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多発外傷
polytrauma
阪本雄一郎
(佐賀大学教授・救急医学)

GL外傷初期診療ガイドラインJATEC改訂第6版(2021)

ニュートピックス

・2021年2月に「外傷初期診療ガイドラインJATEC」が改訂され現在の第6版となっている.

治療のポイント

・初期治療のポイントは生理学的異常の早期認識と蘇生,迅速な出血コントロール,外傷死の3徴(deadly triad;低体温,代謝性アシドーシス,血液凝固障害)の回避である.

・頭部外傷を伴う場合は2次性脳損傷を最小限に抑えるため,生理学的な状態を鑑みて手術時間の短縮や段階的手術(DCS:damage control surgery)を選択する.

・整形外傷を伴い出血性ショックの遷延,低体温,血液凝固障害が認められる場合には,2次侵襲を最小限に抑えて骨折部の安定をはかる目的で,四肢骨折に対する創外固定のような戦略であるdamage control orthopaedics(DCO)を選択する.

◆病態と診断

A病態

・わが国の多発外傷は大半が鈍的外傷である.

・大量出血を伴った多発外傷患者において回避しなければならないdeadly triad(低体温,代謝性アシドーシス,血液凝固障害)は相互に関連しており,対応が遅れると負のスパイラルに陥り,また1つでも認められると急激に死亡率が上昇する.出血性ショックなどの病態では組織酸素供給量の低下に伴い熱産生が低下し,容易に低体温となる.低体温は血液凝固障害を助長する.また,出血性ショックの遷延は,末梢循環不全を惹起し乳酸値の上昇により代謝性アシドーシスを進行させる.代謝性アシドーシスは低体温の加速と血液凝固障害の助長を招く.血液凝固障害は凝固因子の希釈と低体温で惹起されるため,過剰な輸液の回避と加温が重要である.

B診断

・古典的な多発外傷の定義は,外傷の解剖学的重症度を示したAbbreviated Injury Scale(AIS)が3以上を重症外傷とし,6身体部位(頭

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