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胸部大血管損傷
thoracic aortic injury
片岡祐一
(北里大学診療教授・救命救急医学)

◆病態と診断

A病態

・胸部には,大動脈,弓部分岐動脈(無名動脈,内頸動脈,鎖骨下動脈),上下大静脈,肺動静脈などの大血管が存在し,これらの外傷の頻度は低いが損傷を受けると致死的になりやすい.特に大動脈およびその分枝で発生しやすい.

・胸部大動脈損傷は,本邦では鋭的損傷より鈍的損傷が多い.鋭的損傷の原因は,刺創,銃創,医原性などがある.

・鈍的胸部大動脈損傷(BTAI:blunt thoracic aortic injury)は,交通事故(特に自動車事故)や高所からの墜落によるものが多く,急速な減速作用機序により発生し,好発部位は左鎖骨下動脈分岐部直下の下行大動脈(大動脈峡部)である.80%以上は現場で死亡するが,心停止に至る前に病院に搬送された場合,多発外傷であることが多く,救命のためには迅速な診断と治療が必要となる.

B診断

・BTAIに特異的な症候はない.胸部X線写真で,上縦隔拡大(8cm以上),大動脈隆起消失,apical cap,左血胸,第1・第2肋骨骨折,気管右方偏位,左主気管支下方偏位,胃管右方偏位などは,BTAIを疑う所見である.しかし,胸部X線写真で正常な陰影を呈することもある.

・高リスク受傷機転で,胸背部痛が強い場合,血気胸や肋骨骨折などの胸部外傷がある場合,胸部の造影CT検査を行う必要がある.Multi-detector row CT(MDCT)は,感度,特異度とも100%に近いため,(感度95~100%,陰性的中率99~100%),スクリーニングとともに確定診断法として有用性が高い.MDCTの診断感度は,従来スタンダードとされた大動脈造影検査に勝るため,診断のための大動脈造影検査は必要ではない.

・BTAIは,大動脈壁の損傷により,Grade Ⅰ(内膜損傷),Grade Ⅱ(壁内血腫),Grade Ⅲ(仮性瘤),Grade Ⅳ(破裂)に分類される.

◆治療方針

 BT

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