今日の診療
治療指針

尿閉と無尿
urinary retention and anuria
三股浩光
(大分大学医学部附属病院・院長)

Ⅰ.尿閉

◆病態と診断

A病態

・腎臓で尿が産生され,腎盂・尿管を通して膀胱まで尿が到達するものの,下部尿路(膀胱,前立腺,尿道)の異常によって,膀胱尿を排出できず,多量の尿が溜まった状態をいう.

・急性尿閉と慢性尿閉に分類される.

・急性尿閉は,強い尿意にもかかわらず全く排尿できず,膀胱部の疼痛を訴える状態である.前立腺肥大症や尿道狭窄,膀胱結石の嵌頓,抗コリン作用のある薬物摂取などでみられる.

・慢性尿閉では,強い尿意や膀胱部痛はみられないことが多く,溢流性尿失禁や頻尿,腎機能障害の精査にて診断されることが多い.女性の場合は神経因性膀胱や高度の便秘による膀胱頸部の圧迫が原因のことが多く,男性では高度の前立腺肥大症や尿道狭窄,神経因性膀胱が多い.抗コリン作用のある薬物の長期服薬でも生じうる.

B診断

1.急性尿閉

・頻度の高い疾患は前立腺肥大症で,冬季の夜間に救急搬送されることが多い.こたつであぐらを組んで長時間飲酒したり,抗コリン作用のある感冒薬を内服したあとに発症することが多い.来院時は下腹部の疼痛を訴え,脂汗をかくような苦悶状顔貌を呈する.

・腹部触診では下腹部に緊満する小児頭大の膀胱を触知し,押さえると強い尿意や疼痛を訴える.

・超音波検査で容易に診断でき,膀胱内に数百mL以上の尿貯留を認める.軽度の水腎を認めることが多いが,中等度以上の水腎を認める場合は腎機能障害の合併に注意する.

・前立腺癌を合併することがあるので,血清PSA値を測定したほうがよいが,急性尿閉では前立腺のうっ血や炎症,尿道のカテーテル操作などによって一時的にPSA高値となることが多いので,1~2週間後に測定したほうがよい.

2.慢性尿閉

・救急搬送されることはまれである.頻尿や尿失禁(溢流性),排尿困難を主訴に泌尿器科を受診したり,血液生化学検査で血清Cr高値を指摘され,腹部超音波検査やCT撮像にて慢性尿閉と診断されたり

関連リンク

この記事は医学書院IDユーザー(会員)限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

ログイン
icon up
あなたは医療従事者ですか?