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ビタミンB1欠乏症(脚気心を含む)
vitamin B1 deficiency(including beriberi heart)
石松伸一
(聖路加国際病院・院長(東京))

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治療のポイント

・まず,ビタミンB1 欠乏症の存在を疑うことが治療の始まりである.特に慢性下痢,利尿薬連用,アルコール依存症,炭水化物の偏食,長期の中心静脈栄養中や消化器術後の患者は注意を要する.

・症状が重篤(心不全症状,治療抵抗性の進行性乳酸アシドーシスや意識障害など)であれば,すみやかにビタミンB1 を経静脈的に補充する.

◆病態と診断

A病態

・ビタミンは生体の生存,成長に不可欠な炭水化物,脂肪,蛋白質以外の栄養素(有機物)であり,このうちビタミンB1 は水溶性のビタミンの1つで,生体内では解糖系の補酵素としての役割がある.解糖系での最終産物であるピルビン酸をアセチルCoAに変換するために必要な酵素であるため,不足するとピルビン酸はTCA回路へ進まずエネルギー産生ができなくなり,乳酸が蓄積することになる.

BビタミンB1 欠乏症の症状

・糖代謝にエネルギーの多くを依存する神経系や心臓など,症状が全身に及ぶのが特徴である.

・中枢神経系ではウェルニッケ脳症とよばれる水平性眼振や眼筋麻痺,記憶減退や小脳失調,精神障害をきたし,末梢神経系では神経障害(知覚障害や運動障害と自律神経障害),循環系では脚気心(高心拍出性うっ血性心不全)や末梢浮腫がみられる.

・近年では長期中心静脈栄養(TPN:total parenteral nutrition)患者でビタミンB1 不足による治療抵抗性の致死的アシドーシスが発生したため,緊急安全性情報(イエローレター)が発出されたことがあった.

C脚気心

・わが国では江戸時代に玄米食から白米食に食習慣が変化したこと,また第二次世界大戦後は若者を中心にインスタント食品が流行した結果,明治時代から1960年代頃までは脚気心患者が多発し,特に日露戦争ではビタミンB1 欠乏によって多くの死者を出したことでも有名である.

・特徴的な心血管異常は,利尿薬やジギタリ

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