜在性の心房細動を積極的に診断し,早期から治療介入することが重要である.
●心房細動の重症化を予防するためには,脳塞栓症,心不全の併発,悪化に注意する.
Ⅱ.検出
長時間心電計(ILR含む)やイベントレコーダの適切な使用は?
著者: 淀川顕司
ページ範囲:P.371 - P.377
POINT
●有症状の心房細動の検出には携帯心電計が,無症状の心房細動の検出には長時間心電計が有用である.
●近年はパッチ型の長時間心電計などや,スマートデバイスも急速に普及している.
スマートフォンやApple Watchを使って心房細動を見つける
著者: 妹尾恵太郎
ページ範囲:P.378 - P.383
POINT
●PPGセンサーとアプリケーションの組み合わせで心房細動を特定しうる.
●Apple Watchは心房細動兆候検出の精度は高いが,確定診断には精査が必須である.
●Apple Watchによる心房細動診断後の長期モニタリングへの有用性について結果が待たれる.
AIを活用した心房細動早期発見
著者: 笹野哲郎
ページ範囲:P.384 - P.391
POINT
●心房細動の基質となる心房の伝導障害は,目視による心電図診断では判定困難である.
●AIにより,洞調律中の心電図より心房細動基質を検出することが可能になった.
●AI心電図と長時間ホルター心電図による心房細動早期発見の社会実装が進んでいる.
Ⅲ.薬物を用いた不整脈治療(特に高齢者や腎機能低下例に対するもの)
レートコントロール——ジギタリスやβ遮断薬,Ca拮抗薬の使用は今どうなっている?
著者: 篠原徹二 , 髙橋尚彦
ページ範囲:P.392 - P.399
POINT
●心房細動患者に対するリズムコントロール療法は,その有用性が見直されてきている.
●一方,洞調律維持困難な患者には,レートコントロール療法は有用な治療選択である.
●レートコントロール療法における第一選択の薬剤は,β遮断薬である.
リズムコントロール薬(Ⅰ群抗不整脈薬,ベプリジル,アミオダロン)の使い方
著者: 志賀剛
ページ範囲:P.400 - P.408
POINT
●抗不整脈薬を使う場合,器質的心疾患の有無と腎機能を確認する.
●Ⅰ群抗不整脈薬(Na+チャネル遮断薬)は使い慣れた薬を持つ.
●Ⅰ群抗不整脈薬は低用量から開始し,効果を見ながら漸増し,無理はしない.
●アミオダロンは肺毒性と甲状腺機能亢進症,ベプリジルはQT延長に伴う心室頻拍に注意.
●アミオダロンは有効性を維持しうる最小用量を用いる.
SGLT2阻害剤,ARNI,MRAなどのAFへの効果は?
著者: 峰隆直
ページ範囲:P.409 - P.414
POINT
●SGLT2阻害剤およびMRAはAFに抑制的に働く.
●ARNIのAFへの効果はACEI/ARBと同等である.
●各薬剤使用時は適応疾患に留意する.
Ⅳ.非薬物治療(アブレーションから外科的手術)
バルーンアブレーション
著者: 小堀敦志
ページ範囲:P.416 - P.423
POINT
●簡便・確実・安全,そして迅速に肺静脈隔離を達成できるバルーンアブレーションが広まっている.
●クライオバルーンは,高い臨床効果と安全性により持続性心房細動や発作性心房細動の第一選択治療としても適応が広がっている.
●ホットバルーンでは表面温度モニタリング,レーザーバルーンでは自動回転照射といった新機能が登場し,効果が期待されている.
beyond PVIストラテジー—BOXや有効な線状焼灼
著者: 楠目宝大 , 里見和浩
ページ範囲:P.424 - P.430
POINT
●肺静脈隔離術に加えるいわゆるbeyond PVIストラテジーには,現時点では確立された手法はない.
●主なものとして,後壁隔離,低電位領域アブレーションなどがあるが,症例ごとの適応を検討する必要がある.
●マーシャル静脈エタノール注入療法は有望な方法であるが,保険外適応であり,実臨床で使用するにはまだハードルが高い.
パルスフィールドアブレーションの効果は?
著者: 山根禎一
ページ範囲:P.432 - P.437
POINT
●2024年から,パルスフィールドアブレーションによる新しい不整脈治療が開始される.
●瞬時に高頻度の高電圧刺激を加えることにより,心筋の細胞死を生じさせる新しいアブレーション法であり,熱(加熱・冷却)を介さない点が従来のアブレーションとは大きく異なる.
●心筋に対する障害閾値が周辺組織よりもはるかに低いために,周囲臓器に影響を与えずに心筋だけを治療することが可能であり,その安全性の高さが期待されている.
Maze手術は最近どのような進歩を遂げているか?
著者: 藤田知之 , 福嶌五月 , 角田宇司
ページ範囲:P.438 - P.443
POINT
●患者選択を行えば,クライオアブレーションを用いたMaze手術の成績は安定している.
●再発した場合はハイブリッドで治療可能である.
●最近はMICS(小切開)でのMaze手術や肺静脈隔離が試みられている.
