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神経原性ショック(脊髄損傷・腰椎麻酔によるものを含む)
neurogenic shock
三宅康史
(帝京大学教授・救急医学)

治療のポイント

・治療法は2つ.血管拡張に伴う相対的血管内容量の低下に対する細胞外液の急速輸液と,心拍数と末梢血管抵抗を回復させるためα1 およびβ1 作動薬を静脈内投与する.

・ショック症例で現病歴や臨床症状から神経原性ショックが疑われたら,できるだけ早く治療を開始する.

・心原性ショックの可能性が出てくれば,細胞外液の投与量を絞り,用途を薬剤投与ルートに変更する.

◆病態と診断

A病態

・末梢血管収縮と心拍数増加により血圧を上昇させる作用のある交感神経は,解剖学的に第1胸髄~第2腰髄の脊髄前根から発しており,そのうち心拍数に関与する心臓枝は第2~第4胸髄から出ている.そのため上位胸髄より頭側の脊髄の機能喪失では,末梢血管抵抗が下がり,前・後負荷の低下と心拍数の低下による心拍出量低下によりショックに陥る.

・下位胸髄の機能喪失では,心臓枝の機能が残るため,それ以下の末梢血管拡張のみが生じる.

・臨床的には,外傷に伴う胸髄・頸髄損傷,腰椎麻酔で使用した局所麻酔薬の作用が結果的に上位レベルに及んだ場合に発生する.

・脊髄損傷では,脳幹から出る迷走神経(副交感神経)は健在で,相対的にその作用が優位となるため,血管拡張作用や徐脈の程度がさらに修飾される.

・排便時や咳などによる胸腔内圧の急激な上昇や,注射や穿刺の前に強い恐怖感によって迷走神経の作用が一過性に強くなり,血管拡張と徐脈により脳血流が低下して失神するのが血管迷走神経反射(vasovagal reflex)または血管迷走神経性失神(vasovagal syncope)である.Neurocardiogenic syncopeであるが,短時間に回復するなど本質的には病態が異なる.

・脊髄ショック(spinal shock)とは,脊髄損傷に伴い一過性(受傷後数時間~2日程度)に脊髄反射が消失する現象のことである.

B診断

・低血圧にもかかわらず手足が比

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