頻度 あまりみない
治療のポイント
・気道閉塞,呼吸不全,循環不全をきたす可能性があり随時必要な処置を行う.
・まずX線検査,超音波検査を行い,気胸,血胸,心嚢液貯留の有無を確認する.特に緊張性気胸と心タンポナーデは緊急度の高い病態であり,迅速なドレナージを行う.
・CT検査は診断や治療方針の決定に有用であるが,循環動態が不安定な場合には無理に施行せず手術の準備を行う.
◆病態と診断
A病態
・胸腔臓器である気管,肺,心臓,大血管,食道,横隔膜の損傷を生じる可能性があるが,成傷器の長さや角度により,横隔膜を経由し腹腔内臓器損傷も起こす.
・気道内出血による気道閉塞や肺損傷,気胸による呼吸不全をきたす.また,肺,心臓,大血管の損傷による出血性ショックや,緊張性気胸,心タンポナーデによる閉塞性ショックをきたすことがある.また食道損傷は縦隔炎や膿胸を起こす.
B診断
・刺入創から吸気時に空気や血液の吸い込みを認めるsucking chest woundでは胸壁の貫通が疑われ,開放創が大きいと開放性気胸となる.
・前胸部の刺入創の位置が,上縁が鎖骨上窩,左縁が鎖骨中線,右縁が右鎖骨近位1/3,下縁が心窩部で囲まれた領域(Sauer's danger zone)にあれば心大血管損傷を疑う.
・創部が乳頭部より尾側にある場合は腹腔内臓器損傷を疑う.
・X線検査,超音波検査を施行し,気胸,血胸,心嚢液の有無を確認する.
・詳細な臓器損傷の診断には造影CT検査を施行する.循環動態が不安定でCT室への移動が困難な場合はすみやかに手術を行う.
・気管損傷では持続する大量の空気漏出を認め,気管支内視鏡検査で確定診断となる.
・横隔膜損傷の診断は容易ではないが,CTやMRIの冠状断が有用である.
◆治療方針
1)急速な循環動態の破綻をきたす場合には蘇生的開胸術が必要なことを念頭におく.
2)気道,呼吸,循環を評価し,随時必要な処置を行