Ⅴ.抗凝固療法
DOAC登場でstrokeは減っているか? 日本人の適切な使用は?
著者: 碓井遼 , 豊田一則
ページ範囲:P.444 - P.450
POINT
●非弁膜症性心房細動の脳梗塞予防として,従来のワルファリンよりもDOACの使用頻度が増えている.
●DOACはモニタリング不要で固定用量で使用可能だが,年齢や体重,腎機能に合わせた適切な投与量を遵守する.
●アブレーション後の経口抗凝固薬継続は脳梗塞再発と出血性イベントのリスクを勘案し,継続の有無を検討する.
●DOAC登場によって,心房細動関連虚血性脳卒中の発症率が低下した.
カテーテルを用いた左心耳閉鎖術の現在・未来は?
著者: 龍崎智子 , 近藤祐介
ページ範囲:P.451 - P.458
POINT
●経皮的左心耳閉鎖はデバイスの進歩とともに外科手技から血管内治療へ変遷し,心房細動に伴う血栓塞栓症の予防治療として確実に効果が期待できる.
●欧米ではWATCHMANTMデバイスだけでも40万件の実施例が報告されており,本邦での導入が大いに期待されたが,保険償還ののちに左心耳閉鎖が爆発的に普及することはなかった.予想外の普及の遅れの原因はいったい何なのか,歴史からひもといて検討したい.
●施術後の抗血栓療法は多数報告があるが,日本人に最適な抗血栓療法のレジュメは議論の余地のあるところである.
ウルフ—オオツカ法による胸腔鏡下左心耳閉鎖術
著者: 大塚俊哉
ページ範囲:P.459 - P.466
POINT
●ウルフ—オオツカ法は,左心耳を迅速・安全に切除して閉鎖する胸腔鏡下手術である.
●迅速かつ確実に抗凝固治療を離脱可能にし,極めて高い脳梗塞予防効果を発揮する.
●WatchmanTM移植術などの経皮的左心耳閉鎖法にはない利点がある.
●左心耳切除の副産物として,高血圧症例に対する降圧効果も期待できる.
Ⅵ.特殊な病態
心アミロイドーシスに合併したAF治療戦略
著者: 金澤尚徳 , 辻田賢一
ページ範囲:P.468 - P.476
POINT
●近年,トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)と診断される症例が急増している.
●本疾患では病態の進行とともに心房細動,心房粗動,心房頻拍を合併することが多い.
●有症候性で心不全を来す不整脈であれば,アブレーションを検討してもよいと思われる.
MR合併例に対するMitraClip®とカテーテルアブレーションの選択
著者: 渡辺悠介 , 天木誠
ページ範囲:P.477 - P.484
POINT
●心房細動が長期に持続すると,心房・弁輪拡大を引き起こし,心房性機能性MR/TRを起こす.
●心房細動に対するカテーテルアブレーションにより洞調律が維持されると,心房性機能性MRが減少するという報告があり,心房性機能性MRの症例においてカテーテルアブレーションは「弁膜症治療のガイドライン2020年版」において,Class Ⅱaで推奨されている.
●重症心房性機能性MRへのカテーテルアブレーションは洞調律維持が困難である場合が多く,高齢者などのハイリスク症例ではMRへのカテーテル治療MitraClip®も含めてハートチームで検討することが重要である.
ASD合併AFへのアプローチ
著者: 中川晃志
ページ範囲:P.486 - P.491
POINT
●中高年以降のASD患者ではAFを高率に発症し,高齢者では心不全の合併も多い.
●AF既往がある場合,ASD閉鎖のみではAFを抑制できない.
●ASDカテーテル閉鎖術前のAFアブレーションは有用である.
●ASDカテーテル閉鎖術後もAFアブレーションは選択可能な治療である.
心房心筋症とは? stiff left atrial syndromeの定義とは?
著者: 矢那瀨智信 , 山形研一郎
ページ範囲:P.492 - P.498
POINT
●心房心筋症は2016年に初めて正式に定義され,病理組織学的に4クラスに分類された.
●心房心筋症という新しい観点から,心房細動の新たな治療戦略に期待したい.
●stiff left atrial syndromeは,比較的新しく認知された,心房細動のアブレーションの合併症である.
医原性心房中隔欠損症(iASD)の問題は?
著者: 高谷陽一
ページ範囲:P.499 - P.503
POINT
●カテーテルアブレーションのiASDは,頻度は少ないが,心不全増悪する場合がある.
●左心耳閉鎖術などカテーテルインターベンションでは,iASD併発率が高い.
●iASDは低心拍出量症候群や低酸素血症を呈する場合,閉鎖術が必要である.
デバイス植込み後のhigh rate episodeに対する戦略
著者: 石橋耕平
ページ範囲:P.504 - P.509
POINT
●心臓植込み型デバイスで検出された心房細動(CIEDs-AF)は,通常の心房細動と対応が異なる.
●抗凝固療法が必要なCIEDs-AFの持続時間は不明であり,医師の裁量に委ねられている.
●CIEDs-AFの早期発見・治療には,遠隔モニタリングが有効である.
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