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航空機内の緊急事態
management of in-flight medical emergencies
小倉真治
(岐阜大学大学院教授・救急・災害医学)

頻度 あまりみない

ニュートピックス

・IATA(国際航空運送協会)は2020年初頭からの12億人の乗客のなかからの分析に基づき,機内でのCOVID-19の感染リスクは非常に低いとの研究結果を発表している.

・機内の空気循環システムにより,客室内の粒子の動きがコントロールされ,ウイルスの拡散が抑制されていることを検証した.

・検証結果では,機内でのCOVID-19の感染リスクが低い要因として,①機内換気がよいこと,②機内の天井から床への縦の空気の流れ,③(高効率粒子状空気)フィルターの装備,④客室シートの背もたれによる自然なバリア効果,⑤乗客が全員前を向いて着席,⑥対面での会話が制限されていること,⑦前後方向の空気の流れが最小化されていることなどが挙げられている.

・ただし,マスクをしていない患者が発端となったクラスターも複数報告されており,注意は必要である.

A航空機内の環境

 航空機は通常24,000~43,000フィート(約7,300~13,100m)の高度を飛行する.機内には与圧装置によって外気圧より高い圧がかかっている.しかしながら,機体の構造上の限界により,気圧が0.8気圧(富士山5合目と同程度)にしか上げられない.気圧に比例して,1気圧で150Torr程度だった動脈血酸素分圧は118Torrへ低下し,同時に肺胞気酸素分圧も下がることで,ヘモグロビン酸素飽和度も99%から90%へ低下する.このように,健常人でも酸素飽和度は90%程度に下がるが,心拍数,心拍出量などを増加させることで身体が代償している.これに耐えられない基礎疾患をもつ患者は当然ハイリスクとなる.

1.ハイリスクと考えられる疾患群

a.心疾患

 低酸素血症があることで,特に虚血性心疾患を悪化させる.

b.呼吸器疾患

 低酸素血症を悪化させるが,在宅酸素療法患者はもちろん,顕在化していない呼吸器疾患患者も要注意である.その他

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