治療のポイント
・突然の胸痛を訴える患者のマネジメントはすべての臨床医にとってきわめて重要である.それは突然死につながる重篤な疾患の可能性があるからである.診察にはまずは重篤な疾患を鑑別し,その後に一般的な疾患を考慮していく.重篤な鑑別として急性心筋梗塞,肺血栓・塞栓症,急性大動脈解離,緊張性気胸などを考慮する.頻度としては,逆流性食道炎によるものや筋骨格系に由来する胸痛なども多くみられる.本項では主に致死的な疾患について記載する.
・スピード感をもった診療が求められる.すなわち常に鑑別診断を意識しながら迅速に診断検査を行い,同時に早期の治療介入についても準備しておく.
・心停止に陥った場合,まずは適切な心肺蘇生(ACLS)を行う.資機材やスキルを含めて事前の準備が重要となる.
◆病態と診断
A病態
・胸痛をきたす疾患の病態を理解することは適切な治療にもつながる.例えば心筋梗塞による突然の胸痛例では,冠動脈の血流途絶による心筋壊死によって致死的不整脈の心室細動(VF:ventricular fibrillation)や壊死部位からの血液のoozing(滲出)による心タンポナーデを続発し,心停止に陥る危険がある.
・肺血栓・塞栓症では肺動脈が血栓により閉塞し,肺内シャントから低酸素をきたし,重篤な例では人工肺(PCPS:percutaneous cardio-pulmonary support)が必要となる.また,肺動脈近位部動脈が閉塞することで,右心系の左室圧排が強くなり,拡張障害が起こり,心拍出量が低下する.この場合は急速な輸液負荷と強心薬(カテコールアミン)にて前負荷を適正に保ちながら心停止を防がねばならない.
・大動脈解離では動脈壁中膜の破裂による大動脈破裂の危険性があり,これが弁に及ぶと急激な大動脈弁逆流や冠動脈入口部の閉塞が起こりうる.大動脈弁の損傷具合やその部位によって緊急手